いなたくんへ
未来予測をテーマとするこのブログ。具体的なペルソナを設定して生活レベルで予想しよう、ということで、2040年の17歳女子高生の1日を考えてみることにした。
第1回ブレストでは検討アイテムを整理したが、2040年の社会情勢も生活の背景として考える、というToDoを設定してしまったので、今回まとめてみることにした。新たに調べるのは大変なので、これまで紹介してきた未来予測系の書籍をソースにまとめた。
具体的には、(1)2030年から2040年の国際情勢を整理し、(2)世界と日本との関係・世界が日本に与える影響を明らかにし、(3)日本国内で起こる出来事を可視化した。
ところで、良い未来予測ほど確定的なことは言わなかったりする。例えば米国大統領向けレポートを書籍化した『2030年世界はこう変わる』(2013)では、ビッグトレンド4つとゲームチェンジャー10個という変数を挙げるのみで、統合されたシナリオへの言及はかなり少ない。
地政学に基づく国際情勢を描いた『100年予測』(2009)でも、例えば中国の未来については次の3つに場合分けしている。
- 1)いつまでも驚異的なペースで成長し続ける
- 2)再集権化し、国内の統一を保つ
- 3)経済悪化がもたらす歪みにより分裂、中央政府は弱体化する
で、このブログでもこうした場合分けを挙げるというか、想定しうるシナリオの1つ1つを紹介するにとどめて、特定の事象が起こるとの断定は避けてきた。
しかし今回は鷲尾野ゆずりは(17)という1人の具体的な生活を描き出すのが目的だから、その背景となる社会情勢も量子状態であってはならず、1つの景色に収束させねばならない。
ということで、様々な未来予測シナリオを私の独断と偏見で統合し、ありうる可能性の1つを描いてみた。当然ながら正答を目指すが、どのシナリオなら確率高いとかもわからないし(わかれば苦労しない)、各予測の間でも矛盾はある。あくまでSFと捉えて読んでほしい。
Summary Note
参考文献:主要4冊紹介
1.2040年、覇権国不在の国際情勢
- 中印が世界経済を牽引し、ポーランド、トルコ、東南アジアが勃興している
- 中国は内政不安にあえぎつつも米国と対決しうる海軍力を手にしている
- 米国は「覇権国」から「トップ集団の1ヵ国」に転落し、東アジア地域では中国と手を結んでいる
- 国際的な意思決定機関は2018年のそれと大きく様相を異にしている
2.米中同盟成立によりアジアで孤立する日本
- 中国に対抗して防衛力強化を図る日本は、対中妥協姿勢の米国と決別し、東アジアで孤立している
- 日本はトルコ、インドとの同盟関係強化を始めている
3.「痛みを伴う改革」を余儀なくされ価値観を変質させた日本人
- 少子高齢化により財政負担が深刻化し、介護難民・介護離職などの社会問題を経験した日本は、2030年に「痛みを伴う改革」を断行した
- 「姥捨て」の正当化など、日本人の価値観に変化が見られている
- 自治体(市町村)の3割は閉鎖されている
- 病院で延命のうえ死ぬのではなく、自宅で死ぬのが当たり前となっている
- 「子ども」は19歳以下、「高齢者」は75歳以下へと定義が変わっている
- 2040年は高齢者数ピークの年にあたり、以後は復活できる期待感がある
予想の解説/まとめてみた所感
最初に参考書籍を挙げておく。
未来予測のブログとか言いながら実はほとんど本を読めていなくて、すみません今回挙げる4冊が私のフルパワーなの‥。ソースとしても古かったり。でもそれぞれロジックのある話でおもしろいよ!いずれもベストセラー。
米国大統領や閣僚に向けてレポートされる、米国国家情報会議による未来予測をまとめた一冊。「世界の今後を占う上で無視できない4つのメガトレンド」と、「構造的な変化ではないが国際社会の流れを大きく変えうる6つのゲームチェンジャー」の10の因子を説明する。
各因子を組み合わせてキミだけのさいきょうの2030年をつくろう!な一冊だが、各因子は納得で、私の中では信頼度の高い一冊。米国の未来については悲観的というか、現実的に描かれている。
以下書評。
- 2030年を決定する10の変数、メガトレンドとゲームチェンジャー(『2030年世界はこう変わる』書評1/4)(2014/8/31)
- 2030年、世界のかたちを作りかえる4つの技術革新(『2030年世界はこう変わる』書評2/4)(2014/9/3)
