ガートナーのハイプサイクルを去年と比べて読んでみた(2018)

いなたくんへ

ガートナーが今年も恒例の「先進テクノロジのハイプサイクル」を発表。2000を超えるテクノロジから、今後5~10年にわたり高度な競争優位性をもたらす可能性の高い35のテクノロジを選んでいる。


ガートナープレスリリースより

「先進テクノロジのハイプサイクル」は、注目のテクノロジをその期待度や普及時期に基づきマッピングしていておもしろい。今回はこれについて、去年発表された「先進テクノロジのハイプ・サイクル2017年」と比較して読んでみた。去年と比べてみることで、さらに現在のテクノロジのトレンドが浮き上がってくるはずだ。

今年は新たに15のテクノロジが登場。また、去年までに挙げられたテクノロジにも進捗が見られる一方、消えた技術も9つあった。ざっくり分野に分けて変化を俯瞰してみる。

新規登場テクノロジには私の独断と偏見に基づく説明を付けたけど、間違ってたらゴメンなので、きちんとした定義とか詳細はググってほしい。

Summary Note

1.人とマシンの境界はますます曖昧になる

2.AI・ロボティクスは実用化技術に期待

3.自動運転車の実現はまだまだ先だが…

4.登場したもの、変わらないもの、消えたもの

5.メガトレンドの変化は「バイオ」への言及

なお、2016年→2017年の変化は次の記事でまとめた。


1.人とマシンの境界はますます曖昧になる

まずはプレスリリース・タイトルの通り「人とマシンの境界を曖昧にする」技術について。今年は次のテクノロジが登場している。

バイオ技術(培養組織/人工生体組織):黎明期

細胞を体外で培養したり組み立てることにより形成される人工的な生体組織のこと。特定の細胞を足場にして構築されたりする。例えばシート状心筋細胞とか。

エクソスケルトン(外骨格):黎明期

身体に装着して用いられる、アクチュエータや人工筋肉などを用いた着用型の装置。例えばサイバーダイン社のHALとか。パワードスーツもたぶん該当。モビルスーツは……どうだろう……。

バイオチップ:期待ピーク期

基板上にDNAやたんぱく質などの分子を配置することで、これと作用する標的分子や化合物を検出するもの。同時に大量に検出でき、食品検査や医療検査などに用いられる。

スマートファブリック:幻滅期

極小のセンサやアンテナなどが配置された衣料。スポーツや従業員作業における負荷の可視化などの用途が期待される。

21世紀は「バイオの世紀」とも期待されるが、いよいよ人工的な生体組織もハイプサイクルに載ってきた形だ。

日本ではサイバーダイン社で有名な「エクソスケルトン(外骨格)」は、労働や介護などの産業分野ではすでに実用化されており、今後本格的な普及が期待される。

衣料に機能性を持たせた「スマートファブリック」も医療現場などの出口を見るので個人的には期待大だが、ハイプサイクルで「幻滅期」とされたのは、当初期待ほどは普及できていないということだろうか。

このあたりの技術はこのブログでも紹介してきた。

また、「ブレイン・コンピュータ・インターフェイス」が去年の「黎明期」から今年は「期待ピーク期」に前進。最近ではFacebookの当該分野への大規模投資や、イーロン・マスクによる新規ベンチャー設立が話題に上っており、その影響もあるだろう。ただし私としては、それでも実現時期は10年以上先にはなりそうで、今後深い幻滅期を経験すると予想する。

次のテクノロジは今年はハイプサイクルから消えてしまった。

  • ヒューマン・オーグメンテーション(黎明期)

「ヒューマン・オーグメンテーション」は「人間の拡張」なのでまさに今回の注目テーマではあるのだけれど、コトバとしては流行らなかったということか。


2.AI・ロボティクスは実用化技術に期待

「ディープラーニング」は今年もハイプサイクルの頂「期待のピーク期」に鎮座する。「機械学習」も併せると2015年から継続してピークに居座るテクノロジだ。

この分野では、今年は次のようなテクノロジが新たに挙げられている。

ナレッジ・グラフ:黎明期

様々な情報源から収集した情報を統合することで、検索結果を拡張的に提示するもの。Google先生が2012年に発表したもので、Google先生は以後取り入れているが、AIによる情報分析が本格化したために注目されてるっぽい。

エッジAI:黎明期

クラウドの向こうではなくエッジで稼働するAI。学習済みモデルをチップとかカメラとか端末に載せることで、ネットに繋がらずともローカルで高度な処理が可能になる。という定義ではドラえもんもエッジAIか。

