ロボット・無人兵器がもたらす4つの変化(『ロボット兵士の戦争』書評 3/3)

P・W・シンガー著『ロボット兵士の戦争』で書かれる、ロボットや無人兵器の登場がもたらす影響について、いくつか紹介しました。

ロボット兵士の戦争

ここではさらに、本書で述べられていた次の4つの変化についても紹介します。


1.軍の組織が変化する

まずは軍組織の変化について。

「戦争にいく」ことの定義が変わった

著者が述べる無人機利用による最大の変化が、「兵士が戦場に行かなくなる」ことです。無人機は遠隔運用できるため、すでに米軍兵士は米国内に出勤し、地球の裏側で戦うことができるようになっています。

「戦争に行く」というのは、船に乗って外国に行き、じめじめした塹壕で敵と銃撃戦を繰り広げることではない。むしろ、毎日トヨタのカムリに乗って通勤し、コンピュータの前に座ってマウスを動かすことだ。

遠隔操作でTVゲームのように簡単に人を殺せてしまう。そのことによるPTSD(心的外傷後ストレス障害)も指摘されてました。でも現地で直接命を危険に晒すことに比べたら、マシなんじゃないかと思いますけどね。仮にも人を殺す仕事をしてるわけで、精神的に健康でいようとしても難しい気も。


米空軍の代表的な無人機RQ-1プレデター(wikipediaより)

重宝されるTVゲーム世代と、IT技術導入に伴う組織構造の変化

無人機のコントローラによる操縦や、ディスプレイを通しての現状把握は、まさにTVゲームとの親和性が高いところ。実際に米軍では、TVゲーム世代の若者が重宝されるようになっています。

無人機とは直接関係ありませんが、IT技術の普及に伴い、上級将校が現場の些末な問題に口を出してしまうという問題も触れられていました。例えるなら、取締役が係長の出したメールをいちいちチェックするような感じですかね。現場の情報が、上層に見られるように瞬時に届いてしまうことによる問題です。IT技術により能力が拡大した「戦略的伍長」に対して、著者はこのような将校を「戦術的将校」と皮肉っていました。

問題の所在は、IT技術により物理距離が短縮されることで、どのレベルの情報をどの階層で把握して、どの階層が意思決定するべきか、が以前に比べて変化している点です。これは、やがて軍のピラミッド構造が変わり得ることを示唆しています。一般企業の組織論でも「グループ」から「チーム」への変化が叫ばれていますね。もっとも軍隊は指揮系統こそが絶対なので、そう簡単にはいかないかもしれませんが。


2.戦争の「教義」が変化する

ナポレオンの「国民皆兵」や、ヒトラーの「戦車による電撃戦」のように、新しい概念は戦争の戦い方そのものを変えてきた、と著者は指摘。これら時代に応じて変化する戦争の定石を「教義」と呼んでいました。そして、ロボット兵器を用いた場合の戦争の教義はまだ確立していないとし、次の2つの戦い方を提示しました。

母艦

1つめが「母艦」。各種無人機を搭載した母艦が司令塔となり、戦域で戦うというものです。沿海域戦闘艦(LCS)構想と呼ばれ、1隻に搭載する無人機は12機を予定。艦艇はわずか40人で運用されます。
第二次大戦で生まれた空母+戦闘機という戦い方をさらに進化させたイメージでしょうか。異なるのは、空母とそれを囲む護衛艦群が一大戦団からなるのに対し、「母艦」は小規模でこれを実現する点です。1隻1隻がそれぞれ小さな空母の役割を担うと言ってもいいでしょう。


沿海域戦闘艦インディペンデンスに搭載予定の無人ヘリMQ-8ファイアスカウト(wikipeidaより)

群れ

おもしろかったのが2つめの「群れ」です。こちらは、低機能なロボットでも大量に運用することで、群れとして強大な攻撃力を持たせるという思想。本書で紹介されていた人工の鳥「ボイド」の3つのルールをみると理解が深まるかもしれません。

レイノルズは「ボイド」と称する人工の鳥のプログラムを構築した。陸軍の報告書にもあるように、ボイドたちが群れを作るには、それぞれのボイドが3つの単純なルールに従うだけでよかった。「1.分離―他のボイドも含めて、物体に近づきすぎない。2.連携―近くにいるボイドに速度や方向を合わせようとする。3.結束―自分のすぐ近くのボイドの集団の中心と思われるところに向かう。」

