地政学に基づき21世紀の国家間関係を予想したジョージ・フリードマン著『100年予測』。2009年の本ですが、2014年のロシアによるウクライナ介入の示唆をはじめ、気になる未来予測がされていたことは紹介しました。
21世紀の国際関係となると、GDP世界2位となり、13億の人口を抱える中国が気になります。『100年予測』では次のような予想が立てられていました。
- 中国共産党は経済問題の責任を外国になすり付けようとし、外交的手段や軍事力を背景に外国政府と対決することで政権への支持を集めようとする
- 対立の相手国としてうってつけなのは日本か米国のいずれか、あるいは両方で、ロシアが敵扱いされることはない
- ただし中国の海軍は弱く、米国に挑戦できる海軍力を2010年代のうちに持つには至らず、台湾進攻の実現可能性も低い
実際に島嶼問題で各国との摩擦が深まってきてますが、中国の海軍は本当に弱いままなんでしょうか。今回は中国の海軍力がどうなっているのか、気になったのでネットベースで調べてみました。
Summary Note
中国海軍の発展予測
- 潜水艦発射型弾道ミサイルは2013年に初期作戦能力を獲得した
- 2013年の1年だけでも50隻を超える海軍感が建造、進水、就役し、2014年にも同様の数字が見込まれている
- イージス艦の建造が進んでおり、すでに空母護衛艦隊の形成に十分な戦力も擁している
- 空母は2020年に4隻体制となる予定
- 米国の予想によれば、中国海軍は2010年までに基礎を築いた後、2020年までに著しい発展を遂げ、21世紀の中ごろには「情報環境下の戦争」に勝利できる
- 空軍力ではロシアを抜いて世界2位になったという分析があり、ステルス無人機などの最先端兵器の開発も進んでいる
中国の海上拡張戦略(英エコノミスト『2050年の世界』より)
- 中国は第1列島線の内側で米軍に活動させないことを目標に、2050年までに防衛線を第2列島線まで拡大しようとする
まずは中国海軍の今後の発展について、いくつかのソースを元に紹介します。
中国の軍事力について『海国防衛ジャーナル』というブログが詳しく紹介していたので、気になる記事をピックアップしました。
- 「中華イージス」建造ラッシュ 052D型ミサイル駆逐艦も登場(海国防衛ジャーナル,2013/9/7)
- 中国の潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)「JL-2(巨浪2)」が初期作戦能力(IOC)獲得(海国防衛ジャーナル,2013/11/15)
- 中国が空母を欲しがる4つの理由(海国防衛ジャーナル,2014/1/19)
これらの記事の内容から抜粋すると、次のことがわかります。堅実に近代化が進んでいるようです。上記記事では「空母4隻は維持と運用大変じゃないの?」との指摘もありました。
- ウクライナからのガスタービン技術取得により、イージス艦の建造が進んでおり、今後就航していく空母の護衛艦としの運用が期待される
- イージス艦の就航は中国海軍の防空能力を向上させる
- 潜水艦発射型弾道ミサイルは2013年に初期作戦能力(内外の対象に実力行使できる能力)を獲得した
- 空母は2020年に4隻体制となる予定で、西太平洋とインド洋のシーレーンにおける中国海軍のプレゼンスを向上させる
米国機関によるレポートも紹介されていました。『海国防衛ジャーナル』筆者は中国海軍について「すでに空母護衛艦隊を形成するには十分な戦力を擁して」おり、「10年もすれば西太平洋の海軍バランスが大きくシフトするであろうことは容易に想像でき」ると評価しています。
中国海軍は、主要水上艦約77隻、潜水艦60隻以上、中・大型揚陸艦55隻、小型ミサイル艇85隻などによって構成されています。ちなみに比較すると、海上自衛隊の保有艦船の総数は2013年時点で137隻とされています(wikipedia)。
中国海軍は2013年の1年だけでも50隻を超える海軍感が建造、進水、就役し、2014年にも同様の数字が見込まれているとされています。
沿岸防衛戦力、揚陸艦戦力、空母、潜水艦戦力、等々詳細な分析は上記記事を読んでいただくとして、「中国海軍の段階的近代化構想」は次のように紹介されていました。ちょうど現在は発展段階の只中にある、ということになります。
- 2010年まで:堅実・強化な基礎を築く
- 2020年まで:著しい発展を遂げる
- 21世紀中頃:信息化戦争(informationized wars:情報環境下の戦争)に勝利することができる
英エコノミスト刊『2050年の世界』でも、ワシントンDCのシンクタンクによる予測が紹介されていました。曰く、中国は2020年までに以下の能力を開発していくことになります。
- 海・空・宇宙を監視するためのレーダーと衛星とUAV
- 地対地ミサイル、巡航ミサイル、対艦弾道ミサイル
- 多層構造の防空システム
- 多数の第4世代制空戦闘機
- 攻撃型原潜を少なくとも6艦含む強力な潜水艦艦隊
- 対衛星兵器
- サイバー戦争遂行能力
中国海軍の増強計画については、ソースがちょっとわかりませんが、『中国海軍の発展と今後の展望(Togetter)』でも触れられていました。
