3ヶ月間で流れてきたテクノロジー系ニュースのまとめ第4回。2015年4月~6月のニュースから、未来に対して重要な影響のありそうなものをまとめてみた。
情報技術ではGoogle関連が気になったが、Googleは他にも色々な技術分野で登場していた。驚きの技術では、男同士で子供を作る方法に道が拓けたこと、米軍開発の誘導ライフル弾や透明スーツなど、様々あった。少し先の未来への影響を考えると、先端デバイスや素材の研究開発も注目だ。
Summary Note
1.世界の情報を絶賛整理中のGoogleが人工知能に見せた夢
2.独インダストリー4.0を契機に盛り上がりを見せるIoT
3.男同士で子作り、記憶操作、バイオプリント…、ヒトの可能性を押し拡げるバイオ技術
4.デバイス進化の自由度を広げる各種発電技術
5.未来の世界に影響を与える新素材たち
6.日本では規制気味だけど、世界では開発・利用が進むドローン
7.米軍開発のビックリドッキリ新兵器たち(新型ドローン、銃、透明スーツ)
8.レーザー照射によるデブリ除去で、宇宙旅行のリスクが低減
9.この3ヶ月でみかけたオモシロガジェットたち
Tweetもまとめています。
前回までのまとめは次の記事から。
- 未来の世界に影響を与えるテクノロジー系ニュース7選・第1回(2014年7~9月)(希望は天上にあり,2014/10/8)
- 未来の世界に影響を与えるテクノロジー系ニュース9選・第2回(2014年10~12月)(希望は天上にあり,2014/12/29)
- 未来の世界に影響を与えるテクノロジー系ニュース8選・第3回(2015年1月~3月)1/2(希望は天上にあり,2015/4/20)
情報分野ではGoogleの躍進が気になる3か月だった。あまり大きな話題にはならなかったけど、「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」という企業理念に忠実に前進している。最近はストリートビューで垂直方向の移動も収録したり。Googleらしくていいよね。
そんなGoogleの情報整理について、最近注目のキーワードは「画像」だ。
Googleはネットに公開された画像の「解析」を進めており、その応用としてたとえば、同じ地点でのタイムラプス動画(早送り動画)の自動生成を行っている。異なる時間にとられた別々の画像をつないで、時間方向に整理しているわけだ。
注目すべきは、タイムラプス動画の生成というよりは、そのために行われている「準備」だ。タイムラプス動画のような結果物を見せるためには、画像に所定のメタデータの付与が必要になる。GoogleはWeb上に公開された膨大なデータに対して解析と整理を行っており、このようなデータの構造化は、将来莫大な利益を生むと予想される。
あ…ありのまま
今起こった事を話すぜ!
『おれはバックアップのために位置情報も何もないiPhoneが生まれる前の時代の写真をアップロードしただけと思ったらGoogle様に位置情報をつけられていた』
な…何を言っているのかわからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった…
— 毛野犬坂さん (@keno1977) 2015, 6月 10
スゲーーーーーーーー!勝手にパノラマ写真まで作られてるwww pic.twitter.com/GPQs1W1ZXG
— 毛野犬坂さん (@keno1977) 2015, 6月 10
Google Photoでの画像保存の無限化、子供持ちの親としては大変ありがたいのだけど、保存した画像はDeep Learningの学習にガッツリ使われてるんだろうな。
— りょ (@gatocallejero) 2015, 6月 24
ビッグデータをはじめとする巨大なデータを扱うには、人工知能が不可欠だ。Googleもまた、人工知能開発で先端を走る企業の1である。例えばその成果として、食べ物の写真からカロリー計算するという離れ業も見せている。そのうち人物の写真から体脂肪も計れたりして。
そんなGoogleの人工知能が、夢を見た。
- Inceptionism: Going Deeper into Neural Networks(Google Research Blog,2015/6/17)
- Google、人工神経ネットワークが見た『夢』を公開 (※ 微グロ注意)(Engadget Japanese,2015/6/22)
- グーグルの人工ニューラルネットワークが描く奇抜な世界(CNET japan,2015/6/22)
- 【衝撃】Googleの人工知能が描いた絵が凄すぎる! 絵を見た人「ぎゃあああああ怖すぎる!!」「芸術的だ!!」(バズプラスニュース,2015/6/22)
遠くから見ると印象派チックな絵画だけど、よく見るとヤバい。私こういう未知の生物系とか繰り返しパターン苦手で、思わず「ヒエェッ」となってしまう。でも好きな人は好きかも。
ミチオ・カク著『フューチャー・オブ・マインド』(2015)によれば、脳構造を模したニューラル・ネットワーク型コンピュータは、情報インプットを続けると、あるとき受け付けなくなり、「夢見」の状態に入ってしまうという。聞いてはいたけど、人工知能の見た「夢」が、こんなに早く見られるとは思わなかった。
