いなたくんへ
仮想通貨がアツい。
2017年1月に約10万円だったビットコイン価格は1年間でみるみる騰がり、11月に100万円を突破、翌12月には200万円に達した。時価総額ではドル、ユーロ、元、円に次いで第5位につけている。マイニングに使われた電力は、世界のうち159ヵ国の年間使用量を上回ったとか。なお日本では仮想通貨取引の利益は「雑所得」と定められ国税庁大勝利の様子。
チューリップバブル超えとも言われるビットコイン。この過熱はバブルだろうか。
ビットコインのすべてが虚構とは思わない、という話は以前書いた。「ブロックチェーンを用いた決済システム」が新たなイノベーションであることは間違いなくて、そこには確実に価値がある。問題はその実体的な価値に対して現在の価格が適正なのか、だ。
今回は、仮想通貨も含むブロックチェーン技術にフォーカスして、最近の関連ニュースを俯瞰しつつ、その未来を考えてみた。
Summary Note
1.アルトコインは大丈夫なのか?
- ビットコインの機能不全に伴う「仮想通貨バブル」崩壊により淘汰が起こる
- ブロックチェーンの特徴を生かしたアプリケーション(を支える仮想通貨)は生き残る
2.ブロックチェーンの特徴を生かしたアプリケーション
- 流通・履歴を支える(ジビエの流通管理・卒業証明書発行)
- オープンサイエンスを支える(Wikipediaの次世代版Everpedia)
- 分散インフラを支える(スマートグリッドの管理)
- 知的財産に活かす(創作者の管理、アーティストへの投資手段)
- エンタメ用途も(イーサリアムベースの仮想仔猫売買)
3.ブロックチェーン技術がもたらす未来
- 収益モデルの選択肢が増える
- 「計算」がコモディティになる
- 採掘場が宇宙に移る
仮想通貨というとビットコインが代表的だが、昨年はアルトコインの爆騰も素晴らしかった。現在数千種類の仮想通貨が乱立し、資金調達をトークンで行う「ICO」なる手続きも定着している。アルトコインの解説は下記サイトとかおもしろい。
ちなみに、ロシアの政府公認仮想通貨クリプトルーブルをはじめ、エストニア、カタルーニャ独立政府、ベネズエラなど、各国政府も仮想通貨の発行を検討している。
法定通貨との比較の点ではこんな記事も。
アルトコインを含む仮想通貨の未来はどうなるだろう。私の予想は、ビットコイン破綻に伴う仮想通貨淘汰の後、アルトコインの時代が来るというものだ。
「仮想通貨」を考える前提として「ブロックチェーン」との関係性は押さえておきたい。
というのも、私の周りにも仮想通貨にハマった知人は何人もいるのだけど、「このコインが来る!」とオススメコイン情報をくれるのは嬉しい一方、それがどういう技術的特徴なのか尋ねても「技術は知らない、でも盛り上がってるらしい」と返事をされて、なんとなくモニョることがあるのよね。
その仮想通貨がいかなるシステムを稼働させるために発行されているのか。これを知らずに投資してもよいのだろうか?
何かを語る時はまず定義から確認するのがセオリーなので一応載せる。日本では、「仮想通貨」は改正資金決済法(2017年4月施行)が、「ブロックチェーン」は日本ブロックチェーン協会が定義していた。
第二条
5 この法律において「仮想通貨」とは、次に掲げるものをいう。
一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
ブロックチェーンの定義
1)ビザンチン障害を含む不特定多数のノードを用い、時間の経過とともにその時点の合意が覆る確率が0へ収束するプロトコル、またはその実装をブロックチェーンと呼ぶ
2)電子署名とハッシュポインタを使用し改竄検出が容易なデータ構造を持ち、且つ、当該データをネットワーク上に分散する多数のノードに保持させることで、高可用性及びデータ同一性等を実現する技術を広義のブロックチェーンと呼ぶ
すっごーい!わかりやすーい!
