クリエイティブ・コモンズやオープンソース・ソフトウェアのように、知的財産権の仕組みを自発的に制限する枠組みが注目を集めています。これについて新しい動きがあったのでみてみます。
- 文化庁によるクリエイティブ・コモンズ支援
- グーグルによるオープン特許不争誓約
クリエイティブ・コモンズに関しては、「ラブひな」「魔法先生ネギま!」などの著者で、電子書籍配信事業も手がける赤松健氏が、新しいライセンス態様を提案していました。
コミケなど即売会当日に限定した新ライセンスを提案。(中略)
「作者として、公式には2次創作は認められないが、従来までのような常識的な範囲内なら、同人誌即売会の当日だけ、無料で2次創作を黙認する」という意思を表示できるマーク。(中略)
紙の同人誌、即売会限定の版権で、同人誌書店での販売は認めない。これまでの2次創作同人文化を支えてきた「イベント当日の黙認」を明示した形だ。
CV(connivance、黙認)マークは著者の後ろに二次創作者が立つ意匠ですが、スタンドというかストーカーというか、ちょっと怖いですね。
記事では「従来までのような常識的な範囲内なら」とありますが、この常識的な範囲というのが問題です。なぜなら常識とは時代によって変わるものだからです。
例えば検索エンジンを使ったネットの検索も90年代にはまだ「常識」ではありませんでした。そのため、著作権法は長らくYahooやGoogleといった検索サイトを違法としており、合法化されたのはようやく2010年のことでした。
法律が時代遅れなのは仕方がないことだと思います。
法律とは違反すれば罰則を受けるルールですから、社会に広く認知されていなければなりません。「知らなかった」では済まされないのが法律です。その法律が時代と同じスピードで変わってしまうと、時代についていけない人々が「いつの間にか違法になってたけどそんなの聞いてない」となってしまいます。
全ての国民に影響を与える法律がコロコロ変わってしまう(誰かの意思により簡単に変えることできてしまう)というのは非常に怖ろしい状況です。法律の改正は既得権者の理解も含めて慎重に、社会が変化しきってからようやくされるくらいでちょうど良いと思います。
そして、そうした時代遅れが状態である法律を補うのが個人による活動です。
クリエイティブコモンズもオープンソースライセンスも、個人が始めた活動が社会に広がったものでした。問題意識をもった個人が、法律が対応できずにいる部分をうまく補い、世の中を良い方向に進めているのです。
その点で赤松氏の提案は著作権法の対応できない、しかし法律通りに考えるとなんか変、という部分を補っていて素晴らしいと思いました。その手があったか!という感じです。
日々変わっていく「常識的な範囲」に対応できるように、新しい提案が出てくるのはいいことですね。CVライセンスはぜひ実現して欲しいと思います。
そして肝心の法律ですが、文化庁もクリエイティブ・コモンズの支援を決めた模様。
- 第8回コンテンツ流通シンポジウム『著作権の公開利用ルールの未来』(文化庁)
- 2013年3月27日、文化庁シンポジウムでCCライセンスについて語りました(Creative Commons Japan,2013/3/28)
文化庁では平成23年度に意思表示の仕組みのあり方について調査研究を実施したところ、政府がシステムを構築し運営することは困難であり、CCライセンスを「代替可能な優れた仕組み」と評価した上で、CCライセンスとの連携協力を視野に入れた新しい在り方を検討することとなりました。
個人によるボトムアップに対して、公的機関がそれをしっかり認め、柔軟に仕組み作りを考えようとしているのがわかります。実現にあたっては既得権者によるブレーキも厳しいでしょうが、スタンスとしてこうした協力関係を発表してくれるのは心強いですね。
個人的にとても嬉しいニュースでした。がんばって欲しいです。そしてできれば、ツギハギだらけの著作権法もこの機会に一新して欲しいです。
一方特許の分野でも、オープンライセンスに関する新しい動きがありました。
Googleが発表したOpen Patent Non-Assertion Pledge(オープン特許不争誓約)は、要するにフリーまたはオープンソースソフトの開発者やユーザに対しては特許紛争を起こさないという誓約。Googleはこの誓約を業界モデルとすることで、オープンソースにおける社会問題としての知財問題を解決しようとしているようです。
記事によれば、類似の仕組みはすでにRedhatやIBM、Sun Microsystemsでもされているとのこと。RedhatoやSunはオープンソースの大御所ですが、今回Googleが提案することの意味もまた大きいように思います。Googleは検索エンジンやAndroidといった巨大なプラットフォームを提供しており、その範囲内での権利を制限できる立場にいるためです。
Googleはかねてよりソフトウェア分野における特許制度の存在に不快感を表しており、今回の提案も特許制度の力を弱める戦略の1つでしょう。
それにしても、自ら権利行使機会を放棄するというのは勇気のいる経営判断です。もちろんGoogleには自社プラットフォーム普及による広告料収入アップというわかりやすいビジョンがありますが、こうしてビジョンに適う戦略的スキームを提案する担当者がいて、それを実現する判断がしっかりなされていますね。
こうした企業によるボトムアップに特許法がどう応えるのかも見ものです。