未来の世界に影響を与えるテクノロジー系ニュースまとめ・第8回(2016/4-6)

いなたくんへ

地球の衛星が、月に加えてもう1つ発見された。「2016 HO3」と名付けられたそれは地球から約1450万~3860万キロの位置にあり、地球と似た軌道で太陽を公転しているという。大きさは幅40~100メートルほどと小さく、正しくは「準衛星」または「地球近傍小惑星」と呼ばれる。そんな天体が在ったなんて、宇宙SFのモチーフとして想像力が膨らむ。

一方ミクロの世界では、原子番号113番の元素が生成され、日本にちなんで「ニホニウム」の名が付けられた。元素への命名は日本では初の快挙だ。元素記号案は「Nh」とのこと。

「N」つながりで身近な世界にスケールを戻すと、Andoroid OSの最新バージョンとなるAndroid Nのコードネームが決定された。これまでの”K”itkat、”L”olipop、”M”arshmallowとも発表前にはどんなお菓子になるのか議論が交わされてきたけど、Nは次の一択しかありないので消化試合感。

と思いきや「Nougat(ヌガー)」だってさ。なんだそれ。ねってもおいしくなさそう。

という感じでサイエンスやテクノロジーの世界では色々なことが起きており、今回もこの3ヶ月の出来事をまとめてみた。
普及目前のVRは、裁判所での利用や失禁体験など、ゲーム以外の用途もアツい。そしてパラサイトヒューマンなる技術も紹介。人工知能は引き続き急成長を遂げており、自動彩色をはじめ驚くべき成果を見せてくれる。進化といえば自己繁殖するロボットや3Dプリンタで作れたり作られたりするロボットも登場した。バイオや先端デバイスでも驚異的な技術が現れていて、将来への影響を考えるうえで必見である。


1.超絶進化中のセキュリティ技術が社会から隠し事を奪う

最初の話題はセキュリティ。世界各地でテロが頻発する中、カメラの認識技術の進化が目覚ましい。NECは成田国際空港職員向けに、顔認証で本人確認を行うゲートを発表。IDカードの提示が不要になり、なりすましを防止できる。

カメラは「顔」だけでなく、対象者の精神状態までも看破する。ロシアで開発された画像解析システム「DEFENDER-X」は顔の皮膚や眼球、口元などの動きを解析し、「攻撃的」「緊張」など50パターンに色分けして提示できる。ソチ五輪の不審者検出に威力を発揮したそうで、日本も4年後の東京五輪に向けて導入するようだ。

精神状態を色分けして見せるというのはわかりやすいが、撮られる側としては心の中を見られるようでキモチワルイ、という向きもいるだろう。このシステムが街の監視カメラにも普及したら、キレイなお姉さんとすれ違っても過度な妄想は控えたい。

隠し事のできない社会へ

一方イスラエルの研究チームは、暗号解読中のPCのノイズを解析することで、10メートル離れた場所から暗号カギを盗み出すことに成功した。これ喫茶店の隣の席から盗めちゃうってことだよね。やばい。
スパイ技術に長けるイスラエルは以前もポテトチップスの袋をハイスピードカメラで撮影してその微振動を解析することで防音ガラス越しの会話を盗聴したり、とにかくやばい。標的にされたらまず隠し事は難しそうだ。

そして「明るい北朝鮮」とも呼ばれる独裁国家シンガポールでは、銀行が不正な取引の監視に人工知能を投入。これは不審なトラフィックのパターン認識に過ぎないが、今後の監視分野での人工知能の活躍が垣間見れる事例だ。

テクノロジーの前ではもはや隠し事はできない。すかしっ屁も見えてるよ。

ブロックチェーン技術の応用に期待

企業側は政府権力からユーザの秘密を守る努力をしてくれていて、例えばAppleは米政府への情報提供を拒んだり、Twitterは米情報機関による投稿データの分析を不可とするなどしている。

一方、すべてが公開されることで信用を担保し、政府の統制から脱するとされるのがビットコインだ。長らく謎とされてきた発明者ナカモトサトシの正体判明は大きなニュースであるので触れておく。日本人ではなく、オーストラリア人のクレイグ・ライト氏だった。

ビットコイン自体は中国で掘られまくって社会実験としては失敗とも言われてるけど、ビットコインを成立させたブロックチェーン技術は例えば契約履歴を記録できるなど応用可能性が大きく、今後の発展に注目である。ブロックチェーンの仕組みは「ブロックチェーンを2分で理解する動画」(Youtube)が参考になる(日本語解説記事はこちら)。

ゲーミフィケーション「芝麻信用」がアツい!

