いなたくんへ
この3ヵ月では、何度もバブルと叫ばれているビットコインがついにハードフォークを実施、暴落と暴騰を繰り返して騒ぎになった。中国が取引所やICOを規制したり、と思えば情報通信研究院がTrusted Blockchain Open Labを設立したり、日本でもJコインなる電子通貨が提唱されたり、あわただしい。DMMはマイニング事業に乗り出したが、それってサステナブルな事業なのかな。私はビットコインに価値があると考える派なので、今後の動向にも注目である。
ウクライナではドローンの攻撃で弾薬庫が失陥。この件は防御側にも問題が当ったようだけど、英空母クイーン・エリザベスに一般人のドローンが着陸できたり、ドローンは引き続き脅威だ。
そんななか、すでにレーザ兵器を実戦配備する米軍はその出力を10倍以上に引き上げ航空機撃墜も目指すとのこと。米軍は宇宙配備型のミサイル迎撃システム(かつてのSDIとは別)も検討しており、未来の戦争のカタチがかわりそう。
他には炭素繊維強化プラスチック製軍用潜水艦が大型3Dプリンタで作れたとか、中国モーターショーでキャンギャルのスカートが透明に変化したけど、これって何気にすごい材料技術なんじゃないの、とか。
などなど、この3ヶ月でも未来予測の観点で気になるニュースが目白押しだったので、私の観測範囲から全方位的にまとめてみた。
なお、この3ヶ月のニュースでも大きなテーマについては番外編として個別にまとめたので、こちらから。
- 人間能力を拡張する最新テクノロジー系ニュース(2017/10/10)
- 最新ニュースに見るモビリティ進化の3つの方向:無人配送チェーン形成・個人化・超高速化(2017/10/12)
- 中国の社会信用システム芝麻信用にみる「人工お天道様」の限界と未来(2017/10/16)
ケンタッキーが研修用VRを発表して話題になった。チキンの揚げ方を学ぶ脱出ゲーム形式のコンテンツだが、その雰囲気は下記サイトがよくまとめている。
KFC's unsettling new employee training game is a virtual reality nightmare https://t.co/p503Zx7ZdD pic.twitter.com/fhm1TuwqB8
— Eater (@Eater) 2017年8月23日
異様さで話題になったものの、脱出ゲームの仕掛けなど現実ではできないことをゲーミフィケーションで実現しており、VRの活用例として興味深い。
ゲームでは異世界モノの百合ゲーム「ことのはアムリラート」にも注目。なんとこちら、ゲームをプレイすることでエスペラント語が習得できる。以下のプレイ体験は実に参考になるものだ。
エスペラント語互換の異世界に飛ばされる百合ゲーム「ことのはアムリラート」、マジで何言ってるのかさっぱりわからなくて斬新過ぎる。
言葉が通じず右往左往する奴をプレイヤー側にも実体験させるの、ゲーム体験として革命的なのでは? pic.twitter.com/A04cF0MSaA— はげ@ことのはアムリラート座談会楽しみ (@hageatama) 2017年8月28日
徐々にであるが、完全に謎呪文だったエスペラント語が読み取れるようになってきてて恐ろしい。不定詞も30個は覚えたわ。起きたら忘れてそうだけど。 pic.twitter.com/BEF4upNW5Y
— はげ@ことのはアムリラート座談会楽しみ (@hageatama) 2017年8月28日
すごい! 冒頭のチンプンカンプンな邂逅の意味が、2周目だと理解出来てる俺がいるwww pic.twitter.com/d4DNdUESog
— はげ@ことのはアムリラート座談会楽しみ (@hageatama) 2017年8月29日
言葉を覚える近道として「恋人作る」は王道だけど、これを仮想的にできてしまうことになる。他言語への横展開に無限の可能性を感じる。
そんな仮想世界の女の子だが、2017年の技術力の結晶「Saya」には衝撃しかない。このクオリティはぜひ大画面で確かめたい。
ムーアの法則によればビットの世界は10年1000倍。2030年ごろには解像度も帯域も制約がなく、このレベルのCGがVRやARで現実虚構問わずに跋扈しているわけだ。恐ろしいやら、楽しみであるやら。
見た目こそ麗しきSayaちゃんだが、さらにできれば頭と身体にもこだわりたい。
