ガートナーのハイプサイクルを去年と比べて読んでみた(2020)

いなたくんへ

ガートナーが例年発表している「先進テクノロジのハイプサイクル」。2020年版では1700を超えるテクノロジから、注目すべき30の先進テクノロジと5つのテクノロジ・トレンドがまとめられた。


ガートナープレスリリースより

ガートナーによれば、先進テクノロジとは「本質的に破壊的なもの」であって、「今後5~10年にわたり、高度な競争優位性をもたらす可能性が高い一連のテクノロジ」であるとされる。

長期的な視野から選ばれると思われるけど、その顔触れは年ごとに大きく変わったりもする。昨年にも大きな刷新があったが、今年も今年で変化は大きく、提示された30の先進テクノロジのうち実に22が新規のテーマとなった。

ちなみに2019年版のまとめはこちら。

ということで、2020年版で新たに出現したもの、消えたものについて、2019年版と比較して読んでみた。

今回も新規テクノロジには私の独断と偏見に基づく説明を付けたが、きちんとした定義や詳細はちゃんと自分でググってね。

Summary Note

5つのテクノロジ・トレンドの変化

1.人のデジタル管理が大きく進展(デジタル・ミー)

2.リソースは分散し、統合される(コンポジット・アーキテクチャ)

3.AIの進化と社会実装はなお続く(フォーマティブ・AI)

4.顕在化する倫理とセキュリティの問題(アルゴリズムによる信頼)

5.期待の高まる次世代計算資源(シリコンの先へ)


5つのテクノロジ・トレンドの変化

ガートナーは30の先進テクノロジについて、5つのテクノロジ・トレンドという形でカテゴリ化している。

比較のために、まず先に2019年版のトレンドを見てみよう。昨年には次の5つが挙げられていた。

  • 高度なAI/アナリティクス
  • デジタル・エコシステム
  • オーグメンテッド・ヒューマン
  • センシングとモビリティ
  • ポストクラシカルなコンピューティングとコミュニケーション

これに対して、2020年版の5つのトレンドとは以下である。

  • デジタル・ミー
  • コンポジット・アーキテクチャ
  • フォーマティブ・AI
  • シリコンの先へ
  • アルゴリズムによる信頼

各トレンドの詳細は後述するが、全体を俯瞰すると、デジタルの世界に一気に深化した感が強い。背景には、2020年頭からの新型コロナウィルスによる世界的外出自粛の影響があるのだろう。

私は、テクノロジーとは人間に寄生した一種の生命だと信じている。宿主である人間社会の事件がテクノロジーの進化史にも影響を与えた、と想像すると、興味深く思える。

今回のトレンドの変化は、今年になって消えてしまった先進テクノロジを一覧するとわかりやすいかも。以下のアイテムは全て、2019年版に挙がっていたが、2020年版では消されたものだ。

  • バイオテクノロジ(培養組織/人工組織)(黎明期)
  • バイオチップ(過度な期待のピーク期)
  • イマーシブ・ワークスペース(黎明期)
  • ARクラウド(黎明期)
  • ナノスケール3Dプリンティング(黎明期)
  • 自律型航空機/空飛ぶ車(黎明期)
  • 軽貨物配送ドローン(黎明期)
  • 自律走行(レベル5)(過度な期待のピーク期)
  • 自律走行(レベル4)(幻滅期)
  • 3Dセンシングカメラ(幻滅期)
  • 低軌道衛星システム(過度な期待のピーク期)

消えたのはこれだけではないが、現実世界に関する話がほとんど一掃されたことがわかる。まあ、ガートナーのハイプサイクルは復活することもあるので、コロナ禍が収まり来年、再来年にはまた登場して欲しいけど…。

では、これらに替わって2020年版で現れた先進テクノロジには何があるのか。トレンドと併せてみていきたい。


1.人のデジタル管理が大きく進展(デジタル・ミー)