さて、社会のセキュリティといえば一歩先んじるのが中国だ。

「芝麻信用」は次の記事がわかりやすい。クレジットスコアと対比して「社会信用スコア」と紹介されており、要するに日常における素行をスコア化したものと言える。

「社会信用スコア」を用いることで、傘を返す確率が高い人にだけ貸すことができ、借りた人もスコアを上げたいのできちんと返す。「社会信用スコア」が1つの保障となり、またインセンティブとなって、社会に好循環が生まれるわけだ。これは秩序向上にあたり素晴らしい仕組みである。「芝麻信用」は一種のゲーミフィケーションと言え、こうした実装は今後も増えていくだろう。

ところで、ゲーミフィケーションの特性は、インセンティブ設計次第でユーザに設計者の望む行動を促せることにある。ユーザが国民で、設計者が権力であるとき何が起こるか。隣国の社会実験には引き続き注目したい。


2.薄れる現実と仮想世界の境界と、パラサイトヒューマン

ゲームと言えばいまアツいのがVR。ゲーム用VRはOculus RiftとHTC viveが上市され、秋にはPlayStation VRが豊富なコンテンツを引っさげ発売予定。Hololensを擁するMicrosoftもOculusはじめVRに対応した新型Xboxを発表するなど、期待は高まっている。

あと普及と言えばオトナ向けも引き続き盛り上がっているようですね。

気になるVRコンテンツ3選

この記事ではもう少し未来の話をしたいので、ゲームは軽く触れるに留めたい。んだけど、コンテンツが増えて気になるものもいくつかあって、少しだけ紹介したい。

まずはVR版パックマン。ゲーム黎明期の作品をVR化しただけでこれだけ楽しそうなのだから、VRの潜在力が窺い知れる。私としてはボンバーマンをVR化したら絶対面白いと確信したので誰か作れ下さい。

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ネタとしては悪代官になって町娘の帯を引っ張り高速回転させるコマバトル「よいではないかVR」も素敵。VRである必要性は不明だが、この発想に嫉妬する。

有名どころではMinecraftがGear VRに対応した。マイクラ好きとしては興味が尽きないが、これってゲームのジャンルは「ホラー」で合ってるかな。洞窟探検の恐怖はバイオハザード超えるでしょ。VR関係ないけどマイクラ実写動画も必見、音楽といい雰囲気出てます。

なおVRは子供に使わせると斜視になってしまうことがあるので注意が必要。一方でVRを逆利用して斜視を治すプログラムも。いずれにしろ身体の影響は大きそうなので気を付けたい。

拡がるVR空間とその用途

開発要素ではVR酔いの低減手法や、VR空間内での移動操作案が種々提案されており、錯覚の科学としてみてもおもしろい。移動では例えば足元にプレート置いたり身体の傾きを検出したり狭い室内で無限に歩けたり

新しい世界が仮想空間内に拓けていく中、ゲーム以外の用途も広がっている。英国裁判所による陪審員向けVRはなるほどの用途。ただしVRはあくまで現実をデフォルメしたものに過ぎないので、陪審員へのミスリードは招かぬような空間構築が重要になりそうだ。

あとはショッピングとか、マーケティング調査によれば観光にも期待が集まっている様子。ただし私はこの2つには懐疑的。リアルをVR「でも」再現するのではなく、リアルでは実現できないことをVR「だからこそ」体験できることが重要と思う。
その点で注目なのは失禁体験かなあ。なかなか現実でトライするのは難しいので、疑似体験できるのはありがたい。

パラサイトヒューマンというアプローチ

VRの項目で紹介するのが正しいかは悩ましいところだが、「パラサイトヒューマン」なる技術を耳にしたので紹介したい。人が仮想空間に行くのではなく、現実世界の人間を操作する技術で、大阪大学前田研究室が推進している。例えばセンサによる検知結果を人間の平衡感覚等に電気刺激として直接フィードバックするもので、実装例としては後ろから接近するオートバイを本人が意識せず避けられる例が挙げられていた。

