Google特許検索(通称Googleパテント)を通して、Googleが目論んでいること

Googleが提供する検索サービスの1つに、特許情報を検索できるGoogle Patent Search(通称Googleパテント)があります。

特許情報って各企業・研究機関の開発成果の結晶で、これを群として眺めると、技術開発の傾向とか色々読み取れたりするわけです。「じゃあなんでGoogleがこういうサービスを提供するのか?」について、今回は邪推を交えて考えてみたいと思います。

もちろん基本としては、学術論文検索のGoogle Scholarと同様、「全ての情報を検索可能にする」という同社の理念に基づくのだとは思います。
でも事業としてやる以上は収益を求めているはず。それを広告以外から得ようとするなら、それは一体どこからなのか。
また、Googleはアンチパテントな立場として、Gooleパテントを使って多発する特許紛争を止めることも考えているのでは、という想像もしてみました。

Google Patent Search(Gooogleパテント)とは

サービスは2006年からスタートしていて、現在米国、欧州、中国をはじめとする数か国の特許文献にアクセス可能。各種技術分類や出願の派生関係はもちろん、(まだ精度は出てないものの)関連する先行技術も表示できて、なかなか意欲的な内容です。

機械翻訳機能もついていて、現在出願件数世界一の中国特許も調べられます。翻訳の精度は、権利解釈となるともちろん原文を読む必要がありますが、概要を掴む分には十分。
請求項の従属関係を段組などで見やすく表示してくれるところとか、地味に嬉しかったり。

google patent
中国特許は英文訳も見ることができ、マウスオーバーで原文も同時に表示

 

Googleだからこそできること

特許検索・分析ツールの提供は、すでに数多あるサービス。各国特許庁はもちろんのこと、有料ソフトとして色々な製品が出されてます。単に特許検索だけできるものから、特許分析してチャートやマップを作れるものまで、種々あります。

こうした環境がある中で、Googleだからこそできることは何か、をまず前提として挙げてみます。(ここは一般論なので読み飛ばしていただいても構いません)

優れた検索アルゴリズム(質的能力)

Google検索はGoogleの主軸であって、世界トップクラスの検索エンジン。特許の検索においても、これまで培われてきたノウハウが活きないはずがありません。
これは説明するまでもないですね。

バックグラウンドの演算能力(量的能力)

クラウド側で負荷の高い演算処理ができることも強み。
特にユーザの検索結果のフィードバックを受けて、検索エンジンが自らアルゴリズムを最適化していけることも重要です。アルゴリズムは複雑化するので処理に負荷がかかりますが、精度は高まります。
大規模なサーバをクラウドの向こうに備えるGoogleならば、他の検索サービスと比較しても処理能力に優位性があると言えそうです。

圧倒的なユーザ数

Googleパテントは世界に解放されたサービスなので、通常の特許検索サービスよりも多くのユーザ数を抱えることが予想されます。(もっとも現時点ではそんなことはなく、今後Googleパテントの質が上がっていけばの話ですが、そのあたりは期待してよいでしょう)

上述したような、フィードバックを受けて自己最適化する検索アルゴリズムを試したいとき、ユーザ数が多い(検索回数・検索主体が多い)ほど精度を高められるので、より的確な特許検索ができるようになると考えられます。

Data Center - NCC

もともと定評のあるアルゴリズムが、ユーザのフィードバックを受けて、高い演算処理能力を背景に最適化されていく。このことは、後述する「文献の意味解析」において威力を発揮するはずです。
人工知能が人間を凌駕する2045年問題なんかも言われてますが、Googleならそこに辿り着けることもあるかもしれません。

 

Googleパテントをどうやって収益化するのか

広告収入は1つの答えなのかもですが、Google Readerとか、広く使われながらも終了したサービスもあるわけで、広告以外でも収入が得られるかが必要だとここでは仮定します。

答えの1つが「ビックデータ解析結果の販売/利用」ではないかと私は考えます。

全世界の特許解析を背景にしたGoogleによる分析・予測レポート

現状の特許分析では、数千・数万のデータをダウンロードして、人間がエクセルや専用ツールを使って行っています。ツールは種々あれど、まだまだ担当者のノウハウやセンスに依存するところが大きいです。これは、マクロなデータの中から「意味」を見出すような高度な解析が、まだソフトウェアで実現していないことが理由です。

