いなたくんへ
未来に関するビジョンやコンセプトの提示のまとめ。前回第4回に続いて気になったものを挙げてみた。
デザインやコンセプトに関してはやっぱり自動車関連が多い。他に近い未来に向けての中国の予想や技術トレンド、そして未来の仕事について。
Summary Note
1.「機械の眼」を意図したデザイン
2.モビリティの未来のカタチ
3.山谷剛史が視せる中国の近未来
4.近未来の技術トレンド予想
5.今後生まれる21の未来の仕事
テクノロジー関連のニュースもまとめているのでこちらから。
- 本編:未来の世界に影響を与えるテクノロジー系ニュースまとめ・第14回(2017/10-12)(2018/1/26)
- 仮想通貨バブル崩壊の先にある、ブロックチェーンの明るい未来(2018/1/10)
- 月の裏側から火星、アルファ・ケンタウリまで、具体化する宇宙開拓計画まとめ(2018/1/14)
- 加工される生命、部品としての生体、無機物との融合(2018/1/18)
- 搭乗型・憑依型・無人型‥、ヒューマノイド・ロボットの最近の進化まとめ(2018/1/22)
人工知能技術の発展、特に機械の画像認識能力の進化が著しい。その応用分野として自律走行車の登場が待たれるが、「機械の眼」を考慮に入れた信号機のデザインがロシアのデザイナーにより公表された。
ARINE ATELIEより
ビジョンセンシングを考慮した都市デザインや建築デザインは発展の幅が大きそう。工業デザインの分野では「人間中心設計」が流行ったが、デザインがカバーすべき領域は広がりそうだ。
未来のコンセプトと言えば自動車業界が盛んに示してくれている。東京モーターショーでも様々なコンセプトカーが展示されていた。レビュー記事はたくさん出てたので詳細はそちらに譲るが、デザインでは流線形と直線系の二系統がみられた、という記事がちょっと面白かった。
もっとも結論はなくて、結局利便性を選ぶか趣味性を選ぶか、という話になるかもしれない。未来においても両系統が存在しそうだ。
モーターショーでは「THE FUTURE」なるドーム型シアターでモビリティの未来象も展示されていた。こちらはクルマというよりはライフスタイルの視点で未来を6つの切り口に分けたのが特徴。クルマの進化の方向性はこの6つの未来で違っていて、そして併存することになるだろう。
- DRIVE(自由がどんどん加速する未来)
- PRIVATE(場所や時間に縛られない未来)
- SHARE(体験を仲間とシェアする未来)
- MOVE(社会や経済が活性化する未来)
- SOCIAL GOOD(技術で社会を変えていく未来)
- UNIVERSAL(すべての人にやさしい未来)
コンセプトカーではランボルギーニが発表した「テルツォ・ミッレニオがカッコいい。
カーボン・ファイバー製スーパーキャパシタ、自己修復作用を持つマイクロチャネル、インホイールモーターなど最新の(というかまだ実現していない)技術を盛りだくさんにした未来のスーパーカーである。乗りたい。
ランボルギーニHPより
インテリアも種々技術が提案されているが、トヨタ紡織とライゾマティクスによる、ドライバーの身体に合わせて可変するシート「VODY」もちょっと面白い。
日本自動車工業会は2030年に向けての中長期モビリティビジョンを発表。技術的に新しそうな話は特になかったが、コネクティッドかーについてユーザ・インターフェイス等が可視化されているので、そのあたりは参考になりそう。
前述した東京モーターショーの「THE FUTURE」で提示される6つのライフスタイルのうち、「SHARE」ではクルマの共有が進んだ未来像が示されていた。
実際にカーシェアは始まっているが、無人運転技術によりライドシェアサービスは消えてしまう、という予想もあったので紹介。
端的に言えば、AppleやAmazonといった企業が、それぞれのサービス体系の中においてクルマを撒き餌的に扱うこともありうる、という話である。端末やハードでなくプラットフォームやサービスで儲ける、という彼ら得意の戦略がクルマにも適用されたら、というifだ。