- 2030年、民主化に成功した中国は世界の秩序を書き換えられるか(『2030年世界はこう変わる』書評3/4)(希望は天上にあり,2014/9/10)
- 2030年、経済的地位低下が決定的な日本は、生き残れるのか(『2030年世界はこう変わる』書評4/4)(希望は天上にあり,2014/9/15)
地政学に基づき21世紀の国際関係を予想した1冊。クリミア紛争を言い当てたことでも有名。映画化予定あり。
中国に対しては過小評価、日本に対して過大評価な気はしている。2050年に日本・トルコ同盟が米国と戦争をする、というのは荒唐無稽に聞こえるが、本書を読むとなかなかどうして、理屈は通っている。
以下書評。
- ウクライナを奪取したロシアは再び米国との冷戦に入り、2020年に自壊する(『100年予測』1/4)(2014/3/3)
- 2020年、中国は分裂して三国志時代を迎える(『100年予測』書評2/4)(2014/3/27)
- 2030年、トルコとポーランドが大国化してロシア崩壊の跡に起つ(『100年予測』書評 3/4)(2014/4/13)
- 2050年、日本はトルコと同盟して再びアメリカに戦争を仕掛ける(『100年予測』書評 4/4)(2014/4/20)
英エコノミスト誌の記者たちが、政治、文化、宗教、テクノロジーなど20のテーマに分けて2050年までの予測を述べた一冊。
そんなに体系的ではないので、あくまで参考にする程度かな。上記2冊と符合するところももちろん少なくはない。
以下書評。
- 2050年:新興国は人口ボーナスの恩恵を受けられるのか(『2050年の世界』まとめ1/3)(2015/7/11)
- 2050年:軍事的優位を脅かされる米国、第2列島線が戦略目標の中国(『2050年の世界』まとめ 2/3)(2015/7/11)
- 2050年:バイオ産業の他分野への波及と、ムーアの法則が生む人を超えるAI(『2050年の世界』まとめ 3/3)(2015/7/11)
国立社会保障・人口問題研究所の統計など、人口動態のデータに基づき、2065年までに日本に起こる出来事を年表形式で整理した一冊。少子高齢化ヤバいと言われてるけど、本書を読むとそのヤバさに実感を持てる。
悲観的な予想だけでなく、著者なりの解決策も提示しており、これは今回の予想にも反映させた。
以下書評。
- 人口減少が「当たり前」を崩していく日本の黄昏(『未来の年表』書評1/2)(2017/12/17)
- 少子高齢化がもたらす黄昏の時代の、撤退戦を考える(『未来の年表』書評2/2)(希望は天上にあり,2017/12/22)
他には次の記事で書いた話、紹介した本なんかも、参考にできるところは参考にした。
- 人口増加率から予想する21世紀の戦争発生リスク国(再掲)(希望は天上にあり,2013/3/12)
- 算命学と景気循環から予想される日本の黄金期(『一生お金に困らない「未来予測」の技術』書評)(希望は天上にあり,2016/9/15)
鷲尾野ゆずりはが17歳の2040年、世界はどうなっているだろう。その10年前にあたる2030年からの流れを踏まえて、まずは各国の状況を整理する。
まずは「点」として2040年当時に目立つ国と地域を挙げていく。
2040年の世界経済は中国・インドの2大国が牽引している。特にインドは2028年以降世界一の人口を誇り、かつこの頃なお人口ボーナス期にあって、その存在感は極めて強い。国内の社会問題は根強いものの、世界的な大国となっている。
米国の対露戦略の後押しを受け、欧州ではポーランドが、中東ではトルコが大国化している。特にトルコは世界10指に数えられる経済大国となり、中東イスラム世界をまとめる役割を担っている。
人口ボーナスを経た東南アジア諸国が成長しており、2010年代に比べてのGDP成長率は世界で最も高い。
なおアフリカは人口増加率が高いものの、残念ながら経済成長は特筆するほどにはなっていない。
人口増加国ほど紛争の火種を抱えやすい。世界では下記の国や地域で、紛争か、あるいは緊張関係が発生している。
上述のように世界各地で新興国が勃興し、米国は相対的にはその影響力を落としている。
軍事力も2030年には中国に並ばれ、西太平洋の海戦で勝利できなかったことに象徴されるように、2040年の米国はもはや「覇権国」とは言えず、「トップ集団の1ヵ国」に後退している。
2030年以降の米国の世界戦略は、基本にのっとり「他国同士を争わせる」戦略である。各地域で対立し合う勢力のいずれかと友好関係を結んだり、あるいはその対立を煽ったりして、影響力を保とうとしている。
