「2060年・日本の総人口1億人維持」の政策がもたらす、将来予測への影響

政府が50年後の日本の総人口1億人維持を目標とする、という日経新聞の報道が私の中でかなり話題になっています。
未来予測において、人口動態は信頼性が高いとされる数値であり、この予測値が変わるとその他の予測にも影響を与える可能性があるためです。今回はその影響について考えてみました。

 

Summary Note

「2060年1億人」という政策提言

  • 内閣府「選択する未来」委員会の政府への提言が採用されれば、2060年の日本の人口は8600万人(現在予測)から1億人に増える
  • 対策は2020年までに集中的に実行され、出生と子育て、各年代への資源分配、労働制度、ビジネス環境等が大きく変化する可能性がある

見直しが必要になる将来予測

  • 日本の国力と、それに基づく国際関係の予測
  • 「超高齢化・少子化」を前提とした全ての予測

 

提言が採用された場合の実現可能性

日経記事で報道されていた内容を以下にまとめました(正確な内容は上記記事及び内閣府「選択する未来」委員会の資料を確認してください)。

  • 政府経済財政諮問会議下の「選択する未来」委員会が中間報告として5月中旬に提言予定
  • 合計特殊出生率を2012年の1.41から、2060年2.07以上に引き上げる
  • 現在の人口予測である2060年8600万人を、1億545万人とすることを目指す
  • 対策は今後5年で集中的に実行し、2020年を節目に社会経済システムを大きく変える
  • 具体的には、「出産・子育て支援」「資源配分の高齢者から子供への大胆な移行」「年齢・性別にかかわらず働ける制度の構築」「ヒト・モノ・カネ・情報の集積や起業・廃業の新陳代謝活発化」などを行う
  • 市町村の集約・活性化を行い、東京圏への一極集中を抑制する
  • 外国人材の活用は、移民政策としてではなく行う

日経記事では「政府が人口維持の明確な目標を打ち出すのは初めて」としていますが、政府による人口のコントロールはこれまでにもされてきました。
鬼頭宏著『2100年、人口3分の1の日本』(2011)では、1970年代において政府が人口抑止策を取っていたことを指摘しています。例えば1974年の人口白書『日本人口の動向』は、副題を「静止人口を目指して」としていました。この指針が各具体的な政策に影響を与えたことは言うまでもありません。

人口の安定、その手段としての少子化政策をかつて政府が目指し、奏功したことは、現在の日本を見れば明らかです。このことは「2060年1億人」という今回の目標もまた達成される可能性を示唆しています。

これを踏まえて、今回の「2060年1億人」の提言が採用された場合に、特に既存の将来予測に対してもたらされる影響を考えてみました。

 

提言の採用により見直しが求められる将来予測

『2100年、人口3分の1の日本』では、国立社会保障・人口問題研究所による次のような人口予測を紹介していました。

  • 2055年:8993万人(中位推計)
  • 2105年:4459万人(参考値)

「2060年1億人」の提言が採用されると、こうした推計が覆ることになります。すでに述べた通り、人口動態は将来予測における確度の高い数値とされており、多くの将来予測が人口動態を予測の基礎としています。すると、それらの予測もまた大きな修正が必要になります。

当サイトも未来予測をテーマとしており、今回のニュースは大注目なわけです。

日本を中心とした国際関係の予測が変わる

英エコノミストによる将来予測『2050年の世界』(2012)では、独仏関係についておもしろい予測を載せていました。
曰く、2060年になるとフランスが人口でドイツを追い抜き、これをもってフランスはその戦略を対独から対英に切り替える、としています。フランスにとってドイツは何度も戦争で対峙した相手であり、これは大きな変化です。注目したいのは、人口の多寡の1点をもって、ドイツの影響力低下を指摘しているところです。

ここで日本の隣人である韓国に目を向けてみます。
米国情報機関ストラトフォーによる『100年予測』(2012)では、韓国は2030年より前に南北統一を果たし、2030年には日本と遜色のない7000万人の人口を抱え、経済規模も拡大している、と予想していました。

韓国が7000万人の人口を維持し続けると仮定したとき、日本が人口1億人を維持し続けるか、あるいは人口問題研究所の予測のように4400万人まで減ってしまうかは、アジア全体の地政学上の予測を大きく変化させる可能性が考えられます。

このように、「2060年1億人」は日本だけの問題でなく、日本の国際的立ち位置にも影響すると言えそうです。

「超高齢化・少子化」という日本の将来予測の基礎が崩れる

「2060年1億人」は当然ながら、総人口だけでなく、日本の人口ピラミッドにも影響を与えます。
多くの未来予測や長期市場予測は「超高齢化と少子化による歪な社会」を大前提として語られてきました。しかしこれこそが「選択する未来」委員会が課題として掲げ、解消の目標としているものです。

例えば根本重之著『「ディープな高齢社会」ニッポンで稼ぐ』(2013)は、少子高齢化の進展を踏まえて将来の消費・流通傾向を予想した良書なのですが、書き直しが必要になりそうです。

「ディープな高齢社会」ニッポンで稼ぐ―消費と流通の先を読む

もっとも、今回の提言が採用された場合でも、65歳人口は現在の25%とから2060年の33%へと依然上昇するため、高齢化傾向が変わるわけではありません(提言不採用の場合は39%)。
それでも若年人口は予測より従来予測より増加し、「高齢化・少子化」を前提としたあらゆる予測に見直し・調整が求められることは変わらないと考えます。

 

提言採用への期待

提言では「2060年1億人」に向けて具体的な政策も示されていました。

「出産・子育て支援」はもちろんとして、「資源配分の高齢者から子供への大胆な移行」「年齢・性別にかかわらず働ける制度の構築」は現在の社会的課題とされているところですし、議論を起こしている移民政策にも方向性を示していて意欲的です。

せっかく少子高齢化が解消しても、既得権者が立ちはだかり、若者の挑戦を阻む未来となったら悲しいですね。その点で「起業・廃業の新陳代謝活発化」という提言が挙げられているのは頼もしいです。

個人的には「東京圏への一極集中の抑制」も気になるところでした。
もっとも、都市開発を専門とする市川宏雄・明大教授は「過去何度も行われてきた地方振興策が成功してきたとは言えない」と指摘しており、未来予測の有力説である「都市化」に歯止めがかかるかはわかりません。それでも、今後増える若年人口が日本各地を活性化させてくれる未来に期待したいです。

今回の提言「2060年1億人」は、日本の今後50年に対するグランドデザインに大きく影響を与えるものであり、かつその影響は好ましいものであると、私は高く評価しています。もしかしたら日本の1つの転換点になるかもしれません。

ぜひこの提言が採用され、各施策が実行されることを期待します。

 

2100年、人口3分の1の日本 (メディアファクトリー新書) 2050年の世界 英『エコノミスト』誌は予測する

 

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