2040年の憧れの職業・稼げる仕事

いなたくんへ

前回、2040年ごろの労働環境について予測をしてみた。AIロボティクスによる自動化のほか、オンライン労働の普及や労働市場の国際化により、労働市場全体の縮小や格差の拡大が起こっている。

その一方で、人間が行うべき労働領域のシフトや、「デザイン思考」から「当事者デザイン」の時代への変化といった背景により、人々はより内発動機に沿った労働、つまり自分のやりたい仕事ができているかもしれない。

今回はさらに視点を変えて、2040年の高校生が憧れる職業を考えてみた。そもそも私が未来の労働について考え始めたきっかけは、2040年の高校2年生・鷲尾野ゆずりは(17)の1日を考えたかったからだった。

「鷲尾野ゆずりはの1日を考える」は、未来予測のひとつの方法論として、具体的なペルソナを決めてその人物の日常を描くことで、ミクロなディテールを浮き彫りにする試みだ。

高校生の日常なので、学校生活は欠かせない。学校といえば教育。そして教育はそのひとつの大きな側面として、社会で生きていける能力を身につけさせる目的がある。では、そのとき社会は、労働環境はどう変わっているのか? という連想で、これまで未来の労働について考えてきた。

今回はその原点に立ち返り、「高校生にとっての憧れ」の視点で未来の労働を考えてみた。それぞれのタイトルだけ見ると2020年現在と大きく変わらないけど、自分としてはそれなりに精度の高い予想ができたと満足している。

Summary Note

2019年の高校生の憧れの職業は、内発動機の多様性の現れである

1.意思決定にまつわる仕事

  • 起業家・経営者

2.人間関係にまつわる仕事

  • ビオトープ・タレント
  • 専門職
  • 政治屋(補足)

3.身体性を伴う仕事

  • 職人
  • 警察官・消防士・救急隊員
  • 自衛官

4.選ばれた人

  • スポーツ選手
  • アーティスト
  • 宇宙飛行士

5.安定した仕事

  • 公務員


2019年の高校生の憧れの職業

さて、2040年を考えてみるその前に、そもそも現在の高校生はどんな仕事に憧れるのか。軽く調査結果を確かめてみる。


高校生の将来なりたい職業(中高生が思い描く将来についての意識調査2019より)

男子はプログラマとか起業家とかクリエイターとか公務員とか、女子は看護師とか芸能人とか会社員とか保育士とか。目立つ仕事もあれば、地味めの仕事もあれば。稼げそうな仕事もあれば、そんなことない仕事もあれば。

ランクインの基準は何だろう?

内発動機に素直な仕事

ちょっと乱暴だけど、ここでひとつの仮説を立ててみる。それはランクインした「将来なりたい職業」とは、高校生たちの内発動機に素直な仕事である、というものだ。

内発動機とは、内面に湧きおこる興味・感心であり、それはパーソナリティによって異なる。パーソナリティとは生まれ持った気質であり、外向性とか誠実性とか、いくつかの評価軸が知られている。

例えば『あなたの天職がわかる16の性格』(2016)では、MBTI法に基づき性格を分類し、それぞれの適職を整理していておもしろい。MBTI(Mayers-Briggs Type Indicator)は国際規格にもなっていて、『16 Personalityies』のサイトで無料で評価できるのでおススメ。ちなみに私は「建築家(INTJ)」タイプだったよ!

内発動機は、具体的には例えば次のような欲求が挙げられる。

  • 人の役に立ちたい
  • 人とコミュニケーションをしたい
  • 冒険したい、チャレンジしたい、楽しみたい
  • 独立してやりたいことをやりたい
  • 独創したい、アイディアを形にしたい
  • 安定したい
  • 社会的地位が欲しい、目立ちたい

価値観は人それぞれなので、このどれに共感するかはまちまちだと思うけど、こうした多様な動機がそのまま素直に現れたのが、ランクインした職業たちなんだろう、と私は考える。

なお大前提として、その職業が高校生に認知されている必要があることはここに述べておく。さらに言えばその認知は、イメージと実態とが乖離している可能性も踏まえておきたい。

では、2040年の憧れの職業は?