AI PaaS:黎明期

サービスとしてのAIプラットフォーム。AI機能をプラットフォーム側がサービスとしてアクセス可能にしたもので、例えばIBM Watsonは各分野で機能提供してがんばっている。

ディープ・ニューラル・ネットワーク向けASIC:黎明期

AISCは特定用途向け集積回路のこと。ディープ・ニューラル・ネットワークに特化したチップ、例えばある用途のために学習したAIのためのチップを起こして使うことで、より効率的な処理が期待できる。

自律モバイル・ロボット:期待ピーク期

自律して動作可能な移動ロボットで、ここでは特に運搬用ロボットを指すと思われる(よってドラえもんはこれに当たらない)。工場やプラント、物流現場の効率化が期待される。

端末側にAI機能を搭載する「エッジAI」や、サービスプラットフォーム化されたAIである「AI PaaS」、あるいはAI専用チップとなる「ディープ・ニューラル・ネットワーク向けASIC」など、AI技術のサービス・レイヤでの実現方法が注目されている様子。ほとんどは「黎明期」とあるけど、普及は結構早いのでは。

また昨年からの継続掲載として、脳機能を模した「ニューロモフィック・ハードウェア」は変わらず「黎明期」にあるものの、少しだけ期待の山を登っている。

サービスの観点では「会話型AIプラットフォーム」も去年と同様「黎明期」に位置。「仮想アシスタント」は去年と変わらず「期待ピーク期」にあるが、実現時期の予想は「5年以内」に早まっている。

汎用AIは依然「黎明期」にあり、その実現時期は「10年以上先」である。

次のテーマは今年は消えたが、近年は機械学習の派生技術たたくさん出現しているため、「ディープラーニング」の言葉に統合・集約しただけだろう。

  • 機械学習(期待ピーク期)
  • 深層強化学習(黎明期)


3.自動運転車の実現はまだまだ先だが…

自動車関連テクノロジでは今年は次の2つが登場。

空飛ぶ自律走行車:黎明期

空飛ぶ自律走行車のこと。2015年に改造された飛行型デロリアンが自律走行機能まで備えていたかは不明だが、ビフ老人が杖で身体を打ちながらも即時に浮揚した点を鑑みるに、何らかの運転アシスト機能を備えていた可能性は考えられる。

シリコン負極電池:期待ピーク期

リチウム蓄電池や全固体電池に用いられる負極材料。充放電回数の向上や効率化、次世代電池の実現の要素技術として期待される。

空飛ぶ自動車はAero Mobil社をはじめいくつか実用的なものが出てきていて、最近ではイスラエルで開発競争激化とのニュースも。ただし「普及」までのハードルはやはり高そうだし、さらに「自律走行」となるとしばらく先の話にはなりそう。とはいえハイプサイクルに載ったということは、現実的な話として認知されたということだろう。決して夢物語ではないのだ。

なお、去年「期待ピーク期」にあった「自律走行車」は今年は次のように分解された。レベル4が「幻滅期」に進み、レベル5は「黎明期」に後退である。いずれも実現時期は「5-10年後」で、特にレベル4の実現がしばらく先なのは確かに幻滅。でも着実に実現には近づいているはずだ。

自律走行レベル5:黎明期

場所の際限なくシステムがすべての運転操作を行うもの。いわゆる完全自動運転。

自律走行レベル4:幻滅期

特定の場所においてはシステムがすべての運転操作を行えるもの。例えば高速道路においては自律走行を行い、緊急対応も行う。ちなみにレベル3の場合には、特定の場所ではシステムがすべての運転操作を行うも、緊急時操作はドライバーが行わねばならない。


4.登場したもの、変わらないもの、消えたもの

次に、その他の新出技術をまとめてみる。上に挙げたものの他には次のようなテクノロジが新たにハイプサイクルに登場していた。

ブロックチェーンによるデータセキュリティ:黎明期

ブロックチェーン技術をセキュリティ分野に応用したもの。ブロックチェーンは改竄困難でありながら、非中央集権的に複数当事者により分散管理できるため、物流をはじめ多くの分野での活用が期待される。

自動修復システム・テクノロジ:黎明期

自動修復可能な材料やシステムの技術。ターンエー・ガンダムのナノスキンとか。

デジタル・ツイン:期待ピーク期

現実の製造目標物やシステム、工程をデジタル空間にも再現する手法。物理世界の情報をIoT等によりセンシングして追跡することで、デジタル空間での再現を可能にし、シミュレーション等が可能になる。

