「第2のインターネット」出現の可能性を考えてみる

いなたくん

「ネット」と言えばインターネットだ。
ネットは「ネットにつながる」「ネットにアップする」のあのネットで、インターネット・プロトコル技術により世界を繋ぐ、今となっては欠くことのできないインフラだ。

「ネット」と言えば、インターネット。
音楽プレイヤーにはウォークマンとiPodがあり、スマフォのOSにはAndroidとiOSがあり、家庭用ゲーム機にはプレイステーションとWiiとXBOXとがあり‥。何事にも複数の規格や競合製品があるものの、しかし、インターネットはインターネット。私はこれまでそう考えてきた。そもそも疑うことすらしなかった。

ところが、新しい種類のインターネットを提唱する声を聞き、驚いた。WIREDに掲載された次の記事である。

今回驚いた理由にはもう1つある。サイバー犯罪の現状をレポートしたジョセフ・メン著『サイバー・クライム』(2011)でも、セキュリティ問題に対する対処法の1つとして、同様の解決案が示されていたからだ。
『サイバー・クライム』を読んだ当時は、インターネットをもうひとつ作るなんてあまりに荒唐無稽に思え、一笑に付していた。しかし今回再びWIREDの記事にて同様の主張を目にして、もしかしたら可能性があるかも、と思い、簡単ではあるがまとめてみることにした。

現在のインターネットと異なる、新しい「第2のインターネット」が現れることはあるのだろうか。

Summary Note

「第2のインターネット」の提唱

  • ダニー・ヒリス氏は、脆弱性を抱える現状のインターネットに対して、安全性と信頼性を確保した「緊急用のインターネット」の準備を提唱した
  • 『サイバー・クライム』では、匿名性を担保した現状のインターネットに対して、セキュアだがオープンの「次世代型インターネット」を用意することで、安全な環境を作り出せると提唱していた

インターネットは形を変えようとしている

  • 中国におけるインターネットの分断や、IoT技術によりインターネットが身の回りのモノに浸透していく現状、そして「第2のインターネット」の提唱を考えると、もしかしたらインターネットはいま大きく形を変えようとしているのかもしれない

 

緊急時への備えとしての「第2のインターネット」

まずは、WIREDで述べられていた、ダニー・ヒリス氏の主張をみてみたい。ダニー・ヒリス氏は数々の先端技術開発を行うApplied Minds社の共同創設者だ。

氏が問題視するのは、インターネットの脆弱性だ。政府機関の検閲による遮断や、クラッカーからの攻撃により、ネットは簡単に止まってしまう。我々はこうした脆弱なインターネットにあまりに頼りすぎている。記事ではこれら問題を述べた上で、課題を解決する手段として「第2のインターネット」を提唱している。

だからこそいま、安全で信頼のおける第2のインターネットを構築すべきだ。既存のネットは速さとオープンさ、そして迅速なイノヴェイションに最適化されている。

一方、第2のインターネットはセキュリティと信頼性を重視する。既存のネットを代替するのではなく、同時に運用する。電力会社などの公共企業体、病院、航空管制、救急、銀行など、信頼性が重視されるトラフィックから導入し、そののちに、ほかの用途にも使えばいい。

WIRED記事『いまインターネットには「代替ネット構築」が必要だ』より

なおWIREDは関連して、ダニー・ヒリス氏の2013年のTEDトークを紹介した次の記事も載せている。上記記事と同様に、有事の際の備え(プランB)としての、緊急用インターネットの準備の提唱だ。

そして、わたしたちにはプランBがない。インターネットに問題が生じたときに通信を行うプランがないのだ。

ヒリスによれば、プランBは緊急用インターネットとなるだろう。少し非常用電灯に似ていて、プランAにトラブルが起きたときに点灯する(オンラインになる)ものだ。これは通常のインターネットとは分離しておくべきシステムで、異なるプロトコルを利用して、緊急時でも病院や警察、飛行機の機能を保証する。

WIRED記事『インターネットにはプランBが必要だ』より

 

セキュアでオープンな「第2のインターネット」の併存

ダニー・ヒリス氏の他に、現在のインターネットとは別の新たな「第2のインターネット」について言及していたのが、ジョセフ・メン著『サイバー・クライム』(2011)だ。

サイバー・クライム

この本は、2011年のPlayStation Networkハッキング事件でアノニマスに注目が集まるなど、社会問題として規模を増していくサイバー犯罪について、その現状をまとめた一冊だった。ボットネットを利用した犯罪の手口から、中国とロシアの闇にまで言及している。この本については次の記事でも紹介した。

『サイバー・クライム』では、激化するサイバー犯罪に対する今後のセキュリティ対策のあり方について、提唱されているいくつかの案を紹介していた。ハードウェアベースのセキュリティ対策や、ネットユーザの個人認証完全義務化と並んで、「インターネットを作り直す」という案が挙げられていた。

さまざまな案を考慮した上で、バーレット、チーム・カムリのスティーブ・サントレッリ、SANSのアラン・パラーらがだした結論は、奇しくも一致している。
「真に安全な環境を作り上げるには、やはりインターネットを最初から作り直すしかない」(中略)

「より大規模なネットワークでも同じアプローチが有効だ。たとえばインターネットを”赤”と”緑”に分けるという手もある。赤は匿名性が確保される現行のインターネットと同じもの。緑はその逆で、こちらのインターネット上ではユーザの身元情報がすべてオープンにされる」

