家電化する兵器(『ロボット兵士の戦争』書評 2/3)

ロボットや無人兵器の現状と影響を書いたP・W・シンガー著『ロボット兵士の戦争』の書評です。本書の中でもおもしろい変化だと思った、民間企業の戦争参入と、非対称戦争の拡大について紹介します。

ロボット兵士の戦争

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戦争の主体が民間にシフトしている

米国における民間企業の戦争産業参入が著しいです。本書によれば、1999年に9社しかなかった安全保障分野政府請負企業の数は、2006年には33,890社まで拡大しています。すごい数。軍が投資を行い、民間企業が開発をする、という生態系がしっかり築かれているようです。

軍はロボット研究の主要な資金研究者だが、研究の大半は実際には公然と行われている。私たちが見ていないだけだ。ある試算では、無人分野の応用研究支出の40パーセントが民間産業経由、29パーセントが軍のセンターや研究所経由、23パーセントが大学のプログラム経由で流れていた。

安全地帯の軍人と最前線の民間人

ロボットを運用する上では、その保守も重要になります。
企業としては、例えば陸上用だと「ルンバ」のiRobotや、そのライバル企業フォスター・ミラー。無人航空機ではボーイングやノースロップ・グラマンといった会社が開発を担っています。これら兵器を軍だけでは保守できず、開発した企業がアフターメンテナンスを行っています。
その結果、軍人は戦地から離れた米国内で操縦し、民間企業の担当者が戦地の基地まで赴いてメンテナンスにあたり、危険に晒される、という状況が起きているそうです。

最前線の民間人が危険に晒されるというのは、最前線にいるからという理由だけではありません。最前線での行為が「戦争に参加している」とみなされた場合には、「非戦闘員の攻撃や害を受けない権利」が失われるという問題が挙げられています。つまり、機体整備のための民間人であっても、攻撃されて文句が言えない場合があるということです。

「国際法は、いまの時代の軍隊には民間人技術者が必要だと認めていても、非戦闘員の攻撃や害を受けない権利は、敵対行為を控えるという彼らの義務に基づくと、常に主張してきた。紛争当事者の軍隊に対して行動をおこなえば、自動的にその権利を失う」

また、戦争犯罪など法律問題をどう取り扱うかも課題として挙がっているようです。

軍のアウトソーシングで難しいのは、法的立場と説明責任の問題だ。そうした「企業戦士」「代理戦士」は、軍とその指揮系統の正式な一員ではないため、民間人である。とはいうものの、基本的に軍事任務を行っているので、厳密には非戦闘員とは言えない。その結果、民間軍事企業の権利が保護されるのと同時に、戦争犯罪を犯した場合は適切に処罰されるようにするのが、法的にややこしくなる。

責任を取るのは運用者か、所有者か、開発者か

無人兵器運用における戦争責任を巡る問題も答えが出ていません。例えば無人兵器が誤射により民間人を殺した場合、責任を負うのは兵器を運用した軍人か、兵器を所有する軍か、それとも不備のあるアルゴリズムを開発した民間企業なのか、という問題です。
こうした問題は、例えばWiki WeaponやWinny事件にも共通し、技術が一人歩きする場合に起こります。同様の観点では、オープンハードウェアの知的財産権侵害にどう対処していくか、という問題についても以前紹介しました。

 

オープンソースによる兵器の低コスト化

軍による民間企業への投資が活発である、と触れましたが、非常にオープンな形でされている投資もあります。その1つが、DARPA(国防高等研究計画局)後援のロボットレース「グランドチャレンジ」です。これは、カリフォルニアの砂漠228キロをロボット(無人自動車)により走破することを目指したレース。2005年にグランドチャレンジを制した「Stanley」は、WIRED誌が選ぶ史上最高のロボットにも選ばれました。

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スタンフォード・レーシング・チームのStanley(同チームHPより)

ロボット開発をオープンなレースとすることで、軍は1億ドルの投資効果と1億5千万ドル相当の無償労働を手に入れることができた、と本書は指摘しています。

ロボットは極めて低価格で、誰にでも作れるようになっている

開発をオープンにすることで、多くの無償労働を促せる点は、クリス・アンダーソンのベストセラー『FREE』『MAKERS』で詳しく説明されています。特に『MAKERS』では、ハードウェアのオープン開発が進む未来について、著者の実験的なビジネスも踏まえて予想されています。
クリス・アンダーソンの主宰する無人航空機のオープンソース開発団体「DIYドローンズ」は、本書『ロボット兵士の戦争』でも触れられていました。

