15年で躍進した中国・アジアの賃金推移と、変わらない横浜(JETRO調査資料より)

いなたくんへ

世界の工場と呼ばれ発展してきた中国だけど、賃金の上昇に伴い工場が東南アジアにシフトする傾向にある。というのは6年前の2013年には指摘があって、同様の報道はいまも散見される。これに加えて近年では、アジア地域全体の賃金上昇も大きな課題となっている。

JETROによる『2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査』によれば、「従業員の賃金上昇」は「経営上の問題点」の堂々1位に輝いており、アジア地域19ヵ国のすべてで最大の課題とされる。

そこで今回は、JETROの調査レポート「アジア・オセアニア投資関連コスト比較調査」に基づき、2002年から2017年の15年間における各都市の賃金推移をまとめてみた。当調査は2017年度分のレポートで第29回となる。

Summary Note

2017年度の中国・アジア各都市の月給比較

2002年から北京の賃金は5-7倍、他のアジア各都市も2倍以上に

高賃金都市ではシンガポールの賃金上昇が顕著

ちなみに日本のおちんぎんはどう変わったのか?

中国・アジア地域の賃金上昇は今後も続くか


2017年度の各国の賃金比較

まずは各都市の賃金を並べてみたい。上記調査レポートでは各都市毎に「ワーカー(一般工職)」「エンジニア(中堅技術者)」「中間管理職(課長クラス)」の3階層に分けての月給が乗っており、こちらに基づきグラフを作成した。単位は米ドル。

こうしてみると、比較した都市の中では横浜が最も高い。そのあとシンガポール、香港、ソウル(第2群と呼ぶ)、台北、北京(第3群と呼ぶ)と続いて、それから大連及び他の東南アジア地域の国々(第4群と呼ぶ)という順番である。

階級別にみると、対横浜での賃金格差は一般工職が最も大きく、次のような規模感である。

  • 第2群(シンガポール、香港、ソウル) …約1.2倍
  • 第3群(台北、北京) …約3倍
  • 第4群(大連及び他のアジア都市) …約8~10倍

これに比べて、中間管理職になると都市間の差は相対して小さく、特に第2群(シンガポール、香港、ソウル)は横浜に近づいてくる。また、第3群(台北、北京)と第4群(大連及び他のアジア都市)の間の差も2倍程度に縮まっている。

個人的にはシンガポール・香港はもっと高いと思ってたんだけど、横浜よりは安い。シンガポールの場合は一般工職と中間管理職の間の差が大きいのが特徴だろう。


北京・一般工職の月給が米ドル換算で7倍以上に

次に、各都市の賃金変化を時系列で比較してみる。2002年から2017年の同調査レポートに基づき、各階層ごとにグラフを作成した。

ただしグラフについては以下の点に注意されたい。

  • いずれも米ドルベースであり、対米ドルの為替の影響は考慮されていない(為替の変動が賃金変化に見えている可能性がある)
  • 2004年の北京・大連のデータが書けていたため、グラフ作図の都合上、前後の年の平均値とした
  • 調査年によって出所が変わったり、他都市のデータを参照したり、ソースが現地日本企業へのヒアリング(しかもn数少ない)だったりして、数字が揺らぐことがある

特に3点目が重要で、2007年以前のデータはけっこう怪しいように思うのだけど、それでも長期の傾向はつかむことができるだろう。

一般工職

北京がやばい。2002年の121ドルから北京五輪前年の2007年に大きく跳ねて、さらに伸び続けて2017年には746ドルと約7倍に。

ただし、北京と大連の間に大きな差がある点には注目したい。中国は広いので、中国内でも都市間の賃金差は小さくない。特に北京は特別で、調査レポートには北京、大連のほかにも上海や重慶といった中国の各都市が載せられていたが、北京は抜き出た存在だった。

