国際仮想通貨Bitcoinの登場は、国家から権力を奪うか

2009年に発行され、高騰ののち暴落した仮想通貨Bitcoin。現在はちょっと芳しくなさそうですが、こうした国際的仮想通貨の登場は国家という枠組みに少なくない影響を与えるのでは、と考えたので紹介します。
ところでBitcoinて日本人が運営始めたんですね。知りませんでした。

Bitcoinは近代国家を崩壊させるか

というブログが興味深かったのでまず紹介します。

記事の要旨は、Bitcoinが近代国家に与える悪影響について述べたEvan Soltasの論説への反論です。上記ブログ記事で解釈されるEvanの主張は次の通り。

  • bitcoinは課税や追跡ができないため、闇市場を栄えさせ、財務調整を弱体化させる
  • 富裕層への課税ができなくなるため、福祉のための予算を確保できなくなる

Bloombergの論説者でプリンストン大学の学生、Evan Soltasが、Bitcoinについて「近代自由主義国家の脅威」と書いている。この一文には二通りの読み方がある。彼の論説記事の一つの解釈は、われわれが皆危険な状態にあり、課税や追跡が不可能なbitcoinが闇市場を栄えさせ財務調整を弱体化させた結果、社会は崩壊するというもの。もう一つSoltasの偏向を踏まえると、彼はタイトルにある「近代」よりも「自由」の部分に強く焦点を当てているのではないかと私は想像している。つまり、近代国家は、富裕層に不公平な課税ができなくなり、そのため国民の福祉に浪費する余裕がなくなり、特定種の人々のための財政の涅槃になるというもの。

ビットコインは近代国家を崩壊させるか

これに対する筆者の反論の要旨は概ね次のような形。

  • SoltasはBitcoinに課税できないことを問題視しているが、典型的には貴金属や宝石を用いるなど、課税を逃れる方法は古くからいくらでも用いられてきている(Bitcoinに始まった話ではない)
  • 仮想通貨であるBitcoinは、現実世界で使うためには何らかの形に変換する必要がある。確かに資金移動の監視は難しいかもしれないが、不自然な出入金は発見される可能性がある(そのため悪いことには使いにくい)

問題の所在は「課税逃れ」ではなく「課税の仕組みがない」こと

私は、筆者の反論よりもEvanの見解に分があると考えます。
筆者は現状でも多くの資金洗浄法が存在することを指摘。「課税逃れ」の点でBitcoinが新しい手口ではないと主張します。しかし私は、問題の所在がそこにあるとは思いません。問題は、闇市場での資金洗浄に使いやすいかどうかでなく、表舞台で使われたとしても課税が難しい可能性がある点です。

Bitcoinは特定の国家に閉じておらず、国際的に流通する通貨です。これに課税しようとしたとき、どの国がどのような取引に対して課税できるのか、まだルールはありません。
米国人が運営する取引サービスを使って、ドイツ人が出品した商品を、日本人が買う場合、税金は誰がどの国に払うのでしょうか。サーバが北極に置かれた場合や、サービス事業の登記が南の島にされた場合、話がややこしくはならないでしょうか。

Bitcoinは日のあたる場所で使われている通貨です。こうした仮想通貨が全世界に普及すれば、その経済規模は闇市場の資金洗浄とは比べ物にならないでしょう。実体経済がドルや円といった従来のものから、国際仮想通貨に移行したとき、次の2つの問題が起こるはずです。

  • 課税できないことにより、国家は財源を失い、福祉をはじめとした国家の機能が失われる(これはSoltasの危惧する通り)
  • 課税するためには国を越えた枠組みが必要となるが、通貨発行権は国家の有する重要な権力の1つである。この権力の所在が国家を超えたとき、近代国家の形に影響を及ぼす可能性がある

ボトルネックは価値の不安定性とクラッキングのおそれ

ちょっとBitcoinのこれまでの経緯を眺めてみます。まずはWikipediaを参照。

Bitcoin (ビットコイン) は2009年に作られた電子マネーである。中本哲史による論文に基づいている。
Bitcoinは極めて低いコストでの決済(およびマイクロペイメント)を権力機関や発行者無しで平均10分程度の待機によって可能にする。ノードから別のノードへの貨幣の移動は電子署名された取引で行われ、P2Pネットワーク内の全てのノードにブロードキャストされる。初期の通貨流通や、二重支払いの検知のためproof of workシステムが用いられている。

急上昇したBitcoin

わずか4年あまりで10億ドル規模に急成長した様子は、次の記事から。

記事では、スペインでのBitcoinアプリの順位上昇、スウェーデン企業でのBitcoinによる給与支払い、BitcoinのヘッジファンドやBitcoinベースのカジノの登場を伝えています。また、キプロスではBitcoinのATMを世界で初めて設置するともしています。

高騰の原因として、キプロスの金融危機が指摘されています。
Bitcoinではありませんが、COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) のコラムによれば、スペインでは貨幣経済に拠らない地域社会化が進んでいるそうです。
こうした背景には、危機に瀕したEUROよりもまだBitcoinや、お金を使わない地域経済の方が信用できるという判断があるようです。

Bitcoin Adoption by Country
Bitcoin Adoption by Country / zcopley

そして暴落したBitcoin

2013年4月に入ると、Bitcoinの価値は急落します。
以前よりBitcoinが抱える問題として、市場価値が不安定であること、そして盗難の恐れがあることが指摘されていました。4月の価値急落は、これら2つを原因としたものとなっています。