複合現実(MR):幻滅期

デジタル情報を現実空間上に重畳表示する技術。拡張現実(AR)と何が違うかわかりにくいけど、ARが単なる重畳であるのに対し、MRはより精緻に現実空間に情報を載せるらしい。言ったもん勝ち。

無印の「ブロックチェーン」も今年もハイプサイクルに挙がっているが、ほぼ「幻滅期」に差し掛かっている。これと区別する形で「ブロックチェーンによるデータセキュリティ」が登場したのは、ブロックチェーン技術の具体的応用事例の筋の良さと捉えたい。

「複合現実(MR)」はいきなり「幻滅期」に登場。なお、MRとは別に「拡張現実(AR)」も幻滅期のより深い谷の底にあり、昨年「普及期」にあった「仮想現実(VR)」は今年は引退して消えている。

「自己修復システム・テクノロジ」は胸アツ技術なので個人的に期待。

進んだもの、変わらないもの

上記で紹介したもの以外で、2017年のハイプサイクルに載っていて今年先に進んだものは以下の通り。

  • スマート・ダスト(黎明期)
  • 4Dプリンティング(黎明期)
  • 5G(黎明期)
  • 量子コンピューティング(黎明期)
  • スマート・ワークスペース(期待ピーク期)
  • コネクティッド・ホーム(幻滅期)

いずれも期待値の大きい技術であり、引き続きの普及への進展に期待したい。

2017年に引き続き今年もハイプサイクルに載っていたが、特に進展のないテクノロジで、上で紹介していないものは以下の通り。

  • 立体ホログラフィック・ディスプレイ(黎明期)
  • スマート・ロボット(期待ピーク期)
  • カーボン・ナノチューブ(期待ピーク期)

2017年から消えてしまったテクノロジ

それから、去年はあったけど今年は消えてしまったテクノロジたち。こちらは慰霊の意味も踏まえて、上で紹介したものも再掲する形で挙げておく。

  • ヒューマン・オーグメンテーション(黎明期)
  • サーバレスPaaS(黎明期)
  • 強化データ・ディスカバリ(黎明期)
  • エッジ・コンピューティング(期待ピーク期)
  • 商用無人航空機(ドローン)(期待ピーク期)
  • コグニティブ・エキスパート・アドバイザ(幻滅期)
  • エンタプライズ・タクソノミ/オントロジ―(幻滅期)
  • ソフトウェア・デファインド・セキュリティ(幻滅期)
  • 仮想現実(VR)(普及期)

名前は聞くけど流行としてはちょっと下火になったもの、他の技術バズワードに吸収・統合されたもの、あるいは「ドローン」や「仮想現実(VR)」のように普及を遂げてハイプサイクルからは卒業したもの、といった感じか。


5.メガトレンドの変化は「バイオ」への言及

最後に、ガートナーが予想するメガトレンドを昨年のものと比較したい。

昨年のメガトレンドは次の3つが挙げられていた。なおこれらは2016年のメガトレンドとも大きく変わるものではなかった。

  • どこでも人工知能 (AI) となる世界
  • 透過的なイマーシブ・エクスペリエンス
  • デジタル・プラットフォーム

今年は次の5つのテーマがメガトレンドとして挙げられている。

  • AIの民主化
  • エコシステムのデジタル化
  • DIYバイオハッキング
  • 透過的なイマーシブ・スペース
  • ユビキタスなインフラストラクチャ

まあ言ってることはそんなに大して変わらないかなーとは思いつつ、それぞれ進展はありそう。

去年掲げられた「どこでも人工知能」という世界観は、「AIの民主化」というキーワードで、より現実に近い話に変わった。ハイプサイクルでは「AI PaaS」や「ASIC」など、よりビジネスとして実用的なキーワードが挙がってきている。もちろんこれ以外にも、先端研究的なAI技術も挙がっており期待である。

去年の「透過的なイマーシブ・エクスペリエンス」は今年の「透過的なイマーシブ・スペース」で変わらず。

「デジタル・プラットフォーム」は今年は「エコシステムのデジタル化」「ユビキタスなインフラストラクチャ」と、少し具体的になっている。

変化として注目すべきトレンドはやはり「DIYバイオハッキング」の登場か。もちろん普及には時間がかかると思うけど、この分野はヒトという種にとっても歴史的変革となる可能性があり、その萌芽はじっくり見守りたい。

 

前回(2016年と2017年の比較)はこちら:

 

  

 

  • この記事は、2018/10/15の公開内容について、苦情に基づき今年の新出テクノロジについての説明を追記したものです(2018/10/22追記)

 

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