いなたくんへ
3ヶ月毎のテクノロジー系ニュースのまとめもこれで5回目。第1回から1年経つけど、先端テクノロジーなのでいま1年前のニュースを見ても驚かされるものは多い。
とはいえ、それからさらに1年経ったこの3ヶ月のニュースはさらに進んでいて、1年という時間で科学が進むスピードの速さを実感する。引き続き未来を変えうるテクノロジーを定点観測していきたい。
この3ヶ月では特に宇宙に関するニュースが面白かった。前半では宇宙関連からはじめて、ロボットやドローン、最新の軍事技術を紹介したい。人工知能やバイオ技術の最新の成果は後半で。
Summary Note
1.宇宙産レタスとウィスキー、火星の水の発見
2.MegaBot2から挑戦は、米国との総力戦である
3.ドローンの軍事利用とドローンキラー
4.りんなちゃんはこれから進化し、人間とチームを作る
5.AR/VRコンテンツのコラボレーションに期待
6.再生・培養される「男性」と脳
7.進化を続ける3Dプリント可能な材料・構造
8.この3ヶ月でみかけたオモシロガジェットたち
Tweetもまとめてます。
前回のまとめは次の記事から。
- 未来の世界に影響を与えるテクノロジー系ニュース9選・第4回(2015年4月~6月)1/2(希望は天上にあり,2015/7/1)
- 未来の世界に影響を与えるテクノロジー系ニュース9選・第4回(2015年4月~6月)2/2(希望は天上にあり,2015/7/2)
宇宙関連ニュースでまず喜びたいのは、油井亀美也宇宙飛行士の国際宇宙ステーションでの任務スタート。打ち上げが無事に成功してよかった!
油井さん??行ってらっしゃい?? pic.twitter.com/wIjVoanuMf
— 宇宙ニュース (@tx_spacenews) 2015, 7月 22
今日は宇宙での仕事始めの日でした。日本のモジュール「きぼう」はとっても大きいですね。静かで機能も盛り沢山!これから、ここで様々な実験をするかと思うと胸が躍ります! pic.twitter.com/DmvuxDNu1O
— 油井 亀美也 Kimiya.Yui (@Astro_Kimiya) 2015, 7月 24
打ち上げと言えば、無人補給線こうのとり5号機による補給も無事に成功。ISSへの補給は米アンタレス、露プログレス、米ファルコンと立て続けに失敗していたので、物資が届いて一安心。
油井さんの実家は長野のレタス農家だそうだけど、ISS到着後にはさっそく宇宙で栽培したレタスを召し上がっていた。ISSでの野菜栽培プロジェクト「VEGGIE」により栽培された宇宙レタスの実食だ。収穫は以前からされていたそうだけど、宇宙での実食は今回初めてとのこと。今回栽培されたレタスは30日間かけて育成された。
地球から宇宙への食糧輸送は1ポンド(450g)あたり1万ドル(100万円)と高価なため、宇宙で栽培できれば大きくコストを削減できる。食糧問題の解決策模索にあたっても期待されている技術だ。
実食についてNASAは次のようにコメント。Leap(跳躍)とLeaf(葉)をかけているのね。
One small bite for a man, one giant leaf for mankind. First astronauts to eat food grown in space. #JourneyToMars
https://t.co/Wo95swzqIK
— NASA (@NASA) 2015, 8月 10
野菜の工場生産では地上でも進んでいて、半導体大手やベンチャーが続々参入。スーパーでもよくみかけるようになっている。今後値段が下がり、野菜の「高機能化」が進むことが予想される。宇宙での実験がどう影響するかも楽しみだ。
- 無洗野菜や遠隔制御の「植物工場」も、農業ITのファームシップが1億円の資金調達(TechCrunch Japan,2015/7/20)
- 【未来型農業】あのフィリップスが室内LED野菜工場を建設、食料の生産に革命を起こす(THE CAST,2015/7/22)
