一般化された知財評価とかやっぱり人間には無理なんじゃないか、と思った話

特許をはじめとする知的財産は、企業における重要な資産の1つとされています。にもかかわらず、知的財産を評価するための方法は未発達なのが現状です。

私も知財評価には興味があり色々調べたことがありますが、調べるにつけ、知財評価を一般化して行うことは人間には土台無理なんじゃないか、と思うようになりました。今回はこのことについて書いてみます。予め結論を書くと、もうグーグル先生とか、人間じゃない方にお願いするしかないんじゃないのという話になります。

 

「個別の知財評価」と「一般化された知財評価」

知財評価について体系的に、かつ分かりやすく書かれたブログ記事を見つけました。

記事では、特許権に金銭的な価値をつけることの意義、知財評価の相対性や、インカムアプローチ、マーケットアプローチ、コストアプローチにおける具体的な算定手法といった事柄に触れています。知財評価について解説した本は巷にもありますが、とりあえずこのブログ記事を読むだけでも、要点がしっかりつかめてよいのではないかと思います。

知財評価を行いたくなるタイミングはいくつか考えられます。
特許1件、あるいは数十件程度の群について、特定の他社からライセンスを受けたり、売買する場合。御社に一体いくら払えばよろしいでしょうかという値付けにあたり、知財評価が必要になります。ここでは、このような個別具体的な事案に応じ行う知財評価を「個別の知財評価」と呼ぶことにします。

一方もっとマクロな視点で、例えば会社全体の価値をはかる中で、知的資産の位置づけを把握したい、という場合も考えられます。当然それは自社だけでなく、他社の知的資産を金額として計りたい場合もあるでしょう。このような、ある程度一般化が必要になる知財評価を、ここでは「一般化された知財評価」と呼ぶことにします。

※「個別の知財評価」「一般化された知財評価」は区別のために私が思い付きで定義したものなので、正式な定義があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。

balance sheet ok
balance sheet ok / Philippe Put

一般化された知財評価が不可能な理由

ここからは「一般化された知財評価」について考えます。
例えばマイクロソフトやサムスンといった会社が保有する知的資産の価値は、具体的にいくらなのか。これを推定できる評価手法はあるのでしょうか。私は非常に難しいと考えます。価値の推定に必要となる、いくつかの重要なパラメータが欠けていることが理由です。

1.他社とのライセンス状況が分からない

上記ブログ記事でも触れられていましたが、特許の価値というのは非常に「相対的」なものになっています。
特許の価値は根源的には「ある技術を独占できる」ことにより生まれます。他社にライセンスしてお金に替えると、独占の力を一部失うことになります。これは、お金と引き換えに権利の価値を落としたとも考えることができます。

従って特許の価値を計る上では、その特許のライセンス状況を知ることが重要です。ライセンス状況を知ることで、既にどれだけの価値が換金済みで、どれだけの価値がその特許に残っているのかがわかるためです。
しかし、一般的にライセンス関係は公開されることがないため、当事者以外がその特許のライセンス状況を知ることはできません。

2.特許の現在・未来製品に対する潜在的なカバレッジが算定できない

ライセンス関係は置くとして、次に算定しなければならないのが「その特許はどの程度の範囲を独占できるのか」「特許の権利範囲にある技術が他社製品に使われた場合に、その価値は例えばライセンス料換算でいくらになるのか」「そもそもその特許に関する技術は製品に採用されているのか」といったカバレッジです。

これを実現しようとすると、日々新しい製品が市場にリリースされ、価格も変わっていく中で、企業の保有する数十、数百、あるいは数千件の特許の中のいずれが、どの製品のどの技術に関係するのか、ということを推定しなければなりません。
当然ですが、まだ市場に存在しない未来の製品との関係の推定も重要です。特許の存続期間は出願から20年間続くためです。
正直なところ、無理難題に属する話と考えるのが妥当のように思われます。

なお、特定の特許1件が特定のある製品の技術に関係して「いるらしい」ことまでわかったあと、この1対1の関係の正しさを評価しようとすると、さらに時間と費用が必要になる点を忘れてはいけません。製品解析が必要であれば数週間かかることもあるでしょう。判断するのには時間給何万円の弁護士に頼まなければならないかもしれません。

