2030年、民主化に成功した中国は世界の秩序を書き換えられるか(『2030年世界はこう変わる』書評3/4)

米国大統領や閣僚に向けてレポートされる、米国国家情報会議による未来予測をまとめた『2030年世界はこう変わる』(2013)。本書は4つのメガトレンド6つのゲームチェンジャーという、今後の世界に影響を与える10の因子を説明します。またゲームチェンジャーの1つとして、世界の変化を左右する4つの技術革新にも触れていました。

2030年 世界はこう変わる アメリカ情報機関が分析した「17年後の未来」

今後世界に対して大きな影響を及ぼすと思われるのが、中国です。本書は中国を特別大きく取り上げはしていませんが、要所要所で、中国が辿るかもしれないシナリオを提示していました。
巷には中国の分裂崩壊を示唆する予測もありますが、本書は明言こそなかったものの、中国経済がソフトランディングできるという立場をとっているようです。今回は本書から読み取れる中国の未来と、中国に影響を与えるインドや米国との関係も見てみます。

Summary Note

経済危機を回避し民主化を遂げる中国(本書より)

  • 中国は今後5年で、民主主義が定着する「国民1人当たり所得1.5万ドル」の水準に達する
  • 中国は2020年までに、実質成長率を5%程度に落ち着かせる
  • 民主化と経済失速の過程で、国粋主義的傾向が高まる可能性がある

2030年の新秩序(本書より)

  • 2030年には、米国は「覇権国」から「トップ集団の1位」に力を落とすが、軍事的優位性はなお保っている
  • 中国の国力が米国を抜くのは2030年以降となる
  • 中国が世界一の経済大国である期間は長くはなく、インドにその座を奪われ、以後中印2ヶ国が世界経済を牽引する
  • アジアにおける米国の影響力やインドの台頭が、中国の覇権を左右する

今後の中国の見どころ

  • 2020年までの経済指標に関するイベント(労働人口のピーク到来、実質成長率5%への鈍化、国民1人当たり所得1.5万ドル突破)の影響と、経済のソフトランディングに注目
  • 中国の未来に大きな影響を与える米国、インド、日本等の国との関係に注目

 

中国が抱える最大のイシューはバブル経済

GDP世界2位に躍り出、すでに日本の2倍に達しようとしている中国。野村総研の調べによれば、2017年における中間所得者層は7500万戸で、日本の1.5倍の市場となります。
そんな中国について囁かれるのが分裂崩壊説。たとえば地政学に基づき21世紀の国際関係を予想したジョージ・フリードマン著『100年予測』(2009)も、2020年代における中国の分裂の可能性を示唆しています。

分裂の原因はバブル経済の崩壊です。現在の中国の経済成長は過剰なまでの投資によって成り立っており、これらが巨大なバブルを形成しています。このバブルが崩壊したとき、共産党が統一中国を維持できなくなり、やがて分裂してしまうという予測です。

中国のソフトランディングは実現するのか

中国のバブル崩壊はしかし、「2012年7月崩壊説」など折に触れ話題にされてきたものの、未だに現実にはなっていません。例えば次のブログでは、中国がソフトランディングに向けた政策に力を入れていることが示唆しています。

(前略)まさに中国の経済運営が、そういう方向に踏み出す気配がある。日本で言えば財政投融資みたいな「国家開発銀行」の役割強化(「準財政出動」とでも呼ぼう)、人民銀行による同行への流動性供給(「担保再貸付(PSL:Pledged Supplementary Lending)という新制度を創設した)などだ。
 このような政策がさらに強化、明確化されるのなら、「ポストバブル期の経済運営」と命名できよう。中国経済のハード・ランディングも回避できるだろう。回避できないと、世界経済が受けるダメージも大きいので、そうなるかどうか、今後の動向を注視したい。

Tsugami Toshiya’s Blog

中国政府は「成長率が7%を割ると社会が不安定になる」と信じ、今も7.5%という高い成長率を投資により維持しながら、危ういバランスを保っています。
成長率について『2030年世界はこう変わる』では、ひとつの可能性として「年間実質成長率は今後2020年に向け実質5%程度に落ち着く見通し」としており、ソフトランディングのシナリオが語られていました。中国が安定に向うと仮定したとき、世界にどのような影響があるのでしょうか。

 

経済危機を回避し民主化を遂げるが、途中国粋主義に陥る(本書より)

国民1人あたりの収入が1.5万ドルを上回ると、国内で民主化の動きが活発化して民主主義が定着、独裁制に戻る可能性はなくなるそうです。本書は中国経済があと5年でこの水準に達すると予測します。
紹介した通り、本書は中国の年間実質成長率について、2020年に向け実質5%程度に落ち着くと予想。そして経済成長を完全に止める大打撃がない限り、長期的には中国は安定した政治制度作りに成功する予想します。

1人当たり国民所得(GNI)を調べたところ、中国は2010年7,640ドル(80位)、2011年8,390ドル(79位)、2012年9,040ドル(80位)と順当に伸びています(Memorvaより)。あと5年で1.5万ドルというのも難しくはなさそうな数字。購買力平価では10,900ドル(2012年)になります(GLOBAL NOTEより)。

ちなみに購買力平価での日本の順位は26位で3.7万ドル、アメリカが11位で5.2万ドル。気になる1位はカタール(13.3万ドル)でした。

Tiananmen Square Protest (tian_med)
民主化運動が制圧された天安門事件時(1989年)、中国のGNIはわずか300ドルでした
(写真:Tiananmen Square Protest (tian_med) / mandiberg)