また、例えば企業分析では、その企業の特許情報だけではなく、企業をとりまく競争環境(業界動向や競合企業・提携企業の動向など)を知ることも重要です。そうすると扱うデータ量も増えるため、解析の労力・コストが一気に増えることになります。そのため中々大規模な調査はできません。

Googleだと、すでに述べた演算能力を駆使して、高度に解析・分析できる可能性があります。ある企業の5年後予測とか、特定分野の技術動向の推測とか、できることは色々考えられそう。通常のサービスに比べて優れているのは、そのパワーと、ビッグデータの中から「意味」を見つけ出せる精度(に近い将来期待できそうなこと)です。

全世界の特許解析を背景にした、検索の巨人・Googleによる分析・予測レポート。欲しくなりませんか? けっこうな額を吹っかけてもみんな買うと思うんですよね。

Big Data: water wordscape

表には出ない契約関係までも推定できる

企業間の契約状況までも、高い精度で推定できるかもしれません。
契約状況、つまりどの企業がどの企業と、どの範囲でライセンスを結んでるか、というのは極秘とされていて、通常外から知ること困難です。

しかし、各国裁判所での訴訟履歴や、特許無効審判の請求状況、Google検索(Googleパテントでなく通常の検索サービスの方)のニュース記事等を集めて解析すれば、「おそらくこの企業はこのタイミングでこの企業とクロスライセンスを結んだっぽい」とか推測するのはそう難しいことではないはずです。
他社の契約関係ってかなり高額な情報になりそうです。

売らずに自社内で使うだけでも相当な利益

ここまでは技術動向とか、特許に基づく一次的・二次的情報を話題に取り上げました。でも特許と直接関係なくとも、もっと漠然とした未来予測だって提供できるかもしれません。何しろ特許は技術開発の結晶です。これを解析することで、全世界における過去数十年の技術開発の歴史を全て把握することが可能です。その時間軸を未来に伸ばせば、精度の高い未来予測ができあがります。

あんまりGoogleらしくない気もしますけど、Googleがこうしたレポートを売ることもあり得るんじゃないかと思うんですよね。あるいは売らずとも、Googleが社内情報として使うだけでも、ビジネス判断をしていく上で相当強力なデータになるはずです。

 

Googleが世の中の特許を無効にしていく

私のもう1つの予想が、Googleは特許を無効にする資料を、かなり高い精度で提示できるようになるというのもです。

特許を無効にする資料とは

特許とは、最先の出願に認められる独占権です。出願日以前に同様の技術が公開されていると、特許を取ることはできません。
出願前の先行技術を調査して、新しくないものをきちんと排除するのが特許庁審査官の役割です。が、審査官と言えども人の子、完全に調査し尽くすことはできません。特に学術論文なんかは、審査官でも調べにくい範囲です。

そのため、他社が特許登録を受けると、ライバル企業自身でもその特許の出願日以前に公開された先行技術資料を探し当てて、「その特許は無効である(本来審査で拒絶されるべきだった)」として他社の権利を潰すことになります。特許を無効にするための資料を「無効資料」と呼びます。

Papers

Googleの検索エンジンを使えば!

無効資料探しって、特許の技術的意義を深いレベルで理解するのはもちろん、法律的な知見も必要で、相当専門性の高い能力が求められます。従って機械的な検索はまだできません。

最近だと、無効資料の懸賞サイトなんかがおもしろいです。

これは対象特許に近い技術資料を見つけた人に100万円とか賞金を渡すというもの。懸賞を懸けたくなるくらい、無効資料探しって大変なんですよね。懸賞で見つかった文献も、本当に特許を潰せるかはわからなくて、依頼者がしっかり判断することになります。

今は人の力で行なわれている「特許の無効化」ですが、GoogleがGoogleパテントの膨大な特許検索を通して、アルゴリズムを鍛え上げ、技術内容の「意味」まで解釈できるようになれば、無効資料の検索も可能になるかもしれません。

具体的には、ユーザによる特許の検索結果や、文章の意味解析、Google Scholarの学術論文情報等を解析し、推定していくことになります。
単に一致するワードを探すだけでなく、技術の意味まで解釈して推定することは、現状では極めて難しいことです。しかしユーザの検索傾向をリアルタイムで見て、力技でアルゴリズムを洗練していける点は、大きなアドバンテージになるはずです。

 

Googleは何のために世の中の特許を無効にするのか?

