中国というと「パクリ」のイメージがありますが、かの国はいまでも模倣大国なのでしょうか。ディズニーランドを丸パクリ リスペクトした石景山遊楽園が注目を浴びて4年近くが経ちます。
中国の知財問題に関して、興味深いニュースがありました。
中国の李克強首相は16日、知的財産権の保護は、将来の技術革新に不可欠との考えを示した。
同首相は「知的財産権を保護する必要がある」と述べ「それにより、科学や技術にとって未来が豊かになると確信している」と語った。
本当でしょうか。現在の中国が模倣天国だと仮定して、中国が知的財産権を重視する日は来るのでしょうか。私はこの問いに対して、確信をもって「イエス」と答えたいと思います。
特許をはじめとする知的財産権は、発明者や創作者による独占を一定期間許すことで、研究開発・創作活動への投資を回収する機会を与えます。発明者や創作者は知財権により投資回収機会が保証されるので、安心して創作活動に励むことができるのです。
ただし発展途上国においては、必ずしもこの限りではありません。
特許を例にすると、特許権を取得できる程度に高度な発明を生み出すことは、途上国においては困難な場合があります。途上国に特許制度があっても、外国企業ばかりに独占権を付与することになり、いつまで経っても自国企業が育ちません。
明治の頃、近代日本の創業期においては、高橋是清が日本に特許制度をもたらしました。彼は上述の問題に鑑み、特許よりも権利取得ハードルの低い実用新案制度を並列させることで、国内企業の保護を図っています。
こうした事情から、技術のキャッチアップ段階にある途上国は、知財権を尊重することに積極的になりにくくなります。TPP交渉でも、知財をめぐっては先進国と途上国とでギャップがあるようです。
Running to the middle / HikingArtist.com
やがて自国企業が育ってくると、それまで放置していた模倣の問題が、自国企業にも悪影響を与えることになります。せっかく研究開発にお金をかけても、模倣されたのでは見返りが得られません。すると自国企業は研究開発に投資するメリットを感じられなって、いつまでも外国企業の後追いに留まります。
この段階になって初めて、国は自国の知財制度の強化に本腰を入れることになります。
模倣大国と揶揄される中国においても、自国における研究開発や、そのための投資活動が模倣により阻害されるようになると、知財を重視せざるを得なくなるはずです。中国の科学技術の水準が高まれば、やがては国際社会において知財制度を主導する立場に変わっていくだろうとさえ、私は考えています。
では、中国の科学技術力がその程度にまで発達するのはいつごろでしょうか。
以前次のような記事を載せました。
林幸秀著『科学技術大国中国』(2013)では、世界初の成果を挙げ始めている中国の最先端研究を紹介し、その上でいくつかの課題も提示しています。記事ではこれらの紹介と、中国の論文数や特許出願件数についても触れました。
中国はスーパーコンピュータや深海探査・宇宙開発等様々な分野で「世界一」の成果を挙げつつあります。論文も被引用数で世界2位と存在感があります。中国の現状を言えば、順調に科学技術力を伸ばしているというのが結論になりそうです。
その一方で著者は、成果がスペックに留まり実用性に欠く点や、国内産業の未発達を指摘しており、実質を伴うのはまだ先とも考えられます。
将来に目を向けると、米国留学生を始め大学生数が増加しているなど、豊富な人材を擁する点は特筆すべきです。今後も着実に成果を伸ばすことは間違いがなさそうで、中国が実質を伴う科学技術大国となり、知財重視に移るまでに、そう長い時間はかからなそうだと考えます。
あたかも今の中国が知財を重視していない前提で話しましたが、中国だって何もしていないわけではありません。
中国が特許制度を導入したのは1985年と歴史が浅いものの、数次にわたる法改正や、例えば知財裁判所の設立など、積極的な制度改革を行っています。
特に、中国における特許出願件数は米国を抜いて世界1位に、中国からの国際出願件数も世界3位になっており、これらの出願が登録され活用の段階に入ると、状況が変わってくるかも知れません。
模倣品の氾濫が抑えられていない現状はあるものの、知的財産を保護するための社会システム作りは進んでおり、引き続き機能を強めていくと予想されます。
*
知財制度は産業政策ですから、中国がこれを重視することは、中国市場に商品を出し、中国と取引をする外国企業にも大きな影響があります。中国の知財制度強化がどのようなアプローチで進むのか次回考えてみます。