いなたくんへ
アウディが新型モデル「A8」を発売する。これはレベル3の機能を搭載した世界初の「自動運転車」だ。
自動運転は現在レベル0を含めて6段階が定義される(最高レベルの「5」が完全自動運転)。A8が搭載するレベル3は「限定的な環境・交通状況における加速・操舵・制動の自動制御(条件付き自動運転)」だ。レベル2があくまでドライバーも常に状況監視しなければならない「運転アシスト」にとどまるのに対して、レベル3からはドライバーが運転から解放される。
- 独アウディ、世界初の自動運転機能「アウディ AI トラフィックジャムパイロット」採用の新型「A8」公開(CarWatch,2017/7/11)
- アウディが実用化した自動運転「レベル3」、レベル2との決定的な違いとは(Response,2017/8/11)
ところで、モビリティに関しては自動運転は大きなイシューの1つだけど、他にも大きな変化がある。例えばロボットやドローンと連携しての無人配送チェーンの実現があり、さらには個人用の新たな飛行手段や、宇宙開発技術を応用した先進輸送手段も提唱されている。
ということで今回は最近のテクノロジー系ニュースから、モビリティの未来に関するものをまとめてみた。
Summary Note
1.トラック・ロボット・ドローンからなる無人配送チェーンの実現
2.新型個人用モビリティは普及するのか
3.イーロン・マスクが実現する時間距離の超短縮
なお、最新テクノロジー系ニュースまとめの本編はこちら。
さっそく否定的な話なんだけど、自動運転車は必要性を疑問視される声もあるようだ。独コンチネンタル社のユーザ調査によると3割が「ドライバー不要な完全自動運転車に利点はない」と答えたという。理由にはハッキングリスクへの恐怖感も挙げられていた。
確かにエンドユーザ視点では「自分で運転すればいいじゃん」という話もありそう。ただ、自動運転の用途で重要になるものの1つに陸運などのインフラだがある。トラック隊列走行がこれから熱そうという話は以前も触れたが、日本も含め、一般車に先駆けて各国各社で実証が進んでいる。この3ヵ月で目についたニュースだけでも以下のような計画があり、実現は早そう。
- 電動自動運転トラックT-Podの2020年実現を目指し、レベル4自動運転トラックの隊列走行テストを予定するスウェーデン
- 2018年に高速道路で隊列走行テストを行う英国
- 電気セミトラックを開発しカリフォルニア州で隊列走行テストを計画する米テスラモーター
- 先頭車両との同期運転「プラトーニング」の公道テストを予定する米ダイムラー社・米フライトライナー社
隊列走行は空力効果による燃費削減が期待できるほか、車両の電動化も合わせることで環境への好影響も見込まれる。
自動運転車の実用化はいつなのか。メーカー各社の予測をみると、概ね2020年代には可能とされる。その一方で、ガートナーの先進テクノロジーのハイプ・サイクル(2017)では、「自律走行車」の社会普及時期は10年以上先と見積もられていた。これは技術的な課題というよりは、社会制度的なところに原因がありそうだ。
社会制度といえば注目したいのがドイツだ。ドイツは完全自動運転を見越した法整備を世界に先駆けて進めている。
具体的には、交通大臣諮問機関の倫理委員会が6月に以下の指針を提示。これに基づいて法整備が行われる。
- 事故が避けられない場合、物や動物よりも人間の保護を優先する
- 被害者となる可能性のある人について、老人か子供か、男性か女性かといった基準で区別せず、全員を平等に認識する
- 走行データの記録を義務づけ、事故の責任の所在が運転者又はシステムのどちらにあるかを明確化できるようにする
- 運転をシステムに任せるかどうかを運転者が決定しなければならない
上記指針はドイツ以外においても参考になりそう。法制度やデータ利用に関する国際標準がドイツベースとなれば、これはアウディをはじめとするドイツメーカーを利するものになりうるだろう。
さて、輸送インフラの観点ではトラック配送の「その先」にも注目だ。
1つめがドローン配送。Amazon Prime Airなども話題となったが、こちらも様々な国や企業が取り組んでいる。
最近のニュースからは、中国大手企業「京東」がドローンによる無人配送を計画しており北京でテストを申請したとか。20kgの荷物を20kmまで運べるとしている。
米ジップライン社はすでにアフリカ・ルワンダでドローン配送事業を進めており、タンザニアにも進出する。主な用途はワクチンなど医薬品の緊急輸送だ。
もう1つはロボット。蹴られても耐えられるロボット群で有名なボストン・ダイナミクスが、買収したソフトバンク傘下での宅配サービスの可能性を示唆した。同社のロボットはそもそも米軍の輸送用途に開発された経緯もあるし、多脚は車輪に比べて圧倒的な走破率を誇る。実現すればインパクトは大きい。
こうして自動運転トラックとドローン、ロボットとをつなげてみると、未来の輸送チェーンが見えてくる。都市間の大規模輸送はトラックの隊列が担い、都市内で各車は散開して目的地付近へ移動し、いわゆるラストワンマイル、すなわち玄関まではロボットが運ぶ。さらに、軽量物や緊急性が求められる配達はドローンも組み合わせれば効率がよい。