どれだけ現実的かはわからないけど、クルマを巡るビジネスモデルも一変してもおかしくないので注目したい。
ビジネスモデルと言えば目が離せないのが中国だ。シェア自転車や無人コンビニなど、先進的・実験的なサービスが生まれていて、さらにスピード感もある。
そんな中国の現場で取材し近未来を予測した連載がGlobal Reachで展開されていたので紹介。筆者は『中国のインターネット史』(2015)の著者で、IT・風俗両視点からのレポートに定評のある山谷剛史氏。
- 第1回:中国網絡安全法(中国サイバーセキュリティ法)で何が変わるのか
- 第2回:高齢者と子供の間でネット普及率上昇。そこにビジネスチャンスはある
- 第3回:中国のECの勢い高まる中で復活する路面店に学ぶこと
- 第4回:中国のシェアブームとO2Oブームを考える
- 第5回:中国主要ネット企業は数年内に何をするのか
- 最終回:中国人の日々の生活から近未来を予測する
特に、マクロな国家政策の方向性を最初にガッチリ押さえられるのはありがたい。そのうえで主要企業や消費者、サービスの場、現在の流行など、多視点から解説していて参考になる。
実は中国におけるデータ通信無制限プランの登場はこの1年の話のようで、スマート・サービスの発展はこれからが本番の模様。さらにモールの発展を背景にした独自サービスの出現など、今後も中国には目が離せなくなりそうだ。
近未来の予想では、技術トレンドに関する記事がいくつかあったので紹介。
エリクソン社が10都市3000万人を対象にした消費者動向調査レポート「The 10 Hot Consumer Trends for 2018 and beyond」を発表。これについて日経が2018年の10大技術トレンドとして紹介していた。
The 10 Hot Consumer Trends for 2018 and beyondより
気になる10点は以下の通りだった。「2018年」と言いつつ、消費者の機体ベースの予測であるので、実現・普及時期はもう少し先になりそう。どれも確かに「欲しい」パラダイムシフトで、ニーズベースの技術動向予測としておもしろい。なおカッコ内は私の説明。
- (1)自分の身体がユーザーインターフェースに
- (2)拡張聴覚
- (3)永遠の初心者(新技術の習得がより困難になる)
- (4)ソーシャルブロードキャスティング
- (5)AR/VRを使った広告
- (6)機械のコミュニケーション能力
- (7)余暇を楽しむ社会(自分の代わりに稼ぐロボット))
- (8)写真の世界を追体験する(VR)
- (9)上空に道を作る(ドローン等飛行体向け空路の整備)
- (10)蓄電の未来(5年以内の画期的バッテリーの登場)
インターフェイスに関しては、「AI活用が進めばスクリーンは不要に -未来のインターフェイスを考える」という記事も示唆的だった。ただし私は、技術が進歩しようともスクリーンは引き続き重要であると考える。人間の情報処理の7割が視覚に頼っているためだ。
AIの論点では「人の仕事を奪う」話もある。2016年の記事だが見つけたのは最近なのでこちらも紹介。
仕事がどうこうというよりは、未来の風景の可視化としておもしろい。歯ブラシに使った遠隔診断とか、個別化されたサイネージとか。ただ、職を奪われた人が食料配給に頼る様子は、人工知能とベーシック・インカム論にも通じていてちょっとリアル。そしてオチも…。
人工知能と資本主義の未来についてはこちらでも以前予想を紹介した。
これは私見だが、未来の生活を可視化した映像では、ヘルスケア・サービスが登場しがちだ。遠隔医療、個別化医療、予防医療、そして治療の迅速化など、現在イシューとなっている話題が実現しているものが多い。やっぱりみんな健康は気になるんだよね。
