2030年、トルコとポーランドが大国化してロシア崩壊の跡に起つ(『100年予測』書評 3/4)

地政学に基づき21世紀の国際関係を予想したジョージ・フリードマン著『100年予測』(2009年)。本書は2つの大国、ロシアと中国について、それぞれ2020年代までに崩壊・分裂すると予想しました。

100年予測―世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図

ロシアと中国の崩壊・分裂を21世紀における1つの転換点として、本書はその後出現するヘゲモニーを提示します。それが、ポーランド、トルコ、そして日本の大国化でした。今回はこのうちポーランドとトルコがたどる未来を考えます。

Summary Note

『100年予測』で予想される未来(3)トルコとポーランド

  • 2010年代に発生する米ロの新たな対立構造の下、米国は対ロシア戦略として、ポーランドとトルコに援助を行う
  • ドイツはポーランド支援に積極的ではないが、結局ポーランドは大国化を遂げる
  • 人口減少の影響で西欧の勢力は回復せず、2040年には東欧に力の重心が移る
  • トルコは2020年代に世界10位内に入る経済大国となる
  • イスラム世界が対ロシアの影響や石油枯渇の兆候を受けて不安定化するなか、経済発展したトルコがその中心的地位を手にする
  • 2020年のロシア崩壊のあと、トルコは勢力の拡張を進め、2030年から2040年頃には米国と対立するようになる

本書シナリオを確かめるうえで注目していきたい点

  • ポーランドは米国及び欧州から経済的・軍事的支援を得られるのか
  • トルコはイスラム世界の中心となるほどの経済的支配力を獲得できるのか

 

「新たな冷戦」がポーランドを育て、欧州の重心がシフトする(本書より)

本書が予想する21世紀中盤の大国、ポーランドとトルコ。国名だけ聞くとなんでこの国? と、なんだかピンときません。
本書では「ロシアがウクライナを勢力圏に治めるなど、2010年代において拡張を始め、米国がこれと対立する」という新たな冷戦の発生を予測しています。この前提の下、米国はロシア周辺国に対する援助を強め、ロシア西方においてはポーランドがその恩恵を受けることになります。

2030年以降ポーランドが大国化し、東方に欧州の重心が移る

ポーランドの人口は約3800万人(2014年現在世界34位)で、東欧においては最大規模。地理的にはドイツとウクライナに挟まれた場所に位置します。ロシアが東進を目論んだ場合、特に本書の予想のようにウクライナがロシアの勢力圏に入った場合には、ロシアと西欧世界との緩衝地帯となります。

ポーランド地図
google mapより

本書の予想は「ロシア封じ込めのために、緩衝地帯に位置するポーランドに対して米国が技術供与等を行い、その結果ポーランドが力を持つ」というものでした。
これを萌芽期として、2020年代のロシア崩壊ののち、ポーランドの台頭が本格化します。

本書では、文化的・歴史的背景を理由に東欧諸国の政治同盟はあり得ないとしながらも、ロシアの復活を防ぐという共通認識のもと、東欧の一部の国では同盟が成立すると予想。米国支援による軍事的・経済的成長を背景に、ヨーロッパの力は2040年までに東方にシフトするとします。その中心となるのがポーランドです。

西欧は人口衰退期を迎え、勢力回復できない

米国とドイツの綱引きにも触れていたのが興味深かったです。
地政学的にみると、ドイツとしては対ロシアよりも、隣国ポーランドを自国の勢力下に置くことの方が重要とのこと。ドイツはポーランドの大国化を危惧し、米国による支援に反発します。その結果、NATOの枠組みを使ってのポーランド支援は成立しなくなると予想します。

結局は米国1ヶ国による支援によりポーランドは成長しますが、ドイツとアメリカの思惑のずれにも言及していて、今後の両国関係を見る上でおもしろい視点でした。

西欧、特にドイツとフランスも、勢力回復を目指します。しかし21世紀の西欧は人口の衰退期にあるため、本書の予想によれば、経済は低迷したまま、回復は実現しません。

 

トルコは著しく経済発展を遂げ、イスラム世界の盟主となる(本書より)

ロシア南方における対ロシアの拠点となるのがトルコです。本書はロシアとの関係だけでなく、イスラム世界の将来にも触れていました。

米国の対ロシア戦略はトルコの経済発展も後押しする

本書予想によれば、2010年代に勢力拡張を行うロシアは、南方においてはグルジアやアルメニアといったコーカサス地方の国々を勢力圏に治めます。ロシア軍がトルコとの国境に戻ることになり、トルコは直接ロシアの脅威にさらされます。

