未来の世界に影響を与えるテクノロジー系ニュースまとめ・第14回(2017/10-12)

いなたくんへ

2017年10月にノーベル賞の発表があり、それぞれ「体内時計を制御する分子メカニズムの発見(医学・生理学賞)」「重力波の検出(物理学賞)」「クライオ電子顕微鏡法の開発(化学賞)」、そしてカズオ・イシグロ氏(文学賞)であった。

科学分野の重大ニュースでは他に、ボルツマン定数・プランク定数・電気素量・アボガドロ定数の4つの基本定数の更新が決定された。基本単位キログラム・アンペア・ケルビン・モルについても、原器ではなくこれら物理定数を用いた定義に改められる。大学対抗全日本おっぱい関数選手権大会ではトップ10大学が発表された。

科学的発見では他に月地下の大空洞発見が興味深く、あと「千葉時代」成立も日本人には嬉しいニュース。

ビジネスサイドをみてみると、IntelとAMDがまさかの提携を発表したり、史上初の搭乗型巨大人型ロボットの戦いが実現したり、aiboが12年ぶりに復活したり、採寸ボディスーツZOZOSUITが登場したり、面白いことが盛りだくさんだ。

ベンチャー企業PEZY Comuputingが極小サイズの省エネスーパー・コンピュータ「暁光」で世界トップクラスの性能を発揮し、その後5000兆フロップス×4(=20Pfps)を実現するなど日本の躍進キタコレ!と思いきや、同社社長が助成金搾取の疑いで東京地検特捜部に逮捕される事件も。

詐欺とは許せん。これが冤罪とかなら日本の損失は計り知れず東京地検特捜部は名実ともに国賊の汚名を着るがもちろんそんなことはないはずなので、東京地検特捜部は国民への義務としていち早く詳細を明らかにしてほしい。

ということで前置きが長くなったけど、この3ヶ月でみかけたテクノロジー系ニュースを紹介したい。

なお、この3ヶ月のニュースでも大きなテーマについては番外編として個別にまとめたので、こちらから。


1.人工知能「神」になり、人は神を欺く

「機械を人格化するな。次には神格化することになる」とは人工知能の人類支配プロセスを描いた『地球爆破作戦』(1970)でのセリフだが、神を祀ることはヒトの本能なのでやめられない。元Googleのレバウンドウスキー氏は「人工知能に基づく神の実現の発展・推進」を趣旨とした宗教団体「Way of the Future」を設立した。

フライング・スパゲティ・モンスター教とかもそうだけど、こうした21世紀の新興宗教、嫌いじゃないよ!

「神」は極端だが、IBM等の企業がAI倫理を重視したり、国連がAIロボットの動向を監視する常設組織を設置するなど、人工知能を脅威視する動きは根強い。国連常設組織では、人間の仕事が奪われるリスクや、自律ロボット兵器の動向監視を行うという。

人類の歴史はもはや参酌するに足りない

では実際に人工知能はどのていど「神」に近づいているのだろう。arVix.orgに投稿された論文(査読無し)によれば、囲碁世界王者・柯潔氏に勝利した「AlphaGo」は6歳に満たない知能とのこと。

まあ「知能」は基準をどう考えるかが難しいけど、そのAlphaGoの後継AlphaGoZeroは「教師なし学習」でわずか3日でAlphaGoを破ったという。莫大な電力・計算資源を用いたとはいえ、人類の棋譜を参考にせず白紙の状態からその歴史を上回ったというのは恐ろしい。

人工知能の学習アルゴリズムは新しい手法が次々と提唱されており、今後も進化が続くだろう。

シンギュラリティは近いか

その中でも注目したいアプローチが2つある。
1つは未来を予測する話。物理学者ミチオ・カクは生物がもつ高次な意識の意味を「未来をシミュレーションすること」と定義したが、人工知能の進化においても未来を視ようとすることは重要になるかもしれない。
例えば次のUCバークレーの研究では、自ら収集したデータで学習し、未来の行動を予想することで初見の物体の操作も可能にしており、これは人間の赤ちゃんの学習にも類似する。これが「心の理論」獲得につながる可能性があることは以前紹介した。

もう1つは、人工知能に自ら人工知能を作らせるアプローチ。どのレベルで、という話はあるものの、機械による機械の再生産はまさしくシンギュラリティに相当する。これがどこまで発展するかは注目だ。

神の目を欺け

とはいえ機械学習は万能ではない。学習の難しさはよく指摘されるところだが、学習データに不正なものを混入させたり、認識用対象にノイズを載せることで人工知能に誤検出させる手法も。自動運転などでは致命的な攻撃にもなりかねず、注意が促されている。

