人工知能は弁理士の仕事をどこまで奪えるか

いなたくんへ

人工知能が人の職を奪うと言われて久しい。翻訳はリアルタイムに実現するほど精度高いし、高収入そうな仕事の筆頭たる弁護士も一部業務を人工知能に譲っている。Watsonベースの人工知能「ROSS」は、膨大な法律資料の中から根拠をピックアップし、弁護士業務のサポートが可能だ。

さらに人工知能は作劇や小説執筆など、人間にしかできないと思われていたクリエイティブな活動にも触手を伸ばし、政府はこれに著作権を認めようとする始末。人工知能による創作と知財保護はホットな話題だ。

ところで知財業務も「AIに代替され、なくなると考える職種」の堂々2位に挙げられている。エン・ジャパンの転職コンサルタント160人による調査の結果だ。

なくなる理由は次のように紹介されていた。

  • ルールにのっとって実施する業務は、膨大な過去データで傾向を分析し、ルールを守ることが求められるためコンピューターが得意とするところ
  • 人との接点が少ないと思われる業務は代替可能

ただし同調査では「AIに代替されないと想定される職種」も調べていて、4位に「弁護士・弁理士」が挙げられている。弁理士ってモロに知財の仕事なんですけど、この矛盾はどう考えればよいのかしら。

私も弁理士の「中の人」の1人として、せっかくなのでこの仕事が人工知能に代替可能か考えてみることにした。奪われる職には諸説あるけど、まずは自分の仕事について考えてることで、人工知能による職の代替が実際にどこまで起こるのかイメージしたい。

なお知財と言ってもいろいろあるけど、この記事では特許に関する業務にフォーカスした(私が特許以外の実務に詳しくないため)。また、弁理士ってなんなの何が便利なの、という方にはこの記事で弁理士の仕事(の一部)も知ってもらえればこれ幸い。

本日7月1日は弁理士の日。@dokugakuさんの弁理士と弁理士試験のブログが「知財業界でホットなもの(又は新しいもの)」というテーマで企画記事を募集されていたので、私もこの記事で参加してみる。

Summary Note

1.中間処理は対応可能、「行間」を読んだり戦略に基づく応答案の提示は困難

2.特許調査はぜひ任せたいが、責任の所在に要注意

3.特許の価値評価はむしろ人工知能ならではの仕事かも

4.未来の視えない人工知能にコンサルティングは難しそう

5.特許議論はできそうだけど、戦略を踏まえた条件交渉は難しそう

6.特許出願明細書の作成はヒアリングを通して実現できる


1.新人はまず中間処理から!

弁理士とは「知的財産に関する専門家」であり、「他人の求めに応じ、特許等に関する特許庁における手続等の代理、これらの手続に係る事項に関する鑑定その他の事務」などを行う(弁理士法1条・4条より)。代表的な業務には新規発明の特許出願代理がある。

でも新人がいきなり出願やらせてもらえると思ったら大間違いなんだぜ。人工知能も最初は中間処理からお願いしたい。中間処理とは、出願した特許の審査手続きの対応を指す。

中間処理とは(知らない人向け)

当然ながら弁理士は代理する発明が新しいものと信じて出願するけど、特許庁審査官が調べると、それ以前に類似する技術が公開されていたりする。特許は新規発明公開の代償として認められるものだから、新しくないものや、容易な改良では特許はとれない。

「出願前のこの文献で開示済じゃねーか!」という審査官のダメ出しに対して、「いやいやこの発明はここがちょっと違うですよ」とか反論したり、あるいは請求していた権利範囲を減縮して先行文献を回避する形に書き換えることで、特許査定に結びつける。こうした審査対応は出願から特許査定の中間に行われるので「中間処理」と呼ばれる。

ちなみに特許文献を読むのはかなり眠いことがあり、特に新人にはツラい業務だ。人工知能はその心配がないのが大きなアドバンテージとなるだろう。

中間処理は人工知能に代替可能、ただし「行間」は読めない

中間処理における作業は次のように定型化できるだろう。

  • 1.出願した特許出願明細書(発明の具体的な説明)を理解する
  • 2.審査官に提示された先行文献の開示内容を理解する
  • 3.特許明細書と先行文献の差分を特定する
  • 4.出願内容(請求項)と先行文献に差があれば、審査官に反論する
  • 5.差がなければ、出願明細書の内容に基づき権利請求範囲を減縮する