「デジタル・ミー」とは、テクノロジと人の統合、物理空間とデジタル空間の両面における人の表現、と説明される。コロナ禍により人と人、人と物など、人と環境とのコミュニケーションが遠隔的に行われ、このために、人自体のデジタル管理が大きく進むこととなった。

このトレンドには次の先進テクノロジが包含される。

ヘルス・パスポート:黎明期

ユーザの健康状態を可視化し、特定地域・特定施設等への移動を制限・許可するための手段。例えば中国アリババの「健康コード」や、日本の新型コロナウィルス接触確認アプリ「COCOA」等。

シチズン・ツイン:黎明期

市民をデジタル空間上のデータとして把握すること。「ヘルス・パスポート」とも関連し、市民の場所や状態を管理するためのテクノロジー。

人のデジタル・ツイン:黎明期

物理空間とデジタル空間の両面において人を表現できる、個人のモデル。

マルチエクスペリエンス:黎明期

デバイスやチャネル、場所に依存することなく提供される、一貫したシームレスな体験。

ソーシャル・ディスタンシング・テクノロジ:過度な期待のピーク期

リモートワークや遠隔教育、配送等、ソーシャル・ディスタンスを実現する一連のテクノロジ。

これらがコロナ禍で進展したテクノロジナノは言うまでもない。が、コロナ禍特有のテクノロジかと言えばそうでもなく、いずれ起こるはずのテクノロジの進化が、コロナ禍を契機に前倒しされたとみるべきだろう。

このうち「ヘルス・パスポート」や「ソーシャル・ディスタンシング・テクノロジ」は、初登場ではあるが2年未満で主流になるテクノロジであるとされ、ガートナー自身も異例であると述べている。

「シチズン・ツイン」「人のデジタル・ツイン」に関しては、2018年版の「デジタル・ツイン(過度な期待のピーク期)」や、これを包含する2019年版の「Digital Ops(黎明期)」の流れとなる。2020年版は人にフォーカスされた格好だが、これらは技術は監理社会とも一体的なものであり、社会がどう扱うかにも要注目だ。

少し毛色の違うテクノロジとして「双方向BMI」もこのトレンドに含まれていた。こちらはコロナ禍というよりは、イーロン・マスクのNeuralinkの影響が大きそう。「BMI」は2017年を最後に消されていたが、復活した格好だ。

双方向ブレイン・マシン・インタフェース (BMI):黎明期

脳と機械のインターフェイスのうち、脳の情報を解析することにより、双方向の通信を行う技術。


2.リソースは分散し、統合される(コンポジット・アーキテクチャ)

デジタル化の進展に伴い、システムの構成機能が仮想空間上にも、これと接続される物理空間上にも分散していくことで、システム全体としては複合的になっていく。

まずはサービスや計算機能の分散に関するテクノロジとして、以下のものが挙げられていた。

プライベート5G:黎明期

企業や自治体などの個別主体ごと、特定領域ごとに構築され、外部からはアクセス不可能な5Gネットワーク。日本ではソフトバンクが2022年に提供開始予定。

組み込み型人工知能 (AI):過度な期待のピーク期

クラウドやプラットフォームではなく、マイコンなどの端末に組み込まれ、ローカル環境のデータを処理する人工知能。

エッジにおける低コストのシングル・ボード・コンピュータ:黎明期

RaspberryPiやArrduino等に代表されるシングル・ボード・コンピュータのうち、低コストで提供され、エッジデバイスとして活用されるもの。

昨年挙がっていた「5G(過度な期待のピーク期)」は、今年は「ローカル5G(黎明期)」として、より局所的なサービスの応用可能性が注目される。また、昨年の「エッジAI(過度な期待のピーク期)」「エッジアナリティクス(過度な期待のピーク期)」の発展として、今年挙げられた「組み込み型人工知能(AI)」や、エッジでのシングル・ボード・コンピュータも、構成機能の分散化をもたらすものだ。