人ではなく機械の眼を意識することが、ますます重要になりそうだ。


2.着実に仕事を奪う人工知能

人工知能が奪う仕事の中には「弁理士」も含まれていて、これに対して日本弁理士会副会長が「そんなに単純な仕事じゃない」と反論。私も弁理士のはしくれとして「よくぞ言ってくれた!」と言いたいとこだが、思考実験したところ意外に人工知能に任せられそう、という話は以前書いた。

人工知能脅威論の一翼を成す「人工知能が仕事を奪う」説だが、人工知能の職業訓練は順調に進捗、備忘録として最近の成果を挙げておく。

IBM Watsonの普及も進んでいて、ソフトバンクは新卒のエントリーシート評価に使ったり。IBMは今後Watosonを無償化していくという。私は最近友人と製品開発を進めているのだが、こういうツールが手の届くところにあるのはありがたい。

報道記事執筆では歯に衣着せぬ物言いが好評の様子。

中国では教師の人工知能化に5兆円を投入。規模感が違うね。中国は無人コンビニも注目されたが、無人の「AI警察署」も登場予定とのこと。

人を裁くのは厳しそう

人工知能の裁判官も開発されていて訴訟時間短縮に期待。ただ、79%という精度をどう考えるかは大きな問題だ。

低い精度ではないにしても、裁判となると100%以下の精度は(人間裁判官にそれができず、かつそれが人間裁判官より高精度だとしても)許されない。あくまで人間のアシストにとどまるのかな。

人工知能が仕事を奪うのは「小都市から」

全体的な話では、人工知能やロボットによる自動化は大都市よりも小都市の方が影響を受けやすいというMITメディアラボの研究が。

大都市は「ソフトウェア開発や金融アナリストといった判断や解釈、分析を伴う仕事が集中している。一方で」、小都市になると「仕事はレジ係や飲食店の給仕などのルーティン・ワークに偏るため、自動化の影響を受けやすい」というのが理由。

私としては、第三次ブーム人工知能はむしろ判断や解釈・分析といった知的労働の方が置き換えやすくて、逆に身体を使うルーティン・ワークは費用対効果の観点でも機械化には時間かかると思うんだけど、どうなんだろう。

ただ長期的には、人間の仕事は奪われていく方向に進むのは間違いないと考えている。


3.AR/VRは現実を描きかえ、現実を操る

GoogleはARプラットフォーム「Project Tango」のサポートを終了予定。中国のネット大手もAR/VR普及には試行錯誤とのことで、注目を集める技術ではあるが普及にはなお時間がかかりそうな様子。

空間に落書きできるSNSアプリ「Graffity」や、アリババ、テンセントのチャットとARとの連携などもおもしろそうだが、どうなるだろう。

そんなAR/VR技術であるが、しかし未来では現実と仮想世界が溶けあうことは間違いないはずで、その観点で注目の技術をいくつか紹介。

空間を歪める

MITは、廊下や道路の角に隠れて見えない物体を、そのおぼろげな影に基づき推定する技術を開発。注目なのは通常のカメラで実現できた点だ。

このような、テクノロジーを用いた「認識の拡張」も一種の拡張現実と言えるだろう。

現実を描きかえる

ARというとスマフォやグラスで覗いて、ディスプレイの中で拡張された現実の表示を楽しむ、というものが多い。しかしそうではなく、プロジェクションにより現実側に映し出す技術がおもしろい。

仮想世界から現実を操る

2人ペアでVR体験をさせつつ、両者には別のコンテンツを見せて連携させる、という話も。例えば2人が紐を引き合う状況で一方は釣竿を引いて他方は凧揚げをするとか、あるいは別の状況として一方がパズルコンテンツを解くためのボックス配置をして、他方はボックスを踏んでわたるコンテンツを楽しむとか。

両者に別々の世界を見せながら現実では共通する事象が起きている、というのは、本人の主観認識と異なる提示を行う「錯覚」の新しい提示方法と言え、ゲーミフィケーション手法として興味深い。応用可能性は広そうだ。

どうやって作るの?