Googleはほかにも、都市問題解決を目指す新会社「Silewalk Labs」を発表したり、米Broad Instituteと提携してGenome Cloudでゲノム解析ツールを提供するなど、手広く事業を展開している。いずれの事業も、「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」という企業理念に繋がるのだろう。引き続き今後の躍進が楽しみだ。
情報技術関連ではIoTが盛り上がりを見せており、備忘録代わりに一項目を割いておく。
「インダストリー4.0」はドイツで2011年に提唱された概念で、IoTを工場から進めていこうという動きだ。ドイツは官民含め、国を挙げて取り組んでおり、「第4の産業革命」とも呼ばれる。
- ドイツの「第4次産業革命」 つながる工場が社会問題解決(日本経済新聞,2014/1/27)
- インダストリー4.0がいよいよ具体化、ドイツで「実践戦略」が公開(MONOist,2015/6/3)
- 道半ばドイツ「第4の産業革命」、実現10~20年(日本経済新聞,2015/5/12)
「インダストリー4.0」が昨今とくに注目を集め、日本にも刺激を与えているようだ。例えば、政府の第5期科学技術基本計画(2016~20年度)策定に向けての経団連による提言である。この中でドイツのインダストリー4.0を例に挙げ、IoT・サイバーフィジカルシステムが未来創造に向けての重要な視点になると説いている。
同様の提言はJEITA(電子情報技術産業協会)も行っていた。政府が閣議決定した、2015年6月の「2015年版ものづくり白書」(経済産業省)では、「IoTによるメリットを享受する積極的な姿勢が重要」と指摘している。
経団連資料
IoTをテーマとしたアライアンスは各国、各業界でも進展しており、注目のイシューである。いくつか関連しそうなニュースのリンクを載せておく。「工場」という文脈ではIBMの動きが気になるほか、FA・ロボットの有力メーカー・ファナックが機械学習に注目しているのもおもしろい。もちろんGoogle先生の動向にも注目だ。
- IBMがIoT部門を設立–The Weather Companyとの提携も発表(CENet Japan,2015/4/1)
- 日本IBM、世界の工場一元管理 クラウドで支援 (日本経済新聞,2015/6/25)
- ファナック、機械学習でベンチャーと協業 ロボ同士連携(日本経済新聞,2015/6/10)
- Google、IoTプラットフォームProject Brillo発表。Android派生の超軽量OS(Engadget Japanese,2015/5/28)
- 10セント硬貨サイズのIoT向けチップ–フリースケールが開発(CNET Japan,2015/6/23)
ということでIoTは注目だけど、Internet of Toiletsで個室監視が普及するのは辛い。
@kumagi 弊社の建屋は男子トイレの個室の空き状況をセンサーで監視し、無線で収集、個室の空いているフロアがどこにあるか表示していますよ。IoT(Internet of Toilets)の最先端を走っています。
— 中村 実 (@nminoru_jp) 2015, 4月 23
バイオ関連ではこの3か月も引き続き驚異的なニュースが続いていて、驚異的過ぎてもむしろ驚かなくなったり。バイオ関連のニュースをまとめてみる。
一番の驚きは、男性同士でも子作り可能という未来かな。バイオ技術ホントすごい。卵子と精子のもととなる「始原生殖細胞」について、万能細胞から変わるための遺伝子「SOX17」が突き止められたことがブレイクスルーだったという。ちょうど米国では同性婚を認める最高裁判決が出たところで、今後追い風の吹く分野なのかもしれない。
脳科学では、マウスの記憶合成や、ニセ記憶の作成などが実現。記憶操作の技術が進展している。マウスの記憶の取戻しにも成功しており、こちらはアルツハイマー治療の観点で注目される。
- 過去の記憶を組み合わせニセの記憶を作る実験に成功。科学技術振興機構が仕組み解明(Engadget Japanese,2015/4/8)
- “健忘症”マウス 記憶取り戻しに成功(NHK「かぶん」ブログ,2015/5/29)
すでに歯なり臓器なり陰茎なりが作れるようになっている再生医療だが、この3ヶ月でも色々なものが作られていた。1番目の幹細胞を用いた医薬品では、角膜の再生が可能になるとのこと。ラットの足のゼロベースからの再生も驚くべき成果だ。
- 幹細胞を用いた初の医薬品、欧州で認可(WIRED.jp,2015/4/9)
- マウス細胞から小型の臓器作り出す方法開発 NHKニュース(Ceron.jp,2015/4/17)
- ラットの足を「ゼロから再生」することに成功:米MGH再生医療チーム(WIRED.jp,2015/6/14)
特に注目なのは、バイオプリンティングによる生体出力でも成果が出ている点だ。移植実験も行われる予定とのこと。臓器のバイオプリンティングも近い未来に可能になるかもしれない。
- 3Dプリンタでマウスの甲状腺の作成に成功。移植実験へ(Engadget Japanese,2015/4/1)
- 動物実験をなくす、3Dバイオプリンターでつくる人工皮膚(WIRED.jp,2015/6/5)