あまりにわかりやすすぎる定義だけど、ここでは誤解を恐れず、さらにざっくりした理解で話を進める(※すべてのブロックチェーン・仮想通貨がこの仕組みではないけど、あくまでざっくりな理解として)。
さらにざっくりした私の理解:
- ブロックチェーンとは、ハッシュポインタにより連結されることで「非匿名」「改竄困難」「分散」な性質を持つ新しいデータベース技術
- 新しいブロックを生成するには膨大な計算資源が必要とされるところ、その計算(マイニング)への報酬として支払われるのが仮想通貨
で、報酬を支払ってまでブロックを生成してどうするかと言うと、例えばビットコインでは決済履歴を載せている。ビットコイン・システムは決済履歴を「非匿名」「改竄困難」「分散」して扱えるのが革新だ。
別の情報を載せる場合もあって、例えばスマート・コントラクトの代表例「イーサリアム」では契約情報が格納される。コインとしての「イーサリアム」は契約情報をブロックに繋げるための報酬であり、契約情報をブロックチェーンで管理できることがイーサリアム・システムの特徴だ。
- Ethereumはどのように動いているのか(coffeetimes,2017/11/7)
- なぜイーサリアムはビットコイン以上に世界を熱狂させるのか?(MIT MediaReview,2017/11/2)
ここで言いたいのは、仮想通貨はあくまでブロックチェーンのシステムを稼働させる(新たなブロックを生成する)ための潤滑油やインセンティブであって、必ずしも仮想通貨そのものに価値を持たせることを目的としてはいない(ことが多い)点である。
「ビットコインはバブルなのか?」という問いに対して、ある人はチューリップバブルと比較して「腐らない(生まれた価値は消えない)からバブルではない」と答えた。私はこれには同意できない。
ビットコインはマイニングの報酬であるけれど、何かのきっかけでマイニングが止まれば、次のブロックは生成されず、処理が遅延することで人が離れ、やがてシステム全体が冷えてしまう。これはあり得ない話では全くない。
ビットコインは「ブロックチェーンで決済できるよ!」のコンセプトを提示・普及させた点で偉大だが、あくまでプロトタイプに過ぎない。手数料高騰や処理遅延はすでに起きていて、私には永続的な仕組みには思えない。
システムが停まったとき、その潤滑油たるコインはなお価値を持てるだろうか。
52.3% Of All Cryptocurrency Transactions Occur On Ethereum https://t.co/Q7ZR6tDHh1
— Ethereum Network (@EthereumNetw) 2017年11月23日
ではアルトコインはどうだろう。私はビットコインよりもむしろアルトコインの方が有望だと考えている。より高効率(容量・処理速度・インセンティブ設計)な処理システムや、スマート・コントラクトのようなユニークなアプリケーションは種々提案されているからだ。
私の予想では、ビットコインはそのシステムの不完全性からどこかのタイミングで支持を失い、価格を大きく下げると思う。この煽りを受けて仮想通貨全体への投機熱も冷め、競争力の低いアルトコインは淘汰されるかもしれない。これが「仮想通貨バブル」の崩壊だ。
特にICO詐欺や、技術的裏付けのない投機のためのコインは危なさそう。GACKTコインの顛末とか正座待機まったなしでしょ。
しかしながら、非匿名性・改竄困難性・分散管理性を備えるブロックチェーンが技術革新であることに間違いはなく、これら特徴を生かしたアプリケーションは生き残る。
さきほどの問いに戻るが、その仮想通貨がいかなるシステムを稼働させるために発行されているのか、それを知ることは、淘汰を生き延びるシステムを選ぶうえで不可欠になる。
ではブロックチェーンが支えるシステムにはどんなアプリケーションがあるのか。最近のニュースから眺めてみたい。
すでに述べた通り、ブロックチェーンとは「非匿名性・改竄困難性・分散管理性を備える特殊なデータベース」である。この特殊性を活かして今までできなかったことが実現できる、というのがブロックチェーンの価値だ。
仕組み解説は以下とか参考になる。
- ブロックチェーンが改ざんできない仕組み(Medium,2017/12/2)
- 暗号通貨のスケーラビリティについて考える(Medium,2017/12/11)
- ビットコインは量子コンピュータによる攻撃に耐えられるのか?(MIT TechnologyReview,2017/11/14)
- ブロックチェーンはパスワードの呪縛を解くのか(MIT TechnologyReview,2017/12/6)
ということでようやく本題として、最近見かけたニュースの中から、ブロックチェーンの特徴を生かしたおもしろアプリケーションを紹介したい。なお技術に注目した話なので、オープンでなくクローズド(プライベート)チェーンの話も含んでいる(というか本来はそちらが本命の気も)。
