加工される生命、部品としての生体、無機物との融合

いなたくんへ

21世紀は生物学の世紀とも言われる。以前昆虫をサイボーグ化・ラジコン化する話を知って驚いたけど、バイオ技術はその後も日進月歩で進んでいて、もうなんというか「ヤバい」としか形容できない。だとさすがにボキャブラリがアレ過ぎるか。もうちょい言葉を選ぶならマジ卍。

バイオテクノロジーに関する話はこれまでも紹介してきた。

今回も改めて、最近のニュースから気になったものを挙げてみる。有史以来様々な道具を作り、身に纏ってきた人類だけど、いよいよその道具とヒトとの融合が始まっている。

Summary Note

1.最新の「道具」はヒトの肉体を拡張し、「心」を工学的に扱う

2.ゲノム編集はすでにヒトを対象にしている

3.創造される生命、部品としての生体


1.最新の「道具」はヒトの肉体を拡張し、「心」を工学的に扱う

すでに述べたように、ヒトは肉体を作り変えるかわりに道具を発明することで「肉体と道具からなるシステム」全体の進化を続けてきた。例えば衣服があり、眼鏡がある。その最新版をみてみよう。

機械との融合の最適化

カーネギーメロン大学による外骨格設計の自動化。ここで述べられるのはハードウェア的な話ではなく、外骨格の肉体に合わせた追従動作などソフトウェア的な話だ。快適な反応速度の違いには個人差があるところ、これをアルゴリズムで最適化する。

外骨格は軍事利用が代表的だが、サイバーダイン社のアシストスーツなど民生用途にも期待は大きい。肉体と機械の連携は、両者の融合を図るうえで重要な技術になるだろう。

一方、機械と肉体の融合と言えば手にICチップを埋め込む話なんかもあったが、もう少し負担を減らして、ネイルにNFCチップを埋め込むという話も。東芝が2年後の実用化を目指している。

ネイルは女性がつけるものなので、こうしたガジェットを女性向けにどう流行らせるのか、そのマーケティング戦略には大注目だが、アクセサリにデバイスを埋め込むというのはアプローチとしておもしろい。今後派生アイディアも出てくるのかな。

なおこれは私怨になるけど、去年買ったT社製洗濯機が毎日フィルタ掃除しないと詰まって乾燥機能が使えなくなる(なんか生乾きになる)という代物で、毎日メンテナンスを前提とする家電が存在することに驚愕したというか、え、いま21世紀だよね、みたいな、作った人は一切家事をしたことないんだろうな、みたいな、すごくとても激しくガッカリしました。

話それてゴメン。

脳への低侵襲介入

外付けデバイスでは他に、脳に電気刺激を与えて能力向上を促す経頭蓋電気刺激法で新たな成果が。マカクでの実験で学習速度の向上が見られたという。

電気流してるのでこれを「非侵襲」と呼んでよいかは躊躇があるが、脳に磁場や電気を加えて集中力を高めるデバイスはゲーム用途などですでに普及してるし、日本でも鬱病対策で薬事承認が下りている。脳の低侵襲ハックは今後も進んでいくだろう。

人工知能はヒトの「心」の工学的利用を可能にする

コンピュータの「道具」としての位置づけとして「考える道具」とする見方がある。衣服が皮膚の進化の代替であるように、脳の進化を外部化したものがコンピュータというわけだ。その最新版である人工知能はヒトをどう変えるだろう。

深層学習・強化学習といった第三次ブーム人工知能の特徴は、例えば「猫の画像を見分ける」といった定性的な判断をも可能にした点だろう。

その点では、「感情を推し量る」や「空気を読む」といった、これまで人間特有の能力と思われていた領域こそ人工知能に頼れそう。そんなニュースが相次いだ。

黒田日銀総裁の「顔色をうかがう」人工知能とかおもしろい。今後のVIPはポーカーフェイスも重要な能力になったりして。

心の中を「直接読む」

そして最先端の成果では、fMRIと機械学習で見ている画像を再構成し、さらに心の中のイメージをも映像出力した話も。以前夢の映像化実現が社会にもたらす影響について考えたけど、これがシラフでも出力できてしまうことになる。fMRIなので日常用途には向かないが、将来的には心を「直接読む」人工知能も出現するかも。

次の動画は、左が見せている画像/思い描かせている画像、右が脳スキャンから再構成した画像。

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ということで、外骨格や人工知能といった「道具」がヒトをどう変えていくのか、その一端が垣間見れた。これらの技術が将来のマグネット・コーティングやサイコフレームに繋がるわけだが、それとは別の流れとして、ヒト自体を作り変える話もある。


2.ゲノム編集はすでにヒトを対象にしている

お手軽ゲノム編集技術として注目されるCRISPER/Cas9だが、その発展技術として、DNA構造を切断せず編集できる「CRISPER2.0」が登場した。1塩基単位での修正が可能。

遺伝子編集技術はアプリケーションも興味深い。例えば遺伝子編集によりセンサ化した皮膚を移植するというものがあり、血糖値検査の採血が不要になる。

注射を行わない非侵襲の血糖値測定は大きな市場となることが予測され、例えばハーバード大とMITによる血糖値に応じて色が変わるタトゥーなんかもおもしろいと思うんだけど、移植可能なセンサを遺伝子編集で作るというのはすごい。他にはどんなセンサが作れるんだろ。

また、人間の体内で遺伝子編集を行うという試みも。CRISPER以前のゲノム編集技術とウィルスを使う手法で、遺伝性代謝異常の治療として行うとのこと。

ゲノム編集技術の応用可能性は今後も注目していきたい。


3.創造される生命、部品としての生体

ここまでは人間の話を挙げてきた。人間であれば進化する方向に、治す方向に、便利な方向に、慎重に扱われる。しかし対象が人間以外であればそのあたりはお構いなしだ。

例えば線虫の脳神経回路をデジタル化してレゴに入れたという話。線虫の302個のニューロン間の結合をすべてマッピングしてシミュレーションするプロジェクトで、レゴ化により実際の線虫と似た行動が観察されたとのこと。

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脳の完全シミュレーションはブレイン・イニシアティブや、戦艦武蔵発見のポール・アレンによるヒト・コネクトーム・プロジェクトで目指されている。線虫のような単純な構造の解明はその大きな一歩となる。

が、それにしてもLEGOって。
これが後の脳チップに繋がるわけね。

あるいはゼロベースで作ろうぜ!ということで、A,G,C,Tのコドンとは異なる遺伝子を持つ生命創造の取り組みも。自然界にはない人工コドンX, Yをもつ異質タンパク質の合成に成功したとのこと。

遺伝子をプログラミングのように扱った生命創造はすでにされていて、ウィルスや病原体が合成できてしまった問題視されているけれど、人工コドンを持つ生命って身体に入ってきたらどうなるんだろ。ヤバいかヤバくないかで言えばヤバそう。

材料としての生命

最後に生体を材料として利用する話。最近では次の2つのニュースがあった。

用途が街の明かりというのは未来感があっていいね。光る木々で彩られた街とか、ジュール・ベルヌじゃないけど魔法と見分けがつかない。
深海微生物由来の材料というのも、どんな素材に結び付くのか楽しみだ。

人間という枠を外せば、生命は古代から変わらず加工の対象であり、材料である。それが遺伝子という深いレベルで活用できたとき、改めて生命の驚きを見せつけられるかもしれない。楽しみにしたい。

最新のテクノロジー系ニュースのまとめの本編と、その他の記事はこちらから。

 

  

 

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