ガートナーは今年も「先端テクノロジのハイプ・サイクル」を発表。テクノロジーへの期待感や主流採用時期を予測したものだが、メガトレンドとしては「これから10年にわたり、AIは最も破壊的な技術領域」と分析。また、その背景としてのコンピューティングパワー成長や増加するデータにも注目している。
ビジネス的には、AmazonのAlexaとMicrosoftのCortanaが手を組んだというのが音声エージェント界の薩長同盟的な大事件。国内ではデータ分析や機械学習のための前処理共通化を目指すオープンソースプロジェクトも発足しており、ビッグデータが鍵となる世界での競争戦略事例、標準化事例として興味深い。
AIの先端技術としては、情報通信研究機構が強化学習の超高速化技術を実現、AIの「意思決定」への応用が期待される。それから痒いところに手の届く話では、弘前大学による津軽弁自動翻訳とか。や、世界には方言レベルの別言語ってたくさんあるし、その互換を取れる技術は地味におもしろいかと。
- AIの重要課題である強化学習をレーザーカオスを用いて超高速に実現(情報通信研究機構,2017/8/22)
- 津軽弁をAIで標準語に―弘前大などが自動翻訳を研究(INTERNET COM,2017/7/28)
身体関連ではロボットを柔らかい素材で作ったり、触角をもたせたりと、より生物に近づける研究が引き続き注目される。特にコロンビア大の人工筋肉は3Dプリントでも成型可能とのこと。記事でも言及される通り、骨格に筋肉を盛り付けるアプローチはターミネーターを彷彿させる。
- ロボットの皮膚に触覚能力があり柔らかいフルーツでもつぶさない…CMUのFingervisionシステム(2017/7/6)
- 「生きているようなロボット」を実現する人工筋肉技術が開発。AI組み合わせ、身体制御を学習させる構想も(Engadget Japanese,2017/9/22)
ところで話それるけど、外科手術ロボットで有名なダ・ヴィンチによるブドウの縫合動画がヤバイ。こちらは医師がアーム操作しているものだが。
欧州議会がAI・ロボットに「電子人間」の地位を与えようと議論しててエストニアが実際に法制化に動き出したり、ドイツの協会でロボット牧師が登場したり、「ロボットはちょっとミスするくらいがイイよね」と人々が答えれば、専門家は「セクサロイドがハッキングされて主人を殺したらどうするんだ!」と警告したり、社会がロボットを受け入れる準備は着々と進んでいる。
なお、日本政府が2015年のロボット新戦略のその後の総括を発表していたので、こちらもご参考に。
欧州の「電子人間」はロボットに法的責任を与えるという話だが、責任に関して言えば機械の前にまず人間のそれを考える余地が大きそう。
NHKは人工知能(とNHKは自称)を使って時事問題を検証する「AIに聞いてみた」なる番組を放送したが、単なる統計をAIと呼んだか、因果関係と相関関係をはき違えてたか、ともかくも制作者の恣意性全開な内容は瞬く間に嘲笑の的となってしまった。
でもこれって笑い話ではすまなくて、高度技術が「どうせよくわからないもの」とブラックボックス的に扱われ、悪意をもって説明責任の回避が試みられた例となる。ちなみに、人間が人工知能を責任逃れに使う、という可能性は先行研究でも懸念されていたようだ。
AIに聞いてみたみたいなAIご神託やAI擬人化、主語化の気持ち悪さは、人間自ら思考放棄、責任放棄するエクスキューズに見えるところなのかな。AIは情報技術でありツールに過ぎない。それをどう使うか目的設定するのは人間で、責任も人間にある、少なくとも現状は。
— Katsue Nagakura (@kaetn) 2017年7月28日
Web世界では、Twitter社が杜撰なアカウント凍結を繰り返して批判を受けた。これは「アカウントが誰のものか」という論点にもつながる話だ。私企業のサービスに依存することのリスクも改めて認識される。
「ググってもカス」を招くWebの情報汚染も進んでおり、まとめサイトや知恵袋が引っ掛からないノイズレス検索エンジン「Nyhafoo」が賞賛されているのも象徴的だ。
ちょっと話はそれるけど「責任」繋がりで法律の話も。
中国ではオンラインショッピング関連事件などを専門に裁く「インターネット裁判所」を杭州に設立。特徴的なのはウェブ出廷が可能な点で、原告・被告はウェブカメラを通じて裁判に参加できる。
また、米国では少額裁判をネット上で解決するサービスFairClaimが$1.8Mを調達。司法の世界もIT化が進んでいる。