PH-compressor

工学的第六感とでもいうべきか。すごい。上述の解説記事では、パラサイトヒューマンを次のように説明していた。

つまり、PHは感覚器に与える情報を加工し働きかけることで錯覚を起こさせ、行動を誘導/コントロールを可能にするインタフェースというわけです。人を遠隔で操作できる、それは人に寄生しているかのようにも表現できることから「パラサイトヒューマン(PH:Parasitic Humanoid)」と名付けられました。

Seamless記事より

人間を操作する技術としては、以前には脳と脳をつないで別室の人の身体を遠隔操作する技術とか、最近では脳からの信号を電気刺激に変えて、マヒした腕を脊髄を介さずに直接動かす技術があった。今後の可能性が大きそうな分野である。


3.モビリティが現実世界を闊歩する未来(ロボット・自動運転)

人がクルマを避ける例を紹介したが、自動運転が普及すればその必要もなくなるだろう。自動車関連で驚いたニュースの1つはトヨタによるボストン・ダイナミクスの買収だ。トヨタは人工知能研究にも力を入れており、例えば危険時に運転をドライバーから移譲する技術「Guardian Angel」などを開発(名前がちょっと厨二的)。人工知能とロボティクスがどう活かされるのか注目したい。

そんなボストンダイナミクスはイヌ型、ヒト型に続いて、…なんだろコレ、トリ型?恐竜型?4足歩行の家庭用ロボット「SoptMini」を公開した。うーんキモいカワイイ。

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なおキモいと言えば、人型ロボットがなぜ不自然なのかについて演出家視点での言及が興味深い。ポイントは「無駄な動き」の有無にあるようだ。

ロボット、自動運転、そしてドローンについて、他にもいくつかニュースを紹介。

ロボットがロボットを生む

ロボットの製造プロセスに人間は要らなくなるかもしれない。「モノづくり」が人間自身の手から離れることを示唆するニュースがいくつかあった。
1つは3Dプリンタによるロボットの出力で、必要な部材が組み立てられた状態で出力できる。あるいはロボット自身がが3Dプリンタというのもあって、自動車や船舶、航空機の製造に期待されているという。
また、繁殖するロボットの実験「Robot Baby」プロジェクトでは、ロボット同士が相性を確かめ合って、両者のハードウェアを融合させてキメラを作る。

「Robot Baby」プロジェクトは、メモリ空間で淘汰を繰り返す人工生命プログラム「Tierra」を彷彿させる。ミチオ・カク著『2100年の科学ライフ』(2012)はナノマシンが野生化して自然界で生態系を作るグレイ・グーを予想していたが、そんな事態も現実になるかも。どんな野良ロボットが現れるのか楽しみだ。

なおロシアでは人工知能を備えたロボットが脱走、野良ロボットとなるも捕獲されスクラップにされた。生まれてきたのが早すぎたね。。

自動運転車の隊列走行が物流を変える

自動運転は各社レベルを上げるべく鋭意開発中であるが、特に気になったのはトラックの隊列走行だ。複数台の車両を隊列として自動走行させる技術で、欧州横断に成功し、日本でも実験を始めるという。また、ダイムラーはトラックを「移動するデータセンター」と定義し、ビッグデータ解析とあわせて物流効率化に意欲を燃やしている。

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トラックの隊列自動走行は一般車の自動運転化に比べれば地味に聞こえるけど、社会に対する影響は大きそう。物流が変わることはもちろん、列車の代わりにもなりうるだろう。いずれ路上のすべての自動車が協働すれば、目的地までノンストップで辿り着くのも夢ではない。線路がないので経路の自由度も高い。

もしかしたら50年後の公共事業は駅と線路の撤去になってたりして。そのころには都市と都市の関係も変わるだろう。

運転支援車による初の死亡事故

自動運転車の事故も起き始めていて、最近ではテスラのモデルSがオートパイロット中に死亡事故を起こした。もっともこれは運転「支援」中のよそ見によるもので、国交省はこうした場合の責任は運転者が負うとしている。なお、完全自動運転の場合の自己責任は事業者が負うことも示されている。
責任問題はしばらく議論になりそうだが、自動運転が普及すると人間による運転が違法になるという予想もある。どうなるだろう。2030年には、自動運転システムを有する車両の販売台数が1000万台に上るとされる(ただしレベル4の完全自律運転車は56万台)。

空も飛べるはず

空飛ぶ自動車は少なくとも昨年10月時点でカリフォルニア州ヒルバレーで普及しており今さら感だが、さらに各種の飛行型モビリティが提案されている。その1つAerofexは地上3メートルを72km/hで飛べるバイクだ。ワッパかな。乗ってみたい!

