パテント・トロールとハードウェア・ベンチャーにより、知的財産権の金融商品化が進む

Googleなどの大企業から特許管理会社まで、特許の売買が盛んになっています。特許のオークションなんかも開かれるようになりました。

知財権が事業と乖離して、それそのものが取引されるようになって、「知財の証券化」なんて言葉も聞かれます。
今回は『インビジブル・エッジ』(マーク・ブラキシル、ラルフ・エッカート著)で述べられた資産市場の発達段階を参考に、知財の金融商品化が起こるのかどうかを考えてみました。

インビジブル・エッジ

資産市場が生まれる6段階(『インビジブル・エッジ』より)

『インビジブル・エッジ』では「資産市場が生まれるための段階」を6つに分けて、知的財産の金融商品化がいまどの段階にあるのかを述べていました。(※太字段階名及び斜線部は本書からの引用)

第1段階 取引は不活発

第2段階 専門家の登場

著者は「おそらく知財市場の姿は、株式市場や商品市場よりも、不動産市場に近いと考えられる」と指摘。知財は土地以上に目に見えないばかりか、その権利範囲も非常に不確かで、評価が困難です。そしてこの点について、「これだけ多くの専門家が知財の世界に登場していること」から逆説的に、「マーケットプレイスの創出もそう遠くない」と述べています。
本書が挙げた既に登場した専門家には、知事情報の収集・提供者、取引仲介・運営業者、ライセンス仲介・管理業者、リバースエンジニアリング業者、訴訟保険会社、知財取引相好サービス業者などがありました。
なお、弁理士や特許弁護士が挙がらなかったのは、彼らが特許出願や訴訟の専門家であって、知財を資産として評価したり、活用する専門家ではないからでしょうか。

第3段階 投機家の登場
知財に関する投機家として本書が挙げたのがパテント・トロール。トロールは将来攻撃に使えそうな特許を見定めて購入し、それにより実際に訴訟を提起して利益を上げようとします。確かに「投機家」という言葉はぴったりです。

なお、パテント・トロールが非難される理由として、彼らが投機だけで儲けて生産を行わない点を挙げるとともに、「いつの時代にも、投機家は白い目で見られてきた」と擁護。実際には投機家は「市場の流動性と効率を高めるうえで」役立っており、「投資家と生産者の両方が資産を保有するようになれば、それは、健全な市場が形成されつつある兆候である」とします。

第4段階 取引コストの減少

財産権が最終的にそれを最も効率的に使う人のものになるという「コースの定理」より

  • 第1に所有権が明確に定義されていること
  • 第2に売買できること
  • 第3に取り引きコストが低いこと

の3条件を挙げた上で、「これまで知財に関してこの条件が満たされたことはない」と指摘。特に問題とするのが「所有権の境界がはっきりしないこと」です。

特許の及ぶ範囲は「特許請求の範囲」に言葉として書かれてはいるものの、実際に境界を線引きしようとすると非常にあいまいで、高度な専門知識が必要となります。むしろこの権利範囲をあれこれ解釈したり、判断することが知財関係者の主な仕事なわけですが、評価にかかるコストは決して低くはありません。

ただし著者は第4段階について、「状況は変化しつつあり、(中略)知財の取引量が増え、専門家の数が増え、情報が入手しやすくなり、アナリストが腕をあげるにつれて、取引コストは下がり始める。そうなれば好循環が始まり、知財取引は一段と活発化するだろう」と結びます

第5段階 市場取引の開始

第6段階 デリバティブの出現 Exchange Money Conversion to Foreign Currency

ハードウェア・ビジネスの成長がトロールの活動範囲を広げ、特許の取引規模を拡大させる

上述の第5段階「市場取引の開始」について、著者は特許オークションを例に挙げていました。特許の企業間取引やバイヤーによる売買も進んでいますが、まだ関係者間の取引に留まり、一般に開かれているとは言えないでしょう。

6つの段階を眺めてみると、現在は第4段階目にあるように思えます。
既に第3段階の「投機家の登場」は、トロールや対トロール特許買収会社により完了しつつあると見ていいでしょう。一方その規模がまだ不十分である点は著者も述べている通りです。知財の金融商品化が進むかどうかは、いかに特許の取引きをより活発化させられるかにかかっています。
この点、私はトロールをより大暴れさせることで、特許の取引規模を拡大できると考えます。

トロールを悪質化させずに、活動範囲だけを拡大させる

トロールがその名のとおり社会悪と見なされている点、その一方で、彼らによる特許権行使が特許の流通市場が生み出し、倒産・事業撤退するベンチャー・中小企業に特許バイアウトの道を作っている点は、すでに紹介しました。

誰かが戦争を起こすからこそ武器は売れるし、増えるわけです。トロールが起こす戦争が特許という武器の値段を上げ、流通させ、件数を増やしています。

また特許がソフトウェアよりもハードウェアと親和性が高いことも指摘しました。クリス・アンダーソン著『MAKERS』で述べられるハードウェア・ビジネスの発展が実現すれば、新興企業が現れては消え、その中からGoogleやFacebookのような次世代企業が生まれるでしょう。その仮定で、パテント・トロールの活動範囲も広がるはずです。

ここで重要なのは、ハードウェア・ベンチャーの台頭がトロールを悪質化させるのではなく、単にその規模を拡大させる点です。
トロールの存在は米国知財業界でも悩みの種で、彼らの活動を制限する判例や法改正が何度もされていて、以前に比べればトロールには住みにくい世界となっています。そのため、「トロールをより大暴れさせて特許取引規模を拡大する」と言っても、トロールの活動を悪質化させることはできません。
一方、トロールの活動範囲が単に広がるだけであれば、問題は少ないはずです。

『MAKERS』では、ハードウェアの市場規模をソフトウェアの5倍と述べています。

Hardware versus Software

21世紀の金融革命は知財がもたらすか

ハードウェア・ビジネスの成長については『MAKERS』の仮説を大いに参考にしていますが、注意すべきはそれが「特許を取れるほど高度な」ハードウェアかどうかです。
3Dプリンタで気軽にもの作りができるのは良いことですが、特許を取るとなれば単純な設計上の工夫ではなく、先端技術でなくてはなりません。特に高機能材料やコアデバイスとなると、まだまだハードルは高いように思われます。

それでも、デジタル工作ツールや小ロット生産の普及がハードウェア製造のハードルを下げたことには変わりません。また、特許が高機能材料やコアデバイスに偏るにしても、ハードウェア・ベンチャーたちの出現により、これらを採用する裾野が大きく拓けることも確かです。

そうしてみると、やはり特許紛争の範囲はハードウェア・ビジネスの発展に伴い拡大し、特許取引の増加をもたらし、特許の金融商品化を推し進めると予想できます。
『インビジブル・エッジ』では知財の金融商品化がもたらす影響について、次のように表していました。

知財市場の創設は、ひょっとすると私達が生きている間では最大の金融革命になるかもしれない

 
 
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