いなたくんへ
ホリエモン率いるインターステラ・テクノロジズの国産ロケットMOMO2号機は残念ながら打ち上げ失敗に終わったが、スタート・トゥデイの前澤社長の世界初の月旅行が発表されたり、はやぶさ2のローバーが世界初の小惑星上移動探査に成功したり、さらには月と火星で氷・水が発見されたり、宇宙開拓分野でエポック・メイキングなニュースが相次いでいる。
地上に目を移しても、コンテナ船の北極海初航行、ドローンを用いた商用宅配サービスの初実用化、無人ボートの大西洋初横断など、世界は着実に未来に進んでいるようだ。
こうした未来の世界に影響を与えるテクノロジー系のニュースについて、今回も最近のものを取り上げてみた。
Summary Note
なお、8月にはガートナーが毎年恒例の「先進テクノロジのハイプ・サイクル」2018年版を発表。特に「人とマシンの境界を曖昧にするテクノロジ」が重要とする。これは2017年版との比較も含めて次の記事で紹介した。
また、この3ヶ月でも私的にインパクトの大きかった次の2つのテーマはそれぞれ個別に記事にした。
- ネットのエコーチャンバー効果は社会を分断するのか、しないのか(希望は天上にあり,2018/10/24)
- 氷・水の発見が相次ぐ月と火星、有人探査・植民はいよいよ進むか(希望は天上にあり,2018/10/29)
「はやぶさ」の後継機として2014年に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ2」は、今年6月に目標小惑星「リュウグウ」に到達。そして9月には、世界初となる小惑星表面への探査ロボット着陸を成功させた。小惑星上での探査ロボットの自律移動、および写真撮影も世界初の成果となる。
はやぶさ2はこの探査ロボット「MINERVA-II1」の9月の着陸成功に続いて、10月には探査機「MASCOT」の着陸にも成功。さらに今後ははやぶさ2自身も着陸し、衝突装置によりリュウグウ表面にクレーターを形成して岩石を採取、来年冬にリュウグウを発し帰路に就く予定である。引き続き成功を祈りたい!
太陽系内では、木星で新たに12個の衛星が発見されたり、さらには冥王星のさらに外側を公転する準惑星「2015 TG387」が見つかったりと、新たな発見が相次いでいる。未来にはこれら衛星・惑星を探査することもあるのだろうか。
そのころ地球の衛星周回軌道では、国際宇宙ステーションに接続していたソユーズ宇宙船に穴が開き、空気漏れが発生。一時的に気圧が下がるも、テープで塞いで対処完了。宇宙で宇宙船に穴が開くってヤバそうだけど、テープでいいんだ……。
2mmの穴をあけた原因は流星塵とされる。衛星軌道においてはこうした塵やスペースデブリが問題視されているところ、衛星の破片をネットで捉えた実際の動画が公開された。英国の小型衛星開発企業Surrey Satellite Technology社の実証機「RemoveDEBRIS」によるもので、こちらも世界初の成果となる。
Net successfully snares space debris https://t.co/SOA3m8t2Wt #RemoveDEBRIS @SurreySat @SurreyResearch @ArianeGroup @AirbusintheUK pic.twitter.com/QVK2AZY9AR
— Surrey Media Team (@UniSurreyNews) 2018年9月19日
宇宙に関してはさらに注目のニュースとして月での氷の発見、火星での地下湖の発見があったので、最新の探査計画も含めて次の記事のまとめた。
富野由悠季監督は宇宙飛行士山崎直子氏との対談で、人類の宇宙進出により認知革命が起こると述べたが、実際に我々の地球に対する認識は変わってきている。
私が世界を思い浮かべるとき、頭に描くのはメルカトル図法の地図だ。この地図の問題点は、赤道から離れるほど実際の面積と乖離することである。そこで大陸の面積が正しく表示され歪みの少ない「Equal Earth」という新たな投影法が提案された。
GoogleMapも8月よりメルカトル図法での表示を廃止し球体表示に。グローバル化に伴い、世界の認識もより現実に即したものに変わっていく。
また、9月にはコンテナ船が北極海の初航行を行っており、新たな輸送経路が拓けている。こうした温暖化に伴う地政学的変化はこれからもあるだろう。