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空飛ぶクルマに対してはGoogle創業者のラリー・ペイジも1億ドル以上を投資。あとこちらも昨年に続いてだけど、ホバーボード開発も流行の様子。これとかこれとか。

ドローン開発は順調に進捗、「ソロモンの亡霊」プロトタイプも

空と言えばドローンだけどこの3か月は寡聞にしてあまり目立ったニュースを聞かなかった。ドローン配送は千葉県での実証をはじめ世界各地で行われていて、Facebookのネット中継用ドローンも初飛行に成功し、英ヒースロー空港では着陸態勢のブリティッシュ・エアウェイズ機に突っ込むなど、順調の模様。また、米軍は空中発射型ドローンの編隊飛行プロジェクトを開始した。

気になるところでは脳波コントロール型ドローン「Orbit」とか。脳波操作型の何が良いかと言うと、ミノフスキー粒子の影響を受けないんですね。刻がみえる人には特におススメ。

●日本未発売●NeuroSky社製 MindWave Mobile With Puzzlebox Orbit ヘリコプター[Mobile Edition]

政府が作成したドローンの技術開発ロードマップは、物流、災害対応、インフラ維持、測量など応用分野が整理されててわかりやすい。ドローンを使ったソリューションでは、地味だけど鹿の頭数を数えるなんて用途もおもしろそうだ。


4.人工知能の成長が今日も健やかすぎてすごい(自動彩色・発明・DQN)

ロボットや自動運転に欠かせないのが人工知能だ。ソフトバンクの孫正義社長によれば、人工知能のIQは10000にのぼるという。10000やばい。私も人類の端くれとして、フリーザの戦闘力を聞いたかの如き絶望感を禁じ得ない。

戦闘力は実際高くて、人工知能「Alpha」の操る無人戦闘機は空戦シミュレータでベテランパイロット(米空軍大佐)を破っている。なお、無人兵器の規制はずいぶん前から議論されていて、この4月にも特定通常兵器使用禁止条約(CCW)の専門家会合がスイスで行われたようだけど、禁止の合意に達するするにはまだしばらく時間がかかりそうだ。

モノクロ画のカラー化がすごい

現在の人工知能が優れているのが認識力。人間に読み取れないシグナルも汲み取れる。この3ヶ月で驚いたのはモノクロ画像の自動彩色だ。早稲田大学による成果で、ディープラーニングを用いることで古い白黒写真のカラー化に成功した。自動彩色のソースコードはGitHabで公開されており、誰でも活用可能である。私も祖父の遺した写真のカラー化でもしてみようかな。

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早稲田大学HPより

さらには動画にも対応可能で、1953年の名作『ローマの休日』がカラー化されたりした。

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機械学習はほかにも、「作風」を学習することでレンブラントの新作を公開したり、あるいは古文書の解析に使われるなど、応用分野は様々である。人工知能がこうして新しい発見や芸術を見せてくれることは、素直に楽しみだ。

創作と発明もできる人工知能が人間の仕事を奪う

機械であるので、絨毯爆撃的に膨大な組み合わせを調べられるのも強みとなる。成功可能性の高い化学合成方法を見つけた例は人工知能ならではの応用例と言えるだろう。さらには、2001年ノーベル物理学賞受賞の理由となったボース=アインシュタイン凝縮実験を、人間とは異なる方法で1時間足らずで再現できたという。

圧倒的組み合わせ力と認識力は、人工知能が人間に先んじて創作や発明を行うようになるのでは、という懸念を生む。政府はこの問題に備えるため、人工知能の創作物に著作権を認めることの検討を始めた。このあたりは次の記事でも紹介した。

でも人間も一矢報いていて、りんなちゃんとのしりとり対決で人間(高校生)が勝利したのは素晴らしいと思う。

人工知能が人間の仕事が奪うことの議論は引き続きなされているが、米ジョージア工科大でアシスタント・ティーチャーを人間から人工知能に置き換えても5ヶ月間気付かれなかったというのは結構衝撃的な出来事。チューリングテストはもう楽勝で突破されてるのね。

