義務教育に「立法」の授業を

いなたくんへ

この夏大ヒットした映画『君の名は。』。違法アップロード動画が多発し、公式アカウントが違法動画の視聴者に対してTwitterで警告する事態となった。

現行著作権法では、違法動画を悪意にダウンロードする行為は違法だが、単に視聴すること自体は違法にはならない。上記アカウントに対しては、視聴者に警告しても違法動画が消えるわけではないし、むしろ違法動画の存在を拡散してそちらに視聴を誘導してしまうのでは、という指摘もある。

その一方で、権利者として違法行為を指摘する姿勢は重要であるし、一連の出来事を通して違法コンテンツの違法性がきちんと周知され、見てはいけないというコンセンサスが生まれれば、という期待もあるようだ。

小説 君の名は。 (角川文庫)

 
法律は「どんな」ではなく「なぜ」が重要

中学生や、あるいは小学生やスマートデバイスに触れ、インターネットに親しむようになったいま、著作権法はネット社会で過ごすうえで欠かせない知識の1つとなっている。このあたりは義務教育で教えるべきだと思うんだけど、もうやられているのかな。

法律を授業で扱う場合、私が期待するのは「立法」である。法律で重要なのは、「どんな」法律がそこにあるか、ではなく、「なぜ」法律がそこにあるかだと考えるからだ。Whatは結果に過ぎない。Whyに意味がある。

そう感じるのは、特許法の改正を見てきたからだ。私は理系なので法律を授業として習ったことはなくて、弁理士試験の勉強で初めてこれに触れた。受験時代も立法趣旨は参照したけど、理由があった方が条文を覚えやすいから、程度の意識だった。ところが実務で法律を「使う」ようになると、その法律が「なぜ」そこにあるかのWhyの重要に突き当たる。

 
法律は常に変化していく

特許制度は産業政策であり、特許法はテクノロジーを扱う。したがって時代に応じてその形は変化しなくてはならない。実際に特許法はほぼ毎年改正されて、実務者としてはこれを追っていく必要がある(じゃあ追えてるんですかと言われるそれはまた別の話)。

このとき重要なのが立法趣旨で、なぜ法律がそう変わったかを押さえるのが近道になる。法律が変わるのは、現場で不満や不具合が起きているからであって、立法者はこれを何とかしようと考えている。でもルールを変えると別の場所で別の不具合が出てしまうから、全体のエラーが最小限になるように、全体で見てより良くなるように、立法者は常に最新の調整を図っているのである。

特許の有効期限は出願から20年。出願される発明は未来に実現する技術であるから、未来の法的な状況も常に意識しなければならない。ここで立法者の意図がわかれば、ルールの意味がわかって、どこまでのことならやっていいのか理解できる。今回の改正では何が解決できたが、どんな未解決の問題が残っていて、今後どう変わっていくかの予想もたつ。

立法にあたっての議論は公開されていて、色んな立場の人がメリット・デメリットを比べていておもしろい。特許法の場合はこちら。

ちなみに知財制度全般では「人工知能が創作物を生み出しはじめててヤバいけど今の法律で大丈夫??」ということが議論され始めていて、けっこう刺激的。

 
Minecraftが神ゲーな理由

法改正の議論を見ると、法律って生き物で、常に変わっていくものだとよくわかる。でも変えてるのは人間で、だったら変わった結果を受け止めるんじゃなくて、自分で変えた方が楽しいだろう。私が授業として立法が必要だと考えるのは、ただ覚えるより作った方が楽しいからだ。

先日下校途中の小学生が感圧板について熱く語っているのをみた。感圧板とは箱庭ゲーム『Minecraft』に出てくるアイテムである。論理回路を構成するスイッチの一つで、キャラクターが感圧板の上に乗ると信号が走る。
次の動画は感圧板を使ったシンプルなドアの開閉回路。Minecraftはこうした解説動画の大量氾濫も文化の1つとして面白いよね。

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Minecraftの爆発的な人気は周知のとおりで、スーパーの本棚にも攻略本が並んでいたり。そこに何が書かれているかというと、建物の建築法とか、論理回路の設計法とかだったりするんだよね。Minecraftは回路設計もおもしろい要素の1つで、マスターすると色んな動くものが作れる。でも小学生にいきなり作れるはずがなくて、これを手引きしてくれるのが攻略本だ。

私は工学部の出身だが、論理回路の授業を嫌う学生も少なくなかったように思う。論理構成が複雑になっていくと、やっぱり頭が混乱するし、ただ授業を受ける段階ではそれが何の役に立つのかどうしてもピンと来なかったりするんだよね。

ところがいざモノを作ってみると、論理回路が威力を発揮する。回路構成を簡略にできたり、やりたいことを解決する方法がわかるからね。やっぱりモノづくりは「覚える」ではなく、「作りながら調べて身に着ける」が王道だと思う。

こう考えると、Minecraftの攻略本は、攻略本に扮した「教科書」と考えた方がしっくりくる。大学生でも嫌ってしまう論理回路を小学生に夢中で学ばせるなんて、神ゲー中の神ゲーではないか。うああーマイクラやりたくなってきた。最近全然やれてない。

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義務教育に「立法」の授業を

覚えるより作る方が楽しい、というのは普遍的なことだと思う。これは法律だって同じだろう。子供であればなおさら、いまあるルールを覚えるだけではなくて。未来のルールを自分たちでどう作ろうか、という技術論としてとらえた方が何倍も面白いはずだ。

そして、「知ることと作ることには大きな差があって、何かを作ろうとすると膨大な周辺知識の必要性に気付かされる。そこで世の中の問題に興味を持って、自分から調べる経験も養われる。

著作権なんてまさにこれからの世代が構築すべきルールだ。過去を生きた大人がたまたま今のルールにしたけど、「無償ダウンロードを適法にしても世の中が回る仕組み」だって作ろうと思えば作れるはずだ。知財に関しては実際に、独占を認めない方が産業・文化が発展するという仮説もある。

重要なのは、そのとき何が問題で、誰が困ってしまうのかを考えて、そしてどう解決するかを悩むことだ。法律文言はその最後の結果に過ぎない。

もちろん法律を本気で学ぶなら、歴史や体系を学ぶことは不可欠だ。法律もまたテクノロジーの1つであり、人類の英知の集積だからだ。でもそれは大学の法学部に任せればいい。最近は子供向けのプログラミング講座も増えてるけど、チューリングがどうとか、歴史を語ったりしないよね。まずは触れさせて、楽しむのが大事と思う。

ということで、私は義務教育に「立法」の授業を設けることを提案したい。受け身ではなく自分から世の中を変える、そのために何が必要かに気付ける、素敵な機会になると思う。

 

小説 君の名は。 (角川文庫) 18歳の著作権入門 (ちくまプリマー新書) 〈反〉知的独占 ―特許と著作権の経済学

 

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