少子高齢化する日本の人口は、都市に集中するのか、地方に分散していけるのか(『2100年、人口1/3の日本』書評 1/2)

人口の増減を示す「人口動態」は、未来予測において比較的確度の高い予測値とされています。ジョージ・フリードマン著『100年予測』や英エコノミストによる『2050年の世界』など、多くの未来予測本でも人口動態を予測の根拠としていました。
当サイトでも、人口の動きに基づく予測や紹介を色々載せてきてます。

人口といえば、少子高齢化が叫ばれて久しい日本の将来も気になるところ。どのくらい減っていくんでしょうか。例えば国立社会保障・人口問題研究所は、日本の人口の推移を次のように予想しています。

  • 2055年:8,993万人(中位推計)
  • 2105年:4,459万人(参考値)

2105年の値は参考値ではありますが、それにしてもずいぶん減っちゃいますね。今の半分以下とかけっこう寂しいです。1955年の人口が8,928万人、1901年が4,400万人だったので、ちょうど今現在をてっぺんにして、逆V字を描くような推移です。

こうした予想があるなかで、日本は今後一体どうなってしまうのか、を記したのが『2100年、人口1/3の日本』。本書を参考に日本の未来を紹介したいと思います。

2100年、人口3分の1の日本 (メディアファクトリー新書)

Summary Note

『2100年、人口1/3の日本』で述べられていた日本の未来

  • 日本の将来人口は2055年8,993万人、2105年は4,459万人
  • 経済を維持するためには、1)女性、2)老人、3)外国人の活用が解決策
  • 人口維持のために移民を受け入れると、2050年までに3,233万人が必要になり、将来は人口の1/3が移民になることも
  • 2050年までに、東京・名古屋以外の人口は減少し、国土の66%では人口が半減、無人地帯も22%発生
  • 2050年までに、東京圏の高齢者が倍増し、若年人口減少も相まって、社会保障を圧迫する
  • 都市部での社会保障圧迫を要因として、地方に人が移住する可能性もある

人口が地方に分散するシナリオは

  • 地方に産業が生まれることが必要だと考えられるが‥

ところで今の少子化って、70年代から政府により恣意的に進められてきたものなんですね。現状は政府の計画通りなのだ! と本書で触れられてたのですが、知らなかったので驚きました。

 

経済力向上(というか維持)の鍵は女性・老人・外国人(本書より)

「少子化」と「高齢化」の合わせ技で生じる労働力不足。労働力が不足すると日本の経済力や国際競争力が落ちてしまうので深刻です。この解決策として提示されていたのが次の3点。

  • 1.女性の労働機会を増やす
  • 2.定年を72歳とかに引き上げ高齢者にも働いてもらう
  • 3.外国人の移民を増やす

いずれも耳にする策ですが、あらためて整理されると、ああ打つ手はこの3つしかないんだなという感じ。今後の日本の政策が議論される上での大きなイシューが、この3つということですね。

こうした未来の大きな変化に向けての参考として、本書では過去の歴史も振り返ります。
歴史を見ると、いま伝統的だと思われている家族感や価値観が、実は最近作られたものに過ぎないことがわかります。

  • 離婚率が上昇してると言われるが、それでも明治期に比べれば少ない(日本の普通離婚率は1959年代:0.1以下、2009年:0.2、19世紀末:0.3)
  • 昔は女性が皆働いていた(1879年甲斐国における出産可能年齢女性(15-49歳)の96%が有業者だった)
  • 庶民の結婚が当たり前になったのは江戸時代になってからのこと

過去も含めた長いスパンで考えてみるとと、いま当然とされる生き方や価値観が将来変わっていくことも、十分ありうる話な気がしてきます。

人口維持のためには国民の1/3が移民に

ただし外国人移民については本当にドラスティックな数字となっていて、場合によっては実に人口の1/3が外国人という世の中に。

  • 2050年まで人口維持するために…1,714万人受入れ必要
  • 2050年まで経済規模を縮小させないために…3,233万人受入れ必要

2009年時点での外国人労働者+その家族が219万人とのことですから、けっこう飛躍のある数字です。実現のためには抜本的な法制度改革が不可欠ですが、ハードルも高い気がします。

 

「都市化」と「地方分散」という2つのシナリオ(本書より)

未来の日本の姿としてもう1つ挙げられていたのが「都市化」や「過疎化により地方は滅びるかも」という未来。住む場所がどうなるかって、人生設計考えるうえで大事なファクターだと思うんですけど、どうなるんでしょうか。