中東で存在感を獲得したトルコとは対立関係にある。
後述の通り中国とは協力関係を選んでおり、中国と対立する大国インドとの関係は悪い。
東南アジアではいずれかの勢力を後援している。
中国は経済崩壊することなく、中央集権を維持したまま緩やかに国力を向上させ、2030年には米国と対決しうる海軍力を手に入れ、実際に第1列島戦を巡って一戦を交える。もっとも両国とも全面戦争化は避け、勝者不在のままうやむやになるが、「中国に勝てなかったこと」は米国のプライドを傷つけた。
米国との緊張のピークは上記紛争の起きた2030年だったが、米国は中国の第1列島線進出を譲歩する代わりに、当該地域で中国と協力する方針を取る。米国が他の地域でもトルコ・インドといった仮想敵を抱えており、そちらにリソースを割くための戦略的妥協である。
ということで2040年の現在、米中とも水面下では相手の対立国を援助するなどして牽制する動きもあるが、表面上は協力関係が保たれている。
中国の敵は米国ではなくインドと日本だ。中国は強力な軍隊を手に入れたものの、高齢化による経済失速や国内不安といった問題を抱え、覇権国を目指すにはまだ遠い。世界大国インドや、地域覇権国を目指す日本は実際問題として無視できない敵であるとともに、国民の不満のガス抜きをさせる対象でもある。
中国は2040年代のうちに沖縄を影響下に取り戻したいと考えている。
G8は形は残るが西欧諸国の親善のための会合となり、国際的な影響力はすでにない。同様に、2010年代まで機能していた国際機関の多くも形骸化するか、その意思決定プロセスが大きく変化させられている。
中国、インド、トルコ、東南アジアなどの主要国が主導する国際機構や会議体が新設されている。また、ASEANの発展形や、一帯一路など、地域ごとの国際的調停機関が成立しており、世界に対してはこれらの影響力が極めて強い。
世界中で都市化が進んでいる。
高齢化と食料・水不足が世界的な問題となっている。
以上のような国際社会に対して、日本はどのような関りを持つだろう。
まず語るべきは中国との関係だろう。中国が2020年に空母4隻体制を完成し、さらに東アジア地域での軍事的存在感を増すにあたり、日本は大きな危機感を抱く。これは日本人の価値観を大きく変化させていく。
そのなかで、2030年前後には以下のような決定的な出来事がおきてしまう。
- 少子高齢化と人口減少により島嶼部の無人島化が進む中、そのいくつかが中国に実効的に支配される
- 2030年の米中有事のあと、米国は中国融和へと旗色を変え、頼れなくなる
2020年代より防衛力強化を進めていた日本であるが、2030年代にはその傾向が先鋭化、米国に頼らず独力でシーレーン防衛を行うべく、地域覇権国を標榜し、中国からは危険視される。
米国の対中妥協姿勢は日本にとって看過できるものではなく、シーレーン防衛を任せられないとする世論がマジョリティとなる。
しかし日本の軍備増強は、米国のシーパワー戦略を脅かすほどではないにしても、それと抵触するものであり、米国もまた不快感をあらわにする。
米軍基地は日本国内に健在である。米国は中国と協力関係にあるとはいえ、彼らを牽制する目的から在日基地は手放せない。このことも日本との関係悪化の一因となり、国内では種々の事件に結び付いてしまう。
アジア地域での孤立から、日本は2030年代後半よりトルコ、インドとの同盟関係強化を図る(このこともさらにまた、トルコ、インドと対立する米国の感情を逆なでする)。
ただし、日本・トルコの同盟が対米宣戦に至るまでには、なお10年の時間がある。
中国と米国という2つの大国を相手に防衛力を強化する、というちょっと正気とは思えない予想になったが、地球の裏側に同盟国を求めることなど、およそ100年前の状況と似ていなくもない。
違いがあるとすれば、20世紀初頭の日本が人口の増加する発展期にあったのに対して、2030年代の日本は内政的にも極めて不安が大きいことである。
少子高齢化の影響により、2030年代には38都道府県で生産力が不足し、これを支える地方交付税が、ただでさえ社会保障費の支出にあえぐ財政に大打撃を与える。
2032年以降には団塊ジュニア世代の退職金負担が企業を襲うことも見えている。
介護施設・人材の不足により介護難民・介護離職が社会問題化するのもこの時期だ。病床も不足していて、治療を受けられずに死ぬ老人の数も目立っていく。老人ならまだしも、若年層まで入院できない状況に人々は憤る。