他に賃金上昇率の大きい都市は大連、バンコク、ジャカルタが挙げられ、2002年比3~4倍となっている。
ホーチミンやバンガロールはもうちょっと伸びたかった。

国別の比較をすると、2002年には108ドル(ジャカルタ)から163ドル(バンコク)までと大きな差ははなかったけれど、2017年には都市間の賃金差が開いている。

中堅技術者

こちらも北京が5倍くらいに伸びているほか、他の都市も概ね伸びている。
大連、バンコクがよく伸びていて2002年比2~3倍程度。
ジャカルタ、バンガロール、ホーチミンの伸びも相対的に鈍いとはいえ2倍程度。

バンガロールは10年代頭に伸びたのにまた下がってしまったのが悔しい。

中間管理職

北京はやっぱり伸びてて約4倍。中間管理職になるとバンコクの伸びも3倍程度と著しい。
バンガロールは(中間管理職についても10年代頭に伸びてまた下がってしまったので)2002年から大きく変わらないが、大連、ジャカルタ、ホーチミンも堅調に伸びていて、2倍程度になっている。

以上を見ると、2002年から2017年における賃金は、採り上げた都市ではいずれの階層においても少なくとも2倍程度に伸びていて、大連やバンコクでは3倍以上に、そして北京が4~7倍と急上昇を見せたことが分かった。

冒頭JETROレポートの「賃金上昇つらい」という声にもうなずける。


高賃金都市ではシンガポールの賃金上昇が顕著

続いて、アジア地域の中でも高賃金な都市の推移を見てみたい。横浜、シンガポール、香港、ソウル、台北の月給である。



横浜、香港、台北が(波はあるものの)概ね横ばいであるのに対して、シンガポールとソウルは2002年以来賃金を上昇させてきたことがわかる。特にシンガポールが顕著で、すべての階層で伸びているほか、中間管理職では横浜に並ぶに至っている。

横浜は2010年前後は高給であったものの、ここ数年ではその価格を落としていることがわかる。ただし国際競争力の観点で見れば、賃金は低い方が人件費を圧迫せず有利ともいえる。

これら賃金の都市間比較に基づき、国際企業のアジアへの拠点進出状況を見直してみると、また発見があるかもしれない。


ちなみに日本のおちんぎんはどう変わったのか?

ところで上記の横浜の賃金、ドルベースなので円での賃金推移とはまた異なる。では為替の影響を除くとどうなるだろう。ということで、1ドル=112円ベースでの推移も出してみた。

点線がドルベースの推移、実践が為替の影響を除いた推移である。

こうしてみると、2007年の急上昇を覗いて全体的には変わらないか、低下気味であることがわかる。

リーマンショックのあった2007年のあと、2012年まではちょうど円高の時期で、国際的に見れば日本人の給与は高騰していたものの、当の日本人としては変わらずにいたわけだ。その後ドルベースの人件費が下がったことは歓迎すべきだが、おちんぎんが下がっているのはやはりかなしい。

なお、インフレ率はずっと0%前後で推移しているので、「物価は激しく騰がってるのに給料は……」ということではない。


中国・アジア地域の賃金上昇は今後も続くか

東南アジア地域において、労働者人口の増加率が全体の人口増加率を上回るいわゆる「人口ボーナス」は、国にもよるが、まだ続いていく見込みである。英エコノミスト『2050年の世界』(2012)では、新興国の中でも特に東南アジア地域の成長を予想しており、賃金上昇は続いていくことになりそうだ。

一方、人口減少と少子高齢化がさらに本格化する日本においては、経済成長への期待は全く楽観できない。アジア地域において今後も高い賃金水準が維持されるかは悩ましいと言えるだろう。

各都市の賃金がさらに10年後にはどう変わっているのか、楽しみである。

 

  

  • この記事はガジェット通信様に掲載いただきました(2019/2/22)
  • 2019/2/15掲載記事『躍進が続く中国・アジアの賃金推移(2002-2017)』より、タイトルの修正および横浜の賃金比較の追記を行いました(2019/9/15)

 

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