宇宙開発はいま何がアツいのか?(4/4) -「民主化」が宇宙開発を加速させる

21世紀における経済産業分野での最大の出来事は「民主化」ではないかと思っています。そしてこれは宇宙開発についても同様です。
「テクノロジーの民主化(democrization)」とは、開発や創造の主体が政府機関や一部の大企業から、個人を初めとする大衆に解放されること。例えば音楽や映像作品は、昔は一部の製作会社だけがメジャーたりえましたが、インディーズの台頭を経て、今では個人でもYoutubeに載せて有名になることができています。

次々と立ち上がる民間発の宇宙旅行社

宇宙開発分野では、民間ベンチャーの参入が相次いで起きています。その顕著な例が宇宙旅行で、2013年にはいよいよ民間の宇宙港が開港します。楽しみ。

民間で宇宙開発を行う企業としては、上記スペースポートを開港してサブオービタル軌道へ宇宙旅行を提供するヴァージン・ギャラクティック社や、国際宇宙ステーションへ貨物を届けた”Dragon”を有するSpaceX社なんかが有名です。
そして地球軌道以外にも、小惑星探査や月面飛行、火星植民を掲げるベンチャーなども数多く現れています。


ヴァージン・ギャラクティック社の宇宙船スペースシップ・ツー(中央部)と、母船となるホワイトナイト・ツー

元ライブドア社長のホリエモンは次のようなことを述べていました。

「国家がやってるからどうしても性能競争になってしまうんです。これまではすべての国がF1のマシンを作るような態勢でロケットを開発してきた。でも単なる輸送機関として考えれば、自転車レベルでも全然いいんですよ」

「ロケットといったって工業製品だ。大量生産をすれば、単価は下がるはず。単価が下がれば使う人も増えてますますみんなが宇宙に出ていくようになる」

堀江貴文「みんなが宇宙に出て行くようになる」

NASAやJAXAと言った政府機関は最先端技術の開発が使命なのでどうしてもコストがかかるが、技術自体はすでに確立しているので、ソ連の旧機関などの古い技術を再利用することで、ばごく低コストで宇宙に行けるとのこと。
はやく出所して日本発の宇宙開発事業を立ち上げて欲しいです。

ちょっと話はそれますけど、個人的な旅行でISSを尋ねてる人って既にもう何人もいるんですね。知らなかったので驚きました。

『MAKERS』が述べる、民主化がもたらす生態系

スペースX社がNASAに比べて低コストで宇宙船を作れる理由として、クリス・アンダーソン著『MAKERS』では、「デジタル工作ツールによる内製」を挙げています。
これまで大きな設備投資が必要だった製造分野は、今はCNC工作機械などのデジタルツールにより、個人や小規模事業体でも容易にアプローチできるようになっています。

『MAKERS』では事例としてオープンハードウェア「ラリーファイター」を挙げていました。
これはローカル・モーターズ社によるビジネスで、車のデザインをクラウドソーシングし、受注後に必要な部品の買い付けを開始することで、従来の自動車工場の1/100の資本での運営を実現したもの。次のサイトなんかも参考になるかもしれません。

従来と異なり現在は小さい会社にもサプライチェーンが開かれるようになったため、このようなビジネスが可能になっています。特筆すべき点は、『MAKERS』によれば前掲したスペース・ギャラクティック社の宇宙船も、こうしたデジタル工作ツールにより低コストで実現していることです。
一般公募によりデザインされた、BMW製エンジン搭載のラリーファイター

このように、デジタル技術の普及により低コストでの製造と収益化ができるようになった世界の生態系について、『MAKRES』が紹介していたのがLEGO。

  • 例えばBrickArmsはミリタリーマニア向けにレゴ用の武器を販売し、これだけで家族を養っている
  • 他にも多くの小企業が、レゴ製品カスタマイズするための製品を販売している
  • 彼らがレゴを補完する製品を売ることで市場のすそ野が広がり、レゴ社は喜んでいる
  • 多くの起業家たちがニッチを埋めることで、レゴ社は大量生産品の開発に専念できている

大手企業と新興小規模メーカーとの棲み分けという点で、面白い事例だと思います。

民主化により加速する宇宙開発

20世紀初頭の航空機普及には戦争の影響が色濃くありました。
その点、宇宙での戦争(というかそもそも先進国同士の戦争)はいまのところ想起しにくく、宇宙開発の加速要因としては考えられそうにありません。もちろん中国の台頭による米国への刺激など、開発の動機としては強いでしょうが、20世紀のような本当の戦争状態とは状況が異なります。

その代わりとして働くのがテクノロジーの民主化、すなわち「誰でも製造ができる時代」そのものだと私は考えます。デジタル工作ツールやオープンハードウェアの潮流により、宇宙産業においてもモノ作りのハードルが大きく下がって、様々なニーズを多くの民間企業が担うことになるでしょう。

NASAは新しい宇宙服を発表しましたが、こうしたアメニティはいずれ民間企業の手に移ると思います。


カラーリングがけっこう狙ってきてますね

NASAは長年の研究開発の過程で、マジックテープや宇宙でも書けるボールペンを開発しましたが、こうしたグッズこそ素材メーカーが得意とするはずのもの。宇宙旅行社や宇宙開発ベンチャーの増加に伴い、各企業が宇宙におけるニーズの追求を始め、その答えを供給していく生態系を築くと考えます。宇宙食なんかもどんどんおいしくなっていくんでしょうね。

下記はNASAによるプロジェクトではあるものの、人工衛星も民間にある技術で十分に高機能なものができるのです。

21世紀の宇宙開発のカタチ

以上を踏まえると、21世紀には数多くの民間企業が宇宙開発のポジションを競い合い、様々なニーズを埋めていくと思われます。そのとき国家機関・国際機関に求められる役割は、今よりも限られていくことになるでしょう。
彼らにしかしかできない領域には何があるでしょうか。

  • エネルギー供給や国家のためのインフラ整備(航路など公的ルールの整備、各企業による競争の交通整理、安全保障)
  • 資源競争をはじめとする各国の利権の調整
  • 深宇宙探査や長期視点研究(素粒子とか)など、短期的には利益が出ず、民間企業が着手ない領域の研究

以上は私の勝手な予想ですが、「国でしかできないこと」は限られていて、ほとんどが民主的な競争に晒されていくと思います。
とは言え民間企業による参入はまだまだ始まったばかり。この流れがいち早く加速して、本格的な宇宙開発競争の時代が訪れて欲しいと思います。
 

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