いなたくんへ
テクノロジーの発達により、サイボーグをはじめとする「拡張された人間」がSFではなくなっている。ウェアラブルを超える「イプランタブル」デバイスや、外骨格技術、あるいは人間のもう少し中身をハックする技術についてこれまでも紹介してきた。
この流れを汲んで今回も、最近のテクノロジー系ニュースから人間能力の拡張に関するものを挙げてみた。傾向としては、「遠い将来にはこんなことができるかも」なビジョナリーな話よりは、「実際にこんなことが実現間近!」な話が目立った。
Summary Note
1.「ウェア」ラブルと、インプランタブルデバイスの実際導入
2.認識技術との融合
3.各国軍隊で検討される外骨格技術
4.身体拡張は肉体のハードウェア的制約を超越させる
5.続く脳マシンインターフェイスへの大規模投資
なお、最新テクノロジー系ニュースまとめの本編はこちら。
ウェアラブルは「身に着けられる」の意味だが、文字通り「着る」デバイスも種々提案されている。ミツフジが提案するhamonは「ウェアラブルIoT」を掲げるタンクトップで、心電・心拍・筋電・呼吸・体温・湿度・加速度を検出できる。主な用途は患者や現場作業員の見守りで、特に後者のような従業員管理でビッグデータ取れると色々できそう。
図:ミツフジHPより
ちなみに「引っ張ると発電する糸」なんかも最近は発明されていて、非接触給電技術なども併せてバッテリ問題は解決の兆しが見えており、スマート衣類のポテンシャルは高い。ただしGoogleのスマートジャケットのように、洗えないという課題も‥。
着るんじゃなくて身体に貼ろう、という話は以前からあったが実用化傾向。実際に非接触給電技術を埋め込んだ例。
図:DGIST HPより
いや貼るのもまどろっこしい、埋めてしまえ、を実行に踏み切ったツワモノ企業も。手に埋めたチップで入退室管理や自販機決算、PCログインができるようになる。
ただし、埋め込みに同意した社員は半数にとどまったとのこと。この程度のメリットしか得られないのに同意したもう半数の社員がむしろ驚きか…。埋めることの必然性はもうちょっと欲しい。
ソフトな融合では、認識技術・提示技術を人に載せることによる認識力が拡張が起きてゆく。
次のニュースは、センサワイヤ付きグローブで指の動きを検知し、手のサインからアルファベットを認識できるというもの。手話ができない相手にも意志を伝えることができる。100ドル以下という低価格は魅力的。
図:UCサンディエゴHPより
手話というよりはアルファベットを1文字ずつデコードするものだが、さらに発展すれば実際の手話もテキスト変換可能だろう。ディープラーニングのような認識技術はすでに外国語のリアルタイム翻訳を可能にしているが、身体を使った対話も翻訳できるのは意思疎通のチャネルが広がり嬉しい。
拡張現実技術と言えばポケモンGoが流行っているが、米陸軍もSFチックなイメージ動画を公開。作戦に必要な情報や視界中のターゲットの情報などが重畳提示される。軍事利用はユースケースとしてはベタなのでサプライズはないが、SFに現実が追い付いたとみれば感慨深い。
自分以外の情報を視点として得る、という点ではソニーの研究所が提示する「視覚交換鬼ごっこ」も思い出す。軍事技術はこういうのも応用していくのかな。
未来の兵士の姿としてはロシアが公開したストームトルーパー風コンバットスーツ)が全身外骨格で物々しい。ただ、電動自転車もそうだけど、バッテリ切れたらどうするんだろうという疑問は残る。前線で故障はつらい。
その点でオーストラリア軍が導入検討中の外骨格は、貨物運搬時の負荷軽減に特化している。背骨に設けることで動きを阻害しないことが特徴。外骨格技術の軍事導入は砲弾運びから、という話は以前からあったが、やはりこのあたりから導入するのが現実的か。
- 背骨の形状を採り入れ、動きを損なわない。超軽量・特殊部隊用の戦術外骨格「UPRISE」(MILITARY BLOG,2017/7/26)
- 豪国防省が陸上戦闘員での導入に向け、MAWASHI社の背骨形状エクソスケルトン「UPRISE」を研究中(MILITARY BLOG,2017/8/23)
外骨格技術はリハビリや作業者支援を用途として民間でも普及が始まっており、サイバーダイン社などが有名だ。最近では信州大学繊維学部の成果が発表されていたので紹介。「同調制御」「相互作用トルク検出法」「非外骨格型構造」といった技術が使われている。
文字通り身体を「拡張」して見せたのが、第三の親指を追加する「The Third Thumb Project」だ。四肢を追加拡張する技術は過去にも提案されていたが、この例では無線制御される親指ユニットを6本目の指として手に付加している。制御はブーツ内の圧力センサで行うとのこと。
「道具を身体の一部として感じる」というのは比喩ではなく、脳は身体や道具を通したフィードバックを通して、それを感じたり制御する領野を動的に発達させる。ということで「6本目の指」に慣れた感覚がどんなものかは気になるが、こうした身体の拡張でおもしろいのは、一度デバイスが身体の一部となったとして、それを身体から離隔しても使いうる点だ。
この意味で、「肉体がハードウェアの制限を超える」という次のコメントは本質的で興味深い。
義体技術そのものもすごいんですが、ラスト10秒くらいで一瞬映る、「装着していない状態の義手を動かす」映像がヤバい。
なんかもう、肉体と言うハードウェアの制限を超えた感がある。 https://t.co/MxJ4HgWzRy— 岡島>10/19 黒川塾54 (@okajimania) 2017年8月25日
العلماء الحقيقيون الذين يجب احترامهم وتقديرهم.🌹 pic.twitter.com/zCjU2ahugZ
— الاكثر تاثيرا (@ArabicBest) 2017年8月24日
技術を外につけて人間能力を拡張する話だったけど、人間能力の大部分が脳内で処理されている以上、この話題はどうやっても脳のハックに行きつく。
脳内に描く映像の出力は2011年にカリフォルニア大学で実現したが、同じくfMRIを用いて、北京のブレイン・インスパイアード・インテリジェンス研究センターも新しい画像再現モデル「深層生成マルチビュー・モデル」を構築。従来よりも知覚内容を正確に再構成できるという。
ということで、思考の読み取りはもはや珍しい話ではなくなっている。こうした読み取り技術の最新研究や、あるいは夢の撮影が実現したときに起こることの予測は、これまでにもまとめた。
脳マシンインターフェイスの分野で大規模な資金投入を行うのがDARPAだ。DARPAは脳の双方向通信を含む課題について、ブラウン大学など6組織に6500万ドルの投資を決めた。
- DARPAが小型で並列性の高い双方向脳コンピューターインターフェイスの開発に6500万ドルの研究資金を提供(Techcrunch,2017/7/11)
- 米国防省が脳モデム開発に投資、「電脳化」実現へ前進(MIT Technology Review,2017/8/23)
具体的な研究テーマは、100万単位のニューロンからの信号を記録できる高分解能神経インプラントや、微小サイズの無線機器「ニューログレイン」など。いずれも侵襲技術で、イーロン・マスクのアプローチにも近そう。
実現はそう遠くはなさそうだが、医療分野を超えて一般への普及がいつごろ、どう起こるかにも注目したい。
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以上、最近のニュースから、人間能力の拡張に関するものを挙げてみた。これら技術が身近なものとして普及する日が楽しみである。
なお身体の拡張と言えば、遺伝子レベルでプログラムしてしまう話も進んでいるが、こちらは本編で紹介したい。