中国の「インターネット専門裁判所」の裁判風景 pic.twitter.com/T3Uwbh6obR
— 中国住み (@livein_china) 2017年8月20日
著作権周りではソニーがレコード会社としては異例とされるリミックス音楽の合法化を発表。原曲著作権問題を気にせずリミックス楽曲が楽しめる。
みみっちい話が続いたので視野を広げて話題は宇宙へ。
日本ではH2Aロケット35号機の打ち上げが無事成功し、準天頂衛星みちびき3号機が軌道に乗った。民間初となるインターステラ社のロケットMOMOも打ち上げられたが、こちらは通信途絶に伴い緊急停止の判断。次回にぜひ期待したい。
ベンチャーではANA等と2023年商用宇宙旅行事業を目指すPDエアロスペースが、単一エンジンでのジェット/ロケットの燃焼モード切替実験に成功。機体開発は順調のようだ。
2023年と言えば、航空自衛隊はその年を目標に、衛星兵器監視などを目的とした「宇宙部隊」を設立するという。同様の部隊では各国でも設立が進んでいる。
飛翔する機体周りに派手に発生したヴェイパーコーン。ここまで撮れるとは思ってませんでした ※トリミング実施 #H2AF35 #QZS3 pic.twitter.com/C8PpwLEYzg
— なりたまさひろ@コミティア122K55b (@naritamasahiro) 2017年8月19日
現実味を帯びる宇宙旅行だが、他天体への植民となるとまだわからないことが多そうだ。
水の痕跡により宇宙植民のモチーフとして多用される火星だが、最新の研究では強烈な紫外線や土壌成分のため植民はけっこう難そうだと報告された。地味にがっかりだけど、技術が何とかしてくれると期待。
一方で土星の衛星タイタンは厚い大気層で放射線から守られており、火星の次の移住ターゲットとなっていて、エネルギー資源も十分に入手可能との研究報告が発表された。例えば地表のメタンや、その潮汐力の利用、上層大気を用いた風力発電などである。
資源と言えば月。地中にはこれまで想像されていた以上に豊富な水が存在すると予想される。といってもガラス粒子内に閉じ込められたものや、奥深くに存在していてすぐ利用できるものではないが、遠い将来には人類は月の水も使っているかも。
ちなみに東北大学とJAXAの研究によれば、微小重力下において植物は水分の多い空間側に根を伸ばすとのこと。なるほどねえ。こういう痒いところに手の届く研究は嬉しい。
2027年を目標に月の近傍に建設される宇宙基地「深宇宙探査ゲートウェイ」は前回紹介した。各国構想を合わせると、月近傍基地を米国が、月面基地を欧州が、そして両者の往還を日本が担うことになり美しいのだが、宇宙大国ロシアはどうするのかなーと思っていたら、ゲートウェイ建設でのNASAとの協力が発表された。冷戦期の宇宙開発技術の高さが見直されているロシアだが、月開発で米国と手を組むというのは胸の熱くなるニュースだ。
- にわかに盛り上がる宇宙基地建設計画と宇宙建築技術(希望は天上にあり,2017/7/18)
- NASAとロシア、月周辺基地「ディープ・スペース・ゲートウェイ」で協力へ
2017/09/28(sorae.jp,2017/9/28)
NASAはお金がなくて火星有人着陸断念と発表したが、立て続けにロケット打ち上げと回収、ISS補給を成功させるSpaceXはロケットの24時間以内再利用を来年までに実現すると発表。費用削減効果により火星到達が近づく。回収NGシーン集(Youtube)も公開されてて楽しい。
SpaceXは宇宙服の全身像や、大型惑星間輸送システムITS宇宙船などのイメージも公開しており、実現への期待感が高まる。巨大宇宙船は地球「内」での旅客輸送に応用することも発表されてて、こちらは番外編記事で紹介した。
- 最新ニュースに見るモビリティ進化の3つの方向:無人配送チェーン形成・個人化・超高速化(希望は天上にあり,2017/10/12)
- スペースX、地球全土を1時間以内で移動できる宇宙船旅行計画を発表(sorae.jp,2017/9/29)
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ところで宇宙観光に関しては次のツイートが素敵だった。ぜひ観光コースに入れてほしい。
宇宙観光のメニューに、太陽と月と宇宙船が一直線になる場所を通る軌道での飛行、ってのはいいのではなかろうか。軌道傾斜角と遠地点高度を選べば、一日に何度も、しかもじっくりと長時間の日食を楽しめる軌道ってありうるのではないかな。