民主化の痛み、経済失速の痛みは国外へ

中国経済が安定に向かうと仮定したとき、本書はいくつかの不吉な予言も加えています。

  • 一般的に、中間層増加が増加すると、民主主義を求める声が高まるとともに、ポピュリズムや独裁政治が増えやすくなる
  • 中国で民主化が進むと、中期的には国粋主義的内向き傾向が強まる
  • 景気が急失速し政情不安が広がると、内向き志向を強め、経済がうまく回らない理由を国外に求める可能性がある

中国が関わる目立った対外紛争と言えば、東アジアや南アジアでの領土問題がありますね。最近の対日姿勢は和らいでいるようにも見えますが、この問題は今後も定期的に起こっていくのでしょうか。

経済失速以外にも不安要素は残る

経済成長を低速化させてのソフトランディングが実現したとしても、なお不安は残ります。
本書では、中国の65歳以上人口比率が現在の8%から2030年には16%に上昇、一方15歳から65歳までの労働人口は72%から68%に下がるとしています。13億人社会の高齢化は深刻な課題と言えるでしょう。

中国の都市部エネルギー需要も2030年までに現在の2倍となり、世界のエネルギー消費量の2割以上を占めるようになると本書は指摘。こちらも大きな問題です。
ただしエネルギーに関しては、中国国内に米国の2倍のシェールガスが埋蔵されていいう話も本書は紹介(ソースは中国政府による予備調査)。シェールガスが本当に期待できるエネルギー源かどうかは見極めが必要のようですが、これが使えればエネルギー問題には少し余裕ができそうです。

 

追い抜かれるアメリカ、台頭するインド(本書より)

中国の影響が大きいとは言え、中国単独で世界を変えることはできません。現在の覇権国である米国や、中国に並ぶ成長国インドの出方次第で、中国と、中国を巡る世界の秩序も一変します。

2030年、アメリカは覇権国からトップ集団の1位に

2030年までという期間で言えば、本書はアメリカが「覇権国」から「トップ集団の1位」になると予想。どんな楽観的シナリオでも世界に対する影響力低下は避けられないものの、1位は維持できる、とします。
米国の軍事的優位性もなお変わりません。新興勢力も登場しますが、既存の国際社会の仕組みに守られていた方が有利との判断から、当面は現状維持が続くとの予想です。
中国にとって戦略上の弱点となるのが、米国に制海権を握られることです。本書はこの点について、中国の海軍強化や、内陸ルートでの原油確保の動きを指摘していました。

本書はGDP、人口、軍事費、技術投資の4つの数字で国力を比較しており、これによると、中国が米国に並ぶのが2030年になるそうです。ただし、この4つに健康、教育、統治の3つを加えた場合、トップが移るのは2040年まで後退するとのこと。

中国が米国に並ぶことは間違いなさそうですが、時期は2030年より先となりそうですね。
アジアの制海権争いでは、中国が「列島線」を越えられるかどうかも1つのポイントになりそう。両国の力が並ぶ2030年頃までに、列島線をめぐる争いも激化していくかもしれません。

インド経済が早々に中国を追い抜き、世界経済は中印2ヶ国に牽引される

世界銀行によれば、2025までの世界の経済成長のうち、中国一国が1/3を担うことになるそうです。
ただし本書では、「世界一の経済大国」としての中国は短命に終わり、インドが世界の牽引役を引き継ぐ、と予想。その根拠は人口構成です。中国の労働人口は2016年にはピークを迎えることになりますが、インドのピークは2050年となっていて、まだまだ伸び盛りなのです。
両国が同時に台頭することで互いの不信感は高まり、世界にとっての不安要素となる、というのが本書の懸念です。

China India flag graphic via shutterstock.com
China India flag graphic via shutterstock.com / Asitimes

東アジア全体の未来について本書は、東アジアの「国々の多くが「経済は中国依存、軍事は米国依存」という2つの相反する戦略を同時に実施していますが、この傾向は2030年まで続く」とし、「各国は「誰と組むのが最善の選択なのか」を再考する必要に迫られてい」ると指摘します。

 

中国は世界に新たな秩序をもたらすか

中国の成長に伴い、アジアと、そして世界の秩序が変わることに間違いはありません。その変化はどの程度のものになるでしょうか。

考えられる1つの未来が、中国の力がある程度抑えられ、米中が均衡した状態に収まり、東アジアで現状に近い国際関係が維持されるという、現状に近い未来です。本書が予想するいくつかのシナリオを総合すると、現状に近い未来を迎えるには、次の2つの条件を挙げることができそうです。

  • 米国がアジアにおける制海権を維持して、環太平洋の国々を巻き込んだ協力体制を維持し、引き続き安全保障を提供できること
  • 日本の衰退が急激に進んだり、インドの台頭が遅れたりしないこと

逆に言えば、これらの条件が整わない場合、すなわち米国がアジアにおける存在感を失い、かつ周辺国(日本やインドなど)の経済力が落ちた場合には、中国の覇権に基づく新秩序がアジアを席巻する可能性があります。

今後数年の中国と関係国に注目

中国の力が米国に並ぶのは2030年以降とされますが、最も変化が大きいのは2020年までの数年間かもしれません。
2020年までの間に中国では、労働人口のピーク到来や、実質成長率5%までの鈍化、民主主義定着の境界となる国民1人あたり所得1.5万ドルの突破、といったイベントが起こり、多少の混乱が予想されるためです。そのストレスは近隣諸国との摩擦も生むでしょう。

こうした経済指標とともに、バブルと呼ばれる中国経済が本当にソフトランディングできるのか、注目です。
またアジアの未来は、中国1ヶ国だけでなく、米国やインド、日本との関係も影響が強いですから、この動向にも注目していきたいですね。

本書が予想する日本の未来は、次の記事にまとめています。

 

2030年 世界はこう変わる アメリカ情報機関が分析した「17年後の未来」 中国の未来を決める急所はここだ 中国を拒否できない日本 (ちくま新書)

 

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