昨年挙がっていた「AI PaaS(過度な期待のピーク期)」が今年は消えているのも、こうした分散化の流れと同期したものだろう。

これに続いて、システム全体を統合する話として、以下の先進テクノロジが挙げられていた。

データ・ファブリック:過度な期待のピーク期

現場やクラウドに点在するデータを適切な場所に配置し、必要なデータをアプリケーションやサービスからいつでも取り出せるようにするアーキテクチャ。

コンポーザブル・エンタプライズ:過度な期待のピーク期

ガートナー曰く「柔軟なデータ・ファブリックに基づくビジネス・ケイパビリティ・パッケージによって、急速に変化するビジネス・ニーズに対応できるよう設計され」たもの。なるほど?

ビジネス・ケイパビリティ・パッケージ:黎明期

ビジネス上で必要とされるケイパビリティの提供パッケージ。直訳しかできんかったけど察して。

どれも意識高いコンサル臭が強いのと、基本的に造語なので来年以降は残ってないと思うけど、ひとつのトレンドとしては参考になる。

エンドユーザとしてはあまり意識しないとこだけど、テクノロジーの社会実装の形がこのように変化していて、その変化のために新たな可能性が拓けていく、というのは想像するとちょっと楽しい。


3.AIの進化と社会実装はなお続く(フォーマティブ・AI)

先ほどの「コンポジット・アーキテクチャ」はシステム全体の話だったが、その中でも重要な要素となるAIについても、今年も引き続きのトレンドとして挙げられている。第三次ブームAIは社会実装フェイズに入って久しいが、まだまだ進化は続き、破壊的な可能性を秘めている。

AI技術について、今年は新たに以下のものが先進テクノロジとして登場した。

自己教師あり学習:黎明期

Self-Supervised Learning(SSL)。データ自身から独自のラベルを自動生成することで、人間がアノテーションを行わずとも、教師データを自動的に用意することができる。人間による膨大なアノテーションコストを低減できる。

生成的AI:黎明期

写真や音声、文章などを生成するAI。GANやGPT-3などもここに含まれる。

コンポジットAI:黎明期

複数の異なるAI技術の組み合わせにより学習の効率性を高めたAI。ガートナーによれば、大規模データや複雑な分析を不要とすることが期待される。

なお、次の技術は昨年に引き続き今年も先進テクノロジに挙げられている。

  • 敵対的生成ネットワーク(黎明期→黎明期)
  • アダプティブな機械学習(黎明期→黎明期)

以上の先進テクノロジはいわば要素技術であるところ、以下のように、AIを設計・開発に活かす方法論も注目される。

AI拡張型設計:黎明期

機械学習や自然言語処理などの技術を用いて、ユーザ・フローや画面設計、コンテンツ層/プレゼンテーション層のコード生成などを行う手法。

AI拡張型開発:黎明期

AI-Augmented Development(AIAD)。機械学習や自然言語処理などの技術を用いることで、DevOpsのサイクルを加速させる手法。

スモール・データ:黎明期

ビッグ・データに対して、人間が理解するのに十分な程度の小さなデータのこと。これにより因果関係やパターンを把握することができる。サンプルとして利用される。

2018年、2019年ともに黎明期に位置した「ナレッジ・グラフ」は、今年は「オントロジ/グラフ」として幻滅期に前進した。

一方で、昨年挙げられていた以下の先進テクノロジは今年は姿を消した。いずれもなお注目すべき技術ではあると思うけど、インパクトとしては当初期待されたほどではなかったのかもしれない。

  • 拡張インテリジェンス(黎明期)
  • 転移学習(黎明期)
  • 合成データ(黎明期)


4.顕在化する倫理とセキュリティの問題(アルゴリズムによる信頼)

デジタルと現実の融合が進み、AI技術が社会に浸透していく中で、責任や倫理にまつわる議論はさらに重要性を増している。「アルゴリズムによる信頼」が1つのトレンドにまでなったのは、技術のいよいよの普及と、さらには課題の大きさを示していると言えるだろう。

