未来の世界に影響を与えるテクノロジー系ニュースまとめ・第15回(2018/1-3)

いなたくんへ

最近のテクノロジー系ニュースのまとめ。まずはこの3ヶ月で目立った事件を概観する。

イーロン・マスク率いるSpaceXは火星移住に用いる巨大ロケット、ファルコン・ヘビーの打ち上げに成功。ダミー・ペイロードにはマスクの赤いロードスターが搭載され、火星へ向かう軌道に投入された。ロードスターの現在地はこちらのサイトで確認できる。

イーロン・マスクは4000基の衛星コンステレーションにより衛星軌道にブロードバンド通信網を作る「Starlink計画」を進めていたり、テスラの自動運転トラックが北米大陸横断に成功したりと、快進撃が続いている。

自動運転ではGMが量産車で初のハンドル無し自動運転車を発表。その一方で、Uberの自動運転車がテスト中についに初の死者が出てしまった。いずれ起こるはずの事故ではあったが、自動運転の普及にどう影響するだろう。

技術普及へのブレーキといえば、暴騰を続けていた仮想通貨がCoincheck事件発生により一気に暴落。一時200万円近かったビットコイン価格は70万円台にまで下がり、アルトコイン熱も軒並み下火に。仮想通貨バブルが一度崩れることは私も予想したけど、こんなに早いとは思わず無事致命傷を負った。

ただし上記記事でも述べているけど、ブロックチェーンが技術として有望なのは間違いなくて、引き続き普及は進むだろう。下記ツイートとか示唆に富む。

ハッキングでは過去最大のDDoS攻撃がGitHubに対してなされ、ピーク時のトラフィックは1.35Tbpsに達した。ただしGitHubとAkamai社の対応により被害は10分程度のサービス停止で済んでいる

現実世界では、シリアに展開するロシア軍に対して13機の固定翼無人機群が攻撃を敢行し、史上初・最大規模の集団ドローン攻撃となった。非対称の戦闘は今後も規模を増しそうだ。

という感じで、最近注目のテクノロジー系ニュースをまとめていきたい。


1.ゲーム化される現実世界、ピクセル化された寿司

仮想空間と現実の融合は中国が進んでいて、北京法廷で初のVR利用がされたり、通行人をスキャンして顔認証可能な警備用メガネが導入されたり。特にメガネは「暗黙知の形式知化」という文脈でも興味深い。

中国では社会信用システムも話題だが、テンセントはこれをゲーム世界に導入。ゲームプレイの素行が良いと信用度が上がる仕組みで、次の記事では、女性や子供などライトユーザが入りやすくなるといったメリットも指摘している。

ゲーム空間はシミュレーションにはもってこいだ。ここで培われたノウハウはいずれ現実での社会信用システム運用にも活かされるのかも。ちなみにGoogleもGoogle Map APIをゲーム向けに開放して「リアルワールドゲーム」の開発を容易化したが、私はこれも実世界センシングの戦略的布石と予想している。

そんな仮想と現実の融合で注目なのが、河川でのゴミ収集を遠隔操作ロボットを使ってゲーム化する、という取り組み。単に「スコアを競う」というだけでも、ユーザの動機づけとしてきちんと働いているようだ。

これですよ、私がゲーミフィケーションに期待してるのは。適切なインセンティブ設計により、ユーザが楽しみながら現実世界が良くなっていく。同様の取り組みはポケモンGoでも行われている。こうした事例が増えれば、世界は確実に変わっていくだろう。

工作のゲーム化という新ジャンル

ゲームといえば任天堂発表のNintendo Switchもすごい。段ボール工作などの現実世界のアソビがインタラクティブなものに変わる仕掛けで、VR/ARやIoTが話題になりつつも爆発力に欠けるなか、「そそそ、その手があったかアァァ!!!」とおしっこ漏れそうな提案だ。

