日本の未来を予想する上で、人口の都市集中が今後も進むのか、あるいは地方への分散が起こるのかは、個人的に気にしているテーマです。以前紹介した『2100年、人口1/3の日本』では、日本の人口が激減するとともに、過疎化が進み、地方の街が消えていく未来が書かれてました。
- 少子高齢化する日本の人口は、都市に集中するのか、地方に分散していけるのか(『2100年、人口1/3の日本』書評1/2)(2013/9/23)
- ハードウェアにおけるIT革命は日本を人口減少から救うか(『2100年、人口1/3の日本』書評2/2)(2013/9/25)
ところで、2027年のリニア開通が決まったので、その影響を解説した『リニアが日本を改造する本当の理由』を読んでみました。すると本書でも日本の人口動態に関する将来予測が述べられており、どんな未来になるのか紹介です。
Summary Note
『リニアが日本を改造する本当の理由』で述べられていた未来
- 2027年東京・名古屋間、2045年東京・大阪間でリニアが開通、日本の大都市間の時間距離が一気に縮まる
- リニア開通の効果として「ストロー効果」により東京の都市化がさらに進む
都市化が進むと、地方はどうなってしまうのか?
- 地方の大部分の消滅が予測されており、これを防ぐためには、都市にできない・都市と補完関係を築ける魅力が地方に必要
なお、著者の市川宏雄氏は明治大学で都市開発を研究していて、前回紹介した『山手線に新駅ができる本当の理由』もこの著者でした。
まずはリニアの計画のおさらいです。ざっと箇条書きで紹介すると‥
- 2014年に工事を本格スタート
- 2027年に東京・名古屋間先行開業、2045年に東京・大阪間開業
- 最高速度505km/hで、東京から名古屋までを40分、大阪までを67分で結ぶ(現在の半分以下)
- 料金は新幹線+1000円程度と良心的で、東京・名古屋間は11,480円、大阪までは15,050円の予想
- 東京の駅は品川にできる
- 中間駅は神奈川県相模原、山梨県甲府近郊、長野県飯田、岐阜県中津川が決定
核融合と並んでいつ実現するんだろう思ってたリニアだけど、やっと開通です。と言ってもまだ10年以上もありますけど、楽しみ。このリニア開通の影響として著者が予測するのが「東京の都市化がさらに進む」という未来でした。
都市化の原因として著者が挙げるのが「ストロー効果」です。ストロー効果とは、「2つの都市が交通網で結ばれたとき、吸引力の強い都市に他方の都市の活力が吸い上げられる現象」のこと。
戦後、何本もの高速道路や新幹線が敷設され、多くの都市が結ばれてきました。現在の東京への人口集中は、交通網の発達によるストロー効果が原因だ、と著者は指摘します。
リニア開通も同様に、東京と名古屋・大阪間の時間距離を大幅に短縮し、ストロー効果による東京の都市化をさらに進めることになります。
こんな解説記事もありました。
東京への人口集中がますます進んで良いのかどうか、というと著者は「都市化すべし」の立場でした。
東京は日本のGDPの1/6以上を生産し、08年の所得税・法人税税収国内シェアは44%に上ります。つまりは東京圏の盛衰が日本全体の命運を左右する、と著者は指摘。こうした現象は日本だけのものではなく、「いまやある国の主要都市の力を見れば、その国の力を測れるようになっており、国力は都市の力と同義となる」と著者は見ています。
その上で著者は、さらなる都市化が必要な理由に、日本の産業の大部分が第3次産業であることを挙げています。著者紹介の1950年→2005年における日本の産業別就業者比率の変化を見てみましょう。
- 第1次産業:48.6% → 4.9%
- 第3次産業:29.7% → 68.5%
第3次産業の躍進が甚だしいです。第1次産業の人口減は技術革新の影響もあるんでしょうが、それにしても就労者数だけで見ると壊滅的に思えちゃいますね‥。
著者は第3次産業が、人口が集中するほど繁栄する産業、つまりスケールメリットが大事な産業だと指摘します。すると、日本の主要産業となった第3次産業をより盛り上げるためには、さらなる都市化が必要で、そのことが日本全体の活力アップに繋がる! ということになります。
「都市化への懸念と地方の発展」が叫ばれたのは別に今に始まった話じゃないよ、とも著者は指摘。その例として、1962年以降段階的に計画されてきた全国総合開発計画を解説していました。
全国総合開発会議は国土利用の在り方を決める基本的な中期計画で、これまで5次にわたり策定されてきました。以下に策定年と各計画のスローガンを並べてみます。(※なお()書きはスローガンではなく、私が概要の一部を記載したもの)
- 1962:全国総合開発計画「地域の均衡ある発展」
- 1969:新全国総合開発計画(新幹線と高速道路で都市を結び地域発展を図る)
- 1977:第三次全国総合開発計画「定住圏構想」
- 1987:第四次全国総合開発計画「多極分散型国土の形成」
- 1988:21世紀の国土のグランドデザイン(北東国土軸など4つの国土軸を定義)
どの計画も地域の発展を謳ったり、謳う内容が盛り込まれてたけど、毎回中途半端なまま終わってきたよね、というのが著者の見方です。
なお都市開発に関する政策としては、2002年の都市再生特別措置法にも触れていました。これは都市中心部での再開発の規制を大幅に緩和するもので、やっぱ都市化に進むよね、とのことです。
さてここで『2100年、人口1/3の日本』で予想されていた日本の近未来を一部紹介してみます。
- 2010年時点で、日本の国土の57.3%がにあたる市町村が、少なくとも一部に過疎地域を含んでいる
- 10年以内に423の集落が、その後2220の集落が消滅する
- 2050年までに、国土の66%において人口が半減、うち22%では無居住化が起こる
- なお、2050年までに東京都・名古屋においては人口が増加する
日本の2割の地域から人が消えるとか、結構絶望的な気がしませんか。少なくとも私はしてますよ!