— 松浦晋也 (@ShinyaMatsuura) 2017年8月22日
宇宙開発技術の進歩に伴い、小型衛星が増加の一途をたどっている。衛星との通信では光通信が期待されるが、光子1つ1つのレベルで情報制御を行う量子通信を用いることでさらに高効率の通信が可能になる。
情報通信研究機構は50cm角50kgの超小型衛星で世界初の量子通信の実証に成功。量子通信では光子の偏光やスピン状態を使って情報を符号化するが、高速で移動する衛星との通信では、ドップラー効果による同期時刻ずれや大気での減衰、偏光軸変化が起きてしまう。今回はこれらの課題を克服し、さらに同期用パルスレーザも用いず単一レーザでの通信に成功した。これは量子暗号通信の基盤技術ともなる。
「超小型」の比較対象となる量子通信衛星には2016年に中国が打ち上げた「墨子」があり、こちらは600kgと大型だった。で、その「墨子」も成果をあげていて、オーストリア地上ステーションと世界初の大陸間量子暗号通信テレビ通話を実現。さらに中国は、北京・上海を結ぶ全長2000kmの量子暗号通信幹線ネットワーク「京沪幹線」の開通を発表した。
量子暗号通信は、量子が観測により収束する性質を利用したセキュアな通信方式だ。第三者に観測されれば収束が起こるので、そのことをもって盗聴を検出できる。衛星ではなく地上だが、東芝も10Mbpsを超える高速量子暗号通信を世界で初めて成功させた。
観測すると収束するという性質から、量子通信で大きな課題となるのが「中継器」だ。これについて、もつれた粒子の量子状態を交換するエンタングルメント・スワッピング現象を用いて、増幅器の役割とする研究成果が発表された。盗聴されたとみなされることなく量子状態を複写し、さらに遠くへ飛ばせるため、伝送の長距離化が実現できる。
ということで量子通信技術の発展が目覚ましく、普及も近そう。
量子力学に関する成果では、東京大学が量子テレポーテーションを原理に用いた光量子コンピュータの新方式を発表。ループ構造を用いることで最小規模の回路構成で効率化でき、原理上100万個以上の量子ビットの処理が可能とする。
が、東大はさらに注目すべき成果をあげている。量子力学を用いて熱力学第二法則(いわゆるエントロピー増大の法則)を導き出したというものだ。
- 量子力学から熱力学第二法則を導出することに成功 ?「時間の矢」の起源の解明へ大きな一歩?(東京大学工学部,2017/9/6)
- 東大、19世紀以来の難問を解明 – 量子力学から熱力学第二法則の導出に成功(エキサイトニュース,2017/9/7)
量子力学と熱力学はそれぞれミクロの世界とマクロの世界を説明する体系であり、両者の世界では全く別の現象が起きている。例えばミクロの世界では時間反転の対称性が許されるが、これは時間の不可逆性を説明する熱力学第二法則とは大きく異なる性質だ。今回の東大の成果は、これら2つの世界を連続させるものであり、「時間の矢」の起源解明を含めた大きな発展の起点となりうる。すごい。
ちなみに量子論では、未来が過去に影響する「逆因果」の研究も進んでいる。いずれにせよ、「時間」の正体が生きている間にわかるかもで、楽しみである。
量子通信技術で先端を走る中国だが、『科学技術大国中国』(2013)で注目していた先端技術には他に核融合があった。
中国は2006年に世界で初めて全超伝導によるトカマク型核融合研究装置を建設。今回、長パルスHモードで世界最長となる高温プラズマ閉じ込め時間101.2秒を達成した。
また、中国は第4世代原子炉に位置付けられる進行波炉の実用化も進めており、同じく開発を行うビル・ゲイツのテラパワー社と合弁会社設立の協議も行われたようだ。
量子通信、核融合含む中国の科学技術に関しては過去記事も参考掲載。
- 結局のところ中国の科学技術力はすごいのかすごくないのか(『科学技術大国中国』書評)(希望は天上にあり,2014/9/17)
- 中国の科学技術力のいまを切り取ってみた(2016/7-9)(希望は天上にあり,2016/10/8)
そんななか颯爽と核融合発電に参入するGoogle。Microsoft共同創設者で戦艦武蔵発見でも知られるポール・アレンの核融合開発企業TriAplhaEnagyと共同でアルゴリズムを開発、エネルギー損失が50%減ったという。