DQNを擁するGoogleが家庭に忍び寄る

DQNの最近の動向をみると、3Dサッカーゲームとかアクションパズルゲームにいそしんでいる様子。DQNとはGoogleが開発する人工知能で、Deep Q-Networkの略称だ。
そのGoogleは人工知能でお茶の間に進出すると宣言しており、キープレイヤーの動向として注目である。年内発表予定の「Google Home」は音声認識により家電を操作できる人工知能搭載のガジェットだ。

Googleと言えば、サーモスタットを開発するNESTを32億ドルもの金額で買収したことがある。日本ではなじみがないが、空調管理を行うサーモスタットは米国ではメジャーな家電だ。家の中心にあって様々な家電のハブとなりうることから、32億ドルの買収額はスマートホームビジネスを視野に入れた場合の付加価値であると推測されていた。

お茶の間のど真ん中を狙う「Google Home」も戦略としてはNESTを彷彿させる。AlphaGOを開発し、人工知能専用チップまで開発するGoogleは「モバイルファースト」から「AIファースト」へのシフトを掲げた。人工知能の収益化の次の一手に目が離せない。

なおGoogleは人工知能にポエムも作らせているけどこれは不評だった模様


5.知り合いのスーパーハッカーに頼んでお前をライフハック(物理)する未来

機械の進化もすごいけど、生命の加工技術も目を見張る。たとえばiPS細胞をによる毛が生え汗もかく皮膚再生技術とか。やはりバイオ技術を用いた製品で市場に先鞭をつけるのは「毛」にまつわるものなのかな。ハズれなさそう。

死者の蘇生も現実になりそう。バイオクオーク社によれば、脳死患者に対して脳幹細胞や各種ペプチドを注入し、神経刺激などを行うことで、蘇生できる可能性があるという。将来的にはザオリク級の蘇生率を目指すとのこと。

日本で遺伝子検査の認証制度がスタート

生死のコントロールが実現して影響が大きそうなのは保険分野だ。明治安田生命は遺伝情報を保険に活用することを検討している

個人診断を可能にするラボ・オン・チップ技術も進んでいて、例えばこの3か月ではスマフォで精子のセルフチェックとか。個人向けの遺伝子検査サービスも普及しており、これに合わせて日本では個人遺伝情報取扱協議会が認証制度をスタートした。

遺伝子検査サービスは、病気のリスクだけでなく祖先の来歴とかも教えてくれておもしろい。ちなみに私の家系(におけるマジョリティの血)はインドを経て、中国南部の稲作地帯から日本に渡ってきたようだ。かれこれ数千年にわたり米を作り続けてきたことになる(が、それも私の代で終わりか‥)。

こうしたセンシティブな情報が保険に活用されるのはさすがに怖いので、情報の取り扱いにはぜひ気を付けていただきたい。いずれは漏れるんだろうけど。
なお、実際に遺伝子検査サービスを使うとわかるけど、病気の発症リスクや死亡リスクは研究に進捗があるたび変化する。最近では遺伝子編集技術によりHIV克服の可能性が示されたり先天的な疾病の治療薬開発が進むなど、医療の世界は日進月歩だ。むしろそこを利用して保険料をせしめる手法なんかも出てきたりして。

遺伝子のプログラミングが身近になる

そんな遺伝子工学の分野で影響の大きそうなニュースは、「細胞のプログラミング言語」の開発だ。米マサチューセッツ工科大によるもので、大腸菌への機能付加をテキストベースでプログラムでき、遺伝子工学の知識がない高校生でも組めるという。今後は大腸菌以外とも互換性を持たせる予定とのこと。

この影響はコンピュータ・プログラムの歴史を思い出せば明らかだ。当初は機械語での構築が行われていたが、プログラミング言語の登場により英語で機械を扱えるようになって、ソフトウェア開発のハードルが一気に下がった。これと同様の変化が遺伝子工学にも起きる可能性があるわけだ。当該言語の今後の発展には注目したい、「知り合いのスーパーハッカーに頼んでお前をハック」の言葉が生命への脅迫を示唆する21世紀。未来はすぐそこに。

なお遺伝子編集に関して、日本でもヒト受精卵の改変が容認された。国内での技術の発展も楽しみである。


6.現実世界に溶ける先端デバイスと、食品や人体も刷れる3Dプリンタ

DNAは先端デバイス分野での応用も期待される。マイクロソフトはDNAを合成して情報保存を行うDNAメモリ技術に投資した。2013年には2.2ペタバイトの情報を1gに埋め込む技術も開発されているが、集積度ではグラム当たり1ゼタバイトを目指すことができ、情報の数千年単位での長期保存も可能だ。