食肉や魚の流通への導入例。複数当事者が関わる流通では、分散管理でき、改竄困難で透明性を担保できるブロックチェーンはうってつけ。今後も色々な取引にブロックチェーンは使われていくだろう。
- ブロックチェーン技術mijinをジビエ食肉トレーサビリティに採用、試験運用を開始(TechCrunch,2017/10/3)
- ブロックチェーンで食の安全性を担保!魚の産地偽装とオサラバするシステム(TECHABLE,2018/1/9)
ちなみに透明性・改竄困難性を担保したい取引の1つに「お金」もあって、これを取り扱うのがビットコインという理解。
「履歴」の観点では、ブロックチェーンは人の履歴、つまり教育履歴や職歴なんかの証明にも向いている。マサチューセッツ大学はビットコイン・ブロックチェーンを使用して卒業証明書を発行した。
転職が盛ん(米国では平均8回)な海外では、採用側は履歴書記載の経歴に虚偽・誇張がないか、調査にそれなりのコストをかけるという。ブロックチェーンは改竄困難かつ分散管理できるので、様々な当事者(各教育機関や企業)が関わる経歴の管理に向く。
インターネットは匿名性が特徴だけど、匿名であるがゆえに質の担保が難しい。その点「Everpedia」は投稿記事の質担保のインセンティブに仮想通貨を用いることで、この問題を解決しようとしている。
- Wikipediaの進化版!インターネット百科事典「Everipedia」がブロックチェーンを導入へ(TECHABLE,2017/12/20)
- オンライン百科事典「Everipedia」がブロックチェーン導入で目指すもの(WIRED.jp,2018/1/5)
インターネット技術を通じた大規模協業は「オープンサイエンス2.0」とも呼ばれるが、ブロックチェーン技術はオープンサイエンスを次の段階に進めるかもしれない。
エネルギーも注目領域だ。スマートグリッドなど電力の供給・利用の分散化・水平化が将来像として描かれるが、その管理には課題が多い。ブロックチェーンであれば分散的システムとの親和性は高く、改竄困難なのでインフラのようなセキュアな領域に向いている。
- 発電事業者と消費者をつなぐブロックチェーンベースのプラットフォーム「WePower」(TECHABLE,2017/11/21)
- 焦点:ブロックチェーン技術、エネルギー市場を大変革か(NEWSPICKS,2017/12/27)
このように、これまで提唱されていた分散システムの実装がブロックチェーンの登場で加速する、ということはあるかもしれない。
知財視点では「真の創作者」をブロックチェーンで管理したり、コンテンツをトークン化して著作者への投資手段とする話も。
- その音楽は誰のものか? 音楽業界がようやくブロックチェーンで「連携」、ベータ版API提供(WIRED.jp,2017/10/5)
- ブロックチェーンを使った知財取引所でコンテンツをトークン化 アーティストの作品が投資可能な資産に(THE COINTELEGRAPH,2017/12/28)
特に前者の「創作者の管理」は、創作に複数当事者が関わったり、その後コンテンツが流通していくなかで、分散管理性・改竄困難性を有するブロックチェーンに期待できることは多そうだ。
最後にエンタメ用途では、イーサリアムのトークンをキャラクター化して流通させた話が。
- Ethereumブロックチェーン上で仮想仔猫の売買が流行、わずか数日で100万ドル以上の取引が行われた(TechCrunch,2017/12/4)
- 爆上げ中の仮想通貨TRONで遊べるイヌ育成ゲームは「CryptoKitties」に激似!(TECHABLE,2018/1/9)
これをわざわざブロックチェーンでやる必要があるのか疑問だが、今後もエンタメ用途の利用は出てくるかもしれない。
上述のようなアプリケーションへの適用が予想されるなか、ブロックチェーン技術自体はどのように進化し、世界をどう変えるだろう。
すでに述べた通り、処理の高速化・大容量化、低消費電力化が今後も進む。また、分散管理性・改竄困難性・非匿名性は基本的な特徴だけど、逆にこれを克服する開発もありそうだ。例えばイーサリアムは、スマートコントラクトの任意情報の匿名化を実現している。
複数のブロックチェーン・システムが乱立するなか、これらを「繋ぐ」技術もインパクトが大きそう。次の記事はビットコインとイーサリアムのアトミックスワップ(コインの交換)が実現したというもの。
そしてここまで「仮想通貨=ブロックチェーンの一部」として書いてきたけど、実際はそんなこともなくて、非ブロックチェーン技術・次世代ブロックチェーン技術にも革新的なものがありそうなので注目したい。
DAGとは?
