仮想世界の現実への拡張・侵食がじわじわきてる

いなたくんへ

ポケモンGoのリリースから1年。リリース当初ほどではないが人気は現在も継続。そんななか「バーチャル侵入」の罪を問う訴訟が米国で起きていた。

本件訴訟は、ポケモンGoにハマるあまり他人の敷地への不法侵入が続出し、「サービス提供企業の」責任を問うたもの。特に、バーチャルなキャラクターの現実世界への配置が論点の1つとなっている。

位置ゲーを含む拡張現実技術について、拡張を現実することの権利(いわゆる「現実拡張権」)のような規制が現れるのでは、という話は昨年書いた。

拡張現実技術はポケモンGo以降も研究開発が進んでおり、おもしろい成果がいくつも現れている。この社会への普及で、現実と仮想世界の境界はどう変わっていくだろう。ディスプレイを通して拡張現実世界を覗く技術と、現実世界そのものを変えてしまう技術の2つに注目して、最近のニュースをまとめてみた。

Summary Note

1.ディスプレイで拡張する現実

  • 情報や音楽が現実に埋め込まれる
  • 現実を測ってみる
  • 他人を覗く
  • 現実で遊ぶ
  • 現実から逃避する

2.現実そのものを書き換えてしまう

  • フェイスマッピングの社会実装で有望なのは「化粧」
  • リアルタイムに声を変える
  • 空間に仮想世界を投射する


1.ディスプレイで拡張する現実

ポケモンGoもそうだけど、拡張現実の代表的な形態が「ディスプレイを覗くと拡張された現実が視える」というもの。様々なアプリケーションが提案されていて興味深い。

現実を読み取る(1):情報が現実に埋め込まれる

写真に撮れば翻訳できるGoogleの「リアルタイムカメラ翻訳」もすごかったが、5月のGoogle I/Oで発表された「Google Lens」も面白い。これは現実を撮影することで関連情報を提示・検索してくれるというもの。

たとえばお店を写すとレビュー評価点が出たり。セカイをカメラで撮ることで、現実世界からダイレクトに情報が取れるイメージだ。

AR普及後の社会のビジョンを示した「Hyper Reality」が話題になったが、やはり世界はこの方向に進むのかな。


ロンドンのアーティストKeiichi Matsuda氏によるビジョン「Hyper Reality」

現実を読み取る(2):音楽が現実に埋め込まれる

説明情報とは別に、コンテンツを現実に埋めることもできる。概要は記事タイトルの通り。

広義に考えると、コードの埋め込みという意味ではQRコードも同じ話か。さらに広義に捉えれば、走行すると音が鳴るメロディ・ロードなんかも。ただし違いは、コンテンツの埋め込みと読み取りがよりシームレスになっていく点だ。

なお音楽関連では次のアプリも素敵。

現実を読み取る(3):測ってみる

現実世界の寸法を測れるアプリ。いや、正確な測距って技術的にはものすごいよね。ここまで正確に測れるからこそ、正確な重畳もできるわけで、拡張現実技術を支える根幹技術なんだけど、「メジャー」というダイレクトな提示が素敵。私ちょうど引越し中で、壁の寸法測ったりしてるので、地味に欲しかったり。

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現実を読み取る(4):他人を覗く

情報取得と言って気になるのはやはり他人。にんげんだもの。その点で興味深いのが次の研究だ。カメラを利用した生体センシングは監視カメラなどで発展しているが、拡張現実技術により可視化している。



図:Cardiolens: Remote Physiological Monitoring in a Mixed Reality Environment(PDF)(Microsoft Research, 2017)より

「あれっ、今日ちょっと顔色悪いね?」が定量評価できてしまう。
用途としてはほかに「嫌われてるかどうか」とか、反応も簡単に取れそうだが、普及に当たっては倫理的な問題や、訴求方法に工夫が必要になりそう。

現実で遊ぶ

コンテンツとして重要になるのはやはりエンタメ。ということでゲーム系もいくつか出ている。特に「レミングス」のアプリが面白い。みんな授業中とか暇なとき、空想の小人を教室の中で歩かせてたりしてたよね!アレが現実を拡張してできちゃうわけで、個人的に大興奮。

そのうちスプラトゥーンとかも現実世界でできるようになるのかな。

現実から逃避する

そして藤子・F・不二雄ファンとして見逃せないのが次のアプリ。フレームの色はピンクだろー!


2.現実そのものを書き換えてしまう

さて、ディスプレイを覗くのも1つの方法であるが、そうではなく現実に直接仮想世界を重畳する、という研究も進んでいる。プロジェクションマッピングを持ちいたアプローチだ。

フェイスマッピングがすごい

特に顔面に投影するフェイスマッピングが面白い。まずは芸術の用途から。や、すごい。

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社会実装で有望なのは「化粧」

女性にとって化粧は時間のかかる作業だが、フェイスマッピング技術を使えばその手間が省ける。用途としては、例えばテレワークをしていて1時間だけTV会議に出たい、な場合とか、限定的なシチュエーションであれば十分に需要がありそう。というのが資生堂がボタンひとつでメイクを可能にする「TeleBeauty」だ。

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ただしアンチ技術もあるので油断は禁物。

リアルタイムに声を変える

映像だけでなく音声の変更も、現実の拡張の1つだ。クリムゾンテクノロジーと奈良先端科学技術大学院大学は、リアルタイムでの音声変換システム「Metamorphone」を発表。

用途としてはコールセンターが挙げられていた。オッサンを雇って女性に仕立てられるということ。個人推薦技術も組み合わせれば、ユーザの好みに応じた声で対応してくれたりもできるのかな。もう何も信じられなくなるね。

空間に仮想世界を投射する

そして最後は、メガネなしで立体映像を提示する技術。原理としては水煙に対して投影する立体ディスプレイであるが、深度情報に基づき正確に位置合わせできるのが特徴。動画を見ると幻想的。限定された空間ではあろうけど、現実がダイナミックに拡張される。

なお空間ディスプレイについては以前も複数方式をまとめた。


仮想世界の現実に対する拡張・侵食がじわじわ来てる

ということで、最近のテクノロジー系ニュースの中から、拡張現実技術に関するものをまとめてみた。この技術は社会に何をもたらすだろう。

仏教の「空」思想をもって21世紀社会を語った『高校生からわかる〈web仏教〉入門』(2017)では、現実と仮想世界とはそもそも区別されるものではなく、「現実とはすべて仮想現実にほかならない」と述べている。実際に拡張現実のような技術をみると、テクノロジーが現実と仮想世界の境界を取り払い、現実を侵食する未来もありそう。
さらには、ネットが社会に生じさせる分断が、現実世界にも顕れてしまうかもしれない。

一方、SNSが若者をつながりから離脱させ「ひとり時間」を増やしている、という統計がある。これは実際には「つながり」がネットなどの仮想世界にシフトしているとも考えられるところ、拡張現実技術が再び「つながり」を現実に引き戻すかもしれない。

いずれにしても、現実と仮想世界とを融合させる拡張現実技術は、未来の社会の姿を大きく変えるものになりそう。その到来が楽しみだ。

 

最近のテクノロジー系ニュースについて、他のテーマについてもまとめてみた。

 

 

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