分子生物学者スティーヴン・フリーランドとローレンス・ハーストの実験によれば、化学的に成り立ちうる遺伝子コード2億7千万種の中でも、DNAが最も効率的な符号化方法であるという。つまりDNAが生命の情報担体として歴史に登場したのは必然なのだ。これを記録媒体として工学的に利用できれば、情報技術の一つの到達点となるだろう。

デバイスが現実世界に溶けていく

先端デバイスでは小型化・薄型化がやばかった。コンピュータ構成ではバッテリ不要の小型コンピュータや、1gの超小型SSDなど。特にバッテリの制約から逃れるのは影響が大きく、IoT用の端末として活躍しそう。今後さらにさらに小さくなって、いずれ見えなくなるのかな。

また、カメラ、ディスプレイ、太陽電池、ベニヤ板について薄型化や高機能化が進んでいる。というかシート状のカメラが驚異的すぎた。カメラをそこまで薄くできるのか‥。太陽電池については雨水でも発電できるパネルが登場しており、年間の発電効率の大幅な向上に期待である。

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改めての感想だけど、デバイスの小型化・薄型化がやばい。このまま溶けてしまうんじゃないかと思ってしまう。デバイスの存在を意識しない時代は遠いものではなさそうだ。

なおデバイスで気になるところではE-Inkがフルカラー電子ペーパーが発表されたので、早く電子書籍でカラー雑誌を読ませろ下さい。

3Dプリンタの用途は食品やバイオにも広がっている

加工技術では3Dプリンタの用途がますます広がっていて、1万円の超低価格プリンタ「101Hero」とか、6種の複合素材を扱えるフルカラー3Dプリンタ「Stratasys J750」とか。電子回路も家庭で刷れるよ。

そんな中おいしそうな話題が食品の3Dプリンティング。Natural Machinesは2016年以降に2000ドル程度で個人向け食品加工用3Dプリンタを発売するとしている。食品用3Dプリンタは米軍も導入していてピザの出力に活躍中。栄養素をコントロールできるらしい。ピザとかプリントアウトしやすそう。
造形の美しさでは角砂糖の3Dプリントも素晴らしかった。3Dプリンタにしか作れない構造というのがあって、たとえば新種の電子バイオリンが提案されていたりする。料理についても同様に、21世紀には新しいレシピが生まれるかもしれない。

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3DSYSTEMS HPのGalaryは必見

ギョッとするものでは幹細胞とのコラボレーションも。3Dプリンタにより出力した骨子に沿ってヒトの幹細胞を成長させ、「手」を作り出そうとしているという(ちなみにヒト幹細胞はオンラインで買えるらしい)。将来はこうして人体が再現されていくんだろうか。「アート」で片付けきれない実験だ。

人体では、NASAは低粘度インクを用いた臓器モデルの造形に微小重力下で成功した。3Dプリンタの宇宙における活用例としてみても面白い。

3Dプリンタで影響がありそうなのは、3Dプリンタの造形物の材料や物性をデータベース化する試みだ。加工装置が進化するだけでなく、加工対象の性質も整理され、公開されていくことで、自由なモノづくりの世界が大きく進んでいくように思う。

なお自由と言えば、3Dプリンタによる紙飛行機自動生産器も色んな意味で自由だった。やりたい!

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7.宇宙旅行がいよいよ身近になり、深宇宙探査も本格化か

宇宙開発ではこの3ヶ月でも民間企業が躍進、ロケットの再着陸が立て続けに成功している。再着陸機開発の目的は打ち上げコストの減少にあり、実際にどこまで安くなるのか期待したい。宇宙ホテルも2020年に運営を開始するとのことで、いよいよ宇宙が身近になってきた。ホテルに使われる膨張式モジュールはすでにスペースX社により宇宙に運ばれている。

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日本の民間企業も活躍の兆し

なお民間企業と言えば日本ではホリエモンがこの夏にいよいよロケットを打ち上げるとのこと。日本初として成果に期待大だ。
また鹿島は、月で2030年頃、火星で2040年頃に稼働できる有人施設の建設に向け、全自動建機を開発すると発表。ダム建設で実証した技術を応用するとのことで、JAXAと連携して取り組む。自動運転の技術も活きてくるのかな。宇宙での有人基地実現に向けて楽しみなニュースだ。