2019年に登場した「説明可能なAI(黎明期)」は、今年には過度な期待のピーク期へと前進。さらに、以下の先進テクノロジも初登場した。

来歴証明:黎明期

対象物の生産元や提供元、所有者履歴などの証明。実現手段として、例えばデジタル証明書やブロックチェーンなどが挙げられる。

差分プライバシー:黎明期

ユーザの個人情報の匿名性を担保したまま、データを学習に用いるなど利用可能にする技術。

セキュア・アクセス・サービス・エッジ (SASE):過度な期待のピーク期

包括的なWAN機能と包括的なネットワークセキュリティ機能の組み合わせにより、ユーザやデバイスがどこからでも、クラウド上のアプリケーションやデータ、サービスにセキュアにアクセスするためのフレームワーク。

個人所有アイデンティティの業務利用 (BYOI):幻滅期

SNSアカウント等の、個人が所有し、分散的に管理されるデジタル・アイデンティティの利用。これらをサービスのアクセス権に用いるなどすることで、セキュリティを向上させることが期待される。

責任あるAI:黎明期

公平性や信頼性、安全性、ガバナンス等、種々の倫理的課題に対応したAI。「説明可能なAI」もこの一種となる。

信頼を担保する技術と言えばブロックチェーン(非中央集権的分散管理システム)も該当するが、2019年には挙げられていた次の先進テクノロジは、今年は消えてしまっていた。

  • 非中央集権型Web(黎明期)
  • 非中央集権型自律組織(黎明期)

また、AIの信頼性の観点では、2019年には感情的に振る舞うAIや、擬人化されたシステムも挙がっていたが、これらも今年は消えている。心理的な安心感の演出は引き続き重要だと思うけど、今年はそうした見せ方というよりは、中身の確からしさに焦点が当てられた印象だ。

  • 感情AI(黎明期)
  • パーソニフィケーション(黎明期)


5.期待の高まる次世代計算資源(シリコンの先へ)

最後に、ここまでに挙げられた先進テクノロジたちの土台となる、計算資源のお話。シリコンベース・デバイスの進歩の物理限界が囁かれるなか、これを克服する先進テクノロジとして、次のものが挙げられていた。

DNAコンピューティング/ストレージ:黎明期

DNA構造を用いたコンピュータや、記憶素子の技術。DNAは記録効率や安定性の観点で非常に優れているとされる。

生物分解性センサ:黎明期

自然界で分解可能なセンサ。IoTセンサの自然界へのバラマキや、動植物や人間等の生体にセンサ埋め込むにあたり期待される技術。

カーボン・ベースのトランジスタ:幻滅期

電子伝導性をはじめとした種々の特性がシリコンよりも優れる、カーボンを利用したトランジスタ。シリコンに対してより集積度の高い計算資源の実現が期待される。

2019年の「次世代メモリ(幻滅期)」が今年は消えたが、記録技術としてはDNAストレージにフォーカスされた。これって前もみた気がしてたけど、今年が初出だったのね。

シリコンを代替する計算資源は様々な提案があり、いずれも息の長い研究なので、先進テクノロジのハイプサイクル上からは今後も入れ替わってはいくだろう。でもいざ実現すればインパクト絶大なので、実現と普及に期待したい。

 

以上、ガートナーの「先進テクノロジのハイプサイクル」について、2018年版と2019年版とを比べてみてみた。

昨年に続いて今年も新しいテクノロジが目白押しだったけど、入れ替わりの激しから、世の中の変化や技術の進化が見て取れた。特に今年は新型コロナウィルスによる世界的外出自粛の影響もあったが、ではその次のフェイズではどんな先進テクノロジが現れるのか、引き続き注目していきたい。

前回(2018年と2019年の比較)はこちら:

 

  

 

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