米国IT企業による知財制度に関するロビー活動状況まとめ

日本ではあまり馴染みがありませんが、米国においては、政府の政策を自分の都合の良い方向に変えようと影響を与えるロビー活動が盛んです。
近年においてはIT業界によるロビー活動が目立っており、TIME誌によれば、産業別活動費はオイル・ガス業界に次いで2番目(約130億ドル)となっています。ちなみに3位は防衛産業。防衛よりお金かけてるとはちょっと驚き。

次の記事では、シリコンバレーの各企業の2013年1月~9月における献金ランキングが紹介されていました。Google(約1008万ドル)、Microsoft(約772万ドル)、Oracle(約513万ドル)の順となっています。

今回はこうしたIT企業のロビー活動のうち、特に知財制度にまつわる動きをまとめてみました。
知財制度は時代に合わせてその形を変えきており、産業界の声もその原動力となってきました。ロビー活動に莫大な投資をするIT企業のスタンスを知ることは、特許訴訟の主戦場たる米国の知財制度の未来を占う上で、参考になるかもしれません。

 

Summary Note

  • 政府はパテントトロール対策に着手している
  • Googleを始めとする「そもそも特許を使う気ないです」派の人たちは、特許不使用を宣言し、ソフトウェア特許の取得基準を高めようとしている
  • Microsoftを始めとする「特許制度改革ちょっと待った」派の人たちは、トロール対策にフォーカスしすぎた特許制度改革に懸念を表明
  • パテントトロールもまたロビー活動を通じて、自らの正当性を主張している

 

着手され始めているパテントトロール撲滅運動

まずは悪名高いパテントトロールへの対策です。
パテントトロールとは、価値のある特許を買収などして取得し、事業会社に訴訟を仕掛けてお金を稼ぐ会社で、多くの場合は自ら製品製造等を行っていません。最近はPAE(Patent Assertion Entities)とも呼ぶようですね。ここでは便宜上「パテントトロール」に統一します。

一大産業となった特許訴訟

CNETの記事で、カリフォルニアの特許法専門家による、パテントトロールによる米国特許訴訟の割合が紹介されていました。これに特許訴訟総件数は私が別途付け加えた数字が下記になります。

  • 2010年:29% (3700件)
  • 2011年:45% (4015件)
  • 2012年:62% (5817件)(※2012年割合は12/1までの統計、件数は通年)

総件数・割合ともにトロールによる訴訟がうなぎ登り!な感じがよくわかりますね。
ちなみに同記事によれば、2011年に企業が特許訴訟にかけたコストは約290億ドル(当時のレートで約2.3兆円)に上り、社会のコストとしてはあまりに巨大です。また記事では、訴訟に至らず水面下で交渉されている事件が大部分であることも付け加えていました。

響き渡る怨嗟の声

こうした背景から「トロール死ね」の声は各方面から何年にもわたって叫ばれ続けています。
例えばTwitterやFacebookの共同創設者たちは、特許制度は「破綻している」として、トロール活動の停止と特許制度改革を国会に訴えたとしています。
最近では米国で大人気の口コミサイトを運営するYelpも、特許制度改革に関するロビー活動に加わった様子。何か嫌なことでもあったんでしょうか。

また、Google、BlackBerry、EarthLink、Red Hatは連邦取引委員会と米司法省に対して、企業がパテントトロール等に特許を移管する「私掠行為(Privateering)」も厳しく取り締まるよう主張しています。

Calling a troll a troll

米国政府はトロール撲滅支持の立ち位置

こうした声に対して米国政府も応えており、2011年9月の米国特許法改正(2013/3/16施工)に引き続き、今後もパテントトロール対策にフォーカスして制度を変えていくとしています。

記事によれば、次の5つの施策が検討されているようです。

  • 特許保有者に特許の実際の所有者を定期的に更新させる
  • 特許申請者に、技術の具体的用途を明示させる
  • 一般ユーザーをパテントトロールから守るため、ユーザー教育を強化する
  • 特許保有者や研究機関などのステークホルダーと協力し、特許法の改善について研究する
  • 米国の特許を侵害する輸入製品を規制する米国際貿易委員会(ITC)の手続きを見直す


「そもそも特許を使う気ないです」派の新興IT企業の人たち

さて、トロールがいなくなればそれで幸せかというと、そう簡単には済まない模様。
Googleを始めとする若いIT企業は、もう少し踏み込んだ主張をしています。実際に法改正の働きかけをどこまでしているかはわかりませんが、多くのロビー活動費をつぎ込む彼らのスタンスを知ることには意味がありそうです。

専守防衛の誓い

Googleは次のブログにて、自らは特許を使った攻撃を行わないと宣言しています。

一部を抜粋して意訳します(正確には原文記事を参照してください)。

  • Googleは依然オープンシステムの勝利を信じている
  • オープンプラットフォームは特許攻撃による脅威にさらされており、企業は防御目的で多くの特許を取得しなければならない状況にある
  • しかしGoogleは、いかなるユーザー、配信者、開発者、及びオープンソースソフトウェアに対しても、こちらから攻撃をしかけることはしない
  • 特許不使用の誓い(OPN Pledge;Open Patent Non-Asseertion Pledge)は過去にはIBMやRed Hatによってもされてきており、オープンイノベーションに資する枠組みである