ARではないけど、「日本列島VR」がすごくワクワクする。こうした素晴らしいコンテンツはどうやって作られているのだろう。


4.VR技術がつなげる空間と、時間方向への検索

IT技術の利点の1つに「遠隔地を繋ぐこと」があるが、VR技術はこれをさらに進めて「空間を繋ぐ」ことを実現する。

InstaVRは、仮想空間の視界を遠隔地にいる複数人で共有できる「遠隔VR接客機能」を発表した。用途としては「たとえば不動産業者や建設業者が、世界中にいる潜在顧客にバーチャルツアーで物件を案内しながら、リアルタイムに顧客の質問に答える」ことや、複数拠点での社員研修などが挙げられている。

まあよく考えればオンラインゲームなんかも「遠隔地での空間の共有」ではあるけれど、この活用が一歩進む形だ。

さらに、ロボティクスの進化は人型ロボットの性能を上げていて、これに憑依してのテレプレゼンスによっても「空間の接続」が行われる。という話は、クラタス対Megabotsの戦いやボストン・ダイナミクス「アトラス」のバク転成功などと併せて、次の記事に別途まとめた。

年表に沿って時間軸を行き来する検索エンジン

一方時間方向の話では、一般社団法人タイムマップによる検索エンジン「TIMEMAP」がおもしろい。検索ワードに対する年表が作成され、時間軸に沿ってをズームイン&アウトすることが出来る新感覚の検索エンジンだ。

時間指定の検索はGoogleでもできるが、年表の形式での表示や、ワード毎の比較ができるUIはおもしろい。現在は限られたコンテンツのみが検索対象だが、今後広がっていくだろう。

そもそも、時間方向への移動ができるのはデジタル保存された情報の強みである。インターネット普及以来の蓄積もそろそろ積みあがっているはずで、「時間」をテーマとした検索サービスは今後も増えるかもしれない。


5.ドローンは核兵器以降最大の技術革新となるか

ロボットの戦争利用への可能性が高まっており、11月に国連で開催された特定通常兵器使用禁止制限条約に関する会議では、初めて自律型兵器が俎上にあがった。特に技術力の低い国を中心に全面禁止が呼びかけられたとのことで、来年以降も議論は続く。

新兵器で注目なのはドローンだろう。次の動画では、10月にISISのドローンがシリアのスタジアムに置かれた弾薬を爆撃する様子が映されている。

「ドローンが核兵器以降のもっとも大きな兵器の技術革新」という指摘もあるが、費用対効果の非対称性などを鑑みれば非情に強力な兵器だ。

中国もドローン・対ドローン兵器を実用化

ドローンに関しては、最近では中国の躍進も目立っている。

同時に対ドローン兵器としてレーザ実験なども実施。

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ドローン、レーザ兵器ともに米国はじめ各国での実戦配備が進んでいるが、中国も劣らない形だ。習近平は今世紀半ばまでに、人民解放軍を世界有数の軍に変えると宣言している。

技術革新は戦術を進化させるか

軍事関連技術で他に気になったものでは、AR技術等を活用した米軍の窓がない戦闘車両とか、動画のやり取りも可能な20Mbpsの水中レーザ無線LANが実現したとか。

水中レーザ通信は必ずしも軍事用途ではないが、潜水艦への搭載も可能とのことで、第2次大戦で無線を搭載したドイツ戦車が戦術を塗り替えたような、新たな変化にもつながるかもしれない。


6.野良IoTのセキュリティ問題と、量子コンピュータ実用化秒読み

非対称の戦争と言えば、ドローンのほかにサイバー攻撃も大きな脅威とされている。そんななか、ニコ動のサーバを落とすなどして注目を集めていたダークネス玉葱君氏が北朝鮮への攻撃を宣言、これを実行してみせた。

攻撃手法は複数のコンピュータから大量の処理を送るDDoSと見られている。将来IoT機器が増大し、そのメンテナンスが怠られたり管理者不在となることで、DDoSの脅威はさらに増すとされる。

「野良IoT」とか「サイバーデブリ」とか「ネット空間の環境汚染」とか、これらのワードにワクワクしてしまったのはナイショ。

人権団体による24ヵ国以上の政府がネット世論を操作しているという報告もあるが、新たな空間を制することはいつの時代も重要だ。

量子コンピュータの実用化が秒読み

セキュリティに関しては、暗号解読で超絶性能が期待される量子コンピュータの実用化が秒読みだ。IBMはノイマン型コンピュータの性能を凌駕する49量子ビットを超える量子コンピュータの振る舞いのモデル化に成功、実用機についても2020年から2021年に商用化するとしている。

また、量子コンピュータの多くは超低温で動作するところ、NTTは光ファイバーを用いて常温動作できる量子コンピュータを実現した。

じゃあもうパスワードは守れないの?と言うとそうでもなく、情報通信研究機構が量子コンピュータでも解読困難な公開鍵暗号「LOTUS」を開発したなど、量子コンピュータが普及してもイタチごっこは続くだろう。

液体コンピュータと量子ルータ

コンピュータ技術の先端では次の2つも興味深かったのでリンクを掲載。我々になじみのある「シリコンでできたノイマン型コンピュータ」も、歴史から見れば過渡期的装置に過ぎなくなるのかもしれない。


