2000年代には「世界の工場」と呼ばれた中国ですが、その役割は中国国外へと移り始めているようです。日本総研による『中国市場の開拓・確保にASEANを活用する』(2012;PDF)が面白かったので紹介します。
『中国市場の開拓・確保にASEANを活用する』で述べられていたことの要旨はおおよそ次のようなもの。
- 中国の日米欧に対する輸入依存度は下がっており、ASEANにシフトしつつある
- 中国はASEAN6カ国(シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ブルネイ)とFTAを結んでおり、関税撤廃品目は9割にのぼり、9.8%かかるはずの関税が0.19%にまで下げられている(ACFTA)
- 中国はさらにASEAN4カ国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)とも、2015年までに同様の関税撤廃を行う予定
- ASEANから中国への主な輸出品目は(1)集積回路、(2)コンピュータ関連製品、(3)石油精製品、(4)石炭である
- 上記品目は(A)世界の工場としての中国輸出製品の原材料・中間財、(B)中国国内向け生産のための原材料・中間財、(C)中国国内富裕層向けの消費財である
著者は特にASEAN・中国間FTAの有効性に着目し、日本企業が東南アジアに対して多くの工場を持つことから、ASEANをうまく使って中国を攻めるべき、としています。
なお「ASEANは中国のどことつながっているのか」として沿岸部(特に広東省)を挙げ、その理由をグラビティ効果(地理的に近いほど輸送コストや取引コストが少なくて済んで有利)で説明しています。が、そもそも中国の発展は沿岸部が牽引しているところなので、沿岸部とASEANとの繋がりの深さについてグラビティ効果の影響がどこまで大きいかはちょっと疑問です。
ただし、今後製造国から市場国に変化し成長を遂げるだろう中国と地理的に近いことが、ASEAN諸国に対して大きな影響をもたらすことは変わらないでしょう。ジョージ・フリードマン著『100年予測』では、陸続きの国とは山岳や砂漠といった通行困難な地形を間に隔てることから、「中国は島国である」と述べていました。すると輸送の観点では海で繋がる東南アジアが非常に有利と言うことになります。
東南アジアから中国への輸出品目を見ると、「世界の工場」に国際分業が始まっていることがわかります。中国から東南アジアへのシフトは様々に報じられているところであり、中国を中心とした重力圏の経済が今後どのように発展するのか、注目したいところです。
さて中国を中心としたとき、具体的にどのような国が影響を受けるのか考えてみます。
『中国市場の開拓・確保にASEANを活用する』では特にタイ、インドネシア、シンガポールが中国への輸出上位国となっていましたが、他にも注目すべき国があるようです。
『徹底予測 中国ビジネス2012』(日経BPムック,2011/11)では、若さがあり今後市場として伸びる国に、ベトナム、インドネシア、フィリピンを挙げていました。特にフィリピンは人口が多いだけでなく、IT人材も豊富なことから、今後はインドに変わるBPO先としても期待できるようです。
そして製造国として有望な国として、カンボジア、ラオス、ミャンマー、バングラディッシュの4カ国を挙げていました。この国々の魅力は賃金の低さです。特にカンボジア、ラオス、ミャンマーは、中国とは2015年に大規模な関税撤廃を予定していることからも、その後の伸びに期待できそうです。
中国というとアフリカへの関与が激しいので気になりますが、こちらの開発が実を結ぶのはまだしばらく先のことなのでしょうか。中国による対アフリカ投資額はあわせて400億ドルを超えるとされています。
- アフリカは中国の植民地? 市場と資源求め進出する中国に反発の声も
(新興国情報EMeye,2012/1/10) - 止まらない中国のアフリカ進出 政治・経済に続いてメディアも(CNN.co.jp,2012/9/18)
- アフリカと中国:鉱物資源意所の関係(JB PRESS,2013/3/23)
アフリカは発展途上とはいえ、今後人口が倍増するとされる一大大陸ですから、経済的影響は決して小さくはありません。中国が市場国としても成熟した後、自身の製品やサービスを売り込む次なる市場として睨んでいるのでしょうか。
現在注目を集める東南アジアは、人口動態からみると2030~40年にはその発展が鈍るという予測があります。その頃にアフリカが世界の注目を集めたとしたとき、すでに関係を深めている中国には有利に働くことになりますね。
中国向け輸出では当面東南アジアが有力ですが、中国からの投資・輸出という観点では、今後もアフリカを見つめていきたいところです。
中国の石炭消費量が世界の半分に迫るという記事がありました。
主要な供給国はオーストラリア、ベトナム、モンゴルなど。急成長しエネルギー需要も増えていく中国ですが、いまだに石炭に頼っているという現状があります。
こうした資源に関する他国関係としてては、次のブログが参考になるかもしれません。
上記ブログによれば、中国は原油や天然ガスの輸送ルートとして海陸併せて下記の4つを整備しているとのこと。これまではマラッカ海峡経由が原油輸入の8割を占めていたが、南シナ海を巡る周辺国との摩擦もあって、輸送経路を多角化しているとの分析です。
- ロシア-黒龍江省(原油):年間1500万トン
- ミャンマー-安寧・重慶(原油):年間4000~6000万トン
ミャンマー-広西チワン族自治区(天然ガス):年間120億立方メートル - トルクメニスタン-新彊ウイグル(天然ガス):年間300億立方メートル
- マラッカ海峡経由の海上輸送(原油)
なお、2009年の中国による原油消費量は3.9億トンで、うち輸入量は2億トンとのことです。
周辺国としては、中国向け資源輸出による利益獲得は重大事項となるはず。すでにキナ臭い話もあるようですね。
上記4ルートのうちでは、中国沿岸部にも共有可能なミャンマールートが熱そう。
資源からは話が外れますが、ミャンマーとは日本も関係強化を進めているようです。
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中国については周辺国も含めて今後も多角的にみていきたいと思います。
一方で、中国がコケるとやっぱりその影響も大きそう。経済が崩壊するとの予測もありますが、何とかソフトランディングを成し遂げていただきたいところです。