国家による宇宙開発では、インドが低コストの再使用型宇宙往還機(シャトル型)の再突入実験に成功したり、衛星20基の同時打ち上げを達成したり、ルクセンブルクが小惑星探査を表明するなど、これまでの宇宙開発主要国以外の成果や野心も目立ってきている。

そして外宇宙へ

地球から太陽系外への探査もにわかに熱を帯びている。ホーキング博士やマーク・ザッカーバーグなどが出資する小型探査機ナノクラフトは、光速の1/5という高速で飛ぶ探査機だ。レーザ推進式で、太陽系から最も近い恒星系アルファ・ケンタウリ(地球から4.3光年)までわずか20年で到達できるという。また、NASAや米議会も太陽系外の探査に注目していて、10年後、あるいは20年後になるかもしれないが、いよいよ深宇宙探査が本格化するかもしれない。

太陽系外の観測では、NASAは1284個の惑星を新たに確認、地球型の惑星も9つ含まれているという。最も近いものはわずか11光年の距離ということで、ホーキング博士のナノシップなら50年くらいで着けるのかな。

『2100年の科学ライフ』(2012)は、宇宙における先進文明の発見は今世紀中に起こると予想していた。冒頭で紹介した地球の「準衛星」の発見も興味深かったが、今後も観測技術が向上し、発見が続いていけば、知的生命体の発見が100年以内にあるというのはおかしな話ではない。


8.この3ヶ月で気になった素敵なガジェットたち

最後に、この3ヶ月で見かけた素敵なガジェットをご紹介。この紹介も恒例になってきた。

アレルギーに反応する浮世絵ステッカー

外国人観光客の増える中、蕎麦アレルギー対策として開発された浮世絵ステッカーがかっこいい。札幌の「230そば推進委員会」によるもので、浮世絵風ステッカーを身体に捺し、蕎麦湯をかけて赤く反応したらアレルギーがあることになる。この各種デザインが浮世絵風でとにかく素敵。

低解像度女子を攻略する恋愛シミュレーションゲーム」

「どとこい」は低解像女子を攻略する恋愛ゲーム。低解像度とは文字通り低解像で、ヒロインは出現時には1ピクセルの正方形ドットで表現される。色が違うのがせめてもの個性か‥。そして好感度を上げていくと解像度が上がり、顔が判別できるようになっていく。

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どとこいHPより、ゲーム画面のスクリーンショット

「人は外見じゃない」とは言うけれど、ちょっと考えさせられるゲームだ。ゲームなので結局みんなカワイく描かれてるんだろうけど、このアイディアはおもしろい。よく考えるなあ。

デジタル表示の日時計「Digital Sundial」

Digital Sundialは電気を使わないデジタル日時計。とだけ聞くと意味不明だけど、その様子を見ると一目瞭然。手作業では到底難そうな造形だけど、3Dプリンタなら設計できる。それにしてもこのアイディアはまさに慧眼。3Dプリンタが普及すると、こうした素敵なガジェットが益々増えていくだろう。かっこいい。

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以上、2016年4月~6月におけるテクノロジー系ニュースについて、未来に影響のありそうなものをまとめてみた。

Togetterでもテクノロジー系のTweetをまとめているのでこちらから。

前回3ヶ月のニュースのまとめはこちらから。
1.アダルトコンテンツが2016年のVR普及を牽引/2.遺伝子操作による恐竜再現と細胞にも宿る記憶/3.囲碁を制した人工知能はショートショートでデビューを目論む/4.自動運転車の公道走行@2020年に道筋/5.人も乗れるドローンは未来の交通事情を変える/6.民間宇宙機でシャトル型復活と各国の2030年までの有人月面探査/7.中国版1984と日本のオープンサイエンス推進、ムーアの法則終焉/8.面白ガジェットたち

次回3ヶ月のまとめはこちらから。
1.Pokemon Goと現実拡張権/2.ウェブ上の知財をめぐる法律問題/3.宇宙産業ビジョンと2020年火星有人飛行/4.地球型惑星発見とエウロパの間欠泉/5.ゲノム人工編集の合成生物とヒト細胞の放射線耐性向上/6.パラリンピック記録が五輪を上回る/7.レールガンと艦隊の砲戦復活/8.もんじゅ廃炉と次世代エネルギー技術

 

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