7.クォーク融合、自己修復材料、マルチメッセンジャー天文学

未来に対する影響を考えると、インパクトが大きいのが先端科学・先端材料だ。もっとも「現時点ではどう未来を変えるのかわからない」という問題はあるが、最近見かけて気になった話を挙げていきたい。

クォーク融合と新型電池

イスラエルのテルアビブ大学とシカゴ大学とが、クォークを融合させた際の放出エネルギー量が、水素核融合の8倍以上にあたる138MeVに上ることを発見した。

ただし放出時間は1ピコ秒と短く、連鎖的反応を起こせず爆弾化は困難とのこと。でもそれもあくまで現状の話な気もして、科学の進歩はいずれこのエネルギーをも利用可能にするかもしれない。

エネルギー分野ではTDKが表面実装可能な全固体電池チップを開発、リチウムイオンの次世代を担うだろうか。

一方、ニューヨーク州立大は繊維で作られ衣服に編み込めるバイオ電池を開発、発電原理は着用者の汗の微生物分解によるもので、伸び縮みさせることができる。シャツ型ウェアラブルが増えているなか、電源問題の解決として期待は大きい。

自己修復材料

原子力機構は、高エネルギー重粒子線照射に応じて自己修復するセラミックスを発見、宇宙空間や原子炉などの強い放射線環境での利用が期待できるという。
自己修復と言えば、東京大学は割れても常温で数時間押し当てればくっつくガラスを開発した。

ランボルギーニは11月に発表したコンセプトカー「テルツォ・ミッレニオ」で摩耗や損傷を検出して回復する機構の搭載を提唱したが、自己修復材料は今後注目されるかもしれない。


ランボルギーニHPより

マルチメッセンジャー天文学

2017年のノーベル物理学賞に輝いた「重力波の検出」は、2015年の初観測以来数例のブラックホール合体を捉えてきたが、10月には初めて中性子性の合体の観測に成功した。これまで電磁波にのみ頼って来た天文観測だが、重力波も利用しての「マルチメッセンジャー天文学」の時代が始まったことになる。

ブラックホール合体自体も予想以上に高頻度で起きていることが分かったが、重力波を活用した観測によりどんなことが解明されていくのか、興味は尽きない。

なお宇宙は広いが、月の地下に大空洞があることも最近発見されたばかりで、身近な場所にも謎は多い。宇宙開拓の最近の様子については次の記事に別途まとめた。


この3ヵ月で見かけたおもしろガジェットたち

最後に、この3ヶ月で見かけた素敵なガジェットやサービスたちをご紹介。

遠く離れた相手がそばにいるように感じるIoT照明

寒いので温かいガジェットを。Javasparrowは光で繋がるIoT照明「wesign」を発表した。離れて暮らす家族が帰宅してWesignを点けたり、寝るときに消したりすると、手元のwesignも同様に点いて、消える。電気の消灯だけだけど、存在感を感じることのできるデバイスだ。


Javasparrow HPより

なお温かさでは「母からの仕送りシール」とか沼津の泊まれる公園とかボードゲーム「クソポンチ絵選手権」とかとも迷った。

電子バイオリンがファイナルファンタジーの武器

楽器も進化を続けていて21世紀になっても新しいものが現れているが、バイオリンもその例外ではないようだ。持ち運びが大変そう。

連結できる水耕栽培ブロック「PLANTY SQUARE」

おもちゃのブロックのように連結して栽培面積を増やせる、モジュール型の水耕栽培キット。なんか知らないけどワクワクする!

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以上、2017年10~12月における、未来に影響のありそうなテクノロジー系ニュースをまとめてみた。大きなテーマについては番外編として個別にもまとめたので、こちらから。

次回3ヵ月のニュースのまとめはこちらから。
1.ゲーム化される現実世界とピクセル寿司/2.超低軌道衛星用大気吸い込み型イオンエンジン/3.搭乗型多脚ロボット「prosthesis」/4.テロメア延長と細胞の時間停止/5.全脳シミュレーション/6.72量子ビットの量子プロセッサ「Bristlecone」/7.極小なコンピュータとセンサたち

前回3ヵ月のニュースのまとめはこちらから。
1.少女とゲーミフィケーション/2.AI界の薩長同盟とやわらかロボット/3.テクノロジーやウェブの汚染の「責任」問題/4.太陽系天体植民可能性と宇宙開発進捗/5.超小型衛星での量子通信と「時間の矢」起源解明/6.核融合発電で成果を出す中国とGoogle、エネルギー保存階段/7.プログラマブルDNAと実現した生体転送機

 

  

 

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