2030年前後にこうした社会不安が顕在化し、実際問題として社会は立ち行かなくなり、日本は「痛みと伴う改革」を断行する。積極的に改革を選んだというよりは、そのように追い込まれたとも言えるが、ともかくも人口の一定数が「見殺し」にされる、という決断が是とされる。例えば貯蓄のない独り身団塊ジュニア世代などだ。
文字通り多くの弱者の死を伴う改革は、人々が「姥捨て」を正当化するなど、日本人の価値観に大きな変化を与えた。
2040年には改革から10年が絶っており、社会不安はある程度落ち着きを見せている。
2040年はちょうど日本人の高齢者数がピークを迎える年にあたり、この山を越えれば絶望的な状況から抜け出し再び成長できる、強い日本を取り戻せる、という半ば無根拠な希望が社会にある。
ちなみに、同胞を見殺しにした罪悪感と「強かったかつての日本」への渇望も、米中と対立して地域覇権国を目指すべしという外交方針と無関係ではない。
なお、都市部の高齢化は2024年に始まっていてすでにひと段落し、日本全国がまんべんなく高齢社会化している(それでももちろん都市部の方が若年人口は多いが)。
病院で延命のうえ死ぬのではなく、自宅で死ぬのが当たり前となっている。
「子ども」と「高齢者」の定義も変わっており、2018年にはそれぞれ14歳以下・65歳以上だったのが、2040年には19歳以下・75歳以上に変わっている。鷲尾野ゆずりはも17歳だが「子ども」扱いとなる。
2033年には空家率が30%を超えるなど日本全体で空疎化が起きており、2030年代の改革の目玉の1つとして「自治体の閉鎖」が断行された。人口の集中による行政コストの効率化が目的だ。これにより実に3割以上の自治体、つまり市町村がつぶされたことになる。
2040年になってもこの影響は尾を引くが、各地方都市や残存都市への人口集中は概ね進捗できている。
東京・大阪圏ではなく地方都市で仕事をしたり、あるいは両方に拠点を持つ、ということも珍しくなくなっている。
中央新幹線(リニア)は2027年に東京・名古屋間が開通した後、大阪開通を5年後の2045年に控えている。
世界的な食糧不足・水不足の影響は日本も受けていて、これもシーレーンを脅かす米中のせいにされていたりするのだが、国内では農業の集約化や工場化が進んでおり、2018年よりは供給率が増えている。
以上、2040年の世界と日本の様子を並べてみたが、なぜこのような予測になったのか、いくつか解説を述べておきたい。特に影響の大きい中国・米国、そして国内予測の理由である。
中国は崩壊説と覇権国説とあるが中間をとった。長年崩壊論が囁かれるもそんなことはなく今後もうまくやっていくように思える一方、今後迎える高齢化には苦しむはずで、かつ2018年現在でも国内社会に混沌は残っており、そう簡単にバラ色の未来にはたどり着けないと予想。力はつけるが問題も抱える「トップ集団の1か国」となると予想した。
米国については、こちらは覇権国から「トップ集団の1か国」に転落するのは多分間違いないんだけど、問題は各地域でどんな戦略をとるかで、これはなかなか読みにくい。今回重要になるのは日本との関係だが、『100年予測』の「中国と手を結び日本に塩対応」説を採用した。
そしたら日本が米中に挑むという最悪の未来を迎えてしまった。挑むなよ。でも挑むしかないよね。
国内情勢は『未来の年表』の悲観的予測を入れたが、『未来の年表』が統計からあぶりだす日本の未来がヤバすぎる一方、ヤバすぎるからこそ2030年くらいに一度社会問題化するというか、文字通り立ち行かなくなって、ハードランディングするものと予想した。や、だってこのままじゃ無理でしょ‥。
その後の解決策も『未来の年表』で提示された内容に準じている。
以上、数あるシナリオをそれぞれ選んで、敢えて1本の線に繋げるならどうなるか、考えてみた。このままの未来が当たるとはもちろん思わないけど、可能性の1つではあるだろう。
「参考文献」のところで書評記事のリンクを載せたけど、参考にした各書籍自体は数年前に読んだもので、新しい話はなかった。だから今回の検討も特に期待していなかったんだけど、いざふたを開けてまとめてみると「2040年はこんなことになってるのか」と意外な気持ち。
20年以上先の未来を1つのシナリオに断定するのは勇気のいる作業だったが、やっぱり具体化して考えると発見は多いね。
さて、そんな世の中で当時の女子高生はどんな一日を過ごすのか。今回の予想を背景の1つとして、引き続き考えていきたい。