未来の世界に影響を与えるテクノロジー系ニュース7選・第1回(2014年7~9月)

日進月歩とはよく言ったもので、科学技術研究の成果は1日また1日と日を経る毎に、着実に前へ進んでいるようです。
今回、2014年7月から9月のテクノロジー系ニュースをピックアップしてみました。改めて俯瞰すると、この3ヶ月だけでも実に色々なことが起きています。ここでは、3ヶ月におけるテクノロジー系ニュースの中から、特におもしろそうなものをまとめました。

選定では「未来の世界に影響があるかどうか」を考慮しました。一体何が未来に対して影響あるかは主観にはなってしまいますが、選ぶ基準が「おもしろそうかどうか」とかだと漠然としすぎだったので‥。未来に影響を及ぼすテクノロジーはいくつかの本で予想されており、これらも参考にしています。

なお、3ヶ月としましたが、初出がそれ以前のニュースでも、私がこの3ヶ月で初めて目にしたものは今回取り上げてます。

Summary Note

1.機能する臓器の自己再生と、人工脳の作成

2.脳内部へのアクセスがさらに進む

3.第2世代ニューロ・チップ発表と量子コンピュータの開発

4.自動運転技術やドローン、ロボットの開発が実用化に向けて進捗

5.極小化・着られる化が進むウェアラブル・IoTの要素技術

6.人工ラグーンの潮力発電と、窓に貼れる太陽電池フィルム

7.出荷をはじめた世界最大級の植物工場


1.機能する臓器の自己再生と、人工脳の作成

今後大きな発展が期待される科学技術分野の1つが「医療」です。特に再生医療分野でこの数年矢継ぎ早に成果が得られており、ヒトの寿命や健康の未来に大きな影響がありそうです。

この3ヶ月の間では、臓器の再生に関して次のようなニュースがありました。
マウスの体内で、特定のタンパク質を発現させることにより、胸腺と呼ばれるリンパ器官の再生に成功したというものです。これまでも臓器の人工生成はされていますが、正常に機能する形での生成は今回が初めてとのこと。ただし、ヒトに移植する場合の拒絶反応や癌化といった課題は残るので、さらなる成果に期待です。

臓器だけでなく脳の人工作成も進んでいます。
次のニュースは、スポンジ状物質にラットの神経細胞を培養することで、6層の立体構造をもつ人工脳が作成できたというものです。6層はそれぞれ異なるタイプのニューロンを持ち、全体で1.2cmまで成長し、2ヶ月間生存したとのこと。記事では脳の必要な部位ごとの作成もできる可能性があると示唆されています。

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Tufts大学HPより、スポンジ状物質に形成される6層の人工脳
脳ミソと思うと、色味がちょっと気持ち悪いです

このまま技術が進むと、ゼロベースからヒト1人創り出すことも夢ではないような、そんな気がしてきます。


2.脳内部へのアクセスがさらに進む

脳に関して興味深いニュースが続きます。

次のニュースは、遠隔地の被験者間で思考の通信に成功したというもの。
送信者側はインド南部にいて、脳波の測定をしつつ挨拶を思い浮かべます。受信者側は遠く離れたフランスにおり、脳に取り付けられた電極から微弱電流による刺激を受けることで、インドで測定された脳波を直接受信します。精度に課題はあるようですが、受信者は挨拶の声が聞こえたと報告したそうです。

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plosone.orgより

同様の実験では、米国・ブラジル間でラット同士の脳を電極で繋ぐことで、片方のラットが学習した内容を、もう片方のラットが再現できたというものがありました。他人の学習結果を継承できるなんて便利そう。

次のニュースは、脳の特定部位への光の照射で、記憶を書き換える(過去の出来事に関する感情を制御する)ことに成功したというもの。

いずれも、脳が情報処理部品であることを再認識させられるニュースです。脳の内外を意識せず情報のやり取りができる未来はどんなものか、とりあえず予習に攻殻機動隊でも見直したいところです。

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3.第2世代ニューロ・チップ発表と量子コンピュータの開発

ニューロ・コンピューティングは、脳の構造を模倣したコンピュータの可能性を探る研究です。これに関してIBMがプロセッサの開発を進めており、第2世代のチップが発表されました。

従来のノイマン型コンピュータは、予めプログラムされた命令通りに動作します。これに対して、ニューロ・コンピュータのような非ノイマン型は、人間の神経細胞のような、動的にプログラム可能な構造を備えます。これにより、状況の理解やあいまいさへの対処といった、「感覚的な」情報処理が可能になります。
アプリケーションとしては津波警報や石油漏れ監視、セキュリティ、自動運転車やロボット等が挙げられています。