シナリオ1:都市への人口集中と地方の過疎化

本書では、国土審議会による2050年までの推計として、比較的恐ろしげな数字を紹介していました。日本を1キロ平方メートル毎に区画したとき、それぞれの区画がどうなっていくかの予測です。

  • 98%の区画で人口は減少
  • 人口増加するのは東京・名古屋圏のみ
  • 人口が現在の半分以下になる区画は66%、うち1/4以下になる区画は42%
  • 無居住化地点は全国で22%発生(今人が住んでいる土地の1/5以上から住居が消滅する)

「過去に経験したことのない人口減少と人口集中が同時に展開する時代となる」とは著者の言。数字で見ると改めて、地方の人口減少が壊滅的だとわかります。
著者は、そもそも地方集落の多くは江戸時代の新田開墾に伴いできたものだから、人口減少によりそれらの地域が消えてくのも当然、と言います。でも故郷がなくなっちゃって寂しいという人もいるのですよ。

「都市化」とは言いますが、東京だって油断はできません。人口が減るのは日本全体の傾向であり、大都市圏内部にもシャッター通りが発生していくだろう、と著者は指摘しています。

depopulated village
故郷が朽ち果ててくのはちょっと辛いです (画像出典:depopulated village / isado)

シナリオ2:人口は地方へ分散していく

一方、都市化&地方の過疎化という上記予測に対する反対説として、経済学者松谷明彦氏の予想も紹介されていました。

  • 東京圏の高齢者は50年までに1.9倍に増える
  • 若年人口の減少も相まって、大都市の老年人口増加は社会保障費を圧迫する
  • 一方、地方都市では老年人口はむしろ減少して財政負担が軽くなり、生活水準は上昇する
  • 結果として、大都市から地方へ移住する人が増える

地方都市で老年人口が減少ってのはどうなんでしょうね。後述する蟻地獄現象じゃないですけど、人口が都市部に流入し続けるなら、やっぱり地方の過疎化は止まらないと思うんですが。都市への流入が止まるほどまで、都市部の社会保障費は高騰するということでしょうか。

著者は、こうした現象は過去の人口変動期の動向とも類似しており、現在の大阪圏における人口流出がその兆候だと指摘。もしこの予想が正しければ、今後は地方に注目が集まってく可能性がありそうです。

ただし、人が地方に移ったり、あるいは留まるには、それなりの産業もまた地方になければなりません。例えばいま東京圏に集約されてる大学や企業、工場が地方に移っていくかというと、現時点ではあんまり想像つきません。
もちろん政策にも大きく左右されるところなので、人が減っていく中でどんなグランドデザインが描かれるのかにもよるでしょう。けれども、地方分散というこのシナリオが実現するハードルは、決して低くない気がします。

 

個人的には2つめのシナリオ、地方分散の実現を希望したいが

著者は都市のことを「蟻地獄」と呼びました。
人口過密な都市は、本質的に死亡率が高いとされています。ではなぜ都市部の人口が減らず、むしろ増えていくかと言うと、それは周辺地域からの流入があるからです。

例えば江戸期においては、江戸における江戸出生者の人口は1/3に過ぎず、他は関東甲信越を中心に、西は伊勢から北は陸奥までが労働力を供給していたとされています。
仕事や夢を求めて都市に向かった周辺地域の人々は、そのまま都市で死んでいきました。それでも周辺地域からの流入は止まりません。この周辺地域から都市への人口の一方通行的な流動を指して、都市を「蟻地獄」と呼んだのです。

地方の人口維持のために必要なこと

日本全体の人口が増加する局面ならいいですが、今後人が減っていく中で、都市だけが機能を維持し地方が枯れていく未来はなんだか暗い気持ちになります。
感情的な問題ではありますが、私は2つめの、日本の各地域が発展していくシナリオに期待したいです。

鍵となるのは「仕事を生み出す産業を地方におけるかどうか」ではないでしょうか。この問に答えるヒントとして、著者は「時代の転換」というキーワードを挙げていました。これについて次回で紹介したいと思います。

 

2014/6/7 追記

人口動態に関する政策として、大きな動きがありました。
2014年5月時点で内閣府「選択する未来」委員会が日本の人口に関する提言を検討しています。提言は、2060年の日本の人口を1億人に維持することを目的とし、そのための各種政策を立案するべきというもの。もしこの提言が採用されれば、日本の未来も大きく変わるかもしれません。

 

2100年、人口3分の1の日本 (メディアファクトリー新書) 限界集落の真実: 過疎の村は消えるか? (ちくま新書) 人口学への招待―少子・高齢化はどこまで解明されたか (中公新書)

 

※この記事は2013/9/23に掲載した記事を、2014/6/7に加筆・修正し、及び「追記」を載せた記事です。

 

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