なお大前提として、出願明細書や先行文献に書かれた文章から技術的内容を理解できねばならない。現時点の人工知能には難しいけど、その進化の速さを鑑みれば、文章の意図の理解はいずれ実現するだろう。

文章さえ読めれば、以上のプロセスを人工知能がこなすことは可能と思える。誤解を恐れずに言えば、中間処理とは出願した明細書と提示された先行文献との間違い探しである。差分の抽出はむしろ人工知能の得意分野と言えるだろう。

もちろん、審査官に対する反論がいつも間違い探しで済むわけではない。反論においては、文献に直接的には書かれていない技術的背景や、実際の製品で起こる技術的効果の理解が欠かせない。こうした「行間」までは人工知能には読めないので、ボトルネックになりうる。

クライアントに電話します

弁理士は代理人なので、審査対応もクライアントとのコミュニケ-ションを通して行われる。応答方針を複数作って提示したり、クライアントの実施製品を確認して、審査官に対する反論が事業方針に合っているか問い合わせねばならない。

人工知能はコールセンターを代替しつつあるほどだから会話は問題ない。中間処理では、クライアント側の担当者にオプションを示して、選んでもらえばそれでよい。修正指示を受ければ従う。

ただし、単に特許を取るだけでなく、事業戦略も考慮した方針を代理人側で考えてほしいと頼まれたら要注意だ。その応答案で製品を守れるのか、当初の権利取得の目的(例えば広告効果や融資拡大)を満たせるのか、ビジネスの影響はどうなるか、といった検討まで必要になったとき、人工知能にできるのか。これについては後述したい。


2.特許調査はぜひ人工知能に任せたい

特許調査も重要な弁理士の仕事だ。調査にはいくつかの目的がある。

  • 1.出願予定の発明に対して、先行文献にすでに開示されていないか
  • 2.実施予定の製品に対して、脅威となる他社特許が取られていないか
  • 3.脅威となる他社特許に対して、これよりも早く開示した先行文献はなかったか
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調査対象の特定はクライアントとのコミュニケーションを通じて

まずは調査対象の特定だ。他社特許は文献だからいいとして、「出願予定の発明」や「実施予定の製品」はそれが具体的に何なのかクライアントに説明してもらう必要がある。それぞれどういう特徴があって、どういう構成で成り立っているのか。

人工知能に人間とのコミュニケーションを任せられることはすでに触れた。クライアントによっては「この製品に関して問題になる他社特許ありますか」(ドン!)と製品丸ごと置いてくる場合もあるかもだけど、丁寧にQ&Aを重ねて、対象となる製品の特長がどこにあるのか聞き出したい。

文献調査は人工知能の十八番

先行文献調査は現実に特許庁が任せようとしているほどで、まさに人工知能の得意分野だ。調べる必要のある「先行文献」「他社特許」「先行文献」はいずれもデジタルデータとしてデータベース化されているから、パターン認識により調査対象と一致度の高い文献を抽出する。

「解釈」まで任せられるか

気を付けたいのは、調査対象と関連する特許や先行文献との関係が、必ずしもゼロイチでは決まらないところだ。

特許は「技術的思想」を言葉で表している。言葉には必ず解釈が生まれ、その規定する範囲には幅がある。
例えば「反射膜上の透過膜」と言ったとき、2つの膜の間に別の膜が存在することは許されるのか。言葉だけならどちらとも取れてしまう。そこで発明の趣旨や技術的意図を鑑みるなど、種々の要因を踏まえて、言葉の射程を考えていく。結局グレーになることが多いが、そのグレーが白に近いのか黒に近いのか、その判断が必要だ。最終的に決めるのは裁判官となるので、弁理士は未来の紛争を想定して冷静にリスクを判断しなければならない。

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こうした判断も、経験(機械学習)を積んだ人工知能ならある程度は可能だろう。曖昧なものでも扱えるようになった、というのが近年の人工知能のブレイクスルーであるので、グレーの度合いを評価することは不可能ではなさそうだ。具体的には、論点に関連する出願明細書の記載や、審査時の出願人の主張を抜き出し並べ、総合的に判断をする。

解釈までできれば、特許回避設計のアドバイスなども人工知能に可能となる。

ところで責任はだれが取るのか

問題になるのは責任の所在だ。解釈の結果「侵害率10%」と答えても、0%でないなら侵害訴訟を起こされる可能性は残る。そして技術や法律をめぐる環境は刻々と変化するので、非侵害と思いきや裁判でアッ!と驚く新判断が下されることも稀ではない(だから知財は面白い)。