2040年においても、高校生たちが憧れる職業は、彼らの内発動機に基づき選ばれるだろう。ということで、以下ではそれぞれの内発動機に鑑みながら、2040年における憧れの仕事を考えていく。


1.意思決定にまつわる仕事

2040年においても、意思決定は重要な仕事だ。もちろん、AI等の自動化技術は人の意思決定をサポートするが、意思決定主体はあくまで人間であり続ける。それは事業の所有者が人間であるからだ。

この領域においては「起業家」「経営者」が人気となる

起業家・経営者

2040年には市場の仮想化・国際化がさらに進んで、起業のハードルが現在以上に下がっている。遠隔地のニーズがより可視化され、シーズとのマッチングがより活発になり、最初は小さくとも事業を起こしやすくなる。

若手の起業家や経営者はありふれた存在になり、冒険心や独立心の溢れる高校生にとって、憧れの未来となるだろう。

2040年は当事者デザイン(Co-Design)の時代であり、起業チームではサービスデザイナーが中心的な役割となる。当事者デザインにおけるサービスデザイナーは、ユーザを巻き込んでのコミュニティを創り上げる。ときには新興宗教の教祖的な色彩も帯び、多くの場合、起業家自身がこれを担う。

そこではあらゆるレベルにおいて、「物語を創る当事者デザイナー」と「物語を具現化する専門家」の二人三脚がみられるはずだ。

  • レストラン経営者(物語の創造)とシェフ
  • マーケター(場の創造)とエンジニア
  • 編集者(ファンコミュニティの運営)とアーティスト

なお、2040年には現在以上に「意識高い人」も増え、食い物にされる人、食い物にしようとする人たちも溢れている。単に功名心に憧れるだけの高校生は、いずれ勉強代を支払うことになるだろう。


2.人間関係にまつわる仕事

2040年において特に重要性を増すのが人間関係にまつわる仕事だ。現在の仕事の一定の領域は自動化が進んで、人間はいま以上に「人間を相手にする仕事」に集中することになる。

ビオトープ・タレント

インターネットやSNSは、コミュニティの多極化、価値観の多様化を進めた。細分化された空間のそれぞれには、その空間でのみ通用するコンテクストが生じ、空間は例えば「ビオトープ」と呼ばれる。

卑近な例ではTwitterがわかりやすい。ある属性の層に対しては絶大な影響力を誇るが、別の属性層では全く無名な、フォロワー数十万レベルのアカウント。こんなたとえでイメージ湧くかな。あるいはYoutuberとかVtuberでもいいだろう。

2040年にはおいては、あるビオトープに特化して影響力を持つタレントが、あらゆるチャネル、あらゆるレイヤーに現われてる。私はこれを「ビオトープ・タレント」と呼ぶ。彼らは2020年現在のテレビタレントのような知名度こそないが、一定規模のビオトープに君臨することで、十分な収入を得られている。

現在の高校生が芸能人に憧れるのと同様に、2040年の高校生は自身の属する領域のビオトープ・タレントをロールモデルとして、これに憧れるだろう。

ちなみにビオトープ・タレントの適性として、芸に秀でることはもちろん、ビオトープの人たちとのコミュニケーションが重要な能力となる。単に承認欲求を満たしたいだけでは務まらない。

専門職

弁護士や弁理士、税理士などの士業。教師や保育士、トレーナー。医師、看護師、ケアマネージャー。これら専門職は、2040年においても高い地位や社会的需要を維持している。

ただし2020年現在と異なり、彼らの提供価値のうち、知識や経験の占める割合は低下している。言うまでもなく自動化技術や集合知の影響である。

彼らに求められるのはむしろ、依頼人や提供者への(高度な知識・経験を前提とした)コミュニケーションだ。相手の悩みに傾聴し、相手に共感して、相手の文脈に沿って提案をする能力。資格試験も、そのような実務能力を量るものに変わるだろう。

