未来の世界に影響を与えるテクノロジー系ニュース8選・第3回(2015年1月~3月)1/2

3ヶ月間で流れてきたテクノロジー系ニュースのまとめ第3回。2015年1月~3月のニュースから、未来に対して重要な影響のありそうなものをまとめてみた。今回も21世紀を満喫できるニュースばかり。

Summary Note

1.ビッグデータにより構築される「未来」と「デジタル人格」

2.人間勝利の将棋電王戦、Watsonは料理本出すけど、感情獲得はしばらく先

3.引き続き進化していくロボットと、開発が進む自動運転車

4.Falcon9着陸は失敗したが、宇宙インターネットやワイヤレス送電は進捗

5.実用化が進むレーザー兵器とレールガン

6.医療技術が進捗、自己診断サービスも続々リリース

7.無電力での水の収集、プラスチックの生体分解、人工光合成

8.量子論と光の研究で重大な発見

 

なお、この3ヶ月のニュースでも、義肢やパワードスーツ、インプランタブルデバイスといった、人間をサポートしたり改良する技術、それからドローンに関するニュースが目立ったので、これらは別の記事にまとめた。

前回、前々回のまとめは次の記事から。


1.ビッグデータにより構築される「未来」と「デジタル人格」

「ビッグデータ」という言葉がバズワード化し、巷にあふれるようになった。ビッグデータの分析とは、「大きな」のデータの相関関係を分析して、任意の傾向を導き出すことである。「大きい」とは、ガートナーの定義によれば、データの量であり、種類であり、変化である。

ビッグデータ分析が注目される理由の1つが、そのアウトプットとして将来予測ができることだ。ビッグデータの持つ可能性や課題については、以前『ビッグデータの将来』(2013)の書評記事にまとめた。

ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える

未来予測サービスが始まっている

ビッグデータを用いた「未来予測サービス」が、多くの企業によって提供されるようになっている。

2009年設立のRecorded Futureは、人工知能開発促進を担うグーグル・ベンチャーズの投資を受けている。人工知能技術によりウェブ上のニュースやSNS等の「ビッグデータ」を集積して、分析し、未来予測を提供する。下記記事によれば、世界最大の企業5社のうち4社が同社の顧客だという。

『ビッグデータの正体』では、「ビッグデータを持つ者」が強い地位を獲得できるとしていた。グーグルはもちろん、大量の顧客情報を持つAmazonやFacebookもこうした企業だ。
しかしRecorded Futureの事例を見ると、ウェブ上の情報を収集するだけでも、十分に競争力のある未来予測サービスを提供できることがわかる。もちろん高度な人工知能技術など、テクノロジーは必要になるが、今後同様の企業の参入は増えるだろう。

また、Amazonは、機械学習のバックグラウンドのない開発者でも機械学習を利用できる、機械学習ツールの提供を発表した。

NTTの混雑状況可視化も、参入の1つの形だ。

多様な企業が未来予測に参入すると、どの予測が一番確からしいかが問題になる。その段階においては、未来予測サービスを提供する各社は、例えば道路交通情報だったり、流行の兆しだったり、得意な予測分野を選んで、差別化していくのかもしれない。

roads and railways series #4
roads and railways series #4 / woodleywonderworks

ライフログに基づく人格の再現

ビッグデータとは異なるが、ウェブ上の大規模データを使うことにより可能になるのが、人格の再現だ。次の記事では、8年にわたり自身のライフログを収集する、ダブリンシティ大学カハラ・グリン氏を紹介している。

ライフログとはユーザが重要だと判断した情報の集積であるはずだ。これを人工知能により分析することで、デジタル空間にユーザの人格を再現することができる、というのが氏の仮説だ。

今後こうした再現は、本人の許可なく行われるかもしれない。
ドラえもんの秘密道具「アンケーター」を使うと、対象者の疑似人格を再現してくれて、これに質問することができる。アンケーターでは人格再現にDNA情報が必要で、のび太はそのためにしずちゃんの髪の毛を手に入れていた。
一方で今回の研究が実現すれば、ライフログデータや、対象者を取り巻くビッグデータを活用するだけで、もっと気軽にあの子の気持ちを知ることができそうだ。無駄にフラれずに済むので人間関係もギクシャクせず平和的。

また、人格のデジタル化ができるということは、コピーや改変も可能ということになる。そのような社会ではどんなことが起こるだろうか。


2.人間勝利の将棋電王戦、Watsonは料理本出すけど、感情獲得はしばらく先

人工知能のニュースで触れないわけにはいかないのが、将棋電王戦finalだ。これまでの戦いではずっと人間(プロ棋士)が人工知能に白星を譲っていたが、今回についに人間側が団体で勝利を収めた。波乱の多かった戦いであり、その勝ち方にも議論があるが、私は素直に喜びたい。

電王戦の意義は何よりも、人工知能とは何か、我々は人工知能と対峙してどうするべきか、人工知能は我々に何を突きつけたのか、そう言ったことを考えるきっかけとなったことだろう。