地球の認識といえば、世界を3m四方に分割してそれぞれにユニークな3語を割り当てがWhart3wordsが投資を集めている。What3wordsは57兆個に区分された各区画に、25000語に基づくユニークな3語を割り当てたのことで、3桁の25000進数と理解すればわかりやすいか。
投資はダイムラーなど自動車メーカーによるとされ、自動運転サービスでの活用が期待される。
コンテナ船の北極海初航海といえば、移動分野では無人機の「世界初」が相次いでいる。
アイスランドのスタートアップ「Aha」はレイキャビクにてドローンによる料理・食料品・電化製品の宅配サービスを実施。これまでも僻地でのドローン輸送は実現していたが、都市部での商標輸送サービスは世界初となる。
エアバスのソーラー発電無人航空機「ZephyrS」は25日間の連続飛行に成功、これまでの14日間を塗り替え、世界記録を更新した。昼間の発電で夜間分を補い、高度2万メートルを飛行していたとのこと。
さらに、ノルウェーOffshoreSensing社の自律航行ボート「SBMet」が世界初の大西洋横断に成功。2ヵ月半かかったそうだ。
無人機技術の開発は日進月歩で進んでおり、将来はあらゆるところに普及しそう。他の形態としては、ヤマハ「モトロイド」に続いてBMWも無人走行バイクを開発。発車と停車も自動で行えるという。一方中国は無人AI潜水艦を開発しており、2020年代初頭に配備予定とのこと。海戦のゲームチェンジとなるだろうか。
ロボットも無人機の一種だが、ロシアでは2019年にヒューマノイド型ロボット「FEDOR(ヒョードル)」を無人ソユーズに乗せて打ち上げ予定。宇宙のような極限環境ではロボットの活躍が期待されるが、このロボットは拳銃の発射能力も備えており、地上ではロボコップ的な何かが出現する可能性もある。
そんなロボット関連で特に興味深かったのは次の2つのニュースだ。
- ロールス・ロイス、小さな虫型ロボットがジェットエンジンを検査–修理も遠隔で(Cnet Japan,2018/7/31)
- MITがコロイド粒子と結合する極小ロボットを発表。病気の早期発見や石油パイプラインの破損まで調査が可能に?(Engadget Japanese,2018/7/24)
ロールスロイスが英ノッティンガム大や米ハーバード大と共同して開発を進めるのは例えば10mm台の昆虫型ロボット。カメラを備え、エンジンの非分解検査が可能になる。他にもヘビ型などいくつかのロボットが提案されている。
図:Rolls-Royce
将来はこうした小型検査ロボットが当たり前になり、さらに未来では家庭用にも普及したりするのかな。むしろペットに欲しい気も。
また、MITの微小ロボットの研究は、コロイド状態の気体・液体中での移動を可能にしたというもの。具体的には、空気中にいつまでも浮遊できる塵などを伝っての移動となる。ナノマシンの移動原理としておもしろく、実現に期待したい。
ロボットはAIの有望な応用領域でもあり、次のサイトが各産業分野でのユースケースをまとめていて参考になる。
そんなAIの最近の研究成果で驚くのが、ダンスの動きを別人に変換できたというもの。「Deepfake」と名付けられた技術である。
人の表情の移植とか、AIによる見た目の操作は進んでいて、スクリーンの向こうは何も信じられない時代が来そう、という話は前回紹介したけれど、次には動き全体をも操作できたということで、もうホントに油断ならない。
宇宙とか無人機とか無機質なニュースが続いたけど、最後に人間に関するニュースを紹介する。人間能力を拡張するポストヒューマン技術がやはりアツい。
まずは医療向けの埋め込みデバイスの話。事故で脊椎損傷して下半身不随となった患者が、脊椎への神経刺激デバイスを埋め込むことで再び歩けるようになった、というニュース。
侵襲型のデバイスはこうした重篤な患者からまず試されていて、近年目覚ましい効果をあげている。損傷が回復するのは嬉しいし、こうした技術はやがては一般の人にも応用されていくだろう。
非侵襲では、脳波により「3本目の腕」を操作したという研究も。タスクごとの脳の活動パターンを区別し、85%という高精度でロボットアームを動かせたという。このあたりはAI技術の進歩も大きく貢献しており、今後のさらなる発展が期待される。
ミネソタ大学は世界で初めて、3Dプリントによる完全な光受容体のガラス半球表面上への配置に成功。バイオニック・アイの実現に近づいたという。