エネルギー関連では、ナトリウムイオン電池やアルミ電池といった、次世代電池の開発に進展があったようだ。
電池はスマートデバイスの進化のボトルネックになっているので、これら次世代電池への期待は大きい。その一方で、蓄えるだけでなく、発電する技術でもおもしろいものが作られている。
例えば、唾液や尿を利用した発電、あるいはシート状ゴムによる発電だ。各記事でも触れられている通り、難民キャンプなど電気の乏しい地域で効果が期待されるほか、ウェアラブルデバイス、スマートデバイスの電源として使えれば、これらデバイスの自由度が大きく拓けることになるだろう。
- 唾液で発電する超小型「微生物燃料電池」(WIRED.jp,2015/4/8)
- ビデオ:「尿発電トイレ」を英大学が開発、難民キャンプに希望の光(REUTERS、2015/4/21)
- 尿で発電する紙製電池、東京理科大 介護向け下着センサー安く (日本経済新聞,2015/5/17)
- 発電ゴムなんてものができちゃったら、どこからでも電気が作れるのでは?(ギズモード・ジャパン,2015/5/23)
発電というところでは、風力発電の新しいスタイルにも注目だ。羽を用いない風力発電装置が2つ提案されている。1つは電界の性質を利用したもの。もう1つは棒の振動をエネルギーに変えるもの。羽がないことで騒音問題が解決する可能性があるのと、何よりデザインがかっこいいよね。
この記事では「未来の世界に影響を与える」という観点でニュースをまとめているけれど、未来への影響の観点で最も影響があるのは、先端材料・先端素材だと考えている。最初にタッチパネルが発明されたとき、世界中の人間が毎日何時間、何十時間これに触る未来を想像できただろうか。同じだけのインパクトのある素材が、もしかしたらいま発明されているかもしれないのだ。
ということをちょうど@gelmitsu先生も仰られてた。
この透明有機ELディスプレイの動画、最高に面白いです。これがフレキシブルになった未来を想像してみましょう。私はいろいろなモノがいずれ透明化していくと予想しています。 http://t.co/tnsMWFcaQ6
— 3Dジェル光@高分子未来塾を作ります (@gelmitsu) 2015, 5月 13
ディスプレイや発光素子では、極薄・極小だったり透明だったり、見たこともないものが作られている。これらが街に出たとき、どんな風に使われるだろう。
- LG、55型で厚さ0.97mmの『壁紙』有機ELパネルを公開。磁石で壁に貼りつけ(Engadget Japanese,2015/5/20)
- Samsung Display、透明型やミラー型の有機ELディスプレイを発表(CNET Japan,2015/6/11)
- 原子1個分の厚さで発光するグラフェン光源の実証に成功。光子回路実現の未来技術( Engadget Japanese,2015/6/19)
- 「フルカラーのデジタルスキン」超極薄ディスプレイ(WIRED.jp,2015/6/26)
タッチセンサー内蔵の布地も、応用例を考えるとおもしろそう。
- グーグル、タッチセンサー布地を開発中 ジーンズ大手が協力(AFPBB News,2015/5/30)
- グーグル、衣服にタッチ操作を適用するプロジェクト「Jacquard」などを発表(CNET Japan,2015/6/1)
Google Project Project Jacquard HPより
他にも魅力的な新素材があったけど、実際に使われるのはしばらく先の未来だと思われるので、ここではリンクを紹介するにとどめたい。
- 「粉末」アルコール、販売にゴーサイン(WIRED.jp,2015/4/9)
- グラフェンの電子状態を制御することに成功-新たな機能開拓と伝導性の制御に道-(PDF)(東北大学,2015/4/6)
- 東北大、シート状炭素分子グラフェン、カルシウム加え半導体に(PDF)(日経産業新聞,2015/4/10)
- カーボンナノチューブ入りの水を吹きかけられたクモが地球上最高強度のクモの糸を生成(GIGAZINE,2015/5/9)
- “表面認証”ができるシート型ビーコン「PaperBeacon」を開発–帝人とセルクロス(CNET Japan,2015/5/25)
*
3ヶ月のテクノロジー系ニュース、残り半分は次の記事から。ドローン、軍事技術、宇宙開発、そしておもしろガジェットについて。
Summary Note 2/2
6.日本では規制気味だけど、世界では開発・利用が進むドローン
7.米軍開発のビックリドッキリ新兵器たち(新型ドローン、銃、透明スーツ)
8.レーザー照射によるデブリ除去で、宇宙旅行のリスクが低減
9.この3ヶ月でみかけたオモシロガジェットたち
TwitterのTLに流れてたニュースのまとめはこちらから。
前回3ヶ月のニュースのまとめはこちらから。
1.ビッグデータによる「未来」「デジタル人格」構築/2.電王戦人間勝利と人工知能の感情獲得可能性/3.進化するロボットと自動運転車/4.Falcon9着陸実験と宇宙インターネット・ワイヤレス送電/5.レーザー兵器とレールガン/6.医療技術と自己診断サービス/7.環境技術/8.量子論研究の重大な成果/番外1.パワードスーツやインプランタブルデバイス/番外2.ドローン規制と活用