専門職の特徴は認知度である。実態を知るかどうかは別として、高校生にとってこれら職業を指すコトバはわかりやすく、ゆえに人気につながりやすい。

実際に大成するには「人を助けたい」「人のために役立ちたい」というパーソナリティが重要だけど、それでも労働機会は多いので、最初の入り口は「めだちたい」とか「何となくカッコよさそう」でも、それなりに食べていけるはずだ。

政治屋(補足)

高校生の憧れの職業にはランクインしないが、補足として「政治屋」も挙げておきたい。「政治屋」とは、いわゆる国会議員や市議会議員といった代議士ではなく、事業におけるプロジェクト・マネージャー的な仕事を便宜的に指す。

2040年には、人間の労働領域として意思決定の重要性が増している。ということは「起業家・経営者」の項でも説明したけど、意思決定は組織の代表者には限られない。意思決定は組織間や、あるいは組織内の各階層でも行われる。

意思決定の中でも特に重要な役割が、ステーク・ホルダー間での交通整理だ。サービスや、プラットフォームや、あるいはビオトープなど、それぞれのエコシステムの中で、間で、ポリティカルなコミュニケーションが必要とされ、これを担う人材が重要になる。特に、規模が大きなエコシステムや、エコシステム間の調整を担える人材は高い収入を得るだろう。

ただしこの仕事は表には出てこないので、高校生にとっての認知は低く、憧れの職業には入らない。しかしながら2040年における重要な職業のひとつであるため、ここに言及した。


3.身体性を伴う仕事

2040年は、低レベルの知的労働はすでにAIに代替されている。一方、身体性を伴う労働のロボティクスによる代替はまだ進行が始まったばかりの段階だ。そのため、身体性を伴う労働が2020年現在よりも「人間らしい仕事」として認められている。

職人

ロボティクスによる自動化の困難な職人業は、一定の人気を博している。例えば工芸家や、シェフ、美容師、各種技師などだ。特にこれら職人は当事者デザイナーと手を組むことで、様々な「物語」を具現化していく。

手を動かして価値を創ったり、工夫をするのが好きな人は、こうした職人に憧れる。

警察官・消防士・救急隊員

警察官や消防士、救急隊員なども安定して人気がある。2020年現在に比べて、監視や一次対応など一定の業務はすでに自動化されているが、社会の安全を支えるこれら職業は無くならないし、重要であり続けている。

上位にランクインするかは別だけど、使命感をもつ高校生にとって将来の選択肢のひとつとなっている。

自衛官(補足)

自衛官は警察官等の仕事に比べて人員数が少ないため、これもランクインまでするかと言えば難しそうだが、選択肢のひとつとなっている可能性はあり、言及しておく。

高校生にとって自衛官が人気であるかは、そのときの安全保障政策や世論にも左右されるためわからない。しかしながら、2040年の国際情勢を鑑みるに、安全保障の重要性がさらに高まっているシナリオは考えられる。

実際には、軍隊は機械化や専門化、人材の高度化が進むため、(すでに現在もその傾向があるけれど)誰でもなれる仕事ではなくなる。その代わり、高度な教育が施され、自衛官を経て「起業家」や「政治屋」となる人も増えているかもしれない。


4.選ばれた人

スポーツ選手やアーティストなど、一握りの限られた才能により「夢」を実現した人たち。2040年にとっても彼らは憧れの的であり続ける。

ただし、高校生になると現実(実現可能性)が見えてくるため、まだ本気で目指す高校生は限られてはいるだろう。小中学生だったらランクインするけど、高校生ではランクインまではしないかも。

スポーツ選手

スポーツは2040年においても魅力的なエンタテイメントであり、その仕事は無くならないし、もちろん人気であり続ける。ただし2040年においては、サッカーや野球だけでなく、いわゆるオンライン・ゲームも「仮想スポーツ」として認知されるに至っている。

スポーツ選手には2つの類型に分けられる。1つは「トップアスリート」型。メジャー・スポーツや、世界規模のプレイヤーなど、その実力が全人類においてもトップクラスの「選ばれた人」たちだ。