ロボットは「DIY」キットのおかげで、ほんの数年前まで軍用クラスとされていた機能を持つシステムも含めて、誰でも利用できるようになっている。ワイアード誌の編集長クリス・アンダーソンは、「DIYドローンズ(無人機)渡渉するウェブサイトまで開設し、アメリカの戦術システムに匹敵するシステムを、ごくわずかなコストで製造する方法を紹介している。そのなかには、GPSによる誘導とテキストメッセージによる制御で1時間の飛行が可能だが、コストはわずか千ドルという無人機もある。

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完成品の無人機ArduPlaneは現在$549.99(DIY Drones HPより)

部品やシステムがコンポーネント化し、非常に低価格(場合によっては無償)で利用できる点も近年の特徴です。
本書では、2005年にグランドチャレンジに出場した「チーム・グレイ」についても紹介していました。保険会社を経営していた彼らは元々コンピュータに馴染みはありませんでしたが、部品やコンポーネントを買い集めて、独学でプログラミングを勉強し、195のロボットのうち4位に入ることに成功します。とりわけて本書が注目していたのは、65万ドルという低コストです。

ほんの1年前には国防総省も、ほとんどの一流研究大学も作ることができなかったロボットを、たった65万ドルで制作したエリック・グレイは、次のように語っている。「みんなが不可能だといって無視しているのは、すばらしいことだ」

イラク戦争で活躍中の陸用ロボット「パックボット」がUSB接続で機関銃を換装したり、どうも兵器に使われる技術が身近なものになってきています。今後普及していくロボット兵器も、中身はビックカメラに並ぶ家電と大差なくなるのでは、という気がします。
 

非対称戦争の拡大

兵器の低コスト化の影響として著者が警鐘を鳴らすのが、非対称戦争の拡大でした。非対処戦争とは、ゲリラなどの非正規部隊が簡単な武器で、先進技術を装備した正規軍と戦えている現状を指しています。兵器の低コスト化が進むと、正規の軍隊でなくとも強力な武器を手にすることができ、紛争の増加・拡大を助けることに繋がります。

リナックスのようなオープンソースのソフトウェア・コードは、誰でも入手できて、利用し改善することができる。それと同じように紛争も、戦争をする気があって、恐ろしく起業家精神に あふれた組織なら、どんな組織でも加われるようになりつつある。

戦争はもう、決まった戦場で、民間から徴兵されたおおぜいの兵士が戦うものではなくなっている。国家だけが行うものでもなくなっている。

米軍の無人機がネバダから遠隔操作されているように、無人システムは、アメリカに入国できないテロリストに、これまでにない勢力範囲と接近手段を与える。

本書では、アメリカの大学生サム・ベルがダルフール扮装を憂いて、傭兵を雇用して現地に部隊を送ろうとした事例が紹介されていました。さすがにひとりの大学生が軍を派遣するのはいかがなものか、ということでこの試みは断られてしまうのですが、まとまったお金さえあれば個人でも軍を組織しうる可能性が示唆されています。

以上で紹介したように、技術開発のオープン化は開発のスピードを加速させ、高度な技術をより低コストで実現しますが、作られるものが兵器(又はそれに容易に転用できるもの)となると、脅威をも拡大させることに繋がります。
開発・運用に関係する民間企業の数も増えており、ロボット・無人兵器が活用される場面は、21世紀においては、いわゆる「軍隊同士の戦い」には収まらないでしょう。ロボット・無人兵器の、使う側のリスクの低さと、攻撃される側の被害の大きさを考えると、これはちょっと怖い未来じゃないかと思います。

よく言われるように、「兵器ビジネスに味方はいない。契約あるのみだ」。あるいは、一般市場ではかわずに、完全な盗みも含めて、闇市場で手に入れるケースも考えられる。「アフガニスタンで姿を消したロボットが、朝には売りに出されている」と、米陸軍のロボット戦術専門家は語った。

 

ロボット兵器の出現がもたらす影響について、本書では他にも様々な視点で分析していました。次の記事でも、他におもしろいと思った点をいくつか紹介したいと思います。

 

ロボット兵士の戦争 MAKERS―21世紀の産業革命が始まる

 

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