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nervechip_zoom / IsaacMao

一方でグーグルも、量子プロセッサ開発のプロジェクト立上げを準備している、とされています。人工知能分野での活用が期待されており、こちらもコンピュータの性能を根本から変える可能性を秘めています。

コンピュータはその発明以来ノイマン型が主流でしたが、そろそろその歴史に大きな転換点が訪れるのかも。
人工知能の能力が全人類の知能に匹敵するのが2045年とされています。これはムーアの法則に基づく予測ですが、順調にこの未来に向かっているようです。


4.自動運転技術やドローン、ロボットの開発が実用化に向けて進捗

米国国家情報会議による未来予測をまとめた『2030年世界はこう変わる』(2013)で、未来に影響のある技術として、ロボットや自動運転技術が挙げられています。

自動運転について同書は、鉱山など人口密度の低い地域では導入が進むが、都市部への導入は難しい、と予測します。自動車の自動運転は各自動車メーカーとも力を入れているようですが、同書の予測を覆すことはできるでしょうか。

自動運転に関しては次の2つのニュースがおもしろそうでした。特にカリフォルニアでの公道走行は今後の試金石となりうるので注目です。

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無人貨物船開発を目指すProject Muninより。海の方が公道よりハードルは
低そうではありますが、多くの技術が必要だとわかります

ドローンやロボット開発も進んでいます。グーグルの大気圏衛星は以前も紹介しましたが、順調に進んでいるようですね。


5.極小化・着られる化が進むウェアラブル・IoTの要素技術

ウェアラブル技術がなお注目を集めています。ウェアラブルと、その先にありそうな「インプランタブル」なデバイスについて、研究中の技術を以前紹介しました。

上記記事で紹介した技術は未来を感じさせてくれるものばかりでしたが、他にも様々な開発が進んでいます。ウェアラブルやIoTの要素技術は、将来の私たちのライフスタイルへの影響も大きく、注目です。

装置の小型化では、無線装置の極小化が進んでおり、スタンフォード大とカリフォルニア大が低消費電力で安価の超小型無線装置を開発しました。受信24GHz/送信60GHzと高い周波数を使うことでアンテナを小型化しており、携帯電話の3~4倍の速度が出るそうです。ただし通信距離は50cmと短く、機器間通信などIoTへの活用が期待されます。

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スタンフォード大学HPより

服に電子回路を編み込む技術について、上述の記事で米陸軍開発のものを載せました。それが早くも民間企業のものになっています。ラルフローレンのバイオセンサ・シャツ「Polo tech」は、加速度計やジャイロスコープが編み込まれていて、スポーツ中の生体情報をモニタリングできます。

一方カリフォルニア大は、汗に含まれる乳酸から発電を行うタトゥー型電池を開発しました。発電量はまだ小さいようですが、他のウェアラブル端末への給電も期待されています。

ウェアラブルやIoTというと要素技術は給電、センシング、情報処理、通信など限られそうですが、技術の組み合わせ次第では、今はまだ考えられてもいないような用途が現れるかもしれません。どんな便利な世の中が来るのか楽しみです。

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Polo techとタトゥー電池の組み合わせに可能性を感じるのは、私だけではないはず
(ラルフローレンHP、American chemical society HPより)


6.人工ラグーンの潮力発電と、窓に貼れる太陽電池フィルム

今後20年における世界のエネルギー需要は50%増えるとされますが、増加分は原子力発電やシェール系燃料が補うことになりそうです。
『2030年世界はこう変わる』では、エネルギーの未来についてIEA(国際エネルギー機関)の予測を紹介していました。IEAによると、2007年から2050年までにおけるエネルギー全体に占める再生可能エネルギーの割合は、わずか4%しか伸びないとしています。

ずいぶん消極的な予想ですが、実際はどうなのでしょうか。再生可能エネルギーについて、この3ヶ月では次のようなニュースがありました。

記事によれば、英国は2020年までにエネルギーの15%を再生可能エネルギーから得るという公約を掲げており、ラグーンの潮力発電は公約実現のための技術の1つとして期待されているようです。

