いなたくんへ
日産の動く椅子「プロパイロットチェア」がすごい。飲食店の行列待ちで椅子に座って待つとき、1人入店できると隣のイスにずれて、前の人のぬくもりが伝わってきて‥、というアレを解決するイノベーション。椅子自体が移動してくれるのだ。
日産はこれ以前にも自動整列する会議室のイスを発表していた。いずれも自動運転技術の応用であり、目の付け所が素敵である。技術の日産すごい。自動運転技術は自動車・非自動車メーカーがごぞって参入しているが、どんな派生技術が生まれていくのか楽しみだ。
日産以外にも、さまざまなメーカーや機関が、未来のビジョンやコンセプトを提示している。この記事では半年間に見られたビジョンをまとめてみた。けっこうぶっ飛んだ未来像もあって想像力をかきたてられる。
Summary Note
なお、テクノロジー関連ニュースもまとめているのでこちらから。
未来のビジョンの提示でモビリティ関連が多いのはなんでだろう。こうしてコンセプト提示するのが業界の色なのか、それとも自動運転技術がそれだけの可能性を秘めているのか。まずは自動車メーカー(またはその創業者)による未来像について。
2040年頃の移動手段のコンセプトとして発表された「VISION NEXT 100」。BMDモトラッドは、可変フレームや非転倒といった特徴を備える。デザインのカッコよさもさることながら、ARゴーグルとの連携にも注目だ。
性能の詳細は下記解説記事が詳しい。
トヨタはネットワークに常時接続されるコネクティッドカーについて戦略を発表。各車両で得られるセンシングデータを収集してビッグデータ解析を行い、渋滞回避や事故防止などを含むプラットフォームサービスに注力する。
- クルマがネットワークにつながるとできること–トヨタの「コネクテッド戦略」とは(CNET Japan,2016/11/2)
- Connected戦略説明会(TOYOTA Global newsroom,2016/11/2)
説明会冒頭では未来のビジョンを示した動画も公開。小型自動運転車のシェアリング・エコノミーが実現した社会が描かれている。デザインも可変。でもデートなのに乗り合わせて現地集合ってどうなのかな。キラーコンテンツは飲み会のあとの自動帰宅とか、そっちの方向だと思うんだけど。
米国では車車間通信システムの4年の装備義務化(新車のみ)が提案されており、クルマとビッグデータの領域も競争の活発化が予想される。
イーロン・マスクのハイパーループ構想に進捗。より具体的なビジョンが示された。ハイパーループはチューブ内を走行する時速1300kmの超高速輸送手段だが、今回示されたのはその乗降シーンだ。
ユーザはスマフォで乗車予約をすると登場ポッドが割り当てられる。ポッドには客車のほかに貨車などもあり、乗車後には複数ポッドが1つのユニットを構成して、ハイパーループ内を移動する。そして到着後は一般道も走行可能。
目的地や出発時間を同じくする複数車両が連結して移動する、というのは、自動運転の隊列走行なんかにも応用できそうなアイディア。自動運転車が各家庭を出発した後、高速道路の入り口で連結して一気に進む、とか。
ハイパーループは技術的には5年以内に実現可能とのことだが、イーロン・マスクなら本当にやってくれちゃいそうで楽しみだ。
自動運転技術は移動のみならず、生活そのものをも一変させ得る。自動車メーカー以外がその未来像を提示していて興味深い。
東レは「先端材料展2016」で未来の衣服を提示。日経テクノロジー記事ではこれを「移動の未来」の切り口で紹介していた。
紹介されていたのは次の3種類。デザイン自体は正直…アレなんだけど…、でもどんな要素が未来の移動に影響を与えるのか、という動機の部分はおもしろかった。
- サイクリングウェア(燃料を使わない移動手段が一般的になるため)
- ピクニックウェア(情報化で通勤不要となり自然に親しむのが主流化するため)
- 寝袋ウェア(AR/VR技術で移動を伴わない観光が実現するため)
テクノロジーが「移動」を変えることの影響例として、カナダ企業ボンバルディアのエンジニアが「クルマと住居のハイブリッド」のコンセプトを発表。磁力で浮遊する自律走行車がマルチエレベーターよろしく都市を移動する。そしてこの自律走行車は停車時には家の部屋の一部として機能し、オフィスや住居としても使うことができる。
