いなたくんへ
2017年もすでに1ヶ月が過ぎました。ガートナーによれば今年は「デジタル・プラットフォーム革命」が起きるんだって!「モビリティ革命」とか「Fintech革命」とか、どうも最近は「革命」の言葉が気軽に使われてる気がするね。
本来「革命」とは、世の中の価値観が一変するものすごい出来事のはずだ。その意味では「IT革命」とかのレベルになれば、ホンモノの「革命」感が得られる。こうした革命には他に何があったか。革命は世界をどう変えてきたのか。革命の歴史を整理したブログ記事がおもしろかったので紹介したい。
辞書によれば「革命」とは次のように定義される。
①支配者階級が握っていた国家権力を被支配者階級が奪い取って、政治や経済の社会構造を根本的に覆す変革。 「ロシア-」 「無血-」 「暴力-」
②既成の制度や価値を根本的に変革すること。 「産業-」 「文化-」
③〔中国で、天子は天命を受けて天下を治めるとされていたところから〕 王朝があらたまること。 〔③ の意で「易経」をはじめ日本でも長く用いられる。福沢諭吉「西洋事情」(1866~70年)で英語 revolution の訳語とされ、中江兆民らに広められた〕
大辞林第三版より
紹介記事もこの定義の通り、支配者の遷移に注目して世界史を俯瞰しておりわかりやすい。さらにおもしろいのは、紹介記事が「IT革命って結局何が変わったの?」という疑問に端を発して、テクノロジーに注目した整理となっている点だ。この観点から、タイトルでは「振り返る」と述べつつ未来に起こる革命にも紙幅が割かれている(筆者は未来人かな)。
記事で説明される革命の歴史は次の通り。IT革命はPC革命とインターネット革命に分けての整理となっている。
- ホモサピエンスの出現
- 新石器革命/定住革命/食糧生産革命
- ルネサンス
- 17世紀科学革命
- 産業革命
- PC革命
- インターネット革命
- RNG革命
- シンギュラリティ
- Human 3.0
過去の革命を整理して未来にまで視野を向ける、というアプローチは興味深い。そこで趣旨モロかぶりではあるのだけれど、筆者の許可を取って、私も未来予測の観点から過去の革命を整理してみた。私なりの視点も含めて再構成。
振り返りを通して革命が起きた要因を考えると、次の2つの種類の技術革新が見えてくる。
- 1.フロンティアの発見(人間をめぐる外部環境の変化)を促すもの
- 2.ヒトの進化(人間そのものの内的変化)を促すもの
この2つの観点から、未来に起こりうる革命も考えてみた。
Summary Note
- ホモ・サピエンスの勝利(約10万年前)/言語
- 農耕革命(約1万年前~)/農耕牧畜
- 文明の出現(紀元前3500年~)/文字
- 大航海時代の到来(15世紀)/外洋航海術
- 科学革命(17世紀)/活版印刷
- 市民革命(18世紀)/活版印刷と科学革命
- 産業革命(19世紀)とIT革命(20世紀)
- 宇宙開拓時代の到来
- 新興国の台頭、に伴う世界の重心の変化
- シンギュラリティ
- ポストヒューマン革命
日本史では政変のうち成功したものを「変」、失敗したものを「乱」と言うようだ。直近では明治維新も革命に当たる。しかしこの記事では紹介したブログ記事に倣い、世界史的な変革に絞って振り返りたい。
なお、タイトルのスラッシュ右は革命の要因となった技術革新。
10万年前に我々ホモ・サピエンスはネアンデルタール人を下して地上の覇権を得た。
紹介記事が慧眼と思うのは「ホモ・サピエンスの出現」を最初の革命に置いたところ。私も同意するのでここに挙げた。
ホモ・サピエンス勝利の要因の1つが「言語」とされる。もっとも、鳥も文法を持つくらいだし、ネアンデルタール人も言葉を使えはしたようだけど、ホモ・サピエンスはより流暢に仲間とのコミュニケーションを取り競争を生き抜いた。
ホモ・サピエンス(=賢い人/知恵ある人)の賢さや知恵の正体が「言語」であった。
農耕・牧畜の発明により食料の備蓄が可能になると「余剰」が生まれ、定住生活が始まり、狩猟・採集時代とは異なる社会が出現した。新石器革命とも呼ばれる。
未来学者のアルビン・トフラ-は世界的ベストセラーとなった『第3の波』(1980)で、農耕革命を「第1の波」と定義した。
また物理学者ミチオ・カクは農耕革命を、それまで1/5馬力(自分の筋力)しかエネルギー消費できなかった人類が、はじめて自分の力を超えるエネルギー(家畜の1馬力)を手にした変革と評価している。
農耕により生まれた村々はやがて統合され、巨大な文明圏に属することになる。いわゆる四大文明の出現である。