ここでクライアントに「10%と言ってたのに訴えられたじゃないか!」と責められたとき、責任はだれが取るのか。このあたりは依頼を請け負う時点でしっかり免責しておきたい。ちなみに自動運転者が事故を起こした場合には、日本では“事業主が責任を取ることになるようだ。


3.特許の価値評価はむしろ人工知能ならではの仕事かも

すこし変わったところでは、特許の価値評価という仕事がある。特許は無形資産であるが、その価値を評価することで融資につなげたりするのだ。一部の銀行ではすでに特許に基づく融資が行われている。

ただし実際には特許単独の価値を見積もることは難しい。その特許技術が実際に使われていることの立証だけでも困難なのに、特許の価値は関係他社との関係や事業の位置づけ、契約有無などにも左右され、第三者が定量的に見積もることは容易ではない。

とはいえ可能性がないわけでもない。たとえばGoogleは特許や論文の大規模データベースを保有するとともに、現実世界のあらゆる情報を集積しようとしている。当然企業の位置づけや他社との関係も可視化されるし、ビッグデータ解析により契約関係を推測することも可能だろう。あらゆる情報を持ち、高度かつ高速に処理できるGoogleであれば、定量的な特許評価をイイ線でやってのけるかもしれない。という話は以前書いた。


4.人工知能によるコンサルティングは難しそう

弁理士の仕事は特許出願の手続き代理が主ではあるが、より上位の戦略を提言することもある。例えばある製品や事業について、何件の特許や知財権を、いかなる目的で、どのように取得していくべきなのか。必要な契約はどうなっていて、有事の際に知財権を用いて取りうるアクションには何があるのか。さらにはオープン・クローズなど、事業を勝たせるための知財戦略を提言できる。これは人工知能にできるだろうか。

人工知能(レベル1)に未来は視えない

「戦略」とは、例えば「特定の目標を達成するために、長期的視野と複合思考で力や資源を総合的に運用する技術・科学」と説明される(Wikipediaより)。特に「長期的視野」がポイントで、未来の状況を想像してそこに現実を合わせていくことが重要だ。これが人工知能には難しそう。

ミチオ・カク著『フューチャー・オブ・マインド』(2015)では動物や人の脳をアナロジーとして、人工知能のレベルを定義している。未来予測が可能な人間の脳をレベル3としたとき、パターン認識をようやく実現した現在の人工知能はレベル1、昆虫並みだ。これを未来が視えるレベルにもっていくには、さらに何段階かのブレイクスルーが必要になる。

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なお未来予測といえば、ビッグデータ解析による未来予測はたしかに実現した。ただしこれはあくまで相関関係を見ているのであって、いわば時間方向のパターンに認識に過ぎない。因果関係は全く無視されており、個別事例毎の戦略を扱うコンサルティングには向かないだろう。

以上のことを考えると、人工知能によるコンサルティングは難しいという結論になりそうだ。

戦術レベルなら手伝えるかな

人工知能によるコンサルティングといえば、最近では日立のニュースがあった。

日立製作所は2018年度をめどに海外を中心に営業人員を2万人増やす。13万人の営業人員を活用し、従来の機器・設備販売から、AI(人工知能)やビッグデータ解析などの先端技術を駆使したコンサルティング型サービスの提供に経営の軸足を移す。

日立、営業2万人増員 コンサル重視へ転換(日本経済新聞,2016/5/9)

しかしこれも提言の前段階としての分析に人工知能を利用しているのであって、人工知能がコンサルティングそのものを行っているわけではない。冒頭で紹介した弁護士補助人工知能ROSSの例に近いだろう。

おそらく人工知能は、過去の類似ケースを参照したりすることで、局所的な戦術の対応はできるだろう。しかし大局を操る戦略提言となると荷が勝ちすぎる。人工知能が建策して最終的な意思決定は人間がする、という二人三脚の状態がしばらくは続きそうだ。

なお中間処理のところでも触れたけど、特許の権利化業務においても、こうした知財戦略的判断を背景として押さえるべき場合はある。そこでは人間が優位性を発揮できる余地がありそうだ。


5.勃発するAI代理人バトル

弁理士は契約交渉の代理も認められている。弁理士法4条は「特許等若しくは技術上の秘密の売買契約、通常実施権の許諾に関する契約等の締結の代理若しくは媒介を行い、又はこれらに関する相談に応ずること」と規定する。

こうした交渉も人工知能にできるのか。一応この記事では人工知能が人語を解せる前提で進めているが、交渉における腹の探り合いは極めて人間的な仕事だ。
特許を用いた交渉は一般的に次の2つの段階からなる。