3.特許の持つ抑止力を計ることができない

その特許の存在が他社製品の開発を未然に抑止した、という事実があったとすると、これも特許の価値として考えるべきです。

例えば、マイクロソフトがある特許を持っていたと仮定します。そしてグーグルがこの特許の存在を知り、製品にその特許技術を搭載することを断念したとします。マイクロソフトの製品価値は、結果的にグーグル製品と相対して上がることがあるかもしれません。特許がマイクロソフトのビジネスに優位に働いたのです。
これは立派な特許の価値と言えそうですが、他社製品の機能向上を未然に防いだことや、その価値の量を計ることはできるでしょうか。ちょっと現実的ではなさそうです。

火事を消したことは評価できても、火事を起こさなかったことの具体的な件数は評価できないのです。

Patents are only for the old machine
Patents are only for the old machine / Alexandre Dulaunoy

という理由で、現場で行われているのは「個別の知財評価」だけ

ライセンス交渉や特許売却といった状況では、事案毎に、そのタイミング毎に、何人あるいは何十人もの人間が大きな時間をかけて上述の状況を整理し、かつ相手方との交渉を重ねて、ようやく値段が決まります。

ある時点での、ある特定の他社に対する、当事者による推定であれば、知的資産の価値評価は可能でしょう。これが「個別の価値評価」です。「個別の知財評価」においては、上記ブログに紹介された種々の評価アプローチを用いることは大いに参考になるでしょう。

しかし個別の事案を超えて、て知的資産の価値評価を一般化しようとすると、とたんに難しくなってしまいます。ちょっと人間にできることじゃなさそうだなあ、と言うのが私の現状における結論です。

 

一般化された知財評価は絶対に無理なのか?

人間には難しいと書きましたが、人間でなければ可能かも、と言うのが私の仮説です。これについて書いたのが次の記事です。

ビッグデータ解析が一般化された知的資産価値を明らかにする

上記記事ではビッグデータの可能性について触れています。ビッグデータ解析では、ノイズも含めた「全て」の情報を取得し、相関分析することで、確からしい原因と結果を推定します。ある程度の未来予測も可能になると言われています。

Googleは「全てを検索可能にする」ことを社是として、あらゆる分野の検索可能化を図っており、特許情報もその1つとなっています。
膨大に集積された情報を解析すれば、ある企業と企業がライセンス関係を結んでいる可能性、ある特定の特許がある製品や技術に関係する可能性、さらには技術動向分析に基づく特許の将来価値まで、それなりの精度を持って解析できる日が来るかもしれません。
その時初めて、一般化された知財評価が可能になるのではないか、と私は考えます。上記記事で述べたとおり、Googleのビジネスになる可能性も大ですが。

ビッグデータ解析については次の記事もご参考下さい。

侵害鑑定の弁理士・弁護士が職を失う?

なお、製品が特許の権利範囲に含まれているかどうかわかるのならば、弁理士や弁護士による侵害鑑定等はいらなりそう、とも思われます。が、そんなこともなさそうです。ビッグデータ解析では相関関係を調べることはできますが、因果関係、つまり「なぜ」原因が結果に結びつくのかを知ることはできないためです。
したがって、ある特許がある製品を侵害することの最終的な理由付けは、人間かやらなければなりません。

もっとも、ビッグデータ解析に基づく相関分析の精度が一定以上になると、こうした理由付けが自体が不要とされる可能性はあります。
例えば、相関分析の結果ある特許がある製品を侵害する可能性が示唆され、実際に弁護士による評価をしたら確かにそうだった、ということが何度も続いたとします。すると、莫大な費用と時間をかけて弁護士に依頼することがバカらしくなってきませんか。
当事者間で「いつもビッグデータ解析の結果通りになりますし、ライセンス料率の算定は今回も解析の結果を参照しましょう」と合意できれば、人間による理由付けを待つ必要はないわけです。

ということで、Google先生頼みというちょっと案直な結論の記事になりましたが、知財評価を一般化して考えることはとても難しそうだと思っています。一般化の手法にどのような可能性があるのかは、今後も注意を払いたいと思います。

 

中小企業のための知的財産評価・企業価値向上とM&A―最新デューディリジェンスの実務 図解入門ビジネス 知財評価の基本と仕組みがよーくわかる本―2005年4月施行の新職務発明制度に対応 (How‐nual Business Guide Book) ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える

 

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