群れの例として、第二次大戦でのUボートが紹介されていました。Uボートは各艦で個別に索敵を行い、敵を発見すると、仲間を呼んで集団になってから攻撃をしかけます。このように動物の群れに似た戦い方をした場合、そうでない場合に比べて勝率が61%に上がるとのこと。
現在では都市部のゲリラが同様の戦法を取っているそうです。

重要な点は、ごく簡単な命令で群れを形作れるため、兵器の単価を非常に低価格に抑えつつ攻撃力を持たせられるところ。
一方で私としては、安価な兵器で攻撃力を得られるとすると、ゲリラなど非正規軍による入手・運用が簡単になるため、脅威が増すんじゃないかと気になります。


3.ロボット開発の影響を受ける技術分野

ロボット自体の高機能化はもちろん、ロボット開発に伴い進歩する周辺技術も紹介されていました。例えば次の2つです。

ロボット技術の進む先は兵士の生体改造

本書では、手足を失った兵士が義肢を装着し、その4割が戦場に戻ると伝えています。4割はずいぶん多い印象。

防弾チョッキや医学の進歩や撤退の迅速化によって、兵士達の生存率は、過去の戦争よりもはるかに高くなっており、ベトナム戦争と比べるとほぼ2倍だ。しかし、四肢のいずれかを失った兵士の割合も2倍になっている。(中略)

ロボット義肢を装着した軍人の約40パーセント割が、所属していた部隊に戻る。

義肢・義足といってもものすごく進んでいて、今は神経と接続したりとかできるんですよね。

こうした技術は、失われた能力の「補完」から、やがて機械による人間能力の「強化」に繋がると著者は指摘。将来的には、肉体だけでなく認識能力(視覚や聴覚など)も機械的に拡大する方向に進むだろうと予測していました。本書が紹介していたAugCogなんかはその極端な例だと思います。

DARPAが注目しているのは、彼らが「AugCog」渡渉する「拡張された認識」だ。このプログラムの目的は、ロボット用の記憶チップを人体に埋め込むこと。差し込みプラグが可能にする、記憶力の拡張とインターフェース接続の組み合わせは、強力なものになりうる。

人工知能の開発が加速

もうひとつ影響力が大きいとされるのが、人工知能の開発です。ロボット同士の戦いになると、例えばミサイル迎撃などコンマ秒単位での判断が必要になる場面が増え、ロボット自身による意思決定能力の強化が不可欠になるためです。

戦争に最も重要な影響を与えるのは、ロボットのこの決定を下す部分、すなわち人工知能かもしれない。(中略)

アメリカ国内におけるAI研究資金のうち、米軍が提供している分が80パーセントにものぼる。

この帰趨として、2045年に人工知能が全人類の知能を上回る、という「特異点」の仮説も紹介されていました。これは以前書いた『コンピュータの知能獲得と自己進化は、人間の進化をももたらすか』でも紹介した通りです。


4.社会が戦争への関心を無くしていく

普通の戦争では人が戦場に出向いて戦います。当たり前ですが。これが意味することは、自分の子供や甥や、友人や近所の人が死ぬかもしれないことだ、と本書は指摘します。そして死が身近に近寄ることが、政府の開戦を思いとどまらせたり、あるいは戦争をやめさせる世論となって働きます。政府はそうした反対もある中で戦うことになるので、戦争をすることのハードルが上がります。負けるわけにもいきません。

ところが、戦闘で負けてもロボットが壊れるだけ、となると話は別。ロボットの生産を続けて戦場に送り続けさえすれば(かつてほどには)人は死にません。開戦のハードルは下がるし、そもそも国民の戦争への関心が下がります。
戦争は市民にとって、TVで「警察24時」の戦争版を見るだけのことになる、しかしリスクのない戦争は戦争と呼べるのだろうか、と著者は警鐘を鳴らします。

TV Shows We Used To Watch - Christmas 1959

ただこうした考え方って、自国が戦場になることを最初から想定してないですよね。常に他国で戦争を続ける米国ならではの意識な気がしないでもありません。

 

以上、『ロボット兵士の戦争』の中で触れられていた、今後の軍や技術開発、社会に起こりうる変化を紹介しました。
ロボットの普及や開発は私が思っていたよりもずっと進んでいて、そして今後も大きな変化をもたらしそうです。これからも注目していきたいと思います。

 

ロボット兵士の戦争 2045年問題 コンピュータが人類を超える日 (廣済堂新書)

 

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