- オリックス、長野に野菜新工場 地元農家とブランド化(日本経済新聞,2015/7/15)
- レタス収穫1日3万株 スプレッドが能力世界最大級新工場(日本経済新聞,2015/8/2)
さすがに草 pic.twitter.com/oWznM2YvoD
— 余熱@れすぽん (@yone2_net) 2015, 9月 30
飲食関係では、ウィスキーの熟成も気になるところ。打ち上げに成功したこうのとり5号機にはサントリーのウィスキーも載せられていて、「味のまろやかさ」の研究を目的として、一部は1年間、一部は数年、宇宙ステーションで寝かされることになる。
さらには宇宙用のウィスキーグラスの開発も。バランタインによるもので、表面張力を利用してウィスキーを保つとのこと。宇宙開発ベンチャーの台頭で宇宙が身近になりつつあるけど、「無重力下の生活雑貨」というジャンルもこれから注目かも。楽しみ。
この3ヶ月では、宇宙探査でも発見が相次いでいる。例えば地球に似た惑星Kepler 458bの発見や、冥王星の通過観測、彗星内部の着陸観測だ。でも一番の注目はやっぱり、火星の水の発見だろう。今後のさらなる解明に期待したい。
私としては次のコメントに完全同意。生きてるうちに飲めないかなー。
火星の水のみたいなー。むしろ日本酒造ってくれ。一升百万でも売れる絶対売れる。
— 小川一水 (@ogawaissui) 2015, 9月 28
宇宙船の打ち上げは各国バンバンやってるけど、ちょっと目立っているのが中国で、この3ヶ月でも6基のロケットを打ち上げていた。注目なのは、そのなかに長征6号と長征11号という、2基もの新型ロケットが含まれている点だ。
- 中国、新型ロケット「長征六号」の打ち上げに成功 中国ロケット新時代の幕開け(Sorae.jp,2015/9/20)
- 中国、また新型ロケットを打ち上げ 固体ロケットの「長征十一号」が初飛行(Sorae.jp,2015/9/29)
長征6号は小型衛星の打ち上げに特化した3段式低コストロケットで、日本のイプシロンに近い位置づけ。何より最新の技術が使われていて、中国のロケット開発が次のステップに移ったという評価がされている。
長征11号は固体燃料のロケットのため即応性が高く、観測衛星を短時間で最適軌道に打ち上げる能力を有するとされる。
中国は月の裏側への着陸や、ラグランジュ点への衛星配置も目指しているとされ、今後の動向への注目度は高い。人民解放軍の大規模改革では、航天軍(宇宙軍)創設のうわさも。
- 月の裏側一番乗りは中国か、宇宙探査船「嫦娥」が世界初の着陸を狙う(Engadget Japanese,2015/9/15)
- 中国軍、大規模改革へ=「宇宙部隊」創設、「4大戦区」-日米にらみ統合運用体制(時事ドットコム,2015/9/7)
見学の来賓の識者にスペースパワーに詳しい人がいたのでラグランジュポイントについて情報教えてもらった。アメリカはL5に置く衛星をそろそろ打ち上げるらしい。中国はL3に送り込むことを計画中とか。
— Dr. Masashi Okuyama (@masatheman) 2015, 9月 17
ところでラグランジュ点と言えば、地球・太陽間のラグランジュ点から撮影された景色が絶景すぎる。いつか自分の目でも見てみたいなあ。
油井さんは宇宙での様子をTwitterで呟いていて、宇宙とのコミュニケーションも身近なものになったと実感しますね。そんな油井さんのツイートの中でも気になったのがこちら。
余談になりますが、SF等で「宇宙空間で使うロボットに足は必要なのか?」なんて話が出てくるのを聞いたことがありませんか?私の気付きとしては、極めて重要で、手足を上手く操作すると姿勢制御の為のスラスターを大幅に減らすことが出来ると思います。宇宙へ来て新たに気付く事って結構多いですよ。
— 油井 亀美也 Kimiya.Yui (@Astro_Kimiya) 2015, 8月 27
