以前、東京の今後の都市開発について述べた市川宏雄著『山手線に新駅ができる本当の理由』(2013)を紹介しました。この本では、品川・田町間に新設される山手線30番目の駅と、東京最後の大開発と呼ばれる当駅周辺の再開発、そして東京をアジアに名だたる国際都市にするというビジョンが綴られています。
東京と言えば一大イベントとなるのが2020年の五輪開催です。五輪が再開発に大きな影響を及ぼすことは間違いありません。誘致決定から時間が経ち、再開発の全体像が明らかになってきたので、もう1冊読んでみました。今回は、五輪前提の東京再開発計画をまとめた『東京大改造マップ2020』(日経BPムック,2014)から、東京の未来を覗いてみます。
Summary Note
東京における再開発計画の概要(本書より)
- 沿岸エリアは五輪に向け、1万戸規模の住宅開発や交通インフラ整備を進める
- 品川・虎ノ門・六本木エリアはアジア・ヘッドクォーター特区として、国際競争力向上を意図した業務集積拠点を目指す
- 大丸有・日本橋・銀座エリアでは連鎖型開発が進み、今後も発展していく
- スポーツ集積視としての神宮、IT企業オフィスとしての渋谷も姿を変えていく
- 2020年には3つの環状道路の整備率が90%となり都内の渋滞が解消、また鉄道・バスの整備も進んでいく
しかし不安要素も‥
- 今後も数万人規模の人口流入を予想する東京だが、その予想は正しいのか?
- 東京の緑化に期待したいが、大きな計画はなさそう
- 五輪後の経済失速は起こるのか?
本書はオールカラーで、たくさんの地図が載っていました。今後の再開発の様子がビジュアルに頭に入ってありがたいです。開発地区ごとにまとめられていたので、ここでは主な開発計画をかいつまんで紹介します。
五輪のための開発が集中する地区で、目玉となるのが選手村。五輪以後の分譲・賃貸を前提に、1万戸規模の住宅開発が行なわれる。
スポーツ観光や築地新市場、カジノ誘致など、観光地としての開発もされる予定。
交通インフラが課題となるが、銀座と晴海を結ぶバス高速輸送システム(バス用専用レーンで、将来は路面電車化も計画)を導入予定。
東京都都市整備局より
品川はアジア・ヘッドクォーター特区に指定され、国際的な業務集積拠点を目指す。品川・田町間に設けられる新駅は成田・羽田に直通となる。なお品川は、2027年にはリニアの基点駅にもなる。
駅周辺は品川シーズンテラスなどの建設が進んでいる。
2014年には、アジア・ヘッドクォーター特区の目玉のひとつとなる虎ノ門ヒルズもオープンした。当エリアでは、更なる国際競争力の強化を目指し、オフィスビル群の再編が始まっている。
環状二号線沿線は街並み再生地区に指定されており、今後一気に開発が進む可能性。
2003年都市再生本部による「連鎖型開発」がいまも続いており、今後も引き続き再開発が進む(現在は第三弾の開発がスタート)。
災害時の入浴施設とすることを想定した天然温泉旅館「星のや」もオープン予定。
これらのエリアも再開発が進んでおり、例えば神宮外苑は新国立競技場を核とした「スポーツ集積地」を、渋谷はIT企業が集まるクリエイティブなオフィス街を目指している。
交通インフラは時間がかかるため2020年の五輪には間に合わない可能性が高いが、五輪を視野に入れているプロジェクトもある。
1964年の道路計画「3環状9放射」のうち、3本の環状道路(首都高、外環、圏央道)がいよいよ整備率90%となる(2020年予定;なお2012年は59%)。これにより、都内の渋滞が緩和される可能性がある。
電車・バスに関しては、常磐線と東海道線の接続及び東北新幹線と東海道新幹線の接続(東北縦貫線)、各新駅計画、東京メトロの延伸、晴海へのバス高速輸送システム導入など、各種計画がある。
本書の最後では今後のマンション価格の推移も予想しており、「少なくとも2020年までは下げ要因は見当たらない」と結論付けています。理由はいくつかありますが、職人不足による人件費高騰や、大規模開発による資材価格・労務費の高騰を挙げており、建設業界はだいぶ潤いそうな予感。これが日本経済全体への刺激になるといいですね。
とは言え気になったところもいくつか。
本書によれば、湾岸エリアだけでも、五輪選手村をはじめとして1.2万戸の住宅開発がされるそうです。この1.2万戸分の人々はどこから来るのでしょうか?
東京の世帯平均人数は1.96人(平成26年)なので、湾岸エリアの流入数は約2.4万人となります。新宿など他のエリアでも大規模な住宅開発がされるので、東京全体ではさらに増えることになりそうです。
本書によると、過去10年間の東京への人口流入は約10万人。東京都は今後も同程度の規模の人口増加を見込んでいることになります。
日本全体の人口は、40年後の2055年には約9000万人まで減ると予想されています(国立社会保障・人口問題研究所による中位推計)。本書のような具体的な建設計画を知ると、東京のさらなる都市化に実感もわきますが、周辺地域がどうなってしまうのかはちょっと気がかりです。
鬼頭宏著『2100年、人口1/3の日本』(2011年)では、東京も人口減少の波を避けられず、局地的なゴーストタウン化が起こるという予想が紹介されていました。
実際にどうなるかはわかりませんが、一連の建設計画が東京の人口動態にマッチしたものであることを願います。
人口は増えるようですが、暮らしやすい街になるかと言えばそれはどうでしょうか。
本書では緑地を増やす話がほとんどなく、街づくり、道づくりの話ばかりというのが気になりました。たまたま本書が触れてないだけかなと思い、自分でも軽く調べてみましたが、東京都の緑化政策は「屋上に緑を置こうぜ!」くらいしか考えてないようです。
本書で触れられていた緑の話は次の2つです。
1つめは、虎ノ門ヒルズの足元につくられる緑。虎ノ門ヒルズの目玉の一つとなっているようですが、緑化と言えるほどの緑ではなさそう。
もう1つが、品川・田町間に建設中の品川シーズンテラス付近が緑化され、都内への「風の道」が作られる話。
「風の道」は都内の温暖化解消を目的とした計画で、海沿いに緑地を設けることで、海からの風を都心に導き入れるというものです。一体どんなものになるのか注目してたのですが、品川シーズンテラスの緑地を「風の道」と言われるとちょっとがっかり。というのは、地図で見るとどうしても小さな面積にしか見えないんですよね。それだけのサイズの緑地で本当に「風の道」ができるんでしょうか。
ところで「風の道」は「海の森プロジェクト」(2006年頃の計画)でも紹介されていました。品川シーズンテラスの緑地はこの「海の森プロジェクト」で言及される風の道からは大きく外れていますが、関係はどうなっているのでしょうか。
海の森公園は2036年頃までの長期計画で、2016年には一部が開園するようです。皇居や明治神宮規模の緑を期待する私としてはまだ不満が残りますが、せめてこちらに期待することにします。
人口増を目指すシムシティ的開発計画も構いませんが、環境面での整備ももう少しよろしくお願いしたいところです。
韓国、スペイン、ギリシャ。本書が指摘する、夏季五輪開催後に経済危機を迎えた国です。本書では日本についても、五輪後の経済失速を示唆していました。
もっともこれら3ヶ国はいずれも(少なくとも開催当時は)経済的に恵まれていた国とは言えないですし、例外的に捉えるのが正解でしょうが、とは言え日本にとっても不安材料の1つとなるでしょう。
五輪までの景気刺激をテコに、そのまま飛躍する日本であって欲しいです。