人類の生活圏が村落から広域国家へスケールし、社会制度をさらに発達させた背景には、文字の発明があった。メソポタミアの楔形文字や、中国の甲骨文字だ。
以後、ヒッタイトの鉄器やスキタイの鐙など、武器や道具の発明に伴い、国家は栄枯盛衰を繰り返していく。
15世紀になると、ヨーロッパ人によるアフリカ・アジア・アメリカ大陸への大規模航海が行われる。世界各地の文明がヨーロッパ人の影響下に置かれた、という点で革命的と言えるだろう。新大陸も発見された。
ヨーロッパ世界的には、ヴェネツィアやイタリアなどの地中海国家から、オランダやスペインなどの外洋航海国家に覇権が移った出来事でもある。
この革命の背景には、造船技術もさることながら、外洋を航海するための航海術が欠かせなかった。例えば羅針盤や緯度航法だ。また、火薬も世界を席巻するのに欠かせない道具であっただろう。
「羅針盤」と「火薬」はルネサンスの三大発明に数えられる。そして残る1つの「活版印刷」は取り分けて世界史への影響が大きく、これを遠因とした革命が起きてゆく。
科学革命とは、17世紀における近代科学の成立を指す。実験と観察に基づく「再現性」が正しさの証明とされ、地動説や万有引力の発見はそれまでのキリスト教的世界観を覆した。
マイケル・ニールセン著『オープンサイエンス革命』(2013)では、新しい発見を公開・共有する論文制度の始まりが、科学の加速度的進歩を実現したと指摘する(オープンサイエンス1.0)。発明を促す特許制度の成立もこの時期だ。この両制度を可能にしたのが活版印刷だった。
ちなみに活版印刷は宗教改革の拡大も担っている。
「革命」と言って市民革命を挙げぬわけにはいかないだろう。フランス革命や清教徒革命に代表される、封建国家の終焉と資本家社会の始まりである。
坂本賢三著『先端技術のゆくえ』(1987)では、歴史を「宗教の時代」「政治の時代」「経済の時代」「技術の時代」の4つに分類している。市民革命は、王が絶対者だった「政治の時代」から、企業(お金)が絶対者となる「経済の時代」への遷移にあたる。
『先端技術のゆくえ』で面白いのは、「政治の時代」の絶対者たる王が、その権威を前時代の絶対者たる神に支えられていたとする点だ。
しかし神の権威(キリスト教的世界観)には科学革命により疑問符がつけられていた。そして印刷技術は啓蒙思想を市民に普及し、革命を引き起こす。
産業革命は蒸気機関の発明による軽工業の発達(第一次産業革命)と、電気・石油利用による重工業の発達(第二次産業革命)に分けて語られることもある。いずれも人類史への影響は言うまでもない。副次的には交通革命も起き、世界の時間距離が急激に短縮された。
「支配者」の観点からこの革命を見ると、第一次産業革命の起こったイギリスはパックスブリタニカと呼ばれる覇権を謳歌し、次いで米国がパックスアメリカーナの時代を創った。いずれの覇権もテクノロジーの裏付けがあったとわかる。
前述のアルビン・トフラ-は以上の技術革新を「第2の波」と呼ぶとともに、いわゆるIT革命の到来を「第3の波」として予言した。
革命の歴史をざっと振り返ったところで、革命の要因を考えてみる。
技術革新が世界史に変革をもたらしてきた、というのは明らかだ。技術革新とは道具の進化である。家畜や船、火薬、活版印刷、蒸気機関、電気、計算機、これら新たな道具が革命を起こした。
しかし、同じ道具でも瓦屋根では革命が起きず、印刷で革命が起きた。この違いは何か。
道具とは「持ち主の能力を拡張するもの」であり、技術革新とは人間能力の拡張と言い換えられる。革命をもたらしたのは、その中でも能力拡張幅の大きい道具だった。王を、隣国を、古い秩序を、あるいは世界を蹂躙できる新たなチカラ。これを与えられるだけの道具が、革命を導いてきた。
ここで歴史を振り返ると、革命を起こすほどに能力を拡張する道具には次の2種類があったようだ。
拡張された能力の1つめが時空間的認識力だ。
例えば農耕牧畜が可能にした「貯蓄」は、その日暮らしではない時間的余裕を生み、生活圏を拡大させた。外洋航海術は世界像を書きかえ、産業革命は地球上から秘境をなくした。
いずれの技術も、人間の認識域を時間的・空間的に拡張し、未知の世界「フロンティア」をもたらしている。フロンティアの発見が新たなチカラの源泉となり、社会を変革させた。
もう1つ拡張されたものが「情報システム」である。文字や印刷技術、IT革命は、情報伝達の変革を通して世界を変えた。