データセンタやサーバを保有する「クラウドの向こう側」の企業にとって電力は大問題であり、Googleの核融合への関与もなんら不思議ではないが、仮に核融合発電を手に入れたら計算資源がすごいことになりそう。例えばマイニングに膨大な計算と電力が要る暗号通貨を自前で供給できたりして。
核融合のような大電力の発電が期待される一方で、バッテリレスや再生エネルギーの技術開発も進んでいる。
カーボンナノチューブで作られた引っ張ると発電する糸は、昨今増えているスマート衣類への応用に期待される。
ハーバード大学は電磁誘導により動くバッテリ不要のロボットを開発。各アクチュエーターが異なる周波数の磁界に反応するよう設計され、複雑な動きも可能となる。
コロンブスの卵だったのは、ジョージア大学のエネルギーを保存する階段。降りるときにバネでエネルギーを蓄え、昇る時に開放される。これですよ欲しかったのは…!
エネルギー・リサイクルに関しては、大阪市立大が太陽光による二酸化炭素のギ酸への変換を実現。同じころオランダの大学ではギ酸で走る電気バスが実走していて、コラボレーションの予感。
そしてフィンランドの研究所は電気と空気から食料の生成に成功した。空気由来の二酸化炭素と水に微生物を混ぜたものに電気を加え、タンパク質や炭水化物、脂質を作りだしている。将来的にはあらゆる原料を空気から作れるとか。
ヒト胚の遺伝子操作について先駆けて実験を進めた中国がかつて批判されたが、ついに米国でも実施。まあ時間の問題だったというか、時計の針は戻せないよね。ゲノム解読によりDNAのみから顔がわかるとされたり、昨今話題のゲノム編集技術でバイオ燃料を生成する藻がつくれて2025年市場規模1兆円が実現しそうだったり、いよいよバイオ産業が盛り上がっている。
そんななか注目したいのは、DNAと情報工学との関りだ。
ハーバード大学は生きた大腸菌のDNAへの動画記録に成功。DNAを記憶材料に、という話は以前からあったが、生きたままコーディングできるのすごい。記録したいデジタル情報をウィルス状DNAセグメントにしてCRIPER/Cas9で遺伝子中に挿入したという。
この動画って遺伝するのかな。絵画作品を遺伝させて世代間改変を楽しむ前衛芸術とか出てきそう。
一方で、DNAにマルウェアを仕込んでコンピュータを攻撃する実験も成功。遺伝子技術の進展によりDNAシーケンサなどの解析機の普及が見込まれるが、想定される標的はこうした機器だ。DNA解析前には文字通りのウィルスチェックが必要になる。
ちな任意の機能をコードできるDNA用プログラミング言語はすでに昨年MITが開発済み。
ちょっと毛色は違うけど、DNAやRNAを生きた細胞に注入し、皮膚細胞をリプログラミングして新たな機能を加えるナノチップも登場。例えば損傷し機能低下した腕などの部位にチップを貼るだけで、血管生成するなどできる。プログラミングというよりは超絶バイオ絆創膏といったイメージか。もはや秘密道具。
な…何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかったことが実際に起こるバイオ・ポルナレフ・シンドローム時代(と勝手に呼ぶ)は目前である。
そして登場した生体転送機。遺伝子はデジタル化が可能だが、逆にデジタル情報からウィルスを自動生成できたいうもの。シンセティック・ゲノミクス社が実現した。将来的には生物の惑星間転送も可能という。
出力側(生物生成側)の性能が上がれば、転送できる生物の複雑性も増すだろう。スワンプマンの思考実験を試せる日も近い。
それ以上に、既存生物の編集ではなく、コンピュータ上でゼロから創造された遺伝子構造も実現可能になるわけで、創世記ごっこができるというか、ヒトゲノム編集どころじゃない倫理的問題もありそうだ。
最後に、この3ヶ月で見かけた素敵なガジェットやサービスたちをご紹介。
雷雲型Bluetoothスピーカーのコンセプト作品「floating cloud」が100個で発売に。浮く系ガジェットに弱い私、欲しい。
- richardclarkson.com
- 浮くミニチュア雷雲「Floating Cloud 2.0」発売。音に反応して「幕電」閃く、100個限定のハンドメイド品(Engadget Japanese,2017/8/9)
ガジェットというか先端研究なんだけど、ものつくり大学の「流動床インターフェイス」がすごすぎてCEDECで話題になった。砂の底から空気を送ることで液体化するというもの。百聞は一見に如かずでこれは動画見るしかない。すごい!