- ~2000年:機構・学校・研究機関を21世紀の海軍発展の為の基礎を築く
- 01~20年:何隻かの軽空母建造。ヘリ配備。中国海軍管轄地域での戦闘行動
- 21~40年:主要海軍大国の艦隊に相当する兵力規模と装備水準。大洋での作戦行動
まとめ曰く、2000年から10年を経て中国海軍は比べ物にならないほど強化されており、今後の空母等の艦船建造計画を見ると、2020年を過ぎたころにはかなりの規模になるとの予想。
また、中国は航空機の開発にも力を入れています。
- 中国無人機、運用能力低くない 尖閣周辺で海保目視 対応急務(産経ニュース,2013/9/10)
- 中国のステルス無人機「利剣」、初飛行に成功(WIRED.jp,2013/11/25)
- 中国軍 空軍力で露を抜き世界2位に、海軍力も先進国水準に(Yahoo!ニュース,2014/2/12)
ステルス無人機は米国のほか、英国、仏国、イスラエルが開発を進めており、中国の飛行テスト成功は米国、仏国に次ぐ3番目となります。特に米国は空母からの無人機発着も成功させており、次世代の航空戦力の一端を担うことが予想されます。
『100年予測』の「2010年代のうちに米国と対決できるほどの海軍を持つことはない」という予想は当たるとしても、2020年を過ぎるとどうなるかはわかりません。少なくとも外交カードとして使うには十分な威力を発揮しそうです。
こうした海軍の急速な拡大には、中国の戦略的な目標が背景にあります。これについては『2050年の世界』でも説明されていました。
『2050年の世界』では、中国は第1列島線(日本列島を含む、台湾やフィリピンまで引かれる線)の内側で米軍に活動させないことを目標に、2050年までに防衛線を第2列島線まで拡大しようとすると予想しています。
中国の拡張戦略について、いくつかのニュースを拾ってみました。
中国海軍の戦略目標として「2020年以降に大洋での作戦行動を行う」というものがありました。現在はちょうど外洋に出ようと、中国大陸からの出口や、周辺海域の活動範囲の拡張を続けているようです。
中国の海上勢力圏の拡張戦略の1つが、「真珠の首飾り戦略」です。例えば具体的には、ミャンマーやパキスタンといった国々と提携して港を作り、インド洋方面への出口拠点としています。
- シリーズ地政学:第3回 真珠の首飾り(海国防衛ジャーナル,2010/4/7)
- 進む中国のインド洋支配 パキスタンに軍港(BLOGOS,2011/11/8)
- 【中国「真珠の首飾り」戦略】 軍港化への布石? インド洋周辺港湾整備、真意めぐり疑心暗鬼(47NEWS,2013/09/22)
この背景にはエネルギー政策があります。中国は原油や天然ガスの輸入を4つのルート、ロシア、トルクメニスタン、ミャンマー、そしてマラッカ海峡経由の海上輸送に頼っています。このうちマラッカ経由のシーレーンを自国の影響下に置くために、海上拡張戦略が必要になっていると考えられます。
尖閣諸島のある東シナ海や、フィリピン、ベトナムと南沙諸島等の領有権を争う南シナ海でも、中国の拡張は続いています。
- 中国、南シナ海に「三沙市」設立、軍司令官を任命(AFPBBNews,2012/7/30)
- フィリピン、中国を国際裁判所に提訴へ 南シナ海領有権めぐり(CNN.co.jp,2013/1/23)
- 南シナ海、フィリピンと中国の領海争い:NYタイムズの社説(BLOGOS,2014/2/9)
- オーストラリア近海にまで出て来た中国海軍(極東ブログ,2014/2/15)
- オーストラリアにも脅威を与えた中国海軍の遠洋パトロール 強化スピードは予想以上と米国が警告(JBPRESS,2014/2/20)
中国の拡張政策の背景にあるのが「第1列島線」「第2列島線」という概念。
中国は第1列島線を勢力下に収めることを当面の目標としており、これについては下記記事での解説がわかりやすいです。
中国は東側の海を日本列島、台湾、フィリピンといった親米の島々に囲まれていて、太平洋に対して封じ込められてる状況にあるんですよね。中国はここに自由を求めているようです。
しかし地図を見ると分かるように、第二列島線は日本列島を超えて、大きく太平洋に進出してます。『2050年の世界』の「2050年までに防衛線を第2列島線まで拡大しようとする」という予想は、日本にとってはけっこう脅威かもしれません。
中国の海軍力増強のスピードを考えると、2020年は1つのターニングポイントになりそう、というのはすでに述べました。
2020年には中国は「著しい発展」の段階を完了し、4隻の空母艦隊を保有し、大洋での作戦行動が可能になります。その頃には本格的に第1列島線を超えているかもしれません。
一方、中国の海軍力増強や周辺国との衝突は、シーレーン確保の目的だけでなく、内政への不安から国民の目を外にそらすことにあるとも言われています。
『100年予測』では、中国は経済の失速により社会秩序を保てなくなり、分裂すると予想されていました。これが2020年頃。中国が海軍大国化を完了する時期と重なります。
これについて次の記事で紹介していきます。