人工知能による感情の獲得はできるのか

人工知能が発達して、いずれ人間を滅ぼすのではないかという懸念が囁かれている。その意味では、人工知能の感情獲得を示唆する次の記事が興味深い。人工知能はついに感情を手に入れるのか。

記事で紹介されるのは、独テュービンゲン大学による、感情を持つ人工知能を搭載したマリオの研究だ。このマリオは認識能力と学習能力を備えており、呼びかけに応じて気分を答えたり、「あんまりハッピーにならないで」という命令に応じて幸福度を下げたりしている。
しかし私は正直なところ、感情獲得には程遠く、どちらかといえば超高性能なたまごっち、という印象である。

脳科学の観点から「心」の仕組みの解明を試みる『フューチャー・オブ・マインド』(2015)は、人工知能の未来にも触れている。ここでは「意識」が持つレベルを定義しており、虫や動物や人間はその進化に応じて、認識の範囲を空間的位置、社会的位置、そして時間的位置(未来を予想してその観点で現在すべき行動を決める)へと広げてきたとする。

フューチャー・オブ・マインド―心の未来を科学する

これは私の解釈だが、感情とは、そうした認識の発達の過程で、認識した世界を処理するための1つの脳機能として生じたはずだ。世界を認識する作業と密接に関わるプロセスでなければならない。
しかしながらマリオの研究では、定められたパターンに沿って、予めプログラムされた「感情」をアウトプットしており、パターン認識の域を出ていないように思われる。生命が持つ感情とは似て非なるものではないか。
人工知能に感情を持たせるならば、やはり我々がなぜ感情を持つのか、どのように感情が発生するかのプロセスを、まず明らかにする必要があるだろう。

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マリオの声が野太くてちょっと違和感(Youtubeより)

ディープラーニングはどこまで認識できるのか

パターン認識といえば注目したいのがディープラーニングだ。ディープラーニングが人工知能の未来にもたらす可能性は、人工知能の類型とあわせて、『クラウドからAIへ』(2013)の書評として下記記事に書いた。

ディープラーニングに関しては、人間の手書きスタイルの学習や、言語の特徴の学習といった研究成果が下記記事で紹介されていた。どこまで高度なパターン認識が実現するのか、今後の研究も楽しみだ。また、Facebookはディープラーニング研究に力を注ぐ企業の1つであり、Facebookによるオープンソース化は、この技術の発展を大いに加速させるだろう。

ところでディープラーニング関係で最も注目すべきニュースと言えば、やっぱりこちら。使い道が気になります!

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「健康的な水着写真」で画像検索したこれらは基本的にOKのはずだが、
ところで健康的でない水着写真とは果たしてどのようなものだろうか、誰か例示してほしい!

WatsonとDQN

実用サービスレベルの人工知能では、WatsonとDQNが大活躍だ。その名称で物議を醸したDQNはゲームをプレイできるし、Watosonは料理本デビューするらしい。さすがですね! 人工知能のユースケースがどんどん増えていくので、彼らの生み出すケミストリーに期待大だ。ここでは、Watson関連ニュースのリンクをいくつか挙げてみる。


3.引き続き進化していくロボットと、開発が進む自動運転車

Boston Dynamics社の4足歩行ロボットSpotがかわいすぎる!理不尽に蹴られても耐え、2匹並んでトコトコ歩く。ヤバい。元々DARPAで軍用に開発されたロボットだけど、同社は2013年にGoogleに買収されたので、21世紀のAIBOとして家庭で飼える日も近いかも。

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警備用自律ロボットと、ロボットの遠隔操縦

他に警備用ロボットもいくつか。K5は野外の警備用ロボットで、シリコンバレーを中心にすでに稼働している。こんなのが街中にいたら21世紀を感じまくること請け合いだけど、例えばロシアの戦闘ロボットとか、どちらかと言えば80年代の21世紀な気もしてしまうのは、私だけだろうか。

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ロシアの戦闘用ロボット、古いアニメにでてきそう

ロボットの遠隔操作についても開発が進んでいる。サロゲート(身代わりロボット、アバター)的な使い方から、特殊環境での作業まで、今後の活用に期待したい。

特に宇宙開発では、人間の生還を前提としなければ、プロジェクトのコストを大きく下げられる。宇宙用ロボットの開発が進むことで、宇宙開発が一気に進展することもあるかもしれない。

生態模倣型ロボット

ロボット関連のニュースで一番おもしろそうだったのは生態模倣だ。アリや蝶、その他の動物を模倣したロボットが作られている。

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ロボットの群行動が、今後の無人兵器のあり方にも影響を与えうることは、以前紹介した。1台1台は低コストでも、複数集めることで大きな効果を発揮できるからだ。米軍は無人ボート群での実験を実施している。

生態模倣により、自律的に(しかも命令自体は簡単だが全体としては複雑な)集団行動ができるロボットを実現できれば、ロボット単体だけでなく、「ロボット群」というジャンルも発展することになるだろう。