ちなみにトラック陸運の前段階では、無人コンテナ船は以前紹介したが、さらに飛行機の完全無人化も検討が進んでいるようだ。WIRED記事では「飛行機は現時点ですでにオートパイロットがほとんど」と指摘するが、完全無人操縦(機内に人がいるにしても)との差は大きいだろう。
モビリティの自動化技術は昨今話題であるが、完全無人配送もいよいよ現実的に見えてきた。というのは未来を考えるうえで押さえたい。
自動車やドローン、ロボットは聞きなれたテーマだったけど、モビリティのカタチとしては今までにないものも提案されている。
自動小銃で有名な露カラシニコフ社は16基ローターからなる1人乗りホバーバイクを開発中。エンジンではなく電気で飛ぶようだが連続稼働時間が気になるところ。軍用と思われるが乗ってみたい。
また、米ボーイング社はジェットパックの開発コンペティション「Go Fly Prize」に200万ドルの賞金を提示。2年後がゴールで、「垂直離着陸が可能で、燃料補給なしに20マイル(32km)を飛べるもの」が要件だ。
こうしたコンペティションは賞金と名誉をインセンティブとして短期間で様々なアイディアが生み出されるため効率が良いとされる。
図:Wikipediaより
未来においては、局所的ではあるかもしれないが、こうした個人用モビリティも普及した社会が来るかもしれない。
最後はスピードに関する話をいくつか。移動といえばスピードは欠かすことのできないテーマ。ということで、超高速な輸送手段の提案がされている。
チューブ内を高速走行する「Hyplerloop」は当初はSF物語として見られていたが、提唱者がイーロン・マスクなだけあって実現への進みが早い。
イーロン・マスクはワシントンDC・ニューヨーク間の地下にHyperloopを建設すると公言しており、今年はコンペティションを開催して1/4スケール、1.25kmのテストコースで実証を行った。優勝したミュンヘン工科大のチームは324km/hを達成。この結果に対しイーロン・マスクは音速(1225km/h)の実現可能性を確信したという。リニアの倍。
おもしろいのは、イーロン・マスクにとどまらず他国でも同様の構想が進んでいる点だ。
アブダビ等他国とも建設計画を進めているHTT社(Hyperloop Transportation Technologies)はインドでも路線契約を締結。計画立案6ヵ月のあと建設を開始するとのこと。
さらに中国でもHyperloopとリニアモーターとを組み合わせた「高速飛行列車」を計画。1000km/h、2000km/hと段階的に開発するようだが、最高速度の4000km/hは決して誤植ではない。飛行機の巡航速度(900km/h)の4倍。
- インドで約44kmのHyperloop建設計画が始動。世界初の実用化路線になる可能性も(Engadget Japanese,2017/9/7)
- 中国がHyperloopを超える最高時速4000kmの「高速飛行列車」を計画(Gigazine,2017/8/31)
いま新幹線が当たり前の乗り物となっているように、半世紀後にはHyperloopも世界中でみられる交通手段になるかも。
いやいや飛行機も負けてられない。かつて超音速旅客機コンコルドはその騒音ゆえ廃止されたが、NASAとロッキード・マーティンは現代の技術で静音の超音速ジェット機を開発する。実現予定は2020年。ニューヨーク・ロサンゼルス間を一般的な飛行機の半分の時間で飛べるという。
図:NASA HPより
話が地上から空に移ったところで、やっぱりイーロン・マスクに戻る。再利用型ロケットを成功させISSに補給物資を送っていて、2022年には火星着陸、2024年には有人探査を目指すSpaceXだが、その技術の地球内移動への応用が提案された。火星植民も想定する超大型ロケット「BFR」を地球上の輸送に使うというものだ。
- SpaceX、新型ロケットBFRで「地球旅行」を提案。東京-NY間も37分、最大時速2万7000km(Engadget Japanese,2017/9/30)
- スペースX、地球全土を1時間以内で移動できる宇宙船旅行計画を発表(sorae.jp,2017/9/29)
SpaceXではこれまでドラゴン宇宙船やファルコンロケットを運用してきたが、これらはBFRロケットに置き換えられる。BRFは大ペイロードだが、完全再利用型とすることで低コストで運用される。これを地球上でも用いることで、あらゆる地点に1時間以内に到達できるようになるという。
中国版Hyperloopの4000km/hも驚いたが、BFRはそれをはるかに上回る27,000km/h。しかしイーロン・マスクなら本当に実現しそう。その結果世界はどう変わるだろう。
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以上、最近のニュースからモビリティに関するものをまとめてみた。自動運転や無人化技術、あるいは個人用モビリティの話題にも未来を感じるが、やっぱりロマンがあるのはスピードだよね。
我々は20世紀初頭の人々が想像もできない速度で日々移動しているわけだけど、今世紀後半には、現在想像もできないような移動の世界が実現していることだろう。楽しみである。
なお、最新テクノロジー系ニュースまとめの本編はこちら。