Googleはモトローラをはじめとする企業を買収し、多くの特許を買い集めました。しかしこれらの資産は防御目的にのみ使い、Googleから攻撃に使うことはないとの誓いです。実際には、特定の特許をリストアップして提示されるようです。

こうした不使用宣言はGoogleだけでなく、例えばTwitterも行っていました。

ソフトウェア特許の登録基準の引き上げ要求

続いてGoogleは、ソフトウェア特許の登録基準についても言及しています。法務責任者のDavid氏は、特許訴訟を減らせとの要求のほか、「米国ではソフトウェアに関する特許の取得が簡単すぎる。欧州のように厳しくするべきだ」と述べました。

David氏は、医薬やバイオといった他産業との整合で特許制度改革が難しくなっていることに言及しつつ、それでもアルゴリズムに特許を与えることに疑問を唱えているようです。
ソフトウェア企業が「ソフトウェア特許を取りにくくしろ」と言うことは、つまり「自分たちは特許はいらない」とも取れますね。

Google以外の企業も同様の立場を取っています。

次の記事では、Googleのロビー活動全般について紹介しています。大きく5項目を挙げており、そのうち2つの項目で、著作権とソフトウェア特許を弱めて、オンラインコンテンツへのアクセスやオープンソース、フリーソフトを促進すべきだとしています。

Some thoughts on software patents and the Supreme Court

特許の主目的は、その権利を行使することで自らのビジネスを独占することにあります。しかしGoogleを始めとする企業のスタンスを見ると、最低限特許制度には付き合う(付き合わざるを得ない)けど、積極的に制度を使う気はないよ、と聞こえます。

 

「特許制度改革ちょっと待った」派の老舗企業の人たち

「ぶっちゃけ特許いらないよ」派のGoogle等と対称的な立場をとるのが、MicrosoftやAppleといったIT業界においては老舗ともいえる企業たちです。
Microsoft、Apple、GE、IBM、Ford、DuPont、Pfizerらは「the Partnership for American Innovation」なるロビー活動団体を結成。カッポス元米国特許庁長官もアドバイザーとして参加してます。

彼らは「特許制度改革がパテントトロール対策にフォーカスしすぎると、それもまたイノベーションを阻害する」と警告しており、今後の特許制度改革に対して少なからなぬ影響を与えることが予想されます。
また、「ソフトウェアやバイオ分野の特許を認めないようにする努力」にも反対するとしており、Googleと明確にスタンスが分かれるところですね。

彼らは自分たちを攻撃するトロールには反対しつつ、自分たちの特許は使いたいのです。

なおバイオ技術に関しては、今のところ米国司法は特許の範疇に含めていく方向で判断しているようです。

 

パテントトロールにも言い分がある

特許制度改革で俎上に載せられているパテントトロールですが、彼らもまたロビー活動を行っています。
Microsoft元社員が立上げ、巨大な特許ポートフォリオのライセンス活動を行うIntellectual Venturesは、2013年の第2四半期に16万ドル、第3四半期で31万ドルをロビー費用に充てていました。政治活動のための組織も今年立ち上げたようです。

最初の記事で、IV役員のNathan氏は次のように述べています。

  • 特許は発明者に利益をもたらすものである。トロール対策は特許法を弱めることにつながり、長期的には米国の競争力を落とすことになる
  • IVは保有する40000件の特許で、多くのスタートアップを助けている
  • 特許市場に特許を供給することで、IVの数千の特許は、技術産業のエコシステムにおいて重要な役割を担っている

すでに軌道に乗った大企業からすると、パテントトロールは嫌な存在です。一方ベンチャーの立場からすると、研究開発の成果を買い取ってくれる、あるいはその売り先となる特許市場を生み出してくれるパテントトロールは、リスクヘッジの意味では悪くない存在かもしれません。
当サイトでもこの観点でいくつか記事を載せてきました。

米国特許制度改革の風向きはすでに「トロール殺す」で定まっており、この流れにどれだけ立ち向かえるかはわかりません。しかしIVを始めとするトロールによるロビー活動も、今後の特許制度改革に一定の影響を与えることになるでしょう。

 

まとめ

トロールを含めて、米国の知財制度にかかわる人々は一枚岩ではなく、それぞれが自らの立場にそった主張を繰り広げています。その舞台の1つがロビー活動であり、今後の米国知財制度の変化を伺ううえで参考にできそうです。

それにしても、企業が特許訴訟に支払うコスト290億ドルは莫大ですが、IT企業のロビー活動費もなかなかどうして130億ドルと、半端な額ではありません。結局お金持ちの声がでかいというのは米国らしくていいですね。

 

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