もう1つは「コミュニケーション」型。トップアスリートではないけれど、プレイスタイルで人々を魅了したり、解説やコミュニケーションを通じて物語を提示したり、アイドル的に振る舞ったりする。これらは「選ばれた人」というよりは、上述の「ビオトープ・タレント」に分類される職業となる。

アーティスト

アーティストの言葉の射程は広い。音楽、文筆、詩、美術、舞踏、演劇、芸能、などなどあらゆるアートのジャンルで活躍する人たちだ。

クリエイティブの仕事はAIによる代替が進むが、それでも圧倒的な才能は存在する。先鋭化された超ハイコンテクストから新しい価値を生み出すトップアーティストたちは、AIによる知的労働・感情労働の代替が進むからこそ、人間性の極北として大きな注目を集める。

アーティストもスポーツ選手と同様、2つの類型に分けられるだろう。1つはここで述べた「選ばれた人」、すなわちトップアーティストだ。もう1つはビオトープ・タレント型で、創造物そのものの価値というよりは、これを物語に載せて特定ビオトープに対して価値提供する人たちだ。

なお、クリエイティブな人間とは、アーティストになるためにアートを行うのではなく、アートを行うことが生活の一部となる人だ。そのため、金銭労働ではなくとも、趣味の範囲でアートを行う人たちも小さくない層を形成している。

宇宙飛行士

2040年においても宇宙飛行士は限られた専門職だが、2020年現在よりはそのすそ野が広がっている。月・地球ラグランジュ点ではゲートウェイ・ステーションが稼働して、火星や火星以遠への探査も活発になっているだろう。

したがって、冒険心溢れる高校生にとって、宇宙飛行士も捨てがたい選択肢となっている。


5.安定した仕事

「安定したい」というのもひとつの欲求であり、特に日本人は安定志向者の割合が大きいという調査結果もあったりする。そのため、安定した仕事(正確には「安定しているように見える仕事」)も人気の仕事のひとつとなる。

公務員

安定志向の高校生にとって、2040年においても公務員は重要な選択肢のひとつとなる。公務員は2040年においても無くならない。その理由は次の通りだ。

  • 地方インフラや各種行政機能の推敲のため、絶対数の人員が必要である
  • 公務員は民間セクターに比べて効率化が遅れ、自動化が進んでいない
  • 国家的な労働市場縮小への対策としての雇用機会の担保に資する

3点目については、公務員は税金で雇われることから、国民の批判も集めることとなる。が、それでも安定志向の若者はこれを目指すだろう。


高校生たちの憧れは叶うのか?

以上、2040年の高校生が憧れる仕事について、ランクインしそうなものを挙げてみた。結局のところ2020年現在と大きく変わらないというか、予想として保守的過ぎた気はしている。けれども、ヒトの性質が20年で大きく変わらなければ、その動機や欲求も似たようなものになるとも思う。

では、2040年の高校生たちは憧れの仕事に就けるのか。

環境の変化として、2040年においては、労働市場の縮小や労働機会の格差拡大、自動化技術の普及が起きている。

ただしこれらはあくまで傾向に過ぎない。2040年という時間軸では、すべての仕事の完全な機械化は当然無理だし、現在より効率化が進むとはいえ、現在的な働き方もなお残っているはずだ。つまり、2040年においても仕事のすそ野はあくまで広い。

労働市場の国際化や、オンライン労働の普及など、生活スタイルの変化もそれなりに大きいとは思う。ティール的に、今よりもずっと自由度高く働く人も少なくない。けれども多くの人は、組織に属し、定められた規律に則り、社会を支える。

2040年の高校生のうち、今回挙げた職に実際に就くのは、実際には一部だけとなるだろう。ただし、それは夢が破れることを意味しない。大学に進学し、それから社会を支える多様な職業機会を目にして、彼らはより自身に適した仕事を見出していく。現在の我々の多くが、高校生には知られていない、しかしやりがいのある様々な仕事に就くように。

 

  

 

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