クルマからドライバーが不要になったとき、車室空間が担うべき役割とは何なのか。その一例として参考になる。乗り換え不要という観点では、ハイパーループ構想もポッドがハイパーループ通過後一般道を走行できてて少し似ていた。
なお、磁力が21世紀の動力になる、という予想は物理学者ミチオ・カクの『2100年の科学ライフ』(2012)でも提示されていた。
人工知能が未来の仕事を奪う、と言われて久しいが、生まれる仕事には何があるのか。次の記事では新たに生まれる6つの職業を予想している。
6つの職業は次のもの。説明が全体的にフワッとしていてわかりにくいけど、要するに新たな技術革新の監督役のようなものが多い。
- 1)ロボット・トレーナー
- 2)センサ・システム・インテグレーター
- 3)ジェネレーティブ・デザイナー
- 4)3Dプリンタ・スペシャリスト
- 5)AR/VRエクスペリエンス・キュレーター
- 6)合成生物学者
ディープラニングも3Dプリンタは、データを入れればあとはブラックボックスで処理してくれて直ちに出力、と簡単に行くものではなく、職人的な調整が求められるのが現状だ。ロボット作業の複雑化や、センサの爆発的増加、AR/VR技術の発達が見込まれるところ、これらを高い次元で統合・監督して価値を創造する仕事、というのが予想の趣旨の様子。
例えば3番目のジェネレーティブ・デザイナーは、各種デザインツールを駆使して、最終的な成果物を導くソリューションを提供する仕事。5番目のAR/VRエクスペリエンス・キュレーターは、要するにAR/VRコンテンツのプロデューサーのような仕事。
毛色がちょっと異なるのが6番目の合成生物学者。DNA合成を駆使して医療の個人化や、あるいは住宅用材料などの非医療分野で活躍すると予想されている。
これら職業の登場は同意できるが、過渡期的な仕事という印象もぬぐえない。これら高次の仕事さえ人工知能に置き換えられたら、いよいよ技術的特異点が訪れるのかも
最後に紹介するのは少年チャンピオンで連載中のマンガ『AIの遺電子』(2015~)。ヒューマノイドと呼ばれる人工知能が人間と共存する未来を描く。
物語ではヒューマノイドは全く人間と同じ様にふるまっていて、恋もすれば成長もし、人の親にもなる。それでも機械であるからこその問題は起こるんだけど、それは人間だけの社会にも通じそうな普遍的な悩みだったりしておもしろい。
主人公はヒューマノイドの医者だがワケアリ感。心療内科も兼ねていて、AIの「ココロ」の病にも向き合ってくれる。あるとき、落語家を目指すがヒューマノイドが訪れて、蕎麦を食う演技ができないことを嘆く。ヒューマノイドは自分が機械だから、蕎麦の味を感じられないから、と悩むが、それに対して主人公は一言。
「あなたまだ前座でしょ?ハンデをなげくよりやることがあると思いますよ?」
機械に対して「あなたまだ前座でしょ?」はツボだった。安易に言い訳してはいけないのだ。この話はオチも秀逸だった。
人工生命との共存なんて現実にはまだ考えにくいけど、社会像に全く違和感がない描写力がすごい。人間側もそれなりに肉体改造していたり、自動運転が普及してたり、何気なく出てくる景色もよく描けている。
ちなみに本作では「人間」と「ヒューマノイド」のほかに「ロボット」も別途定義されて登場する。社会は人為的に21世紀並みに留められているという設定で、AIが本気を出したら社会はどう進化するのか、も今後触れられそうで興味深い。
これからも読んでいきたい。
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未来予測に関する資料やリンクはこちらのページでまとめており、これまでに見かけた未来のビジョンも蓄積している。
テクノロジー関連ニュースのまとめはこちらから。
ビジョン・コンセプトの次回まとめはこちらから。
1.未来の診察室Forward/2.自動運転の論点/3.2038年までの成長産業市場予測/4.ロボット革命が起こるまでの6ステップ/5.冨野由悠季×山崎直子の宇宙エレベーター議論と認知革命/6.宇宙旅行とデザイン
ビジョン・コンセプトの前回まとめはこちらから。
自動運転が変える街の景色/Honda Great Journeyのビックリドッキリメカ/ロールスロイスの無人船舶コントロールセンター/ARが普及した未来の景色「Hyper-Reality」/次世代人工知能技術社会実装ビジョン