図:Minesota大学
「バイオニック・アイ」とは、カメラなどの撮像信号を電気刺激に変換し、網膜の神経細胞に伝達することで、盲目でも視力を得られるようにする技術だ。眼球に問題があってもその奥の脳に繋がる信号処理が問題ないなら、眼球の代わりを工学的に補い信号を伝えてしまおう、というアプローチである。
カメラ信号を網膜に伝える技術はすでにあるけど、今回のミネソタ大の研究は半球上にセンサを配置しており、義眼のような、より眼に近いバイオニック・アイに繋がるはずだ。
シンガポール大学のラナシンハ博士は、箸やお椀に電極を仕込んで舌の味蕾を刺激することで、「苦味」「酸味」「塩味」を電気的に再現した。これにより実際には塩分控えめでも塩分を感じられるので、食生活を健康的に変えることができる。
一方、東京大学と大阪大学は、顎と首に電極を取り付け電気刺激を与えることで味覚を増強させることに成功。口腔内に電極を入れることなく、塩分やうまみを増加させたり、長時間持続させることができるという。
味覚のような化学的刺激が電気的に再現できるというのはおもしろい。VRなどの疑似体験での用途にも期待される。
ハワード・ヒューズ医学研究所は、ミバエがもつ10万個のニューロンについて、その繋がりのマップ化・画像化に成功した。
これの何がすごいって、脳内のネットワークが完全にわかることで、ミバエの行動を駆動する脳の部位や機能が特定できることになる。これは昆虫であっても画期的なことだし、さらにはネズミや、そして人の脳活動の完全解明がいずれ実現することも示唆している。
今後このマップからどんな知見が得られるか、期待は大きい。
最後に、この3ヵ月で見かけた素敵なガジェットやサービスたちを紹介。スマフォアプリの「うきよウェーブ」入れるか迷った。
背中にスライド機構を備えることで上下動の負荷を軽減するバックパック「HoverGlid」。たしかに楽そうというか無重力感素敵だけど、違和感仕事しすぎでもある。
This backpack floats on your back to lighten your load. pic.twitter.com/EVexN1Vosj
— Thrillist (@Thrillist) August 15, 2018
こちらは2017年のものだけど見つけたのは最近なので紹介。インタラクティブなデザインが素晴らしすぎる。最後には驚きのオチも。ぜひスマフォで確認したい。
トイレットペーパーの芯をリボルバー式で連射できるランチャーの自作動画がやばい。こういう猛者に出会えるだけでもう本当にインターネットごちそうさまです。
リボルバーなランチャー作った
トイレットペーパーの芯を発射可能! pic.twitter.com/4sdy4feOeG— マハ (@ryuji_maker) 2018年7月30日
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以上、2018年7~9月における、未来に影響のありそうなテクノロジー系ニュースをまとめてみた。
最後にちょっとだけ言い訳を。テクノロジー系ニュースのまとめのこのシリーズは現在は主にTwitterのTLがソースなんだけど、この3ヵ月は色々忙しくて、私的非常事態宣言発令によりTwitter見ないようにしてたんだよね。そのため普段よりはニュースの数が少なかったかも。でも特に反省はしない。
この3カ月のニュースの中でも、特に気になった次の3つは個別の記事にまとめてみた。
- ガートナーのハイプサイクルを去年と比べて読んでみた(2018)(2018/10/15)
- ネットのエコーチャンバー効果は社会を分断するのか、しないのか(希望は天上にあり,2018/10/24)
- 氷・水の発見が相次ぐ月と火星、有人探査・植民はいよいよ進むか(希望は天上にあり,2018/10/29)
前回3ヵ月のニュースのまとめはこちらから。
1.ブロックチェーン・ベースの非中央集権宗教「0xΩ」/2.人格の仮想化技術・仮装化技術/3.脳内思考「内言」の解読/4.時間反転対称性を崩す「Flux Capaciter」の発明/5.『実時間メロス』/6.記憶はRNAにも保存/7.ジョギングするアトラスと群行動する中国無人ボート群/8.中国にも注目の再利用型ロケットと民間宇宙開発企業/9.火星での有機物発見とテラフォーミング用バクテリア