自動運転車・コネクティッド・カーの進捗

米国情報会議の未来予測レポート『2030年世界はこう変わる』(2013)では、自動運転技術を今後の重要技術と位置付けながらも、その普及には時間がかかると予想している。テスラCEOイーロン・マスクも、一朝一夕で実現するとは考えていないようだ。

しかし研究開発やテストは着実に進んでいるし、参入企業も増えている。Uberのようなアプリケーション企業が参入できてしまうのは、自動車のデジタル家電化・モジュール化も背景にあると言えるだろう。タイヤを用いた給電技術も研究が進んでいるが、タイヤ自身で発電するというニュースもありおもしろい。
自動運転ではないが、コネクテッド・カーの分野でも、規格策定が議論され始めたようだ。自動車のネット接続はセキュリティ問題と切り離せないので、これをどう担保するかも注目である。
以下にこれらのニュースのリンクを列挙する。

自動車に関しては、世界最大の家電見本市CESでも、多くの自動車が紹介されていた。モーターショーでなく「家電」の見本市で自動車が1つのジャンルになっているあたりはおもしろい。電気自動車、コネクティッドカーや、ダッシュボード、スマートデバイスとの連携など、様々な技術の車があった。また、車はやっぱり外見も大事で、コンセプトデザインを見るだけでもワクワクしてしまう。

飛行可能なAeroMobilは2017年に一般販売されると発表された。自動操縦化も目指すとのこと。2015年10月には間に合わなかったかー。

なお、個人的に最もイノベイティブだと思った車の技術は次の動画かな。0:40くらいから注目。ドアがぬるっとなる。欲しい。

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4.Falcon9着陸は失敗したが、宇宙インターネットやワイヤレス送電は進捗

宇宙開発を巡っては、SpaceXのFalcon9打ち上げ失敗の動画が公開された。SpaceXは再利用可能な帰還型ロケットの開発を目指している。2015年1月に打ち上げられたFalcon9は無事に国際宇宙ステーションに物資を届けたものの、帰還テスト第1回は成功できなかった。

動画では、海上の着陸台まで逆噴射しながら降下する様子と、そしてその後が捉えられている。しかし、ロケットが大気圏に再突入して、しっかり速度を落として目標地点まで降下できたことを考えると、それだけでもものすごい成果だ。次回の成功に期待したい。

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宇宙のインターネット構築とワイヤレス送電

Falcon9は成功とならなかったが、SpaceXのイーロン・マスクや、SpaceXへの出資を決めたGoogleは、着々と宇宙開発を進めている。宇宙でのインターネットの構築だ。Googleは、地図サービス強化のためにも衛星を打ち上げている。私企業がウェブサービスのために衛星を打ち上げたり、ベンチャーが参入したりと、今後も活気が増していきそうな分野だ。

宇宙の利用と言えば、ワイヤレス送電のニュースがアツい。三菱重工は宇宙太陽光発電のための実証実験として、マイクロ波による電力送電を成功させた。成果としては、1.8kWを55m離れた受電部に送って300Wの電力を取りだした。また、10kWの500m離れた受電ユニットへの送電も行い、こちらも電力を取り出すことに成功している。

まだまだ効率は低いし、距離も静止衛星軌道36000kmには程遠いが、実験の成功は着実な成果の1つだ。テクノロジーは指数関数的に成長するから、宇宙で発電した電気を使えるようになる日も、決して遠くはないだろう。

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送電装置(三菱重工HPより)

夢のあるプロジェクト

あとは宇宙開発で夢のあるプロジェクトが2つニュースになっていた。金星はまあ思考実験の1つくらいに聞くとしても、月探査コンペは進んでいる話なのでワクワクするね。ハクトが月に向かうのは2016年後半とのこと。がんばってほしい。

 

この3か月で注目のテクノロジー系ニュース、もう半分は次の記事で紹介する。兵器、バイオ・医療、環境、そして先端科学のそれぞれの分野でも、おもしろいニュースが相次いでいた。

Summary Note

1.ビッグデータにより構築される「未来」と「デジタル人格」

2.人間勝利の将棋電王戦、Watsonは料理本出すけど、感情獲得はしばらく先

3.引き続き進化していくロボットと、開発が進む自動運転車

4.Falcon9着陸は失敗したが、宇宙インターネットやワイヤレス送電は進捗

5.実用化が進むレーザー兵器とレールガン

6.医療技術が進捗、自己診断サービスも続々リリース

7.無電力での水の収集、プラスチックの生体分解、人工光合成

8.量子論と光の研究で重大な発見

 

なお、TwitterのTLに流れてたニュースもTogetterでまとめたので、こちらから。

前回3ヶ月のニュースのまとめはこちらから。
1.脳間ネット接続と人間脳マウス/2.人工知能の進捗/3.勃起可能人工ペニスとHIVウィルス/4.羊のIoT/5.ドローンと法規制/6.ドローンを利用した新戦闘教義「群」の実験/7.中国・インドの宇宙開発/8.ISSでの3Dプリント/9.先端材料 について。

 

ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える フューチャー・オブ・マインド―心の未来を科学する クラウドからAIへ アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場 (朝日新書)

 

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