1.特許議論:なんとかできそう

特許権者は私の製品が特許を侵害すると言うけれど、それってホント?というところから確かめるのが特許議論だ。上述した「反射膜上の透過膜」の議論を延々行うわけである。
特許調査の項目で触れた通り、人工知能には特許と秘儀侵害製品との対比が可能であり、グレーな「解釈」もできることから、特許議論にもある程度耐えられると考えたい。

もちろん現在の人工知能ができるのはあくまで相関関係の分析であり、因果関係を理解できるわけではないので、もっともらしく弁説をふるうことは期待できない。それでも「出るとこに出たら結果はこうなりそうですよ」という事実は提示できるし、黒を無理やり白と見せるポジショントークも判断のバイアスを調整すれば可能だろう。

2.条件交渉:任せたいところだが

特許議論で互いのポジションがわかったら、契約範囲や料率を決める条件交渉に入る。人工知能にとって幸いなのは、交渉にはゴールがあるところだ。交渉とは両者の利益を最大化する条件のすり合わせである。折り合いがつかねば破談して訴訟ともなりうるが、基本的には合意できる場所を探り合う。

このあたりは人工知能に得意なんじゃないかと思う。むしろウェットな個人的感情を排せて、両者の条件と条件だけを突き合わせて多元多次方程式を解いていく。そのなかで「このあたりだとイケるかな」という落としどころを見つければいい。ゲーム理論の世界だ。

ただしここでも問題になるのが戦略の存在だ。契約交渉も結局は大局的戦略に基づくので、事業状況や将来のビジョンを変数として扱えねばならない。すでに述べたように、これは人工知能に苦手な分野だ。すると交渉においても、人工知能は人間に使われるツールとしての立場に甘んじることとなるだろう。

いっけぇオレの代理人!

それでも技術が進歩し、人工知能が未来のビジョンも持てるようになったら。交渉は人工知能に任せた方がよくなって、当事者がそれぞれ人工知能を持ちより戦い合わせるAI代理人バトルになるだろう。短時間で結果が出てよさげ。そして人工知能は戦いを重ねる中で経験値を増していき……おや? 代理人のようすが……??


6.弁理士業の本丸・特許出願明細書は書けるのか

話がコンサルとか交渉とか弁理士にしてはレアめの仕事に飛んじゃったけど、ここで出願の話に戻りたい。弁理士といえばやっぱり新規発明の特許出願明細書を書いてナンボだよね。これが人工知能に任せられるか。

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「試作品できたんですけど、特許になりませんか」(ドン!)

技術者はモノを作るが、彼らは売れるモノを作ろうとしているのであって、必ずしも世の中に全く新しいことを目指しているわけではない。それでもできたものは知財権で保護したいから、何かしら特許を取れないかと試作品を持ってくる。

依頼を受けた弁理士は、その試作品に新しさはあるのか、特許を取れる要素があるのか、ヒアリングを通して聞き出していく。アプローチのひとつは開発者の視点に立つことだ。試作品を作る過程でどんな工夫をしたのか、どんな課題があったのか。そこに発明は隠されている。

ところで人工知能に発明はできるのか。私はこの結論として、現実世界とのインタラクションが実現しない限りは難しいと考えている。ゼロから発明を生みだすにあたり、世の中から課題を見つけたり、実験を重ねて実証するには、現実世界に触れることが不可欠だからだ。

一方、弁理士の仕事が発明者と決定的に違うのは、そこにカタチとなった発明がある点だ。白紙からのスタートではなく、特許出願明細書に書くべき事柄はそこに在って、いかに聞き出し掘り出すかが勝負となる。

ポイントさえ抽出できれば文書化は可能

特許出願明細書は定型化された書面である。ポイントさえ押さえられれば、ヒアリングの内容を「従来例」「従来例が抱える課題」「本発明の具体的な実施方法」「変形例」「発明の効果」そして「特許請求の範囲」と、決められた項目へ埋めればよい。

腕の見せ所となるのは変形例だ。ある課題に対して、発明者は1つのベストな解決策(=発明)にこだわるかもしれない。しかしそこには応用例や派生アイディアが必ずあって、これを出願書類に含めることで権利範囲を広げられる。
変形例の抽出も「発想法」などの定型化された手法を用いて対応可能だろう。発想法は簡単に使えるものではないが、パターン認識に長けた人工知能であれば、案件や発明の状況に応じて適した質問を投げかけることができるそうだ。

