世界の工場と呼ばれ発展してきた中国ですが、賃金の上昇に伴い、工場が東南アジアにシフトする傾向にあるようです。
もっとも一口に東南アジアと言っても、例えばミャンマーの賃金がベトナムの1/3であるなど差は小さくありません。そもそも東南アジア自体の賃金上昇も問題視されているところです。その辺どうなんでしょう。
JETROがまとめている「アジア・オセアニア主要都市・地域の関連コスト比較」に、各都市の労働者階層毎の賃金比較が載っていました。このデータが面白かったので紹介したいと思います。2013年で第23回目の調査となっていたので、2012年までの10年間の賃金の推移もまとめてみました。
Summary Note
横浜の賃金を100としたときの各都市賃金は‥?(2012年)
- 香港・ソウル: 49~62
- シンガポール: 37~74
- 北京・青島: 8~25
- バンガロール・クアラルンプール: 10~34
- バンコク: 10~27
- ホーチミン: 4~11
10年間の賃金の伸びは‥?
- 北京:約3倍
- バンコク:約2倍
- ホーチミン:約1倍(ほぼ変わらず)
- 横浜:若干減少
データはいずれも米ドル換算で、2012年末時点の調査。
レポートの図をそのまま引用します。
また、これらのグラフに基づいて、横浜の賃金を100としたときの各都市賃金の比較も作ってみました。
高くなったと言われる中国の賃金ですが、北京でみても横浜の5~7分の1に過ぎないことがわかります。もうちょっと高いと思っていたので意外でした。
一方で東南アジアですが、これは地域差がずいぶん激しいのですが、タイやインドネシアはけっこう高め。中国との差もそこまで大きいわけではありません。
ベトナム、フィリピンは安いですが、レポートによれば賃金上昇率も高い模様。
レポート冒頭ではまとめの所感も述べられていたので抜粋します。賃金上昇が問題視されてますね。
2012年10~11月に進出日系企業に対して実施したアンケート調査で、中国をはじめタイ、ベトナムなど多くの国における経営上の問題点で首位に挙がったのは、11年に引き続き「従業員の賃金上昇」だった。
ASEAN 主要国のベースアップ率は、高い方からベトナム(19.7%)、インドネシア(14.7%)、タイ(10.9%)、フィリピン(5.9%)、マレーシア(4.7%)の順。ベトナムの製造業の作業員のそれは、21.0 % と、11年度調査(18.2%)を超える高い上昇率だった。
中国では、各都市が法定最低賃金の引き上げを行った。12年の最高額は深センの254ドル。共産党新指導部は20年の1人当たりの国民所得を10年比で倍増するとの目標を打ち出しているため、今後も引き上げが続くとみられる。
ところでシドニーって給料高かったんですね。横浜と比べてこんなに差があるとは知らず意外でした。
この調査レポートは今年で23回目ということで、過去のレポートもあったので、10年分の変化をグラフにしてみました。数が多いと大変なので、私が個人的に興味を持った都市に絞っています。
以下グラフについての注意点です。完全に正確なデータではないので、あくまでも傾向として見る必要があります。
- データに幅がある場合には中央値を用いた
- データは対ドル換算値だが、日本企業から外国を見た場合は必ず為替の影響を受けるため、今回は為替変動の影響を除かずグラフにした(グラフの増減の理由が、現地での賃金変化でなく、為替の影響である可能性がある)
- 例えば「2002年」は基本的に2002年末時点の1か月のデータだが、年によっては翌年1月の給料が調査されていたものもあった
- 年によって調査された対象や母数が異なっていたり、別都市のデータを参照している場合があったため、データにはある程度の揺らぎが出ている模様
一般職工では中国の伸びが特に顕著で、北京では10年前の3倍以上。バンガロール(インド)やバンコク(タイ)も順調に伸びています。ジャカルタ(インドネシア)とホーチミン(ベトナム)はそれに比べると低調ですね。
エンジニアについては2008年の北京のデータがおかしなことになってます。これは何かの間違いでしょうか。同じ中国でも大連は普通なので、為替の影響ということもなさそう。2008年は北京オリンピックの年なので、その影響があったのかもしれません。うまく説明できないです。無視しましょう。
いずれにしろこの階層でも北京・大連の伸びは堅調で、ジャカルタとホーチミンはほどほどと言ったところ。バンコクが着実な成長を遂げていますね。
注目すべきはバンガロールの急伸でしょうか。バンガロールは近年IT企業が集まり起業な盛んになっているそうで、その影響かもしれません。中間管理職も合わせて、上級職ではバンガロールの賃金が中国を抜いていることがわかります。
エンジニアもそうでしたが、中間管理職でもバンコクの賃金がけっこう高かったのが意外でした。バンガロールの賃金も大きく上昇しています。
ホーチミンがこの10年で全然給料上がってないのが心配ですね。
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ちょっとおもしろかったのが、10年前に当たる第13回の調査でも、JETROが「中国の賃金上昇が顕著である」と警鐘を鳴らしていたところ。中国は少なくとも大都市では、今後も賃金上昇が続きそうです。そう考えると、将来の賃金上昇に備えて今のうちに中国から脱出するというのは重要な考え方かもしれないですね。
おまけですが、横浜の各職種における賃金の変化もグラフにしてみました。
実線が、他の国と同様に米ドル換算したときの値段です。ドルで見ると、為替の影響を受けてかなり変動していますね。上述した各国賃金についても、為替の影響でかなり変動して見えている点は改めて注意が必要です。
2012年末時点のデータが1ドル88円で計算されているのですが、各年についても88円で換算した場合のグラフが点線のものになります。これを見ると、この10年で給料は下がってる傾向にあるようですね。特に管理職とか。ちょっと悲しい数字です。
記事修正履歴:
- 2014/6/6 横浜賃金100とした場合の比較表、及びSummary note追記