次世代のブロックチェーンと言われてる新技術です( oωo )DAGの仮想通貨はどれも注目を浴びてるのでぜひチェックしてみてください??????
RT励みになります( ¨? )笑 #仮想通貨手書きメモ
no.06 pic.twitter.com/RdBXQxHuW8— こいんちゃん@仮想通貨 (@cococoin_chan) 2017年12月29日
という感じで、ブロックチェーンは普及が始まったばかりの技術なので、引き続き技術進歩に期待である。
ウェブサイト訪問者のPCを使ってマイニングする、という手法が現れている。ユーザの電力を拝借するカタチだ。この場合、ユーザに対して事前に同意がとられるが、ユーザが「いいえ」とNGを出したにもかかわらず勝手にユーザPCの電力を使ってマイニングしていた、という話があった。
これに関して以下の一連のツイートが参考になったり。
ウェブサイト訪問者にマイニングさせるの、日本では受け入れられそうにないなぁとイケハヤ事案を見ながら思う。もしやアイドルとか声優が自分のブログに入れると正反対の感想が見られるのだろうか?
— ぽよぽよちゃん。 (@poyopoyochan) 2017年11月2日
確かに声優さんがブログにマイニングスクリプトを埋め込めば不労所得ワンチャンなのでは……結局は人柄や人徳の問題だなという結論に至りそう
— のらねこ!! (@_ragemax) 2017年11月2日
要するにファンが自分の電気代をアイドルに差し出すというやつだ。元気玉だと思えばシンプルですね。
— のらねこ!! (@_ragemax) 2017年11月2日
なるほど、投げ銭の新しいやり方と考えるとおもしろい。「結局は人柄や人徳の問題」との指摘は真理。
ウェブサイトについても、従来の広告料収入に替わる新しいマネタイズ方法として普及しつつあるようだ。例えば子供に対して有害な広告が出ない、というだけでも価値は高い。
このように、電力の形でユーザが直接支払うことが収益モデルの新たな選択肢になっている。
様々な企業が仮想通貨マイニングを「事業」として始めているが、鉱山ファンドも参入したとのニュースは虚構新聞を疑ってしまった。
ビットコインはコモディティの値動きに似ている、という話があるが、今後は「計算により得られる資源」も1種のコモディティになるのかもしれない。その点では、鉱山ファンドがデジタル・マイニングというのは実に21世紀的なお話である。
「計算結果」が一種の資源になるとして、さらに示唆に富むのが次のツイート。これはおもしろいアイディア。
もしかして:地球にマイクロ波で電力送るより、電力を自己消費して演算結果としての仮想通貨を地球に送った方が割が良い?? https://t.co/OuHJLzFsSW
— ぽよぽよちゃん。 (@poyopoyochan) 2017年11月26日
電力そのものを送るより演算結果を送る方が楽だろ、と前に言ってたら、そのとおりのユニットが出てきた。
仮想通貨のマイニング、再エネ利用 独企業が開発:日本経済新聞 https://t.co/PYnfQ5uLBj
— ぽよぽよちゃん。 (@poyopoyochan) 2017年12月5日
宇通太陽光発電や月面核融合が実現した場合に、計算資源は宇宙や月面の発電所近くに置いて、計算結果だけを地上に送ることで実質的なエネルギー伝送が可能になる。マクスウェルの魔じゃないけど、エネルギーを情報に変換できるわけだ。
もちろん現状では熱の問題などもあるけど、デバイスの問題はいずれ解決できるだろう。
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以上、話題の仮想通貨とブロックチェーンについて、最近のニュースを中心にまとめてみた。仮想通貨バブルはいずれ起こると思うんだけど、どうだろう。そうだとしても、ブロックチェーン技術の応用先は広くて、それがもたらす未来は明るいと思うので、楽しみに見ていきたい。
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