なお「工作のゲーム化」の観点では、昨年発表されたソニーのtoioも、ピタゴラスイッチで有名なユーフラテスや、LEGOとコラボしての展開をしている。

「寿司のピクセル化」というソリューション

話題としては最近下火の3Dプリンタだが、現実とデジタルの融合という意味では、製造や流通の分野では引き続き盛り上がっている。そんななか注目なのが、東京で握られた寿司をデータ化して米国で出力する「ピクセル寿司」というアイディア。実証機は低解像ゆえ「ピクセル」だが、逆に言えば、解像度さえ上がればいくらでもリアリティを高められる。

ブロックチェーンが宇宙時代に重要になる、というコメントは冒頭で紹介したが、モノを情報化して遠隔地に送る転送技術も、同じく宇宙時代に重要になるだろう。


2.超低軌道衛星用大気吸い込み型イオンエンジン

寝耳にアルマゲドンな話として、直径500メートルの小惑星「ベンヌ」が2135年9月22日に地球衝突の可能性があり、NASAは「HAMMER」と呼ばれる宇宙機を当て軌道を変える計画を発表した。不穏なニュースであるのだけれど、しかし近年の宇宙開発の盛り上がりを考えると、100年以上先という時間軸なら気にする必要はなさそう。

VodafoneとNokiaは、2019年にFalcon9ロケットを利用して、月面に4G LTEネットワークを構築することを発表。地球外への通信インフラ構築例として、宇宙初の試みとなる。
ユニークな取り組みでは、スタートアップのSpinLaunch社はカタパルトでの衛星打ち上げを計画。イーロン・マスクのハイパーループ的に、ループ状の真空チューブで4800km/hまで加速させ、1回の発射コストを50万ドルまで下げるという(従来ロケットは500万ドル以上)。

超低軌道衛星用の大気吸い込み型イオンエンジン

欧州宇宙機関と民間企業は、大気吸い込み型イオンエンジンの噴射試験に世界で初めて成功した。

高度400kmの低軌道を飛ぶ国際宇宙ステーションなどは、定期的にガス噴射を行い高度の維持を行っている。観測衛星の種類によっては、さらに低い「超低軌道」を飛ぶこともある。200km等の超低軌道は空気が(衛星にとっては)濃密で、その抵抗により高度維持が困難だ。

超低軌道では、現在はイオンエンジンが使われている。推力は低いが空気抵抗を打ち消すには十分で、持続力がある。推進剤はキセノンなど。ただし、推進剤が切れれば落下する。

今回開発に成功した大気吸い込み型イオンエンジンは、超低軌道の大気を取り込みイオン化するというもので、推進剤が不要になる。人工衛星は高速で飛ぶため大気の取り込みと圧縮が自然になされ、ジェットエンジンのように吸入する機構も必要なく、構造もシンプルで丈夫とか。

高度200km前後の超低軌道は観測や地上との通信、打ち上げコストなどで利点があり、今後有望視されるエリアだ。大気吸い込み型イオンエンジンが実用化されれば、人工衛星のネットワークはさらに広がることになるだろう。

さらに、地球と異なる大気成分の惑星でも使えるとのことで、夢が膨らむ。


3.宇宙用ソフトロボット、搭乗型多脚ロボット、弱いロボット

宇宙はロボットの活躍も有望視される領域だ。ロボットと人間との協働ではソフトロボットの開発も進められている。が、その中には「アレ」なビジュアルのロボットもも。

「やわらかロボット」は当然だが地上においても重要なジャンル。ハーバード大学はソフトロボットにアクチュエータや各種センサを埋め込み可能な3Dプリント技術を開発。普及のハードルを一段下げた。

他にも気になるロボットがいたので紹介する。

多脚ロボット「prosthesis」

重量3.6トン、時速30kmで走行可能な多脚ロボット。自律型ではなく搭乗型の「外骨格」という位置づけがアツすぎる。本格的に軽量材料使うと夢が広がりそう。多脚戦車時代も目前。

