いなたくんへ
ドローンの開発動向には依然として注目が集まっている。民間・軍事の両分野における、現在の活用と、少し未来の展望について、以前下記の記事にまとめた。
- ドローン本格普及前夜のまとめ(1/2)-無人飛行機を利用した未来のサービス(希望は天上にあり,2014/4/27)
- ドローン本格普及前夜のまとめ(2/2)-無人航空兵器がもたらす未来の戦場(希望は天上にあり,2014/5/25)
ドローンを巡る状況はその後も着々と進んでいる。最近のニュースを中心に、改めてまとめてみた。
特にドローン運用に関する法整備には注目が集まっている。米国では依然厳しいものの、技術的に解決するアプローチもあるし、各国毎にも状況は異なる。
また、大気圏衛星や警備目的での運用も進んでおり、Facebookと長野県警の事例がニュースになっていたので、触れてみた。
Summary Note
ドローン規制に対する各方面からのアプローチ
- 中国・シンガポールでも進むドローン配送・ドローン給仕
- 規制緩和されたけど米国を見限り気味なAmazon
- 技術による機能制限アプローチ
- 各国のドローン規制のいま
ドローン利用の進捗状況と、最新型ドローン
- Facebookによる大気圏衛星の実用化状況
- 長野県警がドローンを正式導入して成果をあげる
- ペイロード投下ドローンと、超高速ドローン
ドローンについてまず注目したいのは、ドローン運用の制度整備がどう進むかだ。
ドローンの利用方法の1つとして、Amazonによるドローン配送の発表が話題になった。同様の試みは、中国の巨大EC企業アリババも検討している。
- アマゾンCEO、ドローンによる配送サービスの進捗を報告?第7~8世代が設計段階(CNET Japan,2014/4/12)
- 中国最大ショッピングサイトアリババが、ドローン配達テスト中(GIZMODE,2015/2/6)
というか中国ではすでに、ドローン配送が試験段階ではあるが実施されている。
中国大手物流会社のSF Expressは2013年からすでに配送実験を開始していて、500台ほどのドローンが、それぞれ1kgの荷物を持って飛行している。2015年には第三世代となるドローンを使って、7つの地域での運用を行うとのこと。試験と言いつつ、かなり実用段階に近いようだ。
ただし中国のニュースサイト網易科技報道は、SF Expressの試験運用について、認証制度の未整備や、製品の品質保証の観点で、まだ難しいのではないかと疑問を投げかけている。
網易科技報道記事より
またこちらは屋内の話だが、シンガポールでも、レストラン内でのドローンによる給仕が始まろうとしている。ドローンは700グラム(ビールジョッキ約2杯分)まで搭載可能で、店内の生産性を25%向上できるとのこと。2015年にスタートするようだ。酔っ払いにぶつかられたりしないか、ちょっとだけ心配。
こうした状況がある一方で、ドローンによる問題も頻発している。
墜落したドローンにぶつかってケガをする場合はもちろんのこと、航空機とのニアミスや、原発への侵入、ホワイトハウス敷地内での墜落体の発見など、「事件」一歩手前な出来事も起きていてドキドキしてしまう。
- ドローンによる「意図的な」旅客機ニアミス事件が多発(WIRED.jp,2014/10/27)
- フランスの13原発に、正体不明のドローン接近(WIRED.jp,2014/11/4)
- 小型ドローン、ホワイトハウス敷地内で発見(WIRED.jp,2015/1/27)
米連邦航空局(FAA)は現在、民間ドローンのための規制の整備が完了するまで、商用ドローンの屋外の飛行を禁止している。そんな中でAmazonに対して、実証実験のために規制を緩和する決定がなされた。ただし、日中の屋外で、操縦者の見える範囲内の、120m以下の高度の飛行に限る、とする条件付きだ。
これに対してAmazon側は、規制緩和が遅すぎ、すでに認可を受けたプロトタイプは旧式なったので、最新モデルで再度許認可申請を出しなおさなければならない、埒が明かないので外国で実験進めてますよ!と話している。
- アマゾンの配送ドローン、FAAがテスト実施を許可–実験的耐空証明書を取得(CNET Japan,2015/3/20)
- 「FAAは商用ドローンの規制プロセスに時間をかけすぎ」–アマゾン幹部が議会で批判(CNET Japan,2015/3/26)
Amazon Prime Air HPより
テロとの戦いを掲げる米国としては、ドローンの持つ上記リスクは軽視できないだろうから、規制の緩和に足踏みするのもうなずける。ドローン開発者側は、制限された中で実績を積み上げ、安全性の保障を説明し、歩み寄っていくしかないだろう。
開発者側の対処としては、技術的に機能制限を設けるというアプローチも提案されている。
製品に対する機能制限というと、記録メディアのコピーコントロールや、録画機のダビング制限を思い出す。メーカーは発売する装置に対して、技術的に制限を加えることで、著作権侵害行為を防ごうとした。また当局側も、著作権法及びその運用自体を整備して、新たに出現したテクノロジーに対応しようとした。
ドローンについても同様に、技術と法制度の両面から、安全やプライバシーと言った様々な課題に対応していくと思われる。
[73/366] Grooves / dbbent
もっとも、コピーコントロール等の技術的制限がコピー行為を無くしたかといえば、完全ではない。みんな思い当たるフシがきっとあるよね?