- 流動化した砂を利用する「流動床インターフェース」を体験した(PC watch,2017/4/4)
- CEDECで展示された「スイッチひとつで砂が液体のようになる装置」がすごい楽しそう 人が沈んでいく動画も(togetter,2017/8/30)
と、色々とテクノロジーに関する最新ニュースを紹介したけど、いずれも人の叡智の積み重ねでできていて、その叡智はどこから来るかというとLEGOの広告に答えがありそう。下記ツイートに完全同意で今回の記事はおしまいとする。
このレゴの広告が完璧すぎて言葉を失った。 pic.twitter.com/4r1xXgicdZ
— ADSRX (@adsrx) 2017年8月15日
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以上、2017年7~9月における、未来に影響のありそうなテクノロジー系ニュースをまとめてみた。ソースの大半はTogetterから選んでいるので、興味があればこちらから。
この3ヶ月のニュースでも大きなテーマについては番外編として個別にまとめたので、こちらから。
- 人間能力を拡張する最新テクノロジー系ニュース(2017/10/10)
- 最新ニュースに見るモビリティ進化の3つの方向:無人配送チェーン形成・個人化・超高速化(2017/10/12)
- 中国の社会信用システム芝麻信用にみる「人工お天道様」の限界と未来(2017/10/16)
次回3ヵ月のニュースのまとめはこちらから。
1.人工知能は「神」になり人は神を欺く/2.仕事を奪う人工知能/3.AR/VRは現実を描きかえ現実を操る/4.VR技術がつなげる空間と時間方向への検索/5.ドローンは核兵器以降最大の技術革新となるか/6.野良IoTのセキュリティ問題と量子コンピュータ実用化秒読み/7.クォーク融合、自己修復材料、マルチメッセンジャー天文学
- 本編:未来の世界に影響を与えるテクノロジー系ニュースまとめ・第14回(2017/10-12)(2018/1/26)
- 仮想通貨バブル崩壊の先にある、ブロックチェーンの明るい未来(2018/1/10)
- 月の裏側から火星、アルファ・ケンタウリまで、具体化する宇宙開拓計画まとめ(2018/1/14)
- 加工される生命、部品としての生体、無機物との融合(2018/1/18)
- 搭乗型・憑依型・無人型‥、ヒューマノイド・ロボットの最近の進化まとめ(2018/1/22)
前回3ヶ月のニュースのまとめはこちらから。
1.思考の読み取りと脳・機械間融合がホントに実現しそう/2.エンケラドゥスの水素とエウロパの水/3.自動車・船・飛行機の電動化/4.空を飛ぶことのコストとハードルが著しく低下/5.ロボット警官と最新軍用ドローン/6.現実世界をハックする現代の魔法/7.光量子コンピュータと「時間結晶」/8.仮想空間の進歩、衰退、分断
- 本編:未来の世界に影響を与えるテクノロジー系ニュースまとめ・第12回(2017/4-6)(2017/8/9)
- 人工知能は子どもの発育の模倣から「心の理論」を獲得し、認知革命に達する(2017/7/10)
- 仮想世界の現実への拡張・侵食がじわじわきてる(2017/7/13)
- にわかに盛り上がる宇宙基地建設計画と宇宙建築技術(2017/7/18)
- 移譲される国家機能と、世界を変える金融系社会実験(BI・Bitnation・時間売買市場)(2017/7/23)