効率や一度にエネルギーを取り出せる規模を考えると、再生可能エネルギーはデメリットが多いのかもしれません。しかし、太陽電池フィルムもそうですが、消費される場所の近くでエネルギーを作れるなどメリットはあるので、用途の広がりに期待です。
発電量に関しては、マスに普及できれば全体として大きな発電量を獲得できるはずです。スマートグリッドなど他の要素技術の発展も重要かとは思いますが、キャズムを超えられる日はいずれ来るように思います。果たしてIEAの予想が覆るのか、今後も見守っていきます。

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Essen, Gildehofcenter II / manoftaste.de

エコ的な視点では、植物利用した燃料プラントのニュースもありました。商用とのことなので、利益を出して市場を広げ、技術を発展させてほしいですね。

発電つながりで電池のニュースも。現在主流のリチウムイオン以外の開発が進んでいます。NEDOの予測によればリチウムイオン電池の容量効率は2020年頃限界を迎えるとされており、ブレイクスルーが期待されます。


7.出荷をはじめた世界最大級の植物工場

最後に、水と食料に関するニュースです。『2030年世界はこう変わる』では、水と食料について次のような予測を載せていました。

  • 2030年の水需要は現在安定供給可能な水量を40%上回り、紛争の原因となる
  • 2030年までに食料需要は35%拡大するが、生産量は減少する

もちろん悲観的な予測だけではありません。たとえばいま世界の水供給の7割は農業用途に使われており、マイクロ灌漑などの農業技術が進歩すれば、こうした状況は改善するとしています。
水と食料に関してどのような技術革新が起こりうるのか、ニュースをまとめてみました。

まずは最近注目を浴びるようになった植物工場です。
株式会社みらいが宮城県のソニーの元半導体工場を利用して建てた農場が、世界最大級の植物工場だというもの。植物工場はクリーンルーム技術を応用して作られており、植物の成長に最適化された波長のLEDを備えます。既存の農場に比べて面積効率100倍、水の使用はわずか1%にとどまります。

記事によれば、2004年設立の同社は既に13都道府県25ヶ所以上に導入実績があり、南極昭和基地にも技術提供予定とのこと。

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株式会社みらいHP「植物工場のしくみ」より
野菜工場は富士通や東芝、パナソニックなどの電機メーカーの参入が相次いでいます。いずれも半導体製造工場の技術の転用ですね。たとえば東芝は2014年に、1つの植物工場で年間200万トンのレタスの出荷を予定しており、これは日本全体の消費量の2%になります。1つの工場で日本全体の2%って、決して少なくない数字ですよね。

農業のための要素技術としては、次のようなものもありました(※2011年の発表のようですが、この3ヶ月で見つけた記事なので載せちゃいます)。日本メビオール社開発の技術で、液体肥料の入ったフィルムで作られたバッグです。

こうした農業技術がたくさん生まれ、組み合わされていくことで、イノベーションの加速が予想されます。10年後、20年後の食品の何割が工場生産となるのか、楽しみですね。

農場の立地に関して次のようなニュースもありました。
植物工場はビル内に層状に農地を作ることから「垂直農場」とも呼ばれます。一方こちらのアイディアは、言わば空き地である海を農場化するというもの。英国のスタートアップのアイディアで、コスト(主に土地代)や輸送の点でメリットがあるようです。

そういえば紹介した人工ラグーンでの潮力発電も英国でした。英国は海の活用に積極的ですね。同じ島国の日本でも適応可能だとおもしろそうです。

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WIRED記事より

おわりに

他にも面白そうなテクノロジー系ニュースはたくさんあったのですが、未来の世界に特に影響がありそうなものということで、7つに絞って紹介しました。WIREDの記事がずいぶん多かったですね。別にWIREDのまとめをする気はないんですが。

今まさに研究されているテクノロジーが、数年後、数十年後の未来を大きく変えていくかもしれません。テクノロジー系のニュースは読んでて本当にワクワクします。

情報収集はTwitterとRSSの両方で行っていますが、Twitterのタイムラインに流れてきたものはまとめも作ってますので、こちらもご参照ください。

そして次の3ヶ月のニュースはこちらから。
1.脳間ネット接続と人間脳マウス/2.人工知能の進捗/3.勃起可能人工ペニスとHIVウィルス/4.羊のIoT/5.ドローンと法規制/6.ドローンを利用した新戦闘教義「群」の実験/7.中国・インドの宇宙開発/8.ISSでの3Dプリント/9.先端材料、について紹介します。

 

2030年 世界はこう変わる アメリカ情報機関が分析した「17年後の未来」 楽観主義者の未来予測(上): テクノロジーの爆発的進化が世界を豊かにする 2100年の科学ライフ

 

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