トリーズ(TRIZ)の発明原理40 あらゆる問題解決に使える[科学的]思考支援ツール

あれ、書けちゃった…

うーん、元々の結論は「やっぱり発明の抽出は人工知能には難しそうですね」のつもりで、だからこの記事でも明細書作成の項目を最後に持ってきたんだけど、人工知能にも書けることになってしまった。

ちなみに上述の「いきなり試作品だけ持ってこられる」はレアなケースで、実際には発明者の方で(ある程度)ポイントを定めていたり、知財部員のいる企業であれば担当者が課題や実施例、狙う権利範囲をあらかじめ整理してくれるはずだ。人工知能はヒアリングを通して課題と解決策を認識し、上位概念から下位概念に整理して文章化すればよい。

 

まとめ

弁理士の仕事について、人工知能による代替可能性をまとめると、次のような結果になった。

  • 中間処理は対応可能、ただし文献の「行間」を読んだり、戦略に基づく応答案の提示は困難
  • 特許調査はぜひ任せたいが、責任の所在に要注意
  • 特許の価値評価はむしろ人工知能ならではの仕事かも
  • 未来の視えない人工知能にコンサルティングは難しそう、ツールとしてなら使えるか
  • 特許議論はできそうだけど、戦略を踏まえた条件交渉は難しそうで、ここでもツールに甘んじる
  • 特許出願明細書の作成はヒアリングを通して実現できる

本当にできるの?

いちおう予防線として書いとくと、この記事では人工知能の能力をある程度過大に評価した。つまり、各イシューについてなるべく「人工知能にもできる」側にバイアスを振って考えてみた。できない理由を考えるのはいくらでもできるし、それでは思考実験の意味がない。
人工知能の認識能力向上は目覚ましく、人間を凌駕する分野も現れている。特に近年のブレイクスルーは「あいまいさ」を扱えるようになったというもので、したがって法解釈まで可能なものと仮定した。

しかし現実の仕事は甘いものではなく「なんとかそれなりに形になってます」では許されない。今回紹介した各業務についても、人工知能は見た目を整えることはできても、細かい精度を出していけるかは疑問が残る。そしてその細かさや精度こそが専門家に求められる成果なのだ。

特許の仕事は投資である。調査でも明細書作成でも中間処理でも、大勢に影響しないような最後のこだわりが、10年後の事業支援に活きてきたりする。このことを考えると、私は人工知能が弁理士の仕事を代替できるとは思わない。

人工知能に得意な仕事と苦手な仕事

ある程度「利用」ができそうなのは、やはり定型化可能な業務だろう。これは特許庁の人工知能導入や、各界での補助ツールとしての採用が物語っている。
一方、次の要素が求められる仕事では、現在の人工知能にはハードルを感じる場面もありそうだ。

  • 未来予測が必要な仕事(戦略提言、戦略に基づく業務)
  • 因果関係を扱うもの仕事(交渉での議論、戦略提言)
  • 現実世界とのインタラクションが必要な仕事(発明抽出)

弁理士の仕事を増やしていこう

ここまで人工知能に弁理士の仕事を代替できるか考えてきた。でももっと重要なのは新しい仕事の創出だろう。現在の人工知能はまだレベル1だが、高度なパターン認識を実現し、相関分析に基づく未来予測も可能になった。たとえば大量の文献の流れから意味を見出したり、人間では気付けない課題を拾うといった、人工知能ならではの活用法があるだろう。

構造化された文献の集合である特許を扱える人工知能は、知財の仕事との相性はものすごくいいはずなのだ。そこには大きな可能性が眠っているはずで、仕事を奪われることに怯えるのではなく、彼らとともに新たな価値を生み出すことを目指したい。

おわりに

この記事は弁理士と弁理士試験のブログさんが企画した7月1日「弁理士の日」の記事として、「知財業界でホットなもの(又は新しいもの)」のテーマで書いてみた。こういうブログイベントって一度参加してみたかったので、とてもうれしい。声をかけていただき感謝である。ホントはキリ番ゲットとかBBSとかもやりたいんだけど、さすがにそれは時代遅れなのでやらない。

なお、弁理士の仕事と人工知能というテーマでは他にも書かれている方がいたので、ここに参考掲載しておく。

 

フューチャー・オブ・マインド―心の未来を科学する キャリアアップのための 知財実務のセオリー ―技術を権利化する戦略と実行― Practice of IP for career Dev. (ビジネスセオリー) AI時代の勝者と敗者

 

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