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豊橋科技大の「弱いロボット」

豊橋科技大が数年前から開発を進めている「弱いロボット」。例えば自分ではゴミを拾えず通行人にアピールするゴミ箱ロボットがネットで話題になった

AIやロボットの人間社会への普及において「共感」は重要なキーワードになりそう。


4.実現したテロメアの延長と、細胞の時間停止

ロボットに負けずヒトの「進化」も顕著である。特に進んでいるのが中国だ。2015年にヒト受精卵へ世界初の遺伝子操作をして物議をかもした中国は、その後86人に対してゲノム編集による遺伝子改変を行ったことが分かった。さらに世界初の猿のクローン作成にも成功している。

動物実験では、米国ではヒト細胞をもつハイブリッド羊の胎児の作製に成功、移植用臓器作成に活かされる。また、中部大学はRNA干渉により特定遺伝子の活動を抑制するゴキブリ駆除スプレーを開発。人による生命のデザインの幅は順調に広がっている。

テロメアの延長、細胞の時間停止

そんなか目を引くニュースが、英エクスター大学とプライトン大学による、テロメアを長くする方法の発見だ。

染色体構造であるテロメアは細胞分裂回数を規定することから、寿命に直接関連するとみられてきた。今回の研究では、老化した細胞にレスペラトロール類似体と呼ばれる化学物質を適用したところ、再び細胞分裂が始まったという。不老長寿化技術として注目である。

また、DARPAは戦場での負傷兵治療の技術として細胞の活動を低速化するアプローチを検討。細胞活動をタンパク質レベルで抑制する生化学物質を用い、一時的に仮死状態に落とし込むとする。まだ机上研究であるが、実現すれば戦場に限らず役立ちそうだ。

道具としての利用も

命に手を入れるだけでなく、生体を道具として活用する研究も進んでいるので紹介。

次世代記録媒体として注目されるDNAメモリでは、伊パドヴァ大学がバクテリアのDNAへのHello Worldの読み書きに成功。マイクロソフトとワシントン大学はランダムアクセス記録で400MBの記録に成功した。マイクロソフトは10年以内にデータセンターでの運用にこぎつけたいとしている。

他には分子の組み合わせによりANDやOAを指定できるバイオマテリアル論理ゲートなんかも。用途はドラッグデリバリーが考えられている。

無機質なデジタルの世界とバイオ技術の融合、何ともアツい。


5.全脳シミュレーションは次世代スパコン登場を待つばかりに

「コンピューティング×生体」の文脈で欠かせない領域が「脳」。そのアプローチの1つは、脳の構造を機械で再現するというものだ。その全脳シミュレーションがいよいよ視野に入っている。

電気通信大学では小脳のリアルタイムシミュレーションを研究。脳全体のニューロン860億個のうち、80%に及ぶ690億ニューロンは小脳にあるという。小脳は同じ構造の繰り返しとなっていて、大脳の処理を加速する働きと考えられているとか。研究ではこのうち80億ニューロン相当について、PEZY Computing社のスパコン「暁光」にてリアルタイムシミュレーションを成功させた。


下部の紫の部分が小脳.
前頭葉・側頭葉・盗聴用・後頭葉などは大脳に属する.

理化学研究所は脳全体の860億ニューロンをシミュレーション可能なアルゴリズムを開発。メモリの省力化や高速化が図られている。といっても、このアルゴリズムが動作できるのは2020年以降に登場する次世代スーパーコンピュータだ。アルゴリズムはオープンソースとして公開されるとのことで、次世代スパコン登場までにはさらに効率化が図られるかも。

ということで、コンピュータパワーがもう一段階進化したとき、いよいよ脳全体のシミュレーションが可能になるかも。楽しみである。

脳に関しては臨床と人工知能技術の連携もアツい。ATRと京都大学はfMRIと機械学習を用いて、人が心の中でイメージした内容の画像化に成功した。

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同研究所の研究に基づき「夢の内容を出力できたら…」な予想を以前書いたが、ぜんぜん夢じゃないね。


6.72量子ビットの量子プロセッサ「Bristlecone」

次世代コンピューティング技術で注目の量子コンピュータは、49量子ビットでノイマン型スーパーコンピュータの性能を上回るとされる。これについて、MITとハーバード大学は中性原子をレーザで制御するタイプの量子コンピュータで51量子ビットを実現、最大級の規模となる。さらにGoogleは72量子ビットのプロセッサBristleconeを発表、従来型コンピュータを凌駕する「量子超越性」の実現を実証するという。

