3Dプリンタと知財制度についての雑感(知財学会2013レポート 2/2)

2013/11/30-12/1の2日間で開催された、日本知財学会・第11回学術研究発表会。前回は政府系知財ファンドに関する発表について紹介しました。

3Dプリンタに関する発表も聞いたので、今回はこの紹介と、私見を述べていきたいと思います。

『3Dプリンタ普及によるデメリットへの知的財産からのアプローチ』
東京理科大学専門職大学院修士過程・山田恵氏

3Dプリンタはクリス・アンダーソン著『MAKERS』などでもその影響が紹介されて、いま注目されてますね。英国特許庁が技術動向調査報告を出しており、日本特許庁も調査をしていて来年4月に報告が出る予定のようです。

発表タイトルでは「知的財産からのアプローチ」となってましたが、実際には著作権の話が99%だったように覚えてます。これは知財学会の発表全般に言えることですが、タイトルはもうちょっと考えてつけて欲しかったり。
というかこの発表、学生優秀発表賞に選ばれたようですね。視点としておもしろいところもいくつかあったので今回紹介です。

 

発表の概要

基本的には著作権に関して、3Dプリンタを用いての主に違法コピーにどう対処するか? という内容でした。以下、述べられていた点です。

  • 「立体物/データ化/アップロード/ダウンロード/3Dプリンタによる立体出力」と各工程に分けたとき、それぞれの段階で模倣行為が行なわれた場合の著作権法適用条文の検討
  • 上記各工程のうち、ダウンロード工程だけは現行著作権法での対処が難しく、違法ダウンロードに関する著作権法119条3項の改正を検討すべき
  • 例えば私的録音録画補償金制度のように、装置に対して課金するという考えもできそう
  • ただし現行の私的補償金制度が限られた産業において運用されているのに対し、3Dプリンタは影響する産業が広範なため、当該制度の導入は現実的には難しいかも
  • 3Dプリンタによる模倣を規制することは現実には困難であるため、ビジネスモデルを変えることも検討すべき。アプローチとしては2つ考えられ、(1)製品ライフサイクルを早くする、(2)3Dプリンタでコピーできない部分(素材、付加価値、使用環境等)にフォーカスしていく

また、質疑応答でもおもしろい意見が出ていたので紹介します。

  • 現行著作権法において、図面から建築物を建てる行為も侵害行為に問えることになっており、この点を参考にした立法が考えられるのではないか
  • 3Dプリンタで出力されるものとして完成品だけでなく部品も多いはずだが、部品は著作権性がない場合もあり、著作権法でのアプローチは難しいのでは

 

雑感

以下、発表を聞いて考えたことをダラダラ綴ります。今回は特に提案とかはないです。
あと、3Dプリンタと知財の話は以前このブログでも何本か記事を書いたので、ところどころ挿し込んできます。

そもそも規制しなきゃいけないのか?

3Dプリンタはモノに関わる話とは言え、実際に流通するのはCADデータなどの「設計図」となり、どちらかというとソフトウェア頒布に近い世界なのかなと思ってます。
ソフトウェアといえばオープンソースが1つの潮流で、3Dプリンタの登場(モノの設計図化)に伴い、モノの世界も次第にオープンに変わってくんじゃないかというのが私の考えです。

そうした世界でどこまで知財法による規制をかけなきゃいけないのか、ユーザから規制が求められているのだろうか、というのはちょっと考えてしまうところです。

とはいえ創作者の利益を不当に損ねたり、創作者人格権に影響を与えるような悪質な模倣は避けたいという要望はあるはずで、今回は知財制度の是非については論じないこととします。

著作権法より特許法では

なんで著作権法に限定したし…というのは今回の発表を聞いて大いにツッコミたかったとこで、モノや設計図が争点になるならば、特許・実用新案・意匠法のが大事になるんじゃないかと思うんですよね。質問でも、部品に対して著作権での権利行使は難しいと指摘されてましたが、その通りだと思います。

個人的にはさらに踏み込んで、間接侵害の運用をどうするかが今後争点になっていくと考えてます。

3Dプリンタに関わらずですが、情報処理やデータの交換がネット上に移っていって、知財法の権利行使(侵害発見と証拠提示)が難しくなるという問題は解決が難しそうです。法整備はともかく、権利行使を実効的にするにはどうすりゃいいの? という点について誰か答えて欲しいですね。

現行制度をどうアナロジーとして使うか?(1):私的補償金制度

発表者の私的補償金制度への着眼はとてもおもしろい視点でした。
私的録音録画補償金制度とは、個人による著作物使用からいちいちお金取ってられないので、ビデオレコーダーやDVDとかの販売価格自体に最初から著作権使用料入れて徴収しよう、というヤクザ的制度です。

業界を特定できないないのでお金の還元大変という発表者の指摘はもっともですが、私はこの制度の要否自体そもそも疑問です。
TVで放映されるコンテンツの録画に対してお金を徴収できない、というが私的補償金制度が問題とする課題でした。一方3Dプリンタの場合、Web上で設計図が売られる場合に設計図毎に販売者が価格をつければ済むことで、そもそも課題が発生しない可能性が高いです。

3Dプリンタの大きな問題点として「模倣(不正な設計図化やコピー)どうしよう」がありますが、私的補償金制度はもちろん模倣対策に役立つものでもありません。

もっとも「現行制度をアナロジーとして考えたとき、どんな制度が使えるだろうか」という視点はおもしろいと思うので、以下もう少し考えて見ます。

現行法をどうアナロジーとして使うか?(2):DRM

著作権で考えると、DRM(デジタル著作権保護)の仕組みも使えるかもしれません。

配布される設計図に対して何らかの著作権保護をかけておき、模倣データである場合には配信できなくするとか、3Dプリンタ側で出力できなくするとか、そういったアプローチです。
いずれクラックされイタチゴッコになることは目に見えるものの、法律どうこうよりこうした技術的アプローチの方がより重要になってく気がします。
もちろん、そうした技術的アプローチをバックアップするための法的整備は必要ですけどね。その意味では、質疑で指摘のあった「図面からの建築物建築は著作権侵害」なんかも対3Dプリンタのアプローチとしておもしろそうです。

現行法をどうアナロジーとして使うか?(3):「場」に課金する

あとは先ほど紹介した記事に書いたのと同じですが、Youtubeなどを参考に、「場」に対して働きかけるアプローチが考えられます。

設計図が流通する場合にも、動画が集まるYoutubeのように、流通のための「場」が生まれるはずです(『Makers』によればすでに生まれています。そうした場に責任を持ってもらって、権利関係の整理や悪質模倣の排除をしていくというのが現実的な気がします。

企業はどこに付加価値を出していくのか

最後に、山田氏が述べていた「質感など3Dプリンタでできない付加価値にビジネスモデルの重点をシフトすべき」という指摘には基本的に賛成。他には例えば量産技術による低価格化、すりあわせ技術なんかも、3Dプリンタや個人製造では実現できないとこだと思います。
このあたりの個人と企業との棲み分けがどうなっていくかは楽しみですね。

私は以前大企業の役割が研究開発側にシフトすると書きました。

いまはちょっと考えが変わっていて、高度な技術力が問われない、3Dプリンタ出力製品と競合する領域でも、十分に戦っていく方法はあるように思っています。

 

MAKERS―21世紀の産業革命が始まる トコトンやさしい 3Dプリンタの本 (今日からモノ知りシリーズ)

 

タイトルとURLをコピーしました