2013/11/30-12/1の2日間で開催されている、日本知財学会・第11回学術研究発表会に行ってきました。発表内容は玉石混淆感が否めませんでしたが、聞けた中でおもしろかったテーマについてレポートします。
まず1つめ。
東京大学政策ビジョン研究センター・渡部俊也氏
知財ファンドは最近盛り上がってるので気になったので聞いてみました。
日本だと個人的には、産業革新機構がパナソニック・三菱商事と手を組んで運用するIP Bridgeの動向が気になったり。
- 株式会社IP Bridge及び当該会社が組成・運営する知財ファンド(産業革新機構,2013/7/25)
- 産業革新機構はパテントトロールか?(SISVEL Jaoan Official Blog,2013/8/9)
- アイピーブリッジ、電機業界の休眠特許を中小に付与(JNET21,2013/8/26)
「ええっ、日本の税金で作られた組織が私企業から特許を買い取って、まさかそれを日本企業相手に権利行使するって言うのかい??」という熱い疑問に関しても、今回の講演で今後の示唆が述べられていました。
「政府系知財ファンドが一次的に特許を買って、公募ライセンスし、民間ファンドに譲渡」というお金の稼ぎ方のスキームも考えてみたので、こちらも紹介したいと思います。
まずは今回渡部氏により述べられていた講演の内容を、質疑で交わされたお話も交えて参考掲載します。私が興味を持った部分についてです。聞きながらとったメモに基づくので、私の誤解・曲解があったらごめんなさい。
なお、前置きとして「OECDのレポートがよくまとまってるよ」と仰られていたので、こちらも確認したいところです。
以下、講演での内容です。
- 韓国・仏国・日本の政府系知財ファンドについて、ヒアリング結果も含めて紹介
- 以前韓国の大学がIntelectual Venturesに特許を手放し、その特許により三星に訴訟を起こされたことがあり、韓国政府系ファンドはこの教訓も参考に作られている
- 日本の政府系ファンドは「技術者の新たな活躍の場を造りノウハウ流出を防ぐ」という目的も盛り込まれていておもしろい
政府系ファンドの目的としては主に次の2点が示されてました。
- 国内で生み出された特許が国外に渡り、国外組織から国内企業が攻撃されることを防ぐ
- 量を集めて一括ライセンスできるようにすることで、特許の価値を高める
そして次の点が個人的に興味をそそられたところです。
- 特許の価値を出すためには権利行使しなければならないが、政府により作られたファンドで自国企業を訴えてもいいの?という問題がある
- 一方で外国企業だけを標的に攻撃活動をするとなると、国による自国産業保護(国内外企業の差別的待遇)ともみなされかねず、外国から批判を受ける(実際に批判を受けている)
- まだ始まったばかりなのでわからないが、今後政府系ファンドは、積極的に権利行使活動をして利益を出すと言うよりは、防衛的に特許を買い集めるだけの方向に進むこともありうるのではないか
ここから私の所感です。
講演内容から、政府系知財ファンドによる権利行使の困難性があることがわかりました。じゃあどうするか。
権利行使できないならその特許は無価値ですので、ファンドと言ってもただ企業から特許を買い集めて眠らせるだけの組織になります。まあそれはそれで意味あるとも思うんですけどね。
- 大学が特許取ったはいいけど権利行使できなくて、特許手放したい
- ベンチャーが先端技術で特許取ったけど経営的に苦しくなって、特許手放したい
- 大企業がたくさん特許もってたけど経営苦しくなって、特許手放したい
要するに韓国ファンドの動機と同じです。日本企業が外国に特許を売って、それが別の日本企業を危機に晒すことがありうるので、その前に政府が買い取ってリスクを減らす、と。
これは講演でも述べられていた方向性です。
また、特許を通じた政府による資金還元とも見ることができます。政府が特許を買ってあげることで、それまでがんばってきた大学・ベンチャー・大企業に一定の資金を還元し、それら組織が立ち直って研究開発できるようになれば良いことだ、と。
でも、せっかく取った特許をただ潰してしまうのはもったいないですよね。
とはいえ立場上政府系ファンドが自ら権利行使するのは難しそうだし・・。
そこで次のようなスキームを考えてみました。
- 特許を手放したい大学・ベンチャー・大企業から、政府系ファンドが一時的に特許を買ってあげて、彼らを助ける
- 購入した特許について、希望者を公募し有償ライセンスを与える(国内外問わず希望者全員にライセンス)
- ライセンス済特許を、知財権活用を行なう民間ファンドへ売却する
ポイントは、最終的に民間ファンドへ売却することを決めておくという点です。
特許の価値は権利行使により決まります。「もし訴えられたらどうしよう、1億円とか払わされるかも」という危機感があるからこそ、予め8000万円払ってライセンスを受けたい気持ちが生まれます。
いずれ特許が民間ファンド(権利行使を行なう人たち)に流れると決まっていれば、政府系ファンドが特許を持っていて交渉できるうちに、各社ともライセンスを申し込む動機になるはずです。
各社ともその特許に本当に価値があるかどうか(いざとなったとき自分が訴えられる可能性があるのかどうか)を判断するには時間がかかりますから、政府系ファンドはその時間を確保してあげることになります。
国内外で差別待遇するわけにはいかないので、国外企業にも平等にライセンス機会を与えます。この段階で国外企業からお金を取れれば、日本企業の特許で外貨を稼げたことになり良いですよね。
各社にライセンスすることで特許の価値が目減り、最終的には民間ファンドが買ってくれなくなることもありえます。でもその場合はライセンス段階でお金を回収できてるので、それに越したことはありません。
誰もライセンス申し込みしない状況もありえますが、その場合は逆に特許の価値が減らずに済むので、民間ファンドに高額で売れる可能性が高まります。
各企業には一度ライセンス要否の検討機会を与えているわけですから、民間ファンドに流したあと誰かが訴えられたとしても、政府は別に責任を取る必要はありません。
この仕組みで黒字化まで持っていけるかはわかりませんが、単に特許を買い集めてしまうだけよりは、民間への特許流しをチラつかせてお金を集めた方が、「知財ファンド」として健全な気がします。
なにより税金で活動する組織ですから、なるべく自分でもお金を稼いで、その資金での運用をがんばって欲しいと思います。
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知財ファンドや特許の流通はますます盛んになっているので、価値評価の仕組みとあわせて今後も新しい手法が出てくるのが楽しみですね。
その1つとして、政府系知財ファンドの動きにも注視していきたいところです。
※知財学会のレポート2つめとして3Dプリンタについても書きました。