技術にしろ、法律にしろ、制限しても必ず抜けられてしまう。そうなった場合の抑止力をどうするか、抜けてしまう少数(のはず)の例に対してどうするかが、重要になるだろう。
特にドローンは記録メディアと異なり、場合によっては人命にも関わってしまう。議論は慎重に進まざるを得ない。
なお国内では慎重派の米国も、国外ではドローン使って暴れまわってるわけですけどもね。これからは輸出もガンガンやるぜ!原則は設けつつも結局売るかどうかはケースバイケースで決めるぜ!
ちなみに米国以外の状況を見ると、次のページがわかりやすいかも。
ヨーロッパは欧州航空安全機関に認可をもらえばよく、ドイツ企業で既にドローン配送のテストを行っている企業もあるようだ。
中国はドローン利用に否定的とのこと。中国は確かに規制が厳しくて、気象観測すら違法とされている。ドローンがどこまで許されるかどうか。とは言えそれはそうとして、「上有政策、下有対策」(上に政策あれば下に対策あり)の国なので、実際には柔軟に進展していくものと私は考えている。
ドローンに関する法整備が最も進んでいるとされるカナダについては、今後のベンチマークとして参考にしたい。
日本もドローン分野の発展には比較的前向きと言われていて、着実に制度設計が話し合われている。課題は多いが、日本も存在感を発揮できるように環境づくりを進めてほしい。
今後各国でどのような特色が出ていくのか、それがドローン開発企業や市場の成長にどう繋がっていくのかは、法制度整備が事業活動に与える影響の事例として見てもおもしろそうだ。今後の動向に注目したい。
規制については時間をかけて議論を進めていただくとして、ドローンの用途は広がっている。
GoogleやFacebookが大気圏衛星を用いたネット接続に意欲的であることは、すでに紹介した。大気圏衛星とは、数年間という単位の長期間にわたり高高度に滞空する無人飛行機を指す。
これについて、Facebookの実用化に向けた動きが具体的になってきている。
- Facebook、太陽光発電ドローンでインターネット接続地域を拡大へ(CNET Japan,2015/3/30)
- Facebookの「レーザー搭載ドローン」、テスト飛行に成功(WIRED.jp,2015/3/30)
Facebookの大型ドローンAquliaは、小型自動車ほどの重量ながらボーイングジャンボジェット並みの翼長をもち、太陽電池を搭載して、高度2万メートル以上を数か月飛行できる。今回は空力試験に成功し、2015年夏に実際のテスト飛行を行うとのこと。目的は、レーザ通信によるインターネット網の拡大だ。
こうした大気圏衛星が実現すれば、アフリカなどインフラ未整備の地域で一気にインターネット化が進むことになるだろう。
なおGoogleも、大気圏衛星による新たな周波数帯の獲得に向け歩みを進めているようだ。投資活動も盛んで、こちらは大気圏衛星ではなく宇宙の衛星になるが、スペースX社への10億ドルもの投資を行っている。
- グーグル、空からのネット接続で新たな周波数帯を視野に(THE WALL STREET JOURNAL,2015/1/21)
- 狙いは「衛星インターネット」:グーグルのSpaceX社への投資(WIRED.jp,2015/1/21)
警備用途のドローン利用は各国ですでに行われているが、日本では長野県警が始めるというニュースを見つけた。しかも独自開発とのこと。
記事を読むと、どうやらドローン愛好家・青沼警部補の存在が大きい模様。2012年から試作機の実用化に乗り出していたなど、なかなか時代を先取りしている。白馬村ガス爆発事故への対応など、いくつかの事件での活用も既にされているようだ。
青沼警部補は、仲間内では「ドローン警部」とか「ドローン・デカ」とか呼ばれてるんだろうか。こち亀に出てきそう。
ドローンというとバッテリの持続時間が15分程度と短い点が気になってしまう。それでも、一時的でも空からの視点を得られる効果は大きいようだ。
その他、最近のニュースで目についたドローン2種類を紹介。こんな種類のドローンもあるらしいですよ、ということで。
荷物を落とせるドローンが登場。配送用途はもちろんのこと、アウトドアのイベントでの使い道を考えると色々おもしろそう。色々落としたいよね。あとフレア発射とかも、本当に必要なんだろうか。こうしたドローンは米国当局を警戒させる方向にしか働かないと思うんだけど、とは言え私たちのワクワクも止まりません。
尖ってるドローンといえば、時速100kmという高速度を達成したドローンも。速度だけでなく運動性能にも目を見張るものがある。ドローンてここまで動けるのね。これはぜひ手に取って飛ばしてみたい!けど、通信圏外に飛んでっちゃたりはしないのかな。
ドローンはその出自からして、オープンソース・ハードウェアと親和性が高い分野だ。これからもおもしろドローンがたくさん登場して、我々の目を驚かせてほしいし、いずれ規制の問題も解決して、空のもつ可能性を広げて欲しい。