『サイバー・クライム』より

なお本書では、米国政府関係者の間でもこうしたアイディアが広まりつつあり、「最新の認証システムを持つ次世代型インターネットを開発する必要がある」と紹介していた。ただし、実際に次世代型インターネットの開発プロジェクトもあるが、こうした開発に割かれる予算は微々たるもの、とも伝えている。

ダニー・ヒリス氏と『サイバー・クライム』の違い

以下「第2のインターネット」について考えてみる。

ダニー・ヒリス氏の提唱する有事に備えたインターネットは、どちらかというと現行インターネットのバックアップのような、システムに冗長性を持たせるアイディアに思える。この「第2のインターネット」は、現行インターネットよりもセキュリティと信頼性を重視したものとしており、同じものではないのだが、いざというときのセーフティネットの意味合いが強い。

これに対して『サイバー・クライム』の提案はさらに一歩踏み込んでいる。匿名性を担保した現行インターネットとは異なる、セキュアだがユーザ情報がすべて開示された「第2のインターネット」であり、その出現が我々ユーザに及ぼす影響も大きい。

『サイバー・クライム』は、ネットの向こうにいるサイバー犯罪者をいかにして見つけだし、法廷に引きずり出すか、ということもテーマとしていた。実名制を導入することで犯罪者をいつでも摘発できるようにし、これをもって犯罪を抑止する、というアイディアは、本書の文脈ならではのアイディアと言えるかもしれない。

2nd Anoniversary 13
2nd Anoniversary 13 / Anonymous9000

現行のインターネットに併存して生まれる「場」

このとき、現行インターネットと、第2のインターネットのどちらにどのようなときにアクセスするかは、ユーザやサービス提供者の運用に任せられることになる。従って現状のインターネットを改変するというよりは、緩やかに新たな「場」が出現していく、というイメージなのだろう。
既存のインターネットを別のものに置き換えたり、ゼロベースで作り直すことは考えにくい。しかしながら、用途の違う「場」を新たに生み出し併存する方法ならば、可能性はあるように思われる。

もっとも、インターネットは集合知であるから、誰かの意図した計画通りに進むとも思えない。その意味では、あるとき自然発生的に生まれると考える方が合理的かもしれない。

「第2のインターネット」を提唱し、その在り方を議論することは、思考実験として有益だろう。現実がその通りに進まないまでも、多くの人がその可能性を考え、試すことで、「第2のインターネット」の自然発生を促すことになるからだ。
ダニー・ヒリス氏の提言や『サイバー・クライム』で述べられた言説は、もしかしたら「第2のインターネット」の出現の前兆なのかもしれない。

 

いま形を変えようとしているインターネット

以前『サイバー・クライム』の「インターネットを作り直す」のアイディアを読んだときには、ちょっと荒唐無稽のように思ってしまった。インターネットは、世界中の人の手に揉まれていまの形になっている。あまりに大きすぎて、「誰かが考えた計画」通りに形を変えられるとは思えなかったからだ。
しかし既に述べた通り、これから「第2のインターネット」を提唱する人が増えていけば、実際にこれが出現する可能性もあるかもしれない。

ダニー・ヒリス氏や『サイバー・クライム』で述べられた形ではないが、変化もすでに起きている。

グレート・ファイアウォールの向こう

万里の長城を英語で「グレート・ウォール」と言う。中国はインターネット世界にも巨大な壁を築いており、中国においては「金盾」と、諸外国からは「グレート・ファイアウォール」と呼ばれている。


“The Great Wall of China” – 长城 / SmokingPermitted – “Cosa sono? La bambina dei no”

現在中国は世界のインターネットと隔絶しており、FacebookやTwitterなどのSNSが使えず、Gmailも見られなくなってしまった。旅行すると実感するけど、メールチェックできないとか本当に辛い。
世界ではGoogleやAmazonなどが幅を利かせているが、中国内では、世界とは全く異なる企業・サービスの生態系が築かれているわけだ。

それでも今までは、VPNを使うことで中国国外のサービスを利用できたが、中国政府は今後VPNの利用も取り締まっていくと発表している。本当にやめてほしい。

先に紹介した「第2のインターネット」は、インターネットを次の段階に推し進める前向きな提案だった。一方で中国で起きているのは、デファクト化した現在のインターネットに対して、同質別種の競合システムを生み出すものだ。
その意味で、中国独自の生態系を同じように「第2のインターネット」とは呼ぶことはできない。しかしながら、インターネットに起きている大きな変化であることは間違いない。

今こそユビキタス時代へ

大御所エリック・シュミット会長もインターネットの未来を大胆予測している。

IoTが普及し、あらゆるものがネットに繋がった時、我々はもはやインターネットを意識することがなくなるだろう、という予想だ。「消える」という表現は若干釣りだよね。

最近全然使われてないけど、かつて提唱されていたユビキタス社会の到来というわけだ。これもまた、インターネットの変化の1つと言えると思う。

インターネットはいま形を変えようとしている

普段当たり前のように使っているインターネットだけど、中国による分断、インターネットをさらに身の回りに溶かしていくIoT技術の台頭、そして「第2のインターネット」の提唱を考えると、インターネットは今まさに大きく形を変えようとしているんじゃないか。そんな風に思えてくる。

インターネットは今ある姿のように、いつまでも1つの仮想世界ではないかもしれない。未来を予想する上で、その可能性に注意したい。

もしかしたら我々がいま使っているのは、数十年先の人々にとっての「古き良き時代のインターネット」なのかもしれない。

 

サイバー・クライム 第五の権力---Googleには見えている未来 ウェブとはすなわち現実世界の未来図である (PHP新書)

 

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