米国大統領や閣僚に向けてレポートされる、米国国家情報会議による未来予測をまとめた『2030年世界はこう変わる』(2013)。本書は4つのメガトレンド6つのゲームチェンジャーという因子を通して、今後の世界がどう変わりうるのか説明します。
今回は日本の未来についてまとめてみます。
本書では、日本について項目を割いて論じることはされていませんでした。しかしながら、本書で述べられる世界的な趨勢はいずれも日本の未来と密接に結びついており、日本の未来についても類推することができそうです。
Summary Note
2030年の日本(本書より)
- 新興国台頭と日本の低成長により、国際社会における経済的地位を相対的に低下させている
- アジアの秩序を書き換える可能性のある中国とは、その未来について相互に影響しあっていく
日本の未来に影響を与える技術革新
- 世界的食糧不足を迎えるにあたり、農業技術が自給率を確保を左右する
- 医療技術と機械化・生産技術の発展は、少子高齢化する日本の社会に影響を与える
国際社会における日本の経済的地位の低下は、まず間違いがなさそうです。原因の1つは新興国の台頭、そして2つめが日本自身が抱える問題です。
本書はメガトレンドとして新興国の地位向上を説明し、相対的に先進国の地位が低下するとしています。
本書が引用するアジア開発銀行の調べによれば、北米や欧州の中間層の購買力が今後十数年間、年率0.6%しか伸びないのに対して、アジアの中間層の購買力は、2030年まで年率9%の成長を続けます。2030年までに、アジア地域の力は欧米全体よりも大きくなり、日本を含む先進国の購買量・経済力は相対的に非常に小さなものになるとされます。
そもそも本書は日本の長期的な経済成長に懐疑的です。その根拠は人口動態、つまり高齢化と人口減少です。本書は「ゲームチェンジャー・危機を頻発する世界経済」の章で、日本を不安視した次のような記載をしています。
いままでみてきたように、西側先進国のほとんどの国が”頻発する経済危機”に対して強い抵抗力を持っているとはいえません。
そのなかでも特に不安なのが日本です。急速な高齢化と人口の減少で、日本が長期的に経済成長を実現させる潜在力は極めて限定的です。(中略)
国際通貨基金(IMF)は、たとえ一時的な政治的混乱を招いたとしても、日本は「財政上のバランスを長期的に保つ大規模な政策転換を実施すべき」と進言しています。短期的には経済成長を犠牲にしないと、膨らむ一方の負債を解決することはできないとみています。
本書より
このように、内的・外的要因ともに、日本の経済力の相対的低下が確実視されます。悲しいことですが、今後の日本を占う上ではまずこの前提を受け止める必要があります。
Dogashima Sunset / izunavi
新興国企業の力が増大し、先進国の影響力が限定されていくに伴い、これまで先進国によって構築・運営されてきた現在の国際社会の枠組みも変わらざるを得ないだろう、と本書は予想します。
日本が国際社会でふるまう役割も変わることになりそうですが、特にアジア地域に限ってみると、中国の影響に注目が必要になりそうです。
本書は、2030年から2040年の段階で、中国の国力(GDP、人口、軍事費、技術投資の4つから本書が独自に算出)が米国を抜くと予想しています。本書は予想の1つとして中国が民主化に成功するとしており、この場合、米国がいつまでアジアに影響力を保てるかが1つの争点となります。米国がアジアから去った場合、アジアに新たな秩序が生まれることは間違いありません。
一方ジョージ・フリードマン著『100年予測』(2009年)では、中国は経済の不調を原因として2020年代に分裂、崩壊すると予想しています。
両予測とも、中国の未来を決めるための変数に日本が入っているのは興味深いところです。
本書は中国が少なくともアジアの覇権を握るための条件として、米国のアジアからの撤退、経済的ライバル国となるインドの台頭の遅れ、そして日本の急激な衰退等を挙げていました。
前述の『100年予測』では、中国経済が不調に陥る遠因の1つとして、日本による中国沿岸部への投資拡大と、これによる共産党権力への対抗を挙げています。
このように、大国化する中国の未来は、日本とも相互に影響しあうことがわかります。両国関係がどのように発展していくのか、注意深く見ていきたいですね。
本書は「今後の世界を大きく左右する技術革新」として、4つのテーマを選んでいました。情報技術、機械化と生産技術、資源管理技術、そして医療技術の4つです。
これら4つの技術革新は、日本の未来にも影響を与えるでしょうか。
4つの技術革新の中で言えば、日本にとって最も重要なものの1つは「資源管理技術」に含まれる農業技術かもしれません。日本は食料の少なくない割合を輸入に頼っていますが、今後世界的な食糧不足が起きた場合に、影響を受けると予想されるためです。
農水省によると、2013年度の日本の食料自給率はカロリーベースで39%、生産額ベースで65%となっています。日本の食料自給率が低いというのは嘘という主張もあり、自給率の十分・不十分には議論もあるようですが、一定の割合を輸入に頼っていることは確かです。
このうち主要な輸入相手先は、金額ベースで米国が30%、中国が13%で、これにオーストラリア、タイ、カナダを足した上位5ヶ国で6割強となります。これは金額ベースですので、物価を考えると数量ベースでは中国やタイの比率は上がりそうです。
本書『2030年 世界はこう変わる』はメガトレンドの1つとして世界的な食料・水・エネルギーの不足を挙げており、2030年までに食料需要が35%拡大するものの、食料生産量は減少すると予想します。特に世界有数の穀物生産国である中国とインドが、人口増に伴い輸入量を増やし、世界の穀物価格が高騰すると警告しています。
中国の穀物輸入については次のようなブログも。
日本の穀物輸入は米国やカナダからが多いので、中国の穀物輸入国化による直接影響しないとも言えそうですが、米国やカナダが中国への輸出を増やすことで、価格が高騰するなど間接的な影響は受けそうです。
「中国の食品輸出の現状」(JETRO,2011/3,PDF)によると、中国の総輸出額に占める日本の割合は2009年19.6%となっていて、加工品が多いようです。このあたりはどうなるでしょうか。
いずれにせよ輸入は続くでしょうから、国際的な不足や価格変動の影響を受けることは間違いありません。そこで日本自身での自給率の確保が引き続き大事になりそうです。
その観点で、日本における農業関連テクノロジーの発達は、日本の未来に影響がありそうです。
少子高齢化は先進国の世界的なトレンドですが、特に日本において顕著です。
4つの技術革新のうち、「医療技術」は人間の生存率を高め、日本の高齢化傾向に拍車をかけるかもしれません。
Heart Monitor / Rennett Stowe
その一方で「機械化と生産技術」、特にロボット技術が、少ない労働人口による生産性をサポートする可能性があります。
「2060年人口1億人」という人口維持策も提言されているようですが、短期的には少子化が間違いなく進みます。生産性の維持、つまり競争力維持の観点で、ロボット技術にも大きな期待をかけたいところですね。
ということで、ロボットと一口に言っても多岐にわたりますが、生産性向上の観点でどんな技術革新が進んでいくのか、注目していきたいです。
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ちなみに前述の『100年予測』では、日本は2020年頃軍国主義を復活させ、宇宙技術を発展させ2050年ごろ米国と戦争するとしています。荒唐無稽のようですが、中々おもしろい予想です。