地方におけるの問題の1つが「仕事がないこと」だと思います。もちろん本当に無いかといえばそんなことはなくて、選ばなければあるんでしょうけど、チャンスや選択肢で言えば都市が圧倒的です。でも地方にもっと仕事が生まれていけば、人口の都市集中という未来は変わっていくかもしれません。
徳島の日亜化学や長野のエプソンのように、都市でなくとも大きな雇用を生み出している企業はたくさんあります。
ただ、1つの企業が城下町を作るのをただ待つというのもちょっと偶然に頼りすぎな気が。そんな優れた起業家が湧いて出れば最初から苦労しないって話です。
大きな企業を待つのではなく、小規模の企業やベンチャーが生まれやすい、育ちやすい、集まりやすい環境、というのも1つの正解かもしれません。これに関して、IT技術の発達によりハードウェア企業でも場所を選ばず起業できるようになってくるので、地方企業が増えるかも、という仮説を以前紹介しました。
しかし、製造工場を自前で持たなくてもよいのなら、4畳半のオフィスでも事業ができてしまうなら、起業家にとっ有利なのはやっぱり大都市の気がしてきます。都市の方が出会いが多く、チャンスにあふれているからです。人と直接相対してアイディアを磨き上げたり、共感してくれる協力者を探し当てられる環境って、起業家にとって重要ですよね。
起業のハードルが下がっていくと仮定しても、彼らを地方で生み、呼び込むためには、都市にない魅力が地方に必要になってきそうです。
『リニアが日本を改造する本当の理由』では、ストロー効果の例外となる事例が2つ紹介されていました。
1つが名古屋です。
名古屋は東京と直接リニアで結ばれるため、ストロー効果の影響を受ける可能性が高い場所です。その名古屋が東京に人口を吸われない方策案が「東京と補完の関係になること」でした。
曰く、東京が金融・保険・不動産で際立つ一方、名古屋は製造業や製造業をベースとしてたサービスに強みがあります。このように東京との相互補完関係が成立すれば、東京と併存していけるだろう、とのことです。
2つめが軽井沢でした。
軽井沢は長野新幹線開通により、時間距離は東京からわずか1時間に近づきました。しかし軽井沢は「高級別荘地」「東京より涼しい」という東京にない強みを打ち出すことで、逆に発展したと著者は指摘します。
このように地方においては、近隣の大都市にない環境、近隣の大都市と補完関係を築ける要素に着目できれば、起業家を呼び込める可能性があります。
例えば「土地の広さ」は都市に提供できない魅力です。ロケットや無人航空機や、あるいは風車や大規模太陽光発電といった、空間利用が必要な事業で、ベンチャーが手を付けることがいくつもあるはず。ロケットは北海道でホリエモンがやってますね。
地方特産といえば農作物も典型的。農業用のIT機器がいくつも提案されてますが、農地・農家との提携は地方の魅力になり得ます。
特色を出して起業家が集まる環境ができれば、次には人が人を呼び、発展していくことが期待できます。やがてそこから大きな企業が育って、地方と呼ばれていた場所に新しい都市が生まれるかもしれません。
リニア開通は日本の都市化が進む要因の1つになりそうですが、地方から人が消えない未来のシナリオにも期待したいところです。