今回の閉鎖で、トラブルを抱えていたBitfloorサイトが終末を迎えたことがはっきりした。同交換サイトは2012年9月、2万4000BTCが盗まれ、その後業務を一時的に停止した。当時、Bitcoinは10ドル40セントで取引されており、盗まれた金額は25万ドル近くに上った。

仮想通貨「Bitcoin」交換サイトのBitfloor、サイトを閉鎖へ(Cnet japan)

セキュリティは、インターネットやデジタルにおいてはクリティカルな問題です。お金や個人情報を扱う信用業にあっては、言うまでもなく致命的。

 
解決方法の一つは国際的機関の設立だが、国家のあり方に影響を与えないか

暴落を使える記事を読むと「Bitcoinはもうヤバい」というニュアンスに聞こえます。
私は、新しい技術や概念は反発を繰り返すものなので、これで直ちに終わりではないと思っています。一度バブルがはじけて落ち着いて、それからではないでしょうか。

Bitcoinは設立してまだ4年です。価格の不安定性という問題は、時間経過による収束に期待するほかありません。
技術的な問題(クラックされて盗まれる)についても、力を入れて補ってもらう以外にないでしょう。ネットの技術は日進月歩なので、完璧なセキュリティを作ることは不可能です。それでも世の中にはクレジットカードやポイントと言ったものがすでに存在していて、時々攻撃されてはいるものの、廃れることなく顧客情報を守れてきています。

Bitcoinがすぐには死なないという前提の上で、Bitcoinがもっと普及するために何が必要なのか、その時どのような問題が起こるのかを考えてみます。

リスクを担保する国際的機関が必要

Bitcoinが抱える問題点は2つ、価格の不安定性と技術的な課題(クラックされる)です。
Bitcoinが本当に普及するためには、こうしたリスクを誰かが担保し、ユーザにダメージがいかないことが必要です。

お金に関するリスクを担保する枠組みの1つが、政府や中央銀行のような公的機関の介在です。既存の銀行システムは、幾重にも巡らされたセーフティネットや法律で守られています。Bitcoinもこうした公的なサポートを受けることで、ユーザからリスクを取り除くことが可能です。

「なぜビットコインは通貨になれなかったのか」でも、Bitcoinの課題として政府や中央銀行の不在、すなわちリスクの担保者の不在が指摘されていました。公的機関によらずリスクを担保する方法があることも示唆されていますが、具体的には述べられていません。
(なお、公的機関によりリスクを担保した場合、「権力に拠らない分散型通貨」というBitcoinの特徴が失われるとも指摘されています。その意味では、何をもってBitcoinとするのかはよく考えなければいけないようです)

ここで一つ注意しなければならないのが、リスクを担保する役割を担うのが国際的な機関でなければならない点です。Bitcoinがすでに国境をまたいで流通する通貨であるためです。
機関は、公的なものでもいいですし、仮想通貨に賛成するファンドの集まりなんかも想定できます。リスクをカバーできる十分な資金と枠組みが、国を超えて作られれば、Bitcoinの抱える不安定性は解消されることになるでしょう。

国際通貨の登場は国家から権力を奪う

江戸時代に起きた問題のひとつに、米と金の二重経済というものがありました。
幕府や各藩は財源(税収)を米基調としました。米の石高(生産量)は、新田を開墾した場合を除き、基本的には増えることのない上限のある数字です。一方で、同時に流通した「貨幣」は、産業の発達に伴い価値が増大していく通貨です。
時代が進むにつれて富は商人に集中し、武士階級は商人から借金し、ついには中央政府が倒れて明治を迎えます。明治維新の主因が二重経済にあるとは思いません。でも、武士の時代から商人の時代に移るにあたっての背景として、因果関係を感じずにもいられません。

同様の話に、平家による宋銭導入があります。
それまで米や反物が交換財だったところに、平清盛は日宋貿易で得た宋銭を大量に輸入します。やがて宋銭は通貨として信認されますが、平家は宋銭のコントロール権を有することで、荘園貴族に対して相対的に財力を持ち、絶大な権力を手にするに至ります。。
このあたりは会計士が著者の「経営者・平清盛の失敗」でわかりやすく説明されていました。

経営者・平清盛の失敗 会計士が書いた歴史と経済の教科書

中世のユダヤ人による銀行なんかもそうですが、基本的には通貨のコントロール権と政治権力とは切り離せない関係にあります。
ここでBitcoinに目を戻すと、もし国際的な機関(つまり国家以外)が仮想通貨のコントロール権を得たとき、国家に与える影響は思ったよりも大いのでは、と思うのです。

EUROの失敗をどう捉えるか

通貨の国際化を公的機関でやった例がEUROです。
厳しい状況に晒されるEUROですが、台所の異なる複数国が単一通貨を持つというのは、やはり難しいのでしょうか。EUROの事例は、「国際通貨はやっぱ無理」という結論を導くのでしょうか。

EUROの失敗は、その枠組み自体にも構造的な問題があったように思います。例えば国際仮想通貨を後押しするファンドが知恵を出し、EUROを反省と捉えて、新たな枠組みを作り出すことはあるのでしょうか。

国際仮想通貨はBitcoinに限らず、将来新たなものが登場するかも知れません。
いずれにせよ国際的な新しい通貨が信認され、公的または私的な機関がこれをコントロールするとき、国際社会の形が問われることになると思います。

 

金融史がわかれば世界がわかる―「金融力」とは何か (ちくま新書)  COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) 2012年 11月号 [雑誌]

 

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