一方、従来型コンピュータもまだ終わったわけではない。半導体の集積度はムーアの法則の限界が指摘されてはいるものの、原子の厚みしか持たない「2D Materials」と呼ばれる超格子構造が次世代素材として提案されたり、人工知能技術の応用としてGoogleが長く使うほど高速化するアルゴリズムを検討していたりする。

いずれにせよ、人類が持つ計算能力の進化はまだまだ続いていきそうだ。


7.不可視なほどに極小なコンピュータとセンサたち

最新コンピュータといえば、IBMが発表した世界最小コンピュータが小さすぎてヤバい。全体サイズはわずか1mm×1mm。数十万のトランジスタを搭載していて、解析や通信が可能。コストは10セント以下で、ブロックチェーンでの活用が考えられているという。

実はこの3ヵ月では、めちゃくちゃ小さかったり省電力なセンサが次々発表されてアツすぎた。以下ニュースを列挙。

いずれも落とせば探せないほど小さかったり、電力消費が無視できるほど少なかったり使い捨てできたり。これらの用途や組み合わせを考えるだけで、未来の想像が飛躍的に広がる。

ちなみにバッテリレスの文脈では、低電力を短時間供給可能で使い捨て機器に適用可能な紙でできたバッテリーとか、数メートル離れてもスマフォを充電可能なレーザ光によるワイヤレス給電とかも。あと関西大学の1ステップで0.6mW(LED10個分に相当)を発電可能な摩擦発電機もすごい。

「IoT」の言葉が市民権を得て久しいが、センサは確実に世界に溶け込もうとしている。


この3ヵ月で見かけたおもしろガジェットたち

最後に、この3ヶ月で見かけた素敵なガジェットやサービスたちをご紹介。

文字盤の濃淡が変わる時計「DUSK」

Kickstarterに登場した壁掛けアナログ時計「DUSK」は、日照時間の変化に合わせて文字盤の濃淡が変化する。室内に居つつも外の空気感とか季節感がわかる仕掛け、いいよねえ。


画像:Kickstarterより

マグネット式デバッグ神社

こういうの大好き。秀吉の金の茶室じゃないけど、コンパクト&ポータブルってロマンあるよね。積み木感もシンプルでイイ。

Boseの聴くAR眼鏡

グーグル・グラスがコンスーマではうまく行かなくて、アイウェアは難しい印象だけど、そこに突如現れたBoseの「聴くAR」。Boseの音響技術により超小型・超軽量で音質を担保しつつ、イヤホンのように耳をふさぐことなく聞くことができる。用途は観光ガイドや看板の翻訳など。

世の中的に音声エージェントが普及しようとしているこのタイミングでのこのソリューション、ぐぅすごい。

 

以上、2018年1~3月における、未来に影響のありそうなテクノロジー系ニュースをまとめてみた。

次回3ヵ月のニュースのまとめはこちらから。
1.ブロックチェーン・ベースの非中央集権宗教「0xΩ」/2.人格の仮想化技術・仮装化技術/3.脳内思考「内言」の解読/4.時間反転対称性を崩す「Flux Capaciter」の発明/5.『実時間メロス』/6.記憶はRNAにも保存/7.ジョギングするアトラスと群行動する中国無人ボート群/8.中国にも注目の再利用型ロケットと民間宇宙開発企業/9.火星での有機物発見とテラフォーミング用バクテリア

前回3ヵ月のニュースのまとめはこちらから。
1.人工知能は「神」になり人は神を欺く/2.仕事を奪う人工知能/3.AR/VRは現実を描きかえ現実を操る/4.VR技術がつなげる空間と時間方向への検索/5.ドローンは核兵器以降最大の技術革新となるか/6.野良IoTのセキュリティ問題と量子コンピュータ実用化秒読み/7.クォーク融合、自己修復材料、マルチメッセンジャー天文学

 

  

 

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