ここでまた登場するのがやっぱり米国。ボスポラス海峡を有するトルコは対ロシア戦略上の要衝であり、米国はトルコと手を結んでともにロシアと対峙します。2020年代のロシア崩壊までの間に、米国はあらゆる手段を講じてトルコの経済発展を後押しする、というのが本書の予想です。

トルコの経済規模は2007年時点で世界17位と、決して小さくない点に本書は注目します。そこに米国の後押しが加わることで、2020年代には世界十指に数えられる経済大国になっている、と予想します。

トルコ地図
google mapより

イスラム世界がトルコを重心として再編される

ロシアと米国の綱引きは、トルコの周辺諸国、つまりバルカン諸国や中東の不安定化を招きます。また、アラビア半島においては、石油の枯渇の兆しが見え始めることにより、衰退が始まります。

ロシア崩壊のあと、イスラム世界においてはトルコだけが経済成長を遂げており、トルコを重心とするべく再編されると本書は予想します。
歴史に目を向けると、アラブ諸国はオスマン帝国時代の因縁から、トルコに拒否感を抱きます。それでもこの地域の他の大国、イスラエルやイランに比べればトルコの方がまだマシ。ということで、地域の安全保障と経済発展がトルコに依存する状況が築かれます。

共通の敵・ロシアが退場すると、米国とトルコの摩擦が顕在化する

本書予想では、米国とトルコの親密な関係が続くことはありません。ロシアの崩壊の後、2030年代には、米国は文化の異なるトルコの経済発展を敵視するようになります。

本書の予想するトルコがたどる未来はおよそ次のようなシナリオでした。

  • 2020年のロシア崩壊の後、トルコはコーカサスを北進し、緩衝地帯とせず直接支配下におく
  • トルコはイスラム世界の地域覇権国化に成功するが、米国との関係はこじれ、イデオロギー的な対立を起こす
  • 2040年にはトルコの勢力圏はサウジアラビアからバルカン半島まで伸び、スエズ運河支配をめぐってアフリカにも進出、米国の利益と衝突する

なお、2040年頃のトルコはペルシャ湾にも進出しますが、このとき石油資源をペルシャ湾に依存する日本と利害が一致、同盟を形成するとも予想。そして2050年になると、この2つの国はついに米国と戦火を交えることになるようです。

 

現実はどう進行していくのか?

本書の予想の基礎には「ロシアの勢力拡張と米国との新たな冷戦勃発」があるわけですが、これはロシアのクリミア奪取により現実のものとなりそうです。
ポーランドとトルコの大国化予想は米国による支援を要因としており、この予想が当たるかどうかは、今後の米国の出方に注目していく必要がありそうです。

ポーランドが起つ日は本当に来るのか

今回のウクライナ危機で、ポーランドはNATOの閣僚級理事会の早期開催を要求するなど、さすがに隣国だけあってソワソワしている様子。2014年3月には米国副大統領が、リトアニアとあわせてポーランドにも訪問しました。
ただし現時点ではそれ以上に目立った動きはなさそうです。

しかしウクライナは大統領選を控え、一部では連邦制への移行が囁かれたり、東部に独立の動きがあるなど、まだまだ不安定です。今後のポーランドの立ち位置と、米国との関係に注目です。

紹介した通り、本書はドイツが米国とは足並みを揃えないという予想もしていました。
ロシアをG8から外すことにドイツが反対するなど、実際に意見の相違も出ているようですが、今後ドイツや西欧諸国がどのように振る舞うのかも気になるところです。

トルコはどこまで経済的支配力を獲得できるのか

米海軍はボスポラス海峡を通過し黒海に展開するなど、対ロシアでトルコと協力しており、この点は本書の予想通りです。

その米国の支援の下、経済発展によりイスラム世界の中心となるというのが本書の描く未来ですが、どうでしょうか。
トルコは世俗主義を掲げ政教分離を行っており、その政治体制はイスラム国としては極端といえます。そのため、他のイスラム国の中にはイデオロギー的に「トルコとは相容れない」とするところもあるはずです。その上でも中心的立場を勝ち取れるほどに、強力な経済力を得ることができるのでしょうか。

名目GDP(USドル)の推移 - 世界経済のネタ帳
トルコの名目GDP(USDベース)の推移(世界経済のネタ帳より)

トルコはVISTANEXT 11の1つに数えられるなど、確かに経済的な注目を集めています。GDPも2012年時点で世界16位、欧州6位と、本書執筆時点よりも順位を上げています。
しかしながら、最近も国内のTwitterやYoutubeを遮断するなど、内政の状態が芳しくありません。こうした状況が経済発展の足かせにならないかが心配です。

トルコに関しては、今後どの程度の経済成長を遂げられるのか、特にイスラム世界を束ねられるほどの経済的支配力を獲得できるのか、という観点で見ていく必要がありそうです。

 

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