足なんて飾りじゃなかった!偉い人はちゃんとわかっていた!宇宙SF好きにとってなんという心強いコメント。
とはいえ人型ロボット同士の空間戦闘はまだ先と思われるけど、地上では大きな戦いが始まろうとしている。我らが水道橋工業のクラタスに対して、米国の有人ロボットMegaBot2が挑戦状を叩きつけた「事件」だ。
米国の巨大搭乗型ロボMegaBot2、水道橋重工のクラタスに宣戦布告。一年後の決闘を申し込む – http://t.co/tZqj2KnABZ pic.twitter.com/KR1a21bXig
— Engadget Japanese (@engadgetjp) 2015, 7月 1
クラタス制作者倉田氏は米国側の挑戦を称えつつ「日本の巨大ロボ同士が戦って勝ち残ったヤツがアメリカなりに乗り込むってのが筋だろ」モタモタしているから先を越された、「オレはマジで悔しい。ちょっと考えるから待ってろメガボット」とコメント
http://t.co/tZqj2KFbtx
— Engadget Japanese (@engadgetjp) 2015, 7月 1
経緯はEngadgetが追う通り、来年の決戦が決まったようだ。
- 米国の巨大搭乗型ロボMegaBot2、水道橋重工のクラタスに宣戦布告。一年後の決闘を申し込む(更新)(Engadget Japanese,2015/7/1)
- 水道橋重工クラタス、米MegaBotsの挑戦を受けて立つ。格闘で「ブン殴って倒して勝つ」(Engadget Japanese,2015/7/6)
私は当然ながらクラタスの勝利を確信しているのだけど、それでも気がかりなのは、MegaBot2のバックアップ状況だ。MegaBot2はNASAやハリウッドに協力を要請し、Kickstarterでも資金調達を展開した。Kickstaterについては結果を言うと、9/18日の締め切りまでに、目標額50万ドルを上回る55万ドル超の調達に成功している。支援者数は7857人。装備品としてはチェーンソーやガトリング砲を検討しているようだ。クラタス負けないよね‥?
- 巨大ロボMegaBot Mk.II、日米戦へ向けNASAやハリウッドに協力要請。打倒クラタスへ資金公募開始(Engadget Japanese,2015/8/19)
- 日本ロボットとの決戦に備え、MegaBotsがKickstarterキャンペーンを開(WIRED.jp,2015/8/21)
米国ではロボットに限らず、特に軍主導の先端技術開発には目を見張るものがある。たとえばDARPA(米国防衛高等研究計画局)は32億ドルもの予算の90%を、大学や業界の研究者に費やしている。最近ではウェアラブル分野に対し、Appleをはじめとする民間企業への1億7千万ドルもの投資が発表された。
- 米国防総省、ウェアラブル技術の開発でアップルなど多数の民間組織と提携(CNET Japan,2015/8/31)
- 「シリコンヴァレーが結集した」ウェアラブル開発事業:米国防総省が発表(WIRED.jp,2015/9/2)
- 防衛省はガンダムファイトや電王戦を実施せよ! 米国が取り組む軍事イノベーション実現の仕掛けとは(JBpress,2015/9/23)
日本の防衛省も、光を吸収して見えにくくする材料や、海中でのエネルギー伝送技術など、先端技術への投資はしているようだ。けど最大3000万円ということで、米国防総省がウェアラブル技術に投資する1億7千万ドルに対して3桁もの開きがある。
一部報道によれば自衛隊はすでにガンダムを保有しているのだし安心じゃないか、とも考えたいけど、こうした国情にも照らして、あと1年でMegaBot2がどこまでパワーアップしてくるのか注目したい。その上でクラタスの勝利に期待したい。
最後に、この3ヶ月でみた先端ロボットの記事のリンクをまとめ。いろんなカタチがあっておもしろい。「鉄腕アトム」ロボットたちも多様性あったけど、わりと現実味があったのかな。千葉工大のハルキゲニアロボットかわいい。