将来予測・分析の話と違って、特許無効資料を提示することについてはGoogleにはメリット無さそうにも思えます。でも私は上述した「将来予測レポート」以上に、無効資料提示のための解析にGoogleが力を入れると予想します。なぜかと言うと、Googleがアンチパテントの立場にいるからです。

忌み嫌われる特許制度

特許制度はいまIT業界ではずいぶん嫌われていて、Googleも否定的な見解を示しています。
ソフトウェアの世界は、早くからオープン化の文化があったり、製品ライフサイクルが早い点や、独占しなくとも利益を得やすい点から、特許制度とは非常に親和性の悪い業界です。

Googleが主導するAndroidも、特許を無力化するような仕組みが契約に盛り込まれているとされますね。特許の無償提供も行なっており、これは他の大手IT企業にも見られる傾向です。

世の中の特許は相当数が無効

ところで世の中にある登録特許のうち、無効とされるべき特許がどのくらいあるかというと、実は相当な数に上りそうだとわかります。数え方にもよるんですけど、特許紛争の主戦場・米国で、有効な特許は4割だけというレポートもあったり。

このレポートでは米国特許に対して第三者から再審査請求(Ex-parte)された案件の統計も紹介しています。9000件あまり特許のうち、11%が完全に潰され、67%が権利範囲の縮小を余儀なくされ、元の範囲で生き残ったのは22%だけとしています。

Standing up to a patent bully

無効なはずの特許で権利行使って迷惑だよね

つまり、本来無効とされるべき特許に基づく権利行使が、世の中ではかなりの頻度で起きていることになります。その度に双方とも弁護士を雇って、膨大な時間を使って無効資料を探し出し、特許議論を行い…、というのは相当なコストです。出願時点で拒絶されてれば、こんなことにはならなかったのに。

そこでGoogleパテントが即時に無効資料を出せるとすると、防御側の時間的・金銭的負担が大きく減ることになります。そもそも攻撃側も攻撃前に自分の特許の有効性を調べるので、Googleパテントですぐ無効資料が出るような特許だったら、権利行使自体を差し控えますよね。

こうして、Googleパテントのおかげで世の中から特許紛争が減っていくことが考えられます。

特許紛争の減少がGoogleにも有利に働く

CNETの記事で特許制度がワースト1位に選ばれたように、IT業界においては頻発する特許紛争が非常に迷惑なものとされています。特にパテントトロールと呼ばれる、金儲け目的で特許紛争を仕掛ける集団に対しては、オバマ大統領も警鐘を鳴らすほどに社会問題となっています。

GoogleはIT業界をリードする企業の1つとして、特許紛争の数をできる限り減らして、業界そのものを健全な方向に持っていこうとしているのではないでしょうか。

もちろん、Google1社としてのメリットも少なくはありません。
一般的に特許の攻撃をうけるリスクは大企業ほど大きくなります。特許侵害とみなされると、利益額相当の賠償金を支払わねばならず、売上1000万の企業よりも100億円の企業の方が支払額が大きくなるためです。それ以上にリスクとなるのが差止めで、現状においてはたった1件の特許で、Googleのサーバー全てがストップさせられることだってありうるわけです。

インフラ企業のGoogleとしては、特許紛争の数が減ることでこうしたリスクを極力小さくすることができるはずです。ビジネス上優位な立場にいる企業としては、特許ではなくビジネスで勝負しようよ、と言いたいはずです。

Lego Patent D253711
本文に直接関係ないんですけど、LEGOのデザイン特許見つけました。かわいい。

無効な特許が無効となって、有効な特許だけが認められる社会がくる

そもそも特許制度自体が、社会に対して利益以上にコストを強いるようになっています。とはいえ制度として社会システムに組み込まれてしまっている以上、ある日これを止めるということも簡単ではありません。

「もし特許制度が存在しないなら、経済への影響を知っている今となっては、制度の創設を進言するのは無責任なことだろう。だがすでに長年に渡って特許制度が存在する以上、現状を知っていながら制度の廃止を進言するのも、また無責任なことになる」

リッツ・マッハプール

Googleパテントの仕組みで特許紛争の世界に一石を投じられれば、特許の世界は本来あるべき姿に近付けるかもしれません。

 

Googleを支える技術 ‾巨大システムの内側の世界 (WEB+DB PRESSプラスシリーズ) ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える
 

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