ところで、「情報システム」とは単なる道具に留まらず、生命の本質に他ならないと唱える識者がいる。『テクニウム』(2014)の著者ケヴィン・ケリーだ。彼は生命を「自己生成可能な情報システム」と定義し、単一の複製する分子、DNA、単細胞生物、霊長類と、生物学的な組織の進化はいずれも情報システムの高度化だったと指摘している。
そして情報システムとしての生命はあるとき、自らのカタチを作り変えることをやめ、道具を通して可能性を広げる戦略にシフトした。その最初の変革が「言葉」の獲得である。
ホモ・サピエンスの出現は、単に類人猿の1系統が生き残ったという話ではない。情報システムが生体組織としての変化を止めて、道具を介しての進化に切り替えた瞬間なのだ。
システム的観点から見ると、言語は遺伝子より早く学習による適応や伝達を行うことができるものだった。
『テクニウム』より
言語の発明は自然世界における最後の大きな変化だが、人工物の世界ではそれが最初の変化だった。
『テクニウム』より
以後「自己生成可能な情報システム」は文字や印刷、インターネットと、技術革新の度に規模を拡大し、人間はその成長を通して知的認識力を拡張してきた。人間もまた「自己生成可能な情報システム」であるところ、文字や印刷、インターネットの獲得は、ヒトの進化とも言い換えられる。
すると革命とは、先に進化したヒトの集団が、旧時代の情報システムしか持たぬ集団を駆逐した出来事とも捉えられる。その最初の事件が、「言葉」を手にしたホモ・サピエンスによるネアンデルタール人の駆逐であった。
Human Evolution? / bryanwright5@gmail.com
以上の通り、革命をもたらす技術革新には2つの種類が挙げられそうだ。
1つは時空間的認識力を拡張するもの、すなわち人類にフロンティアの発見を促すもの。
そしてもう1つが、自己生成可能な情報システムの拡張という形で、ヒト自身の知的進化を促すものだ。
この観点から未来に起こる革命を考えると、いくつかの可能性が見えてくる。
21世紀のフロンティアと言えば宇宙だ。宇宙開拓は人類の認識域をかつてないほど拡張し、人類史を新たなフェイズに進めるだろう。
国際関係も、世界観も、生活も、すべての景色が今とは変わる。月の裏側の人々が独立戦争名乗ってコロニーの1つも落してきたら、我々日本人も「アメリカが~」とか「中国が~」とか言ってる場合じゃなくなるだろう。
新興国の台頭も革命に結び付く。これまで先進国で起きたことの影響が伝搬する「余地」がこの世界には残されていて、このフロンティアの成長次第では世界の重心が傾き得る。
これは英エコノミスト誌や米国の調査機関なども指摘しているところで、例えば国連組織やG8などの既存の枠組みはすでに国際社会への影響力を落し始めている。
パックス・ブリタニカやパックス・アメリカーナが技術革新に裏付けられていたことを鑑みると、次なる技術革新を生み出す者が世界の重心を手にするだろう。
言語、文字、印刷、インターネットと、技術革新を経るたびに「知の増幅」の規模は拡大してきた。「自己生成可能な情報システム」の次なる進化として注目なのが人工知能だ。
人工知能がこれまでの技術革新と異なるのは、生じる知の増幅がついに人間の手を離れることだ。自ら発明を生む人工知能は、もはやヒトの力を借りることなく自己進化する。
我々ホモ・サピエンス(賢い人)はそのアイデンティティたる「賢さ」で機械に負けるとき、ネアンデルタール人の運命を追うことになるかもしれない。
「自己生成可能な情報システム」の進化は、「言語」以降は道具(印刷とかインターネットとか)の進化に化体している。と述べてきたけど、この仮説はしかし正しいとは限らない。バイオ技術の発達が、生命のカタチを再び作り替えようとしているからだ。
進化の可能性としては例えば、肉体を失うことや、脳を介した直接コミュニケーション「ブレインネット」の実現などが考えられる。我々ホモ・サピエンスを起点としたポスト・ヒューマンである。
言語獲得以来のこの10万年を、人工知能を生み出すための期間とみるか、それともヒトがヒト自身を改良できるようになるための期間とみるのか。
これは大げさに考えるべきことではない。我々ホモ・サピエンスから次なる生命へと支配権の交代が起きたとしても、長い地球の歴史においては1つの進化史に過ぎず、決して不思議なことではないからだ。
*
以上、革命の歴史をざっと振り返って、未来の可能性を予想してみた。
ちなみに、現代に近づくほど革命の頻度が短くなっていたのは偶然ではない。革命の原動力たる技術革新が、指数関数的性質をもつからだ。したがって今回挙げた未来の革命が起きるのも、そう遠い先の話ではないと考えている。もしかしたら生きてるうちに立ち会えるかも。
元となったブログ記事のリンク再掲。