- 災害救助用の4脚ロボット「RoboSimian」、DARPA主催のコンテストに登場(CNET Japan,2015/7/6)
- 【動画】巨大ロボ、お台場に出現。次世代重機 SUPER GUZZILLA 操縦席搭乗可、Oculus Rift 体感ゲームプレイ(Engadget Japanese,2015/7/17)
- 人の反射神経を持つロボットHERMES、MITが開発。マスタースレーブで感覚を同期(Engadget Japanese,2015/8/13)
- ケーブルを引きずり森を散歩する人間型ロボ「アトラス」(動画あり)(WIRED.jp,2015/8/19)
- 千葉工大の「古代生物にインスパイアされたロボット」が話題(動画あり) (WIRED.jp,2015/9/16)
ドローンはスイスが郵便配達に使ったり、医療用品の緊急搬送に使われたり、レーザーを搭載した大気圏衛星としての実用化が進められたり、様々な利用が進んでいる。ドローンレースとかもワクワク。今回は拡大するドローンの用途の中でも、軍事関連のニュースに注目したい。
イスラエルIAI社が開発した最新ドローンは、6時間の滞空ののち、赤外線カメラ等で特定した対象に対して自爆攻撃を行う。弾頭には15kgの爆弾が用いられる。
ここまでくると、ドローンというよりは誘導ミサイルに近い気もするけど、6時間という滞空時間は脅威的。こんなのが空の上をウロつかれたらたまったもんじゃないよね。
けれども将来においては、こうした自爆攻撃ドローンを数百、数千用いての飽和攻撃が主流になっていくのでは、と私は予想している。
自爆攻撃に限らず、ドローンに起因する事故や事件は引き続き相次いでいる。この3ヶ月でも、また旅客機とのニアミスとか、落下による炎上事故とか、姫路城に突っ込んだりとか。米国ではテロの危険性も警戒。
各国では飛行禁止や罰則、免許制などが法制化されており、日本でも9月4日に改正航空法が成立、住宅密集地や空港周辺での飛行が禁止された。
こうした状況に対して注目されるのが、対ドローン用レーザー兵器だ。ボーイング社による開発で、サイズはスーツケースサイズの箱で4箱分と小型。戦場向けではなく機密エリアの警備用とのこと。
レーザー兵器は各種研究開発されていて、ペルシャ湾に配備された米揚陸艦搭載のレーザー砲はドローンの撃墜実験にも成功している。今後ドローンキラーとして普及していくのだろうか。
なお似たところでは、レーザーで蚊を撃ち落とすシステムもついに実現。カリオストロの城にも出てきたよね。蚊の落ちる様子は動画がわかりやすい。
*
3ヶ月のテクノロジー系ニュース、残り半分は次の記事にて。人工知能ではりんなちゃんに注目。3Dプリンタの造形対象も広がっているし、バイオ技術や先端材料についても紹介。
Summary Note
4.りんなちゃんはこれから進化し、人間とチームを作る
5.AR/VRコンテンツのコラボレーションに期待
6.再生・培養される「男性」と脳
7.進化を続ける3Dプリント可能な材料・構造
8.この3ヶ月でみかけたオモシロガジェットたち
前回3ヶ月のニュースのまとめはこちらから。
1.Googleが人工知能に見せた夢/2.独インダストリー4.0とIoT/3.男同士で子作り、記憶操作、バイオプリント/4.各種発電技術/5.新素材/6.世界で開発・利用が進むドローン/7.米軍開発のビックリドッキリ新兵器たち/8.レーザー照射によるデブリ除去/9.3ヶ月のオモシロガジェット
- 未来の世界に影響を与えるテクノロジー系ニュース9選・第4回(2015年4月~6月)1/2(希望は天上にあり,2015/7/1)
- 未来の世界に影響を与えるテクノロジー系ニュース9選・第4回(2015年4月~6月)2/2(希望は天上にあり,2015/7/2)
※クラタスを1台(1億2千万円)買えばMegaBot2のKickstarter調達額の2倍なので、みんなクラタスを買って支援しよう!