そんなヘルスケアの未来については、医療系ベンチャーをみるといいかもしれない。普及にはまだ少し時間がかかりそうだけど、彼らが「未来の普通」をつくっている。
- AIドクターからDNA検査まで、米国の最先端ヘルステック12選(Fobes,2017/10/28)
- 今後10年でヘルスケアの世界に革新的変化をもたらす14の企業(NEWSPICKS,2017/10/28)
遺伝子系サービスや、個別化系、遠隔医療系など、現在の最前線がよくわかる。
AIが仕事を奪う論で「弁理士やばいよ」という予測に対して弁理士会副会長が「そんなに単純な仕事じゃない」と反論。ひええ私も弁理士なのに「AIにできそう!」な予測記事かいてごめんなさいごめんなさい。
とは言え形あるものは消えていくのが世の理。それよりも新たに生まれる仕事を予想するのが建設的。ということでITサービス企業のコグニザントが今後5年、10年で生まれる仕事をそれぞれ予想しており、紹介したい。
今後5年で生まれる可能性のある職業:
- データ探偵
- BYO(個人所有機器活用)ITファシリテーター
- 倫理的な調達(ES)責任者
- 人工知能(AI)事業開発責任者
- エッジコンピューティング専門家
- 散歩・会話の相手
- フィットネス・コミットメント・カウンセラー
- AI支援医療技師
- サイバー都市アナリスト
- ゲノム・ポートフォリオ・ディレクター
- 人間と機械の協働責任者
- 財務健全性コーチ
- デジタル仕立屋
- 最高信用責任者(CTO)
- 量子機械学習アナリスト
今後10年で生まれる可能性のある職業:
- 仮想店舗シェルパ(案内役)
- 個人情報ブローカー
- 個人記憶キュレーター
- 拡張現実(AR)旅行構築者
- ハイウエー制御官
- 遺伝子の多様性責任者
うーんなるほど。「今はやりの先端技術+職業っぽいワード」が多い気がするが、「散歩・会話の相手」とかは本質的な気も。10年後の「個人記憶キュレーター」なんかはSF感あって好き。
コグニザント社は機械化時代の仕事に欠かせない共通点として「指導」「医療・福祉」「つながり」の3つを挙げている。「どれほど技術が進歩しても、人間である私たちは人間的な関わりを最終的に欲している」ためだ。
AIが資本主義を終わらせる論の『人工知能と経済の未来』(2017)でも、残る仕事として「マネジメント系」「ホスピタリティ系」「クリエイティブ系」の3つを挙げており、重複するところがありそう。
現状ではドローンが「蛍の光」を鳴らしながらがんばってオフィスから人を追い出してるけど、未来では我々の仕事はどうなっているのか。生まれる仕事も含めて楽しみに予想したい。
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テクノロジー系ニュースのまとめはこちらから。
- 本編:未来の世界に影響を与えるテクノロジー系ニュースまとめ・第14回(2017/10-12)(2018/1/26)
- 仮想通貨バブル崩壊の先にある、ブロックチェーンの明るい未来(2018/1/10)
- 月の裏側から火星、アルファ・ケンタウリまで、具体化する宇宙開拓計画まとめ(2018/1/14)
- 加工される生命、部品としての生体、無機物との融合(2018/1/18)
- 搭乗型・憑依型・無人型‥、ヒューマノイド・ロボットの最近の進化まとめ(2018/1/22)
ビジョン・コンセプトの次回まとめはこちらから。
1.無人配送車デザインと光合成するタイヤ/2.未来の航空戦ビジュアライズ/3.無人島のロボット生態系/4.『49日のブラックボックス』/5.イランの水耕栽培タワー構想/6.2040年の全国市町村がわかる「未来カルテ」/7.未来年表・未来の産業構造予測
前回まとめはこちらから。
1.技術が変える未来のデザイン:空間UI/モビリティ/3.レイ・カーツワイルが予測するAIと人間の未来/4.AIが突きつける「都市集中か地方分散か」の意思決定/5